帝都ウィーンの華麗なる誘惑|オーストリア

~ハプスブルク家の遺産と街角のきらめきを巡る旅~

ドイツ語圏の中には、沢山の都市があります。 しかし、ウィーンの持つ「華麗さ」と「品の良さ」は、その中でも間違いなくぴかイチでしょう。

その理由は、かつてヨーロッパに君臨した「ハプスブルク家」という強大な支配者がこの地に長く興り、莫大な財をつぎ込んで、世界一華麗な都市へと仕上げたからに他なりません。

『富の集まるところには芸術の花が咲く』
その言葉通り、ベートーヴェン、ヨハン・シュトラウス、モーツァルトなど、綺羅星のごとき芸術家たちがこの街で才能を開花させました。

ベートーヴェン

庭園

今回は、2010年に私が感動を綴った思い出の旅路をベースに、ウィーンが誇るハプスブルク家の光芒と、今も街を彩る華麗な名所の数々、そして旅がもっと楽しくなる面白いエピソードを交えてご紹介します。

目次

1. 栄華と終焉:スイスの小貴族から大帝国へ上り詰めたハプスブルク家

ハプスブルク家は、もともとはスイスの一地方(アールガウ地方)の小さな貴族にすぎませんでした。

しかし1273年、ルドルフ1世が神聖ローマ帝国の王に選出されたことから運命が大きく動き出します。

ハプスブルク家の最大の特徴は、血なまぐさい武力征服ではなく、「幸せなオーストリアよ、結婚せよ」という言葉に象徴される戦略的な婚姻政策にありました。
巧みな政略結婚により、16世紀のカール5世の時代には、オーストリア、スペイン、さらには中南米におよぶ「日の沈まない帝国」を築き上げ、ヨーロッパの広大な地(まさに地図を緑に染めるほど)を支配したのです。

ミュージアムの建築
<莫大な財をつぎ込んで仕上げられた、ハプスブルク家の遺産を感じさせる壮麗なミュージアムの建築>

ミュージアムの建築

噴水

しかし、栄華を極めた大帝国にも終わりが訪れます。

第一次世界大戦の敗戦に伴い、1918年、最後の皇帝カール1世が退位。 約650年も続いた名門王朝はその歴史に幕を閉じました。 ですが彼らが遺した壮麗な宮殿や文化は、今も「帝都ウィーン」の息吹として完璧な姿で息づいています。

2. 教会を凌駕する美しさ?誇り高き「ウィーン市庁舎」

ウィーン市庁舎

リング通り(環状道路)沿いで一際目を引く、5本の尖塔を持つ壮大な建物がウィーン市庁舎です。
1883年にネオ・ゴシック様式で建てられたこの建物は、一見すると美しい教会のようですが、ウィーン市長が執務を行う歴とした行政の中心地です。

ここには、当時の市民たちの「ハプスブルク家(皇帝)」に対する、ある面白い意地が隠されています。

建築当時、皇帝フランツ・ヨーゼフ1世は「近くに建つヴォーティフ教会の塔(99m)より高い建物を建ててはならぬ」と命じました。

しかし、市民の代表たる市庁舎を最高のものにしたかった設計者は、建物の塔自体の高さを「97.9m」に抑えつつも、その頂点に「アイアン・マン(市庁舎の鉄騎士)」と呼ばれる3.4mの像をちょこんと載せたのです。

結果として、総高は101.3mとなり、見事に皇帝の鼻をあかしてウィーンで最も高い建物の1つとなりました。 夏のフィルムフェスティバルや冬のロマンチックなクリスマスマーケットなど、1年中イベントで賑わう市民の憩いの場でもあります。

3. 民主主義の殿堂に立つ女神:国会議事堂とパラス・アテナの謎

オーストリア国会議事堂

ウィーンの中心をぐるりと取り囲む環状道路「リング通り」を進むと、突如として古代ギリシャの神殿を思わせる白亜の壮麗な建物が現れます。

ハプスブルク帝国末期の19世紀後半に建てられた「オーストリア国会議事堂」です。

オーストリア国会議事堂

「パラス・アテナ」の巨大な像

建物の正面で圧倒的な存在感を放っているのが、知恵と戦い、そして芸術を司るギリシャ神話の女神「パラス・アテナ」の巨大な像です。

黄金の兜をかぶり、右手に勝利の女神ニケを乗せた彼女は、オーストリアの主要な河川(ドナウ川など)を象徴する精巧な彫刻群に囲まれた美しい泉とともに、今日までウィーンの街を見守り続けています。

なぜ、オーストリアの政治の中心地にキリスト教ではなく古代ギリシャの女神が立っているのでしょうか。

そこには、近代議会政治のルーツである「古代ギリシャの民主主義」への深い敬意の表れがあります。

さらに面白いのは、アテナ女神は「知恵」の神であるという点です。これは、背後にある議事堂の中で繰り広げられる政治家たちの論争が、お互いに感情に流されることなく、常に「高い知性と理性を保ったものでありますように」という、当時の人々の願いとユーモアが込められているのです。

4. 23万枚のタイルが描く芸術:シュテファン大聖堂のユニークなモザイク屋根

シュテファン大聖堂

シュテファン大聖堂

ウィーンの中心にそびえ立つ街のシンボルが、ゴシック建築の傑作であるシュテファン大聖堂です。

この大聖堂を特別なものにしているのが、美しくきらめく幾何学模様のモザイク屋根です。

使われているタイルは、なんと約23万枚。 緑、黄、白などの色鮮やかな釉薬(うわぐすり)が塗られたタイルが、南側にはハプスブルク家の象徴である「双頭の鷲」の紋章を、北側にはウィーン市とオーストリアの紋章を優雅に描き出しています。

シュテファン大聖堂

実は、この屋根の傾斜は最大80度という驚くほどの急勾配になっています。

これには美術的な理由だけでなく、雨水が勢いよく流れ落ちることで瓦の汚れを洗い流す「自浄作用」を持たせ、さらに冬に雪が積もって美しい模様が隠れてしまわないようにする、中世の建築家たちの実用的な知恵が詰まっているのです。

5. なぜかつて黒かった?市立公園に輝く「ヨハン・シュトラウスの金色像」

ヨハン・シュトラウス2世の金色の像

音楽の都を象徴する写真スポットといえば、緑豊かな市立公園(シュタットパーク)に佇む「ワルツ王」ヨハン・シュトラウス2世の金色の像です。 今にも軽快なワルツの旋律が聞こえてきそうな美しい姿ですが、この像には、時代の荒波に揉まれた驚きのエピソードがあります。

ヨハン・シュトラウス2世の金色の像

1921年の除幕当時は、現在と同じく目も眩むような美しい24金の金箔が施されていました。 しかしその後、オーストリアが戦争に敗れ、経済が困窮した1935年のこと。 街の雰囲気に対して「これほど輝く金箔は贅沢すぎる!」「周囲の景観に合わない」という批判や反発が起こり、なんと像全体が真っ黒に塗り潰されてしまったのです。 それから56年もの間、ワルツ王は黒い姿のままでした。 激動の時代を経て、ようやく1991年になり、本来の高貴な輝きを取り戻す修復が行われ、現在の「黄金のワルツ王」へと戻りました。 その輝きを裏で支えた歴史を知ると、像の見え方もまた少し変わってきますね。

6. ウィーンには存在しない?「ウィンナーコーヒー」の意外な真実

旅の歩みを止めて、伝統的なウィーンのカフェハウスで一息入れるのは至福のひとときです。

カフェ

日本でお馴染みの、コーヒーの上にふわふわの生クリームを浮かべた「ウィンナーコーヒー」。

実は、本場ウィーンのカフェで「ウィンナーコーヒー(Wiener Kaffee)」と注文しても通じません。 ウィーンでこれを飲みたい時は、「アインシュペナー(Einspänner)」と注文するのが正解です。 アインシュペナーとは、ドイツ語で「一頭立ての馬車」という意味。

カフェ

かつて、カフェの外で主人の帰りを待っていた御者(馬車の運転手)たちが、寒い冬に暖をとるために飲んでいたのが始まりです。

慌ただしい仕事の合間、片手に手綱を持ちながらでもコーヒーが冷めないように、また馬車が揺れても中のコーヒーがこぼれないように、「生クリームで厚い蓋をした」という、働く男たちの知恵から生まれた劇的な一杯なのです。

いつもの余談

ローマ郊外をドライブ中、日曜日という最高に不吉なタイミングで車が故障しました。

藁にもすがる思いで、高速道路に設置された「HELP」と書かれた非常電話へ猛ダッシュ! 「修理・レッカー」のボタンを渾身の力で押すも......シーン。無音。 ならばと、隣の「救急車」のボタンを押してみるも......これまた完全なる沈黙。ローマの休日ならぬ、非常電話の休日です。

途方に暮れていると、タイミングよくパトカーが1台停まりました。 救世主現る!と思いきや、中から出てきた警察官に『おい、何しとんねん??』と、なぜか怒られモード。
『いや、このHELPの機械、壊れてません?』と聞いたら、見事な知らん顔をキメられました。 それどころか、『イタリアで運転するなら、レッカー会社の電話番号くらい記録しとかなきゃダメだろ!』と、真顔でありがたい(?)説教を喰らう始末。

最終的には、ツンデレな警察官が無線で親切にレッカーを呼んでくれたのですが......。あの高速道路でよく見かける「HELP」の機械、一体何のためにあるのでしょう?

もしかして、イタリアの殺風景なハイウェイを彩る、ただの「前衛的なオブジェ(飾り)」だったのでしょうか......。

皆様もイタリアを走る際は、レッカー会社の番号を呪文のように唱えてからお出かけください。

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2003年より2011年までイタリア、2014年から2017年まで英国にいました。

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