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「無の贅沢」を楽しむ場所、ノルウェーのHyttaを経験しよう!
多くのノルウェー人は日常からかけ離れた静かな時間をとても大切にします。それは自然を身近に愛し、プライベートスペースを重視する国民性からでもあります。そんなノルウェー人の多くの家族が所有しているのがHyttaです。今回は日本人にはあまり馴染みのないこのHyttaについて紹介したいと思います。
目次
Hyttaって一体何?
<筆者のhytta周辺の湿地帯景色>
Hyttaとは
Hyttaと書いて「ヒュッタ」というような発音でしょうか。これは多くのノルウェー人が所有している家とは別の滞在場所、コテージです。
別荘といえば聞こえが良いですがどちらかと言えば山小屋という感じのイメージで想像してください。もちろんHyttaも人それぞれ!大きなガラス張りの窓から海辺を見渡せる絶景のダイニングやジャグジー付きの外風呂があるような別荘を所有している人も中にはいます(笑)
でも基本的にもともと昔ながらのHyttaはノルウェー人にとって普段の日常からかけ離れた自然の中で時間を過ごす自分だけの場所ということで、私は素朴で質素な小屋という概念で捉えています。
<山の中のHyttaでは放し飼いの羊に出会うことも!>
所有地
Hyttaがどこにあるかはその家族それぞれ。山の中、森の中、海辺など街から離れた自然の中であればどこにでも存在し得ます。家族で代々引き継ぐ形で所有している人が多いですが、もちろん新しく自分たちで全く別の場所に建てたり、購入したりする人もいます。そして自分たちで所有していなくてもノルウェー中様々な場所で貸し出し用のHyttaがあるので1泊からでも借りることが可能なのです。
例えば私が住む場所のすぐ近くには有名なTretopphyttaと言って木のてっぺんにあるHyttaの宿泊施設があります。そう、子供の時に一度は憧れたツリーハウス!私は行ったことがありませんが、親戚が利用していた時の写真を見せてもらうと景色だけではなく遊びに来るリスに直接餌付けできたりと、とても魅力的な場所でした。
訪問時期と滞在時間
多くのノルウェー人は週末や長期休暇に訪れます。しかしあくまでも気軽に訪れられる非日常空間というのが目的の場合が多いので旅行へ行く感覚ではなく、ちょっとゆっくりしたい週末に「よし、明日はHyttaで過ごそう!」という感じでサクッと車で出かけちゃうのがノルウェー人です。
滞在時間も日帰りでも良し、数泊しても良し、長期休暇なら数週間滞在する人もいます。必要最低限の生活に必要なものは全てHyttaにあるので大荷物を持っていく必要もありませんし、むしろ何も無い時間を愉しむことが目的ならば何も持って行かないに越したことはありません(笑)
Hyttaではどうやって過ごすの?
宿泊
もし数泊する場合は場所に合わせた服を持っていくことが必要です。山や森の場合は夏でも北欧の朝晩は冷えることがあるので、風を通さないジャケットや変わりやすい天候に対応できるようにレインコートなど。逆に水辺なら泳げるように水着など。(ちなみに私の家族のHyttaには、すでにいつ行っても問題ないよう様々な天候や気候に対応できる服や靴がある程度置きっ放しにしてあります。)
Hyttaにもよりますが、場所によっては大自然の中にあるため水道、電気の通っていない場合もあります。うちも数年前まではそうでした。今は電気こそソーラーで通るようになりましたが、水道は通っていないので汲み置きの水と飲み水用の水が置いてありそこから使います。お風呂はもちろんシャワーもありません(笑)幸いうちの場合は義理実家が近いので気軽に行き来することもでき、そこまで不便に感じたことはありません。
アクティビティ
何もしない目的で行くノルウェー人はとことん暖炉の側でぼーっと過ごしたりしますが、家族で行くならカードやボードゲームをみんなで楽しんだり、読書をしたりします。あくまでもこれは私の場合ですが、そのほかにも周辺を自然散策散したり、山登りしたり、湖まで魚釣りをしに行ったり、冬はクロスカントリースキーを楽しんだりします。
<筆者のhyttaから最寄りの湖の様子>
<この白いボートに乗って魚釣りをします>
食事
簡素な場合が多いですがキッチンがあるのでそこで調理することができます。ただここでは手の込んだ料理は作りません。ソーセージを焼くだけだったり、混ぜるだけの市販の生地を持って行ってワッフルを焼いたり、出来合いのものにちょっと手を加える程度の料理を食べることが多いです。
<↑こうして外で釣った魚などをグリルすることも!>
電気が通っている場合は高確率で冷蔵庫がありますし、それとは別に食料用の貯蔵庫がある場合もあります。ジャムや乾物、粉物などある程度日持ちするものは置いたままにしてあり、足りないものやそのほかに必要なものを常に補うかたちで持参します。公共の宿泊施設として貸し出ししているHyttaにはいわゆる食堂のような場所や小さなスーパーが近辺にある場合もあります。
夏と冬の違い
どの季節に行くかによってHyttaでの過ごし方は変わってきます。自然の中でゆっくり過ごすという根本的な目的は変わりませんが、夏なら天気が良ければ野外で、冬ならスキーや雪遊び以外は室内で過ごすことが多くなるでしょう。私はほぼ毎シーズン必ず1度は訪れますが、季節の変化を五感で最大限に感じることができ、Hyttaに行った後はいつも身も心もスッキリします。
<筆者のHyttaからの夏の景色>
<筆者のHyttaへ行くまでの冬の道のりにて撮影>
実際にHyttaへ行ってみよう!
ではここで私の家族が所有するHyttaを見せちゃいます!
使用している写真は数年前に撮ったものもあるのでその後リフォームしたりしていて現在は少し変わっている部分がありますが、雰囲気だけでも感じとっていただけたら嬉しいです。夫の実家がある場所から車で20分ほど山奥に入って行った所に先祖代々受け継ぎ家族で使用しています。夏は羊や牛が放牧されているエリアのため道中常に飛び出して来るかもしれない動物たちに注意をしながら一本道を進むと辿り着きます。
水道は通っておりません。電気は数年前にソーラーパネルを設置したので今は必要最低限の電気はあります。
<早速、羊さんたちがお出迎えしてくれました。>
いわゆる典型的な山小屋です。夏は道がありますが冬になって雪が積もると車が通れる道は無くなるのでスノースケーターをチャーターして行くか、もしくはクロスカントリースキーを履いて10キロほどの道のりを頑張って行きます。
小屋の中に入ってみるとこんな感じの雰囲気です。
これはリビングとなる場所の様子で、くつろげるソファとダイニングテーブルがある程度のこじんまりとしたサイズ感です。我が家のHyttaは昔ながらの食器やインテリアグッズ、もう家で使わなくなって倉庫に眠っていたアンティークの家具などをあちこちから集めた空間でもあり、懐かしさだけではなく、何世代も大事に使われてきたものに囲まれるとなんだかほっこりあたたかい気持ちになります。
暖炉は欠かせません。真冬は着いたらまずこの暖炉ともう一つ寝室にある暖炉に火を入れることから始めます。暖炉の右側の石壁にかかっている朱色のものは時々暖炉に空気を送り込むためのものです。手前にあるのは昔ながらのラジオ!山奥ですのでもちろん携帯のネットはほぼ繋がりません。(場所によっては電話やメッセージ程度はできますが...)私は初めてここに来た時何もすることがなくてそれこそ暇を持て余していましたが、今ではすっかりその暇な時間、何もしなくて良い「無の時間」の魅力にどハマりしています。
日が沈むと電気が通っていないので真っ暗になります。でも決して孤独感や寂寥感を感じることはありません。室内には数え切れないほどのキャンドルやオイルランプがあるので、ゆらゆら灯された静かな暖かい光に包まれ暖炉のパチパチなる音に癒されます。
この日はHyttaの周りを散歩に行きました。山奥のHyttaですが広々としている山頂エリアなので基本的に360度どこを見渡してもとても景色が良いです。車で10分弱行けば湖があり、天気が良ければそこでカヌーに乗ったり魚釣りを楽しむことができます。今回は歩いて行ける距離でとくにあてもなく道筋に従って登って行くことにしました。
<ところどころに綺麗な小川が流れています。>
20分ほど進むと獣道も徐々になくなり山頂らしきところに到着します。ノルウェーで山登りをすると以下の写真のように積み重ねられた石のタワーをよく見かけます。
ノルウェー語ではVarde(ヴァルデ)と言い、昔からハイキングをする人から人への目印とされてきたそうです。ノルウェーでは誰もが自由に簡単に自然にアクセスすることができるので、こういった工夫や知恵は道なき道を進む人々にこれまでたくさんの安心感と達成感を与えてきたのだろうと思います。
そして頂上へ到着すると、この絶景!
見渡す限りの緑!!壮大な景色の中にたった一人身を置くと日常生活のことはいっきに忘れて体の隅々まで研ぎ澄まされるような感じがしました。こうして定期的に自然に触れてチャージされてまた頑張れるのだなと少しHyttaへ頻繁に行くノルウェー人の気持ちがわかったような気がしました。
さいごに
繰り返される忙しい毎日を送っていると、心も体も気づかぬうちに疲れてしまうことをノルウェー人は知っているのでしょう。そしてそれを自然が癒してくれることも...あえて何もしない時間、何もない場所に身を置く習慣を大切にすることで、自然に癒されクリアな気持ちになり、本当に必要なことが明確になるのかもれません。
もちろん旅行でノルウェーへ来た際にHyttaを訪れることはまた違った意図となるかもしれませんが、身近に自然を感じられるだけではなく観光地巡りとはまた違った面でノルウェー人のことを少し知れる良い機会になるのではないでしょうか。
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Wedum莉子
- 神戸市出身、現在はノルウェー内陸部の小さな田舎町に在住しています。幼少期に3年間インドネシアで暮らしたこと、学生時代に様々な国へ旅行したことを通して異なる文化、人々の暮らしの違いを自分の目でみることの面白さを日々体感しています。旅行をすること、美味しいものを作り食べること、綺麗な景色の写真を撮ることが好きです。