

― シシングハースト・カースル・ガーデンとボディアム城を訪ねて ―
2014年4月22日、南イングランドのケント州とイースト・サセックス州を巡り、英国を代表する2つの名所「Sissinghurst Castle Garden」と「Bodiam Castle」を訪れました。
1つは、英国ガーデン史にその名を刻む「詩人の庭」。
もう1つは、中世のロマンを今に伝える「水濠の城」。
春の柔らかな光の中で出会ったその風景は、単なる観光地ではなく、"英国という国が育んできた美意識そのもの"を映し出しているように感じられました。
目次
- 『英国で最も美しい庭園』シシングハーストへ
- 「部屋」のように構成された庭園
- 世界中のガーデナーを魅了する「ホワイトガーデン」
- 映画やドラマにも登場する『英国庭園の理想形』
- 水に浮かぶ中世の夢 「ボディアム城」
- 映画・ドラマの世界でも人気の城>
- 庭は囁き、城は語る
- いつもの余談
『英国で最も美しい庭園』シシングハーストへ
ロンドンから南東へ向かい、ケント州の穏やかな田園地帯を走ると、やがて木々に囲まれた煉瓦造りの塔が見えてきます。
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そこがシシングハースト・カースル・ガーデン。
現在では世界中のガーデナーの"聖地"とも呼ばれるこの庭園ですが、その歴史は意外にも波乱に満ちています。
もともとこの地には16世紀に建てられた邸宅があり、18世紀にはフランス人捕虜の収容所として使われた時代もありました。
その後、長く荒廃していた屋敷跡を1920年代に購入したのが、英国の詩人・作家 Vita Sackville-Westと、外交官で政治家でもあった夫 Harold Nicolsonでした。
夫妻は廃墟同然だったこの場所を、自らの理想を注ぎ込んだ庭園へと作り変えていきます。
「部屋」のように構成された庭園
シシングハースト最大の特徴は、"ガーデンルーム"という設計思想です。
庭を一つの大空間として見せるのではなく、生垣や煉瓦壁、トピアリーによって区切り、それぞれに異なるテーマと色彩を持たせる――。
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歩くたびに新しい風景が現れ、まるで庭園そのものが物語を紡いでいくような構成になっています。
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この日、最初に目を奪われたのは、巨大なトピアリーの深い緑。
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空へ伸びるように刈り込まれたその造形美を背景に、足元では赤、黄、オレンジのチューリップが燃えるように咲き誇っていました。
人工的に計算された構図でありながら、不思議と窮屈さはなく、むしろ風景全体が呼吸しているような自然さがあります。
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色彩、高低差、視線誘導――。
一見すると無造作に見える花々の配置も、実は緻密に設計されており、そこにはヴィタの文学的感性と、ハロルドの建築的構成力が融合しています。
世界中のガーデナーを魅了する「ホワイトガーデン」
シシングハーストを象徴する場所として特に有名なのが、「ホワイトガーデン」です。
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白いバラ、白いジギタリス、白いユリ、銀葉植物だけで構成された幻想的な庭で、現在でも世界中の庭園デザイナーに影響を与え続けています。
残念ながら4月下旬はまだ本格的な開花前でしたが、それでも芽吹き始めた若葉と静かな光の気配には、この庭が持つ特別な空気が宿っていました。
ヴィタはこの庭について、
「白は、月光の色」
と語ったと言われています。
昼間に見ても美しい庭ですが、夕暮れや霧の中では、まるで幻の庭のような表情を見せるそうです。
物語の中に迷い込むような小径
庭園の奥へ進むと、若葉のアーチに包まれた静かな小径がありました。
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その先にひっそりと佇む彫像。
足元には白や黄色の小花。
風の音と鳥の声しか聞こえない空間に立っていると、時間の流れそのものが緩やかになっていくようでした。
シシングハーストの魅力は、華やかな花壇だけではありません。
こうした"余白"の美しさこそ、この庭園を特別な存在にしているのかもしれません。
映画やドラマにも登場する『英国庭園の理想形』
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シシングハーストは、その美しさから英国の数多くのテレビ番組やガーデニング番組で紹介されてきました。
特に英国BBCの園芸番組ではたびたび特集され、"イングリッシュガーデンの完成形"として扱われています。
また、ヴィタ・サックヴィル=ウェスト自身の人生も非常にドラマティックで、彼女は作家 Virginia Woolfとの交流でも知られています。
ウールフの代表作『オーランドー』は、ヴィタをモデルにした作品として有名です。
つまりシシングハーストは、単なる庭園ではなく、20世紀英国文学史とも深く結びついた文化空間でもあるのです。
水に浮かぶ中世の夢 「ボディアム城」
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午後、私はイースト・サセックス州にある「Bodiam Castle」へ向かいました。
近づくにつれ、水濠の向こうに赤褐色の城壁と円塔が姿を現します。
その光景は、まさに"絵本の中の中世の城"。
イングランドに数ある古城の中でも、ボディアム城は特に「理想化された中世の城」の姿を残していることで知られています。
百年戦争の時代に築かれた城
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この城が築かれたのは1385年。
フランスとのHundred Years' Warの最中でした。
建設したのは騎士 Sir Edward Dalyngrigge。
当時、フランス軍の侵攻に備える必要があり、彼は防衛拠点としてこの城を築きました。
しかし興味深いのは、ボディアム城が"要塞"でありながら、同時に"権力と富を誇示する館"として設計されていたことです。
巨大な水濠、左右対称の美しい塔、優雅な窓――。
実戦的というより、「私はこれほどの城を持てるほど有力な貴族である」と示す意味合いが強かったとも言われています。
水面に映る「完璧な城」
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春の柔らかな光の中、静かな水面に映る城壁は息を呑むほど美しく、どこから撮っても絵になります。
特にボディアム城は"フォトジェニックな城"として知られ、英国の古城写真集には必ずと言っていいほど登場します。
内部は現在廃墟となっていますが、それがかえって中世の余韻を強く感じさせます。
石造りの階段、崩れた窓、風が吹き抜ける大広間――。
そこに立っていると、騎士や兵士たちの気配が今も残っているようでした。
映画・ドラマの世界でも人気の城
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ボディアム城は、その典型的な"中世ヨーロッパの城"の姿から、多くの映画やテレビ番組のロケ地、あるいはイメージソースとして用いられてきました。
ファンタジー作品や歴史番組では頻繁に登場し、日本人にとっても「これぞヨーロッパの古城」という印象を抱かせる風景です。
また、英国の子ども向け歴史番組やドキュメンタリーでも人気の撮影地であり、中世生活の再現イベントが行われることもあります。
春から夏にかけては、城の周囲で野花が咲き、水辺には白鳥や水鳥の姿も見られ、厳しい歴史を持つ城でありながら、どこか穏やかな空気が漂っています。
庭は囁き、城は語る
シシングハーストでは、庭が静かに詩を囁いていました。
一方、ボディアム城では、石の壁そのものが歴史を語りかけてくるようでした。
優雅で繊細な庭園美と、力強く凛とした中世の城。
同じ南イングランドにありながら、これほど異なる美の世界が共存していることに驚かされます。
- 春の花々に包まれた庭
- 静かな水面に映る古城
- 柔らかな陽光
- 鳥の声
- 風の匂い
撮った写真を整理していると、あの日感じた静かな感動が、今も少しずつ蘇ってきます。
英国の庭園文化と中世建築の魅力を、1日でこれほど深く味わえた旅は、そう多くはありません。
もし南イングランドを旅する機会があるなら、ぜひこの2つの場所を訪れてみてください。
きっとそこには、"時間を旅する英国"が待っています。
いつもの余談
「イングランド人は、なぜスコッチをあまり飲まないのか?」
英国を旅していると、「イギリス人」という一言では片付けられない空気を感じることがあります。
そもそも英国はイギリス を構成するイングランド、スコットランド、ウェールズ、そして北アイルランドから成り立っています。
日本では「イギリス」で一括りですが、現地ではそれぞれ結構"別の国民感情"があります。
特に有名なのが、イングランドとスコットランド。
歴史をたどれば、中世以来、戦争、独立運動、王位争い......と、まあ色々ありました。
「仲良くしましょう」で済むなら、あの有名な映画 ブレイブハート は存在しなかったでしょう。
ロンドンで合計5年暮らして実感したのですが、イングランド人に「スコットランド好き?」と聞くと、なかなか微妙な顔をします。
逆もまた然り。
もちろん、現代では本気で憎み合っているわけではありません。
ただ、日本で言えば、阪神ファンと巨人ファンを同じ席で延長12回まで観戦させるような、"長年の文化的ライバル感"が漂っています。
そんな空気を感じたのが、ロンドンのパブでした。
イングランド人が飲んでいるのは、ほとんどがビール。
エール、ラガー、ギネス...。とにかくビール文化が強い。
一方で、世界的には英国を代表する酒とも思われている「スコッチウイスキー」。
ところがロンドンのパブで、イングランド人が嬉しそうにスコッチを飲んでいる姿は、意外なほど見かけませんでした。
もちろん飲む人はいます。
ただ、雰囲気としては、
「美味しいのは認める。だが、それは"スコットランドの勝利"を意味する気がする」
......そんな無言のプライドが漂っている気がしたのです。
たぶん日本人には分かりにくい感覚ですが、英国では「酒」まで歴史と民族感情が染み込んでいます。
逆にスコットランド側へ行くと、今度はスコッチへの誇りが凄い。
「これはただの酒ではない。文化だ。」
という顔で、静かにグラスを傾けています。
その姿を見ると、ロンドンでビールを飲み続けていたイングランド人たちの気持ちも、少し分かる気がしました。
英国とは、単なる1つの国ではなく、長い歴史とライバル意識を抱えながら同居している"連合王国"なのだなあと、パブの片隅でしみじみ思ったのでした。
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ドルチェビータ
- 2003年より2011年までイタリア、2014年から2017年まで英国にいました。
































