早春のスイスでは、道路脇にこのような高さ50センチほどの「防護壁」がよく見られる。

おおよそ3月中旬に出現し4月中旬ごろには撤去されてしまうこの設備は、アンフィビエンシュッツツァウンAmphibienschutzzaun（訳：両生類保護フェンス）と呼ばれている。両生類の多くは普段は森や林などに生息しているが、春になると産卵のために水場に移動する。そんなカエルやイモリ・ヤモリなどが、途中にある道路を横断する際、車両に轢かれるのを防ぐためのものだ。

このようなフェンスがある道路には、途中の数ヶ所に両生類専用のトンネルが設置されている。カエル達はフェンス沿いに道路を移動し、専用トンネルを通って道路の反対側に安全に行かれるという仕組みだ。

両生類の往来が頻繁な道路では、一定期間車両の通行が禁止になることも多い。

スイスでは1966年以降、いわゆる自然保護法によって両生類が法的な保護対象になっている。スイスに生息している21種の両生類のうち、14種はレッドリスト／絶滅危惧種に指定されているのだそうだ。種はもちろんのこと、彼らの住環境保護も大きな課題。産卵地の環境保護は特に重要で、各州の主要な産卵地は国の保護リストに登録・指定されている。

私が住んでいるトゥールガウ州にある重要な両生類産卵地のひとつが、ボンマー池Bommer Weiher。ボンマー池はドイツとの国境の街・クロイツリンゲンKreuzlingenから3キロメートルほどの所にあり、広い自然地帯の一角に位置している。2つの大きな池を中心にして、周囲の湿地帯に無数の小さな沼や水たまりが点在するという、両生類には格好の産卵環境だ。

「両生類保護地域」と書かれた看板もちゃんと立っている。

池の西側には交通量がとても多い国道が通っている（この国道にももちろん「両生類トンネル」が設置されている）が、それを除けば周囲にはのんびりとした田舎村風景が広がり、人間よりも牛や馬の姿の方が圧倒的多い。すぐ近くに大きな街があるとは思えない、のどかな光景だ。

ちなみに、このボンマー池に隣接する小村には、セバスティアン・ヴェッテル（自動車レースF1のドライバー）が住んでいる。スイスには彼以外にもたくさんの有名人・著名人が住んでいるが、彼らのプライベートな生活について周囲の住民が騒ぎ立てたり野次馬的な行動をするということは全くない。ニュースらしいニュースといえば、自宅の敷地内にテニスコートを作りたいというヴェッテル選手の建築希望申請を、地元自治体が「敷地が自然保護の対象地域に入っているのでダメ。テニスをしたいなら近くにある公的スポーツ施設を使えば済む話でしょ！」という理由で却下したという話があった程度だ。世界的な有名人が特別扱いをされずにごく普通に暮らせるのも、スイスの特徴のひとつだと言える。

出典および参考ウェブリンク

レッドリストに登録されているスイスの両生類についてRote Listen: Amphibien（スイス環境省HP内、独語）
www.bafu.admin.ch/tiere/07964/07970/index.html?lang=de

国家的な意義がある両生類産卵地の保護についての法規Verordnung über den Schutz der Amphibienlaichgebiete von nationaler Bedeutung（スイス連邦HP内、独語）
www.admin.ch/opc/de/classified-compilation/20010968/index.html