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内から愛でる重要文化財:フランク・ロイド・ライト設計、ヨドコウ迎賓館と自由学園明日館
2019年アメリカ合衆国に残る作品8件が世界遺産に登録されたフランク・ロイド・ライトは、「近代建築の三大巨匠」のひとりに数えられるアメリカ人建築家です。実は、同氏の作品は、アメリカ以外では日本にしか現存していません。そのうち建築当時の姿をそのまま留めるのは2つ、ヨドコウ迎賓館(兵庫県芦屋市)と自由学園明日館(東京都豊島区)だけです。どちらも文化的価値を認められ、ヨドコウ迎賓館は1974年に、自由学園明日館は1997年に国の重要文化財に指定されています。
目次
- 芦屋のヨドコウ迎賓館
- 山を背に海を見渡す環境
- 大谷石と木材の存在感
- 和洋いずれにも合う意匠
- 2月から始まる雛人形展
- 豊島区の自由学園明日館(みょうにちかん)
- 喧騒から離れた静謐な空間
- 幾何学模様の意匠
- フランク・ロイド・ライトに関するミニ・ミュージアム
- 活用される文化財
芦屋のヨドコウ迎賓館
<ヨドコウ迎賓館外から見た2階応接室の窓 ©KanmuriYuki>
(株)淀川製鋼所が所有することから、現在ヨドコウ迎賓館と呼ばれるこの建物は、もとは灘の酒造家八代目山邑太左衛門の別邸として1918年フランク・ロイド・ライトが設計したものです。場所は、阪急芦屋川駅から山手に10分程度上ったところ。約5,200平方mの敷地に延床面積約542.42平方mの邸宅であるにもかかわらず、山肌に沿わせた設計になっているせいか周辺環境と見事に融和して見えます。
山を背に海を見渡す環境
<ヨドコウ迎賓館車寄せ ©KanmuriYuki>
その名も「ライト坂」と名付けられた坂の左手に門扉があり、緑多いアプローチを進むと、凹凸の彫刻を施された大谷石が印象的な車寄せにたどり着きます。建物の中では一番低い場所にあたりますが、南端からの見晴らしは既に素晴らしく、芦屋市街とその向こうの大阪湾までよく見えます。
<車寄せから見える景色 ©KanmuriYuki>
迎賓館は南北に細長く階段状に建てられています。1階の玄関から4階の食堂まで4階建てですが、斜面を利用していることもあり、見学しているとだんだん自分が何階にいるのかわからなくなってきます。ワンフロアの中に数段のアップダウンがあり、階段がひとところに限られないせいもあるでしょう。
大谷石と木材の存在感
<ヨドコウ迎賓館二階応接室 ©KanmuriYuki>
鉄筋コンクリート造りではありますが、コンクリートよりも目をひくのは栃木県宇都宮市大谷町産の大谷石です。外側だけでなく内部の階段や暖炉脇の柱、壁面など、意外な場所に多くの大谷石が用いられています。
<ヨドコウ迎賓館三階西側廊下 ©KanmuriYuki>
木材の存在感も大きく、窓枠、小窓や天井の飾り、作り付けの家具が、木の温かみを伝えます。また、大きなガラス窓も多用され、特に二階応接室や三階廊下は外光と周りの自然の色が明るく映る作りになっています。
和洋いずれにも合う意匠
独特な魅力を放つのは、館内いたるところに用いられている緑青色の飾り銅板。窓、扉、和室の欄間などにも使われ、和洋を超える統一感を感じます。
<ヨドコウ迎賓館三階和室 ©KanmuriYuki>
4階の食堂からは、南側のバルコニーに出ることができ、アーチをくぐって階段を降りると、3階のバルコニーへとつながっています。周りに遮るものがないので広い視野で海を見渡すことができる贅沢な場所です。
<ヨドコウ迎賓館四階バルコニー出口 ©KanmuriYuki>
そのほか部屋ごと空間ごとの魅力は、ぜひ脚を運んで発見してみてください。公式HPには、専門家による詳しい建築解説も添えられています。
ちなみに、個人的にとても素敵だと思ったのは、床の間のほか、踊り場やちょっとした隅にさりげなく活けられた花々です。花の名前を書いた小さなカードも添えられていて心を和ませてくれました。
<さりげなく置かれた花々 ©KanmuriYuki>
2月から始まる雛人形展
ヨドコウ迎賓館では毎年この時期、1900~1901年製作の雛人形展を開いています。これは、前述の八代目山邑太左衛門が長女の誕生を祝って京都の老舗「丸平大木人形店」に作らせた貴重な品。2022年も2月11日~4月3日まで開催する予定です。この間は、通常の開館日以外に火曜と金曜も開館しますが、事前の日時指定予約が必要です。詳しくは公式HPをご覧ください。
ヨドコウ迎賓館
- 住所:兵庫県芦屋市山手町3-10
- 開館日:毎週水・土・日曜と祝日
- 開館時間:10時~16時(入館は15時半まで)
- 入館料:大人500円、小中高校生200円、65歳以上400円
- 公式HP:ヨドコウ迎賓館
豊島区の自由学園明日館(みょうにちかん)
<自由学園明日館 ©KanmuriYuki>
自由学園明日館は、フランク・ロイド・ライト設計の3棟と、遠藤新設計の講堂で成る建築群です。1921年羽仁もと子・吉一夫妻が新しく設立する女学校、自由学園の校舎の設計を、フランク・ロイド・ライトに依頼したのがその始まりです。当時、帝国ホテル設計のために来日中だったライトと羽仁夫妻をつないだのは、夫妻の友人でありライトの弟子でもあった遠藤新でした。遠藤新は、ライトの帰国後、この自由学園や帝国ホテル、また上述ヨドコウ迎賓館などを竣工に導く役割も果たしています。
喧騒から離れた静謐な空間
<自由学園明日館見学入り口©KanmuriYuki>
場所は東京都豊島区。JR池袋駅メトロポリタン口から徒歩約5分、目白駅から約7分の距離に位置します。駅からすぐとは思えないほど静かな雰囲気が漂う場所です。明日館という名前は、自由学園が1934年移転していった後につけられました。関東大震災や太平洋戦争の被害は免れたものの、老朽化が激しく1999年から2001年と2015年から2017年にかけて大規模な保存改修工事が行われました。その後は「使いながら文化財価値を保存する"動態保存"のモデル」(同施設パンフレットより)として、見学者受け入れのほか、結婚式やコンサート、各種催し、公開講座などに活用されています。
幾何学模様の意匠
<中央棟ホールの窓 ©KanmuriYuki>
同施設に着いて最初に目に入るのは、広い芝庭を前に建つ左右対称の中央棟でしょう。幾何学模様をなす窓枠に縦長のガラスがまるでステンドグラスのように嵌め込まれています。この幾何学模様の意匠は明日館全体に見られる特色のひとつです。
<食堂の天井と照明 ©KanmuriYuki>
暖炉や廊下の一部、ホールの柱などには大谷石が多く使われていて、木造建築であることを忘れてしまいそうです。中央棟の中心は、1階がホールで二階が食堂ですが、どちらにも大谷石の暖炉がどっしりと据えられています。テーブル・椅子のデザインまで統一された食堂は、高く平らでない天井に、それ自体が幾何学模様のような照明が低めに設置され、広いのに温かい印象を与えます。喫茶付きの見学を選ぶと、この食堂でコーヒーか紅茶と焼き菓子を賞味できます。
フランク・ロイド・ライトに関するミニ・ミュージアム
<ホールの壁画。六角形の椅子はライトと遠藤によるデザイン©KanmuriYuki>
ところで、1階のホールには旧約聖書出エジプト記をモチーフとした壁画が残っています。実はこの壁画は、1997年の修理工事で発見されたものだそうです。自由学園創立10周年を記念して描かれたと言いますから、もう90年ほど前の作品ですが、壁の下に長く眠っていたため色鮮やかに残されていたのです。
なお、食堂の脇の階段を数段上がった隠し部屋のようなスペースには、現在フランク・ロイド・ライトとその建築にまつわるミニミュージアムが置かれています。見学の折には忘れず寄ってみてください。
活用される文化財
<明日館講堂 ©Izui>
講堂は、道路を挟んだ向かい南側に建っています。これは弟子の遠藤新が一から設計したものですが、窓の木枠の幾何学模様、照明や天井の飾り、暖炉の存在など、師フランク・ロイド・ライトのコンセプトをしっかり受け継いだ作品に見えます。この講堂も現役で、今なおセミナーやコンサートに活用されています。
全体的には簡素でありながら、ところどころ凝った意匠にはっとさせられる明日館。それもそのはず、設計にあたりフランク・ロイド・ライトは「"簡素な外形のなかにすぐれた思いを充たしめたい"という羽仁夫妻の希いを基調と」(自由学園明日館公式HPより)したのだそうです。そんなことにも思いをめぐらせながら見学してみてください。
<外から見た展示室窓 ©KanmuriYuki>
自由学園明日館
- 住所:東京都豊島区西池袋2-31-3
- 休館日:毎週月曜日(月曜が祝日または振替休日の場合はその翌日)・不定休あり、要事前確認
- 開館時間(閉館30分前までに要入館):通常10時~16時、毎月第3金曜日は夜間見学18時~21時あり(現在は不定期開催)、そのほか月1度休日見学日を設定 ※詳しくは公式HPの見学カレンダーをご覧ください
- 見学料:喫茶付き見学800円、見学のみ500円、お酒付き夜間見学1,200円
- 公式HP:自由学園明日館
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冠ゆき
- 山田流箏曲名取。1994年より海外在住。多様な文化に囲まれることで培った視点を生かして、フランスと世界のあれこれを日本に紹介中。