

「お母さん、私、ミイラ役なんだって!」 娘のひとことに耳を疑ったインド生活5か月目。
ジャンマシュターミの劇で配役された「ミイラ」とは、まさかの「ミーラー・バーイー」だった──。 笑いと驚き、そして深い学びへとつながった、親子のすれ違いの物語。異文化の中で育つ娘の姿と、インドの聖女ミーラー・バーイーの生き方が重なったとき、私は「自分の信じるものにまっすぐであること」の尊さに気づかされました。
目次
- ミイラ役!?娘のひとことに耳を疑った日
- ジャンマシュターミとは?インド最大級の宗教行事
- 舞台に立っていたのは...ミイラではなくミーラー!?
- ミーラー・バーイーとは?信仰に生きた女性の物語
- 娘の健気さに胸を打たれた理由
- ミーラー・バーイーの歌から感じたこと
- 自分の信じるものにまっすぐであるということ
- 旅のヒント:宗教行事は文化理解の宝庫
ミイラ役!?娘のひとことに耳を疑った日
ナマステ!高校生の頃、テストの英文読解で「veteran」を「バテレン」と読んで、違和感を覚えるも、自分を信じて疑わなかったことで、ぼろぼろの点数をとったことのあるARIECHIKAです。
そんなまっすぐな私がインドに来て5か月目の8月。
娘が通うインターナショナルスクールで、ヒンドゥー教の神クリシュナの誕生を祝う「ジャンマシュターミ(Janmashtami)」の劇が行われることになりました。
娘は毎日「劇の練習をがんばってるよ」と話してくれていたのですが、ある日ふと「何の役なの?」と聞いてみると、「先生がミイラって言ってた」とのこと。
私:「ミイラ?あの、包帯ぐるぐるの?」
娘:「うん、たぶん。それに、明日、白い衣装持ってきなさいって、今日先生から言われた...」
私:「ええええええ!明日、白い衣装?ミイラのでしょう?そんなの今日の明日では準備できないよ!」
発表会の前日に突然告知される、このお知らせ。
インドでは前日連絡はよくあることなので驚きませんが、ミイラ役というのはさすがに想定外でした。衣装は、前日ということと、外国人なのでわからないと言ったら、先生が用意してくれるということになりました。
ジャンマシュターミとは?インド最大級の宗教行事
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<ダヒ・ハンディ>
ジャンマシュターミは、ヒンドゥー教の神クリシュナの誕生を祝う祭りで、インド全土で盛大に行われます。
特にムンバイでは「ダヒ・ハンディ」と呼ばれる人間ピラミッドが有名で、ピラミッドを作って、空中につるされた壺まで到達し、割ることで祝祭のクライマックスを迎えます。寺院では夜通し音楽が奉納され、断食や祈りを通じてクリシュナ神への敬意を表す人も多く、精神的な浄化の機会とされています。
学校でもこの行事に合わせて劇や踊りが披露され、子どもたちは伝統衣装を身にまとい、神話の登場人物を演じます。
舞台に立っていたのは...ミイラではなくミーラー!?
<舞台に立っていたミイラはミーラーだった。>
劇当日、娘は白い衣装で舞台に登場。しかしミイラ感はゼロ。包帯も巻いていないし、そもそも娘はミイラっぽくない。
劇が終わって先生に確認すると、娘の役は聖女「ミーラー・バーイー(Meera Bai)」だったのです。
ミーラー・バーイーとは?信仰に生きた女性の物語
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<信者に囲まれたミーラー・バーイー。17~18世紀頃の水彩画、作者不明。>
ミーラー・バーイーは16世紀のインドに実在した詩人であり、クリシュナ神への深い信仰を貫いた聖女。ラジャスターン地方の王族に生まれながら、家族や夫の家という社会的な束縛を超えて、神への愛に生きた女性です。
彼女の詩には、こんな一節があります。
「家族の期待を捨て、夫の家を離れ、世間の目を気にせず、私のクリシュナにだけ心を捧げる。」
その生き方は、当時の社会では異端ともいえるものでしたが、彼女は自らの信仰に忠実であり続けました。また、彼女は「バクティ運動」と呼ばれる宗教改革の流れの中で、カーストや儀式を超えた「純粋な愛と献身」を体現した存在でもあります。
娘の健気さに胸を打たれた理由
娘は「ミイラ」だと思い込みながらも、毎日練習に励んでいました。言葉も文化もわからない中で、皆に一生懸命ついていこうとする姿を、私は日々そばで見てきました。
だからこそ、舞台の上で白い衣装をまとい、役を果たしている姿を見たとき、その背景にある努力や戸惑いが一気に胸に迫ってきて、思わず涙がこぼれそうになったのです。
しかも、本人は「ミイラ」の役を熱演していた──そう思うと、なんだか胸が痛くなりました。
そして、もし私が娘の言う通りにミイラ用の白い衣装を用意していたら、包帯や全身タイツのような全く違う衣装を持たせてしまっていたはずです。
先生が衣装を用意してくれて、本当に助かったという現実的な安堵感もこみ上げてきました。
ミーラー・バーイーの歌から感じたこと
この体験をきっかけに、私は彼女の詩や音楽を調べました。
特に心に残ったのが、『Mere to Giridhar Gopal』というバジャン(宗教歌)です。これは、彼女がクリシュナ神への愛を歌い上げたもので、1979年の映画『Meera』でも印象的に使われています。
<映画MeeraよりMere to Giridhar Gopal/出典:YouTube著作権は制作者に帰属>
これは、ミーラー・バーイーが書いた詩に、当時こう歌われていただろうと思われるメロディーをつけて演奏されているものです。
このシーンを見ながら、私は彼女の信仰の深さとその彼女のひたむきな信仰心に周りの人々も心を動かされていく様子と、インド特有ないつでもどんな時も、明るさのあるにぎやかさに、インド文化の奥行きを感じました。
そして、娘が演じた「ミーラー・バーイー」という役が、ただの劇の登場人物ではなく、インドの精神文化を象徴する存在だったことに、あらためて気づかされたのです。
自分の信じるものにまっすぐであるということ
娘が「ミイラ」だと思いながらも、まっすぐに練習に励んでいた姿。そして、ミーラー・バーイーがすべてを捨ててでも信仰に生きた姿。
そのふたつが重なったとき、私は気づきました。
「自分の信じるものにまっすぐである」ということは、言葉や文化を超えて、人の心を動かす力になるのだと。
娘はまだ、信仰も思想も知らないかもしれない。でも、彼女の中にはすでに「自分の役割を果たしたい」「みんなと一緒に頑張りたい」という、まっすぐな思いがあったのです。
それは、ミーラー・バーイーが貫いた信仰の姿勢と、どこか通じるものがあるように思えました。
この体験は、私にとってただの学校行事ではなく、「自分の信じるものにまっすぐであること」の尊さを教えてくれた忘れられない学びでした。
異文化の中で育つ娘の姿は、ミーラー・バーイーの生き方と重なり、私自身の心にも深い問いを投げかけてくれたのです。
旅のヒント:宗教行事は文化理解の宝庫
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<GD Goenka World Schoolにて>
海外で子育てをしていると、宗教行事は単なるイベントではなく、文化理解の絶好のチャンスであり、現地の価値観や歴史を肌で感じられる貴重な場となります。
人間ピラミッドをまっすぐ積み上げる姿に、娘のまっすぐな心を重ね、これが偶然なのかクリシュナのいたずらのようにも感じられました。
GD Goenka World School
- 所在地:G.D. Goenka Education City, Sohna - Gurgaon Rd, Sohna, Haryana 122103 インド
- 公式サイト:GD Goenka World School
※GD Goenka World School は国際バカロレア(IB)を採用しており、PYP(2~11歳)、MYP(12~14歳)、DP(15~18歳)を提供しています
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ARIECHIKA
- これまで「音」で日々を綴ってきた声楽家ですが、今度は「文字」で、インドでの暮らしを奏でてみようと思います。毎日のなんてことない出来事の中に、ちょっとした驚きや発見がいっぱい。笑いと好奇心を添えて、異文化の空気を言葉に乗せてお届けします。日々の小さな旋律――Ariettaのような、ささやかだけど心に残る瞬間を、五感で感じるインドから綴っていきます。ちょっとのぞいてみませんか?































