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【新型コロナウイルス】オーストリア・ウィーンの現状(2020年4月7日現在)
<3月11日、観光客に門戸を閉ざし、純粋な祈りの場となった、シュテファン大聖堂>
オーストリアでは、2020年2月25月に最初の新型コロナウイルス感染者が報告され、4月7日現在、累計感染症例12,206名、うち220名が亡くなり、3,463名が回復しています。
3月16日から3週間続いた休校休業や外出制限などの措置は効果を上げ、ゆっくりと営業再開に向けて国が動き出しました。まだ当分外出制限は続きますが、トンネルの向こうに光が見えてきたと言っていいでしょう。
観光大国オーストリアの首都ウィーンでは、コロナウイルスによって、日常生活にどのような影響が出ているのか、ウィーン在住の私の視点からまとめました。
目次
劇場と大学の閉鎖
最初にやってきたのは、劇場と大学の閉鎖でした。屋内100人、野外500人以上の集会が3月10日に禁じられたことで、ウィーン国立オペラ座をはじめとする劇場が閉鎖を決定し、その日の公演から中止になりました。
<ウィーン国立オペラ座に張り出された、公演中止の張り紙(2020年3月11日撮影)>
劇場関係者や、音楽、演劇ファンの間には衝撃が走りましたが、その後も「自宅コンサート」や過去の演目のオンライン無料公開、無観客上演ストリーミングなど、自宅でも楽しめるコンテンツが提供され、音楽と芸術の都ウィーンの底力の強さを感じさせています。
休校と子供たちの生活
次に3月16日からの幼稚園の休園、小学校から高校までの休校措置が発表となり、現在でもほとんどの子供が家庭学習となっています。
子供たちにこの急激な変化への理解を求めるため、ウィーン市は、ウイルスの知識と休校の理由を説明した動画を用意しました。この動画は世界中で高い評価を受け、各国語に翻訳されて利用されています。また、第二弾の動画では、「なぜ祖父母に会えないのか」が子供向けに分かりやすく説明されています。
休校中の家庭学習については、学校や先生によって対応はまちまちです。オンライン授業を時間割通りに実施するクラスもあれば、プリントを郵送してくるアナログな先生もいます。学習モジュールをクリアするとミニゲームが遊べる、家庭学習用のアプリも子供たちに人気です。勉強量は、普段の学校生活と変わらない量を要求する先生から、一日20分ほどの勉強時間しか想定していないクラスもあり、学力の開きが懸念されています。
休業措置と外出制限
同じく3月16日に、全ての飲食店と、生活用品や食料を売る店舗(スーパーマーケット、ドラッグストア等)以外の全ての商店の休業が発表となりました。これに伴い、医療、公共の交通機関、物流、介護等一部の職種を除いた、全業種が在宅ワークや時短勤務となりました。
また、出勤、買い出し、人を助けるため、散歩以外の外出原則禁止という、外出制限が敷かれています。散歩は同居人のみで、6人以上集まることは禁止され、1.5メートルの距離を取るよう決められています。
また、3月25日には、日本への直行便がストップし、3月28日には、日本をはじめとする多くの国際郵便の受付が停止しています。
街の様子
このような措置が取られた結果、ウィーンの街はゴーストタウンのようになりました。シュテファン大聖堂は、祈りを目的とする人以外の入場やミサを取りやめ、17世紀にペストの終結を祝って建てられたペスト記念塔の前には、ろうそくを捧げる人の姿も見られるようになりました。
<ウィーンで最も重要な教会、シュテファン大聖堂の門には、観光客は入場禁止、祈りのために100人以下の入場のみ許可する旨が張り出され、セキュリティの人が立っています(2020年3月11日撮影)>
普段観光客でにぎわうウィーンの街は、ひっそりと静まり返っています。
<普段は観光客でいっぱいの、ホーフブルク(王宮)の中庭も、閑散としています(2020年3月11日撮影)>
生活の変化
外出がスーパーと散歩に限られたことで、生活範囲が限定されるようになりました。公共の交通機関の使用率は10-20%と激減し、飲食店はデリバリー限定での営業をしています。
スーパーでは、トイレットペーパーやパスタ、小麦粉や生鮮食品など、在庫が少なくなることもありましたが、比較的すぐに補充され、人々の生活は落ち着いているといえるでしょう。
4月1日に、従来の措置に加え、スーパー内でのマスク着用が義務化され、カートの持ち手の消毒や、レジに並ぶ際に距離を取るなど、新しい措置が発表されました。これに伴い、従来マスクの着用が禁止されていたオーストリアでも、マスク姿を日常的に見かけるようになりました。
<スーパーのレジには、店員とお客さんの間に、アクリル板が取り付けられ、床には距離を取るための目安となるテープが貼られています(2020年4月7日撮影)>
政府の対応と国民の意識
隣国のイタリアで多くの死者が出ている中、オーストリアは国内の感染者数が比較的少ない時期に、休校、休業、外出制限と、大胆な措置を立て続けに出しました。急激な生活の変化に、国民は比較的落ち着いて対処し、スムーズに新しい生活を受け入れています。
いち早くホットラインを設立し、感染が疑われる場合は、病院に足を運ばずに相談できるのも、オーストリアのアイデアです。
外出制限とセットに、中小企業や失業者への支援や、DV被害者に対するホットライン、ハイリスク者に対する有給休暇など、さまざまな援助を行っていて、経済面も身銭を切って国民を守っていることが感じられます。
首相や大臣、大統領は、ことあるごとに記者会見を開き、声明を発表し、措置の根拠となる科学的理由や、その効果、進捗などを、国民に伝え続けています。時には本音やネガティブなニュースも伝えつつ、できるだけ透明性をもって、正直に国民の疑問に答えようとしている姿勢が評価されています。
政治家がスピーチなどで「皆さんが家にいることで、人の命を救っています。ありがとうございます。」と繰り返していることも、国民の意識にプラスの効果があるようです。
住宅地では、毎日18時に感謝の拍手が聞かれる地域があります。医療従事者やスーパー従業員などのインフラを支える人たちだけでなく、外出を控えている全ての人たちへの、感謝と賞賛の拍手が、日々の生活の支えになっています。
外出制限の効果
時期尚早かと思われた外出制限や休校、休業といった措置は、2週間以上経って数値上の効果を徐々に表しはじめ、3週間後の4月4日には初めて、新規感染者の数が、治癒者の数を下回りました。
集中治療室の数はギリギリと言われていて、医療崩壊を起こさないよう、最新の注意が払われていましたが、措置開始から3週間たって、集中治療室利用者や入院患者の増加が緩やかになり、一息つけたところです。
これに伴い、4月7日には、外出制限の4月末までの延長と共に、4月半ばからの小規模店舗の営業再開などが決定しました。ほかの業種に関しても、マスク着用の上、状況を見て再開を判断していくこととなっています。
措置の効果が上がっているとはいえ、気が緩むと感染は拡大してしまいますし、すぐに元の生活に戻れるわけではありません。長期戦に耐えつつ、新しい生活に慣れ、徐々に経済界のダメージを減らしていく試行錯誤が、現在行われています。
まとめ
オーストリアの新型コロナウイルス感染拡大に対する措置と市民生活、いかがだったでしょうか。各国異なるタイミングで、外出制限などの措置を発表する中、オーストリアでは、比較的早いタイミングで大胆な動きを見たこともあり、3週間たって効果がはっきりと数値となって表れてきています。
とはいっても、今までの生活に戻るには、まだまだ時間がかかりそうです。しかし、厳しい外出制限というトンネルの向こうに、希望の光が見えてきました。日々、働いている人、家にいる人、隔離生活を送っている人など、全ての人たちに拍手を送りながらも、かつてペスト記念塔を打ち建てたように、疫病の終焉を喜ぶ日が来ることを、心待ちにしています。
<ウィーンのペスト記念塔。2020年3月12日撮影>
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ひょろ
- オーストリア、ウィーン在住。10年以上暮らしてもまだ新しい発見の連続のウィーンの魅力を、記事執筆、現地調査、ネットショップなどを通じてお届けしています。国際機関勤務を経て、バイリンガル育児の傍ら、ミュージカル観劇が趣味。