「ゴキブリ人民党」騒動に見る、インドの若者を取り巻く学業・就業状況とは?

「ゴキブリ人民党」の文字をメディアで目にしたことはありませんか?
インドで立ち上がった架空の政党は、若者の社会への不満を背景に生まれました。

観光大国として非常に魅力的なインドですが、そこに住む若者たちは激しい競争やインド特有の価値観の影響を受けています。

今回は、短い観光では見えてこないかもしれない、インドの若者たちが置かれているリアルな状況について解説します。人々の生活のちょっと深いところまで見たい方は、ぜひご覧ください!

目次

ゴキブリ人民党(CJP)とは?インドの若者の社会不満が背景に

現在インドでは、2014年からインド人民党(BJP)が政権を握り続けています

現在インドでは、2014年からインド人民党(BJP)が政権を握り続けています。ヒンドゥー教徒を重視する政治で、国民の大半を占めるヒンドゥー教徒からは圧倒的な支持を得ています。モディ首相は日本の安倍元首相と親交があったこともあり、BJP支持者に「日本から来た」というと歓迎されることがよくあります。

宗教が政治と強く結びついているのはインドの特徴なので、その点を理解しながら、目の前の人がどの宗教に属しているのかを、意識しておいた方がよいかもしれません。また、地域ごとに宗教も異なるので、自分の目的地にはどの宗教の信者が多いのか、確認しておいた方がよいでしょう。

一方で、若者の中には現代的な価値観をもった人も増えてきています。宗教にとらわれず、欧米的な自由を求めています。しかし、ヒンドゥー教の教えが根付いているインド社会は周囲との同調を求められる場面もあり、親や目上の人たちに自分の正直な気持ちを伝えることは簡単ではありません。また、「子供への教育は投資」と考えるのが一般的で、親から子への期待は日本の比ではありません。そのような、ある意味「閉塞感のある」とも言える環境の中、最高裁判所の長官が、インドの若者に対して下記のような発言をしました。

「就職できない若者の中には、ゴキブリのように社会に寄生する者もいます。彼らはやがてメディアやソーシャルメディア、活動家となり、社会システムを攻撃し始めるのです」

(引用:wikipedia

そして、「ゴキブリ」と呼ばれたことを受け、アメリカ在住のインド人が架空の政党「ゴキブリ人民党(CJP)」をインスタグラムで立ち上げたところ、数日で2,000万人以上にフォローされました。CJPはモディ首相が所属する党、BJPをもじっています。

「医大入試問題漏洩」事件で「ゴキブリ人民党」の活動がさらに拡大

2026年5月には、医大共通の入試問題が漏洩していたとの疑惑を受け、政府は230万人の試験結果を無効としました。再試が行われましたが、1回目は合格していたのに再試で落ちてしまった学生の中には、自ら命を絶ってしまった人たちもいます。

これを機に若者たちの政府への不満が高まり、ゴキブリ人民党の旗を掲げ、抗議活動へと発展しました。
さらに、大ヒットインド映画「きっと、うまくいく」の主人公のモデルとなったソナム・ワンチュク氏もハンガーストライキで政府に抗議します。政府が「対応を検討する」と約束した後に26日間のハンガーストライキを終えました。ソナム・ワンチュク氏のこの一件も相まって、さらに「ゴキブリ人民党」が国外にまで知られることとなりました。

その結果、教育相が辞任する形でこの事件は決着を迎えました。

インドの若者の失業率増加の背景は?激化する受験と「職業に貴賤あり」の社会

水中のボートに座る男性

世界一の人口を抱えるインドでは、この令和の時代に大きな経済格差があります。

田舎の方の出身だと、中卒、あるいは小卒の人もいて、彼らは「早く働け」と家族から送り出されます。早く働きに出るために出生証明書を偽造しており、自分の本当の年齢がよくわからないという人もめずらしくありません。実際に、北東インドからバンガロールなどの大都市に働きに出てきている20代の若者たちにもそういった人たちがいました。

一方で、近年の好景気で中流階級が急増しています。「いい仕事に就くためには少しでもいい大学に」と学歴競争が激化しており、スラムに住んでいる家族でさえ子どもを私立に行かせたり、塾に通わせたりしています。少しでもいい仕事に就いて、将来自分たちに楽な暮らしをさせてほしい、という投資だと言っていました。

カースト制度のあるインドでは、カーストと仕事が複雑に結びついています。賃金の安い仕事や肉体労働はカーストが低い人たちの仕事とみなされています。インド人と会うと、まず仕事を聞かれます。その次に給料を聞かれます。仕事の内容から相手のカーストや経済状況を推測することもあるため、それが話をする上での非常に大きな判断軸となっているようです。インド社会では、カーストに対する独特の考え方がみられます。

しかし、IT革命によりカーストを問わず教育的なバックグラウンドがあればホワイトカラーの仕事に就けるようになり、高収入のホワイトカラーの仕事を求める人も増えています。また教育問題はカースト問題とも結びついており、被差別カースト出身者のための「指定カースト」枠が大学に設けられ、実際の学力よりも高い大学に入りやすかったりなど、カーストをめぐるさまざまな議論もあります。使えるものはなんでも使い、とにかくよい大学、よい仕事を、という強い上昇志向が社会の一部で見られます。

そして芽生えたのが、「低収入の仕事なら、やらない方がまし」という意識です。大学を卒業したにもかかわらず、3~4年も就活を続けながらポストが空くのを待ち、その間は家族の収入に頼って暮らす20代半ばの若者にも複数出会いました。彼らは最新のテクノロジーを使いこなし、流暢な英語を話します。今回の「ゴキブリ人民党」は、そんな若者たちが生み出したものなのでしょう。若者に大きな期待とプレッシャーがかかり、負担を感じている人もいます。インド社会のホワイトカラーの雇用も追いついていません。若者たちが抱えていた社会への不満が、「ゴキブリ人民党」の動きにつながったとも考えられます。

インドの若者を取り巻くプレッシャーとは?学業・就職・結婚をめぐる社会事情

学業・就職・結婚をめぐる社会事情

インドはきらびやかな文化と異世界感のある観光地、安い物価に親しみやすい現地の人々と、外国人にとってはこの上なく魅力的な旅先です。長期滞在する人や何度も何度も訪れる人が多いのも納得の場所です。ですが、それは現地に一切のしがらみがない外国人の立場だからでしょう。カーストの外で、国外の経済活動に従事し、インドのシステムに組み込まれていないからこそ、インドで自由を謳歌できます。

しかし、インド社会で暮らす人々には、外国人とは異なる社会的な環境があります。どの家庭でも幼い頃は思いっきり甘やかされますが、学校に行き始めると激しい受験戦争に巻き込まれます。受験の最中に命を絶つ学生も少なくありません。受験を乗り越えたと思っても次に待っているのは激しい就活で、何年も働けないこともあります。インド国内だけでなく、アメリカやカナダ、オーストラリアなど世界各国に出て仕事を求める若者もいます。

働き始めたら次は結婚、子供を産めと親から急かされ、親が年老いてくると「面倒を見ろ」と迫られます。インド社会では、親を介護施設に入れることはこのうえない親不孝とされており、家族が義両親の面倒を見ることが一般的とされるケースもあります。

まとめ:「ゴキブリ人民党」騒動から見るインドの若者たち

インドでは、親から子へプレッシャーが受け継がれているように見える一方、若者の中には、その流れに対して違和感を抱き始めている人もいます。その不満が「ゴキブリ人民党」として現れましたが、もしかするとインド社会が変わり始める兆候なのでは、という思いを抱かずにはいられません。

旅行では目が届きにくいかもしれませんが、ぜひ現地の若者たちのリアルな話にも耳を傾けてみてください。彼らが何を考えて日々を過ごし、どのようにインド社会を作っていくのか、その未来にも思いを馳せてみてはいかがでしょうか。

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やまもと

インドのバンガロール・ムンバイの2拠点で活動している翻訳者・ライターです。インドの野良犬とヨガが大好きです!

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