【自転車世界一周の旅】チリからアルゼンチンへ『世界一過酷な国境』を自転車で駆ける

チリとアルゼンチンの両国南部に広がる、過酷な環境のパタゴニア地区。そこにはチャリダー達から『世界一過酷な国境』と恐れられ、そして越え甲斐のある国境として憧れられる場所がある。

チャリダーの聖地として有名なアウストラル街道のゴールであるビジャ・オヒギンスからフィッツロイの拠点となるエルチャルテンの間に延びる国境。悪路ばかりの南米を走り、いくつもの困難な道を越えてきたチャリダー達が『世界一過酷』だと嘆く道とはいったいどれほどのものか。

一つこの目で確かめてみよう。

  • 場所 チリ~アルゼンチン
  • 距離 ビジャオヒギンス~エルチャルテン
  • 走行期間 3/24~3/28

目次

国境へ向かうフェリーに乗船

宝石の道のゴールであるオヒギンスの町から先はオヒギンス湖が広がっており、迂回路は無いのでフェリーで対岸へ渡る必要がある。個人経営と思わしきフェリーは港から2、3日に一本出ているのだが、この地区はパタゴニア特有の強風が吹き荒れる地区の為、出航するかどうかは前日の夜に船長が天気を見て判断する。

国境へ向かうフェリーであるが、個人の裁量で行けるかどうかが決まる所が、『世界一過酷』という言葉のいいスパイスとなっている。おまけに冬季はフェリーが完全運休となるので、期間限定というところもポイントが高い。

前日までは雨と風が強く寒い日が続いていたが、出航日は天気が良く、むしろ雲一つないため放射冷却によって空気はキンキンに冷え、日が昇る1時間前の6時にキャンプ場を出た時は、白い息を吐きながら厚手のグローブ越しでもかじかむ手の痛みに耐えて港に向かうのであった。

自転車の積み込みに時間がかかるから出港時間より早く来い、と言った割には出港時間になってやっと乗組員が揃うという南米あるあるの時間のルーズさで、乗組員が揃ったところで20人乗りのボートに、荷を外した自転車を無理やり積み込んで50km先の対岸を目指す。

港で待機していた時はそうでもなかったが、港を離れるにつれ湖は風で荒れ、しゃべれば舌を噛みそうなぐらいザパンザパンと上下に揺れ、11時に着岸した時にはそれだけで早くもくたびれてしまった。

チリを出国、国境越えへ

パッキングをしてまずは1km先のチリのイミグレを目指す。

ここを走った友達のチャリダーの話では、
「港から国境までは走りやすく、9割は漕げたよ」
と言っていたが、車1台分の広さの砂利道に急こう配の上り坂で、
「『9割は押したよ』の間違いじゃないのか!?」
と疑いたくなるような道が伸びていた。

1.JPG

イミグレで出国スタンプを押し、滑りやすい急カーブや崖を削って作った道を進み、港から20km進むとチリとアルゼンチンの国境が見えてきた。

時間は17時。

国境と言っても監視塔やゲートがあるわけでもなく、森林地帯にぽっかりできた広場に、【CHILE】【ALGENTINA】と書かれた看板と小さな塔が置かれた程度の無人の国境地帯だ。

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走る時間はまだあるが、世界一過酷な国境越えのメインは、アルゼンチンに入ってからだと聞くので、お楽しみは明日にとっておき、今日は国境でテントを張る。

道なき道を自転車を担いで進む

昨日は早くに走行を終了したので体力気力ともに十分だ。

「さぁ行かん、世界一過酷な道へ!・・・って?道はどこだ?」

チリ側は勾配がきついと言っても、作業用のバギーが通る為森は切り開かれ川には橋が架かっていたりと、それなりに整備されていた。

しかしどうだろう。

目の前に続くアルゼンチンの道は道路と呼ぶには程遠く、登山道と呼ぶにも狭く低木に覆われた道しかないので、けもの道と呼ぶ方がしっくりくる道だ。

おまけに2本に枝分かれした道は、1本は藪に埋もれ、もう1本は道幅一杯に広がった水たまりが続く道。どちらを選んでもろくでもない事には間違いない。汚れたくないからという思いで藪の道を行くも、途中で荷物が引っかかり、にっちもさっちも行かなくなったので、引き返して水たまりの道を押していく。

水たまりの底は柔らかい粘土質の為、一歩進むごとに泥の中に靴が沈み脛まで泥水に漬かるありさまで、50mほどの水たまりを越えるだけで自転車や荷物、そして体は泥にまみれ、自転車旅行というよりはジャングルを行進しているような気分だ。

アルゼンチンに入ってからがきついと聞いたが、出だしからこれではゴングが鳴った瞬間にいきなり右ストレートをかまされた感じで、早くもKOされてしまいそうだ。

Honeyview_3.jpg

泥沼の後は急なのぼりの試練が始まる。

チリのような砂利道の急こう配といったレベルではない。大きな岩が地面から飛び出し、大木の根が伸びて階段を作り、倒木が道をふさいで壁を作っているのだ。自転車を押すどころか、持ち上げて進まなければいけない為、「のぼり」は「のぼり」でも、「上り」ではなく「登り」という字がふさわしい道だ。

どれくらい時間がたったであろうか?時計を見ると出発してから4時間経過しているが、メーターを見ると今日はまだ2kmしか進んでいない。

休憩を挟みながらとは言え時速0.5kmは過去最低記録だ。

時間がかかる事を予測して食料を多めに持って来たとは言え、流石にこのペースではいつアルゼンチンのイミグレに到着するか予測が付かず、不安が増していく。

峠を一つ終えれば少しは楽になるかと思ったが、そんな甘い話は無かった。赤や黄色に染まった紅葉が見事な低木の森の中には、アルゼンチンの入り口にあった水たまりの何倍もある、幅数10mにわたって広がる湿地帯が口を広げ待ち構えていた。更にその先は水深が膝上まである冷たい川が流れ、当然橋なんで気の利いたものは無い。

「遊歩道のない湿地帯と橋の無い川って、もう登山道ですらないじゃん」

もう何でもありのデスマッチの様相を呈した道に、これはもう笑うしかない。

4.JPG

道の状態が分からないまま進むのは危険なので、自転車はいったん置いて偵察に向かう。

湿地に足を踏み入れた瞬間ただ歩くだけでズブズブと足が沈み、数歩進んだところで早くも両足を泥に取られて身動きが取れなくなることもあった。このまま押すことは不可能と判断して荷物をすべてばらし、湿地帯入り口から川を越えるまで荷物や自転車を担いで5往復し、1時間かけて湿地&川を越えるのであった。

川の水は清らかで泥まみれになった体を洗うのにはいいが、氷河から溶けた水なのか、かじかむほど冷たく、濡れた靴のまま歩いているとつま先が冷えて凍傷になりそうだ。

湿地帯を越えてからも無数の小川やぬかるみを越えなければならないので、何度も荷物を外して同じ道を往復しなけばならず、結局1日押してもこの日は10kmも進む事ができず、2日目は小川の近くでテントを設営して終了。

最後の難関『ハーフパイプ』

3日目、今日も朝から川と沼が続き、それを越えるとこの国境の名物であり最後の難関のハーフパイプが待ち構えている。

横幅は50cm、深さは30cmから最大1mほどある、森の中にU字に削られ側溝のような道だ。

この道のどこが難関かというと、サイドにバッグを付けた自転車は大型バイク並みの横幅がある為、フル装備の自転車にとって狭い道というのは弱点の一つ。さらに凹凸のある道ではバッグの左右はおろか底すら擦れて走れなくなるので、狭い道というのは、時には荒れた道よりも困難な道となる。

とりあえずダメもとで押してみたが、案の定10mもしないですぐにバッグが引っ掛かり、結局ここもサイドバッグを外して、行ったり来たりを繰り返し3時間かけて抜け出すことに成功。

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ハーフパイプと木々のトンネルを抜けると、森が一望できるポイントに到達。真っ赤に燃える南極ブナの森越しに神々しく聳(そび)えるパタゴニアの名峰フィッツロイ。鉾のように尖った頂は人が近づくを事を拒むかのように、天に向かって白い矛先を伸ばしている。

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服やバッグは泥まみれになり、体も自転車も傷だらけになって、幾度となく森の中で恨み言の言葉を吐いたかわからない。細く険しい道のりで、道路ではなくただの登山道のような道であったが、のど元過ぎればなんとやら。

この苦行の道を乗り越えたものだけが見れる絶景に酔いして、来てよかったとしみじみ思いつつ、アルゼンチンのイミグレ手前の下り坂で派手に転び、イミグレからチャルテンに向かう船を、冷たい暴風が吹き込むぼろ小屋で数時間震えながら待機し、なんて最低な道なんだとつくづく噛みしめるのであった。

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