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奇妙で独創的な彫像がある聖なる森イタリア「怪物公園」
今日、怪物公園と呼ばれているこの公園、その昔は『Bosco Sacro(聖なる森)』と呼ばれ、460年以上たった今も多くの謎に包まれています。公園までの道中には、まるで時が止まったかのような深い峡谷、聳え立つ岩の頂上を囲むようにできた町などが見られ、自然が持つ独特の沈黙が神聖な公園との出会いの準備役を担っています。
ヴィテルボ県から僅か20キロ離れた場所にある怪物公園。車で数分、数キロ走れば全く別世界を見ることができるのがイタリアの特徴の一つです。怪物公園を見たい、見に行く!という思いなくしては「偶然」「たまたま」では出会えない必見の公園です。
目次
怪物公園の創設者
世界中を見ても非常に珍しい奇妙で独創性のあるこの公園を作らせたヴィチーノ・オルシーニ。軍隊の指揮官としての戦争と牢獄の日々から引退を決意し、オルシーニ家が治めていたボマルツォにあるお城へ帰城。軍でのキャリアから退いた理由の一つには1544年に結婚した妻ジュリア・ファルネーゼへの思いも絡んでいるようです。
その最愛の妻と一緒に「自分たちを反映するような」公園建設計画を初めます。当時、他の貴族達は美しい庭園を持つ別荘を建てる中、ヴィチーノとジュリアが意図する庭園は正にその逆のスタイル。
ヴィテルボ県近くにある幾何学模様と優雅な彫像で囲まれたランテ荘庭園と比べれば一目瞭然です。
奇妙な彫像の数々
怪物公園へ入るとすぐに、女性の顔にライオンの体と羽を持つスフィンクスに出会います。神殿の守護神として神殿前面に置かれた古代エジプトのスフィンクスと同じ役割を持たせたかったのでしょうか?
スフィンクスの台座には『この公園に入られたら細部に注意して見られてください。そして、これらの素晴らしき物が欺瞞の為に作られたのか、芸術の為に作られたのか、ご意見をお聞かせ願いますか?』と、この公園ならではの歓迎メッセージが書かれています。
この森林に存在した灰色の石を使い、それぞれに生命が与えられたような彫像が持つ独特の雰囲気は、依り代の世界観がある日本人には伝わりやすいかもしれません。
公園内にある彫刻と建物が作られた時期は様々なようです。『傾斜した家』はオランダで戦争捕虜になっていたヴィチーノ・オルシーノの妻、ジュリアによって建設されたもの。
傾いた家は、夫が遠く離れた国から帰ってこれなかった時のオルシーニ家の危機を現しているそうです。家の中に入ってみると歩くのも結構大変、船酔いのような感覚になるかもしれません。
ヴィチーノとジュリアが2人で始めたこの公園の完成は、最愛の妻が亡くなった後です。悲しみに暮れ、どうしようもない心の痛みから解放されたいがために公園の建設に没頭するヴィチーノ、そのために呼ばれたルネッサンスを代表する建築家ピッロ・リゴーリオが、当時の詩や古代ギリシャ神話にインスピレーションを受け、公園のデザインに取り掛かります。
ルドヴィーコ・アリオーゾ作『狂えるオルランド』をもとに造られた、公園内で一番大きい彫刻。
相反する動きを一つの彫刻にまとめている亀と踊り子は、亀が世界、女性が勝利を表すともいわれていますが、ヴィチーノの人生を考えると、ラテン語のことわざ『Festina lente(ゆっくり急げ)』を伝えたいのかな?という気もしてきます。
日本でもなじみがあるドラゴン。西洋で竜は退治されるべき存在で、東洋では崇められる龍。国が変われば扱いも変わります。
軍事に初めて象を使った戦術家として評価高いハンニバルに敬意を払った彫刻。
日本のコマーシャルにも登場した、この怪物公園で一番有名な彫刻はこちら。
口を大きく開けたオルクスはローマ神話の死の神。高さ6メートルに及ぶ彫刻の口の周りにはlasciate ogni pensiero o voi che entrateを意味する文の一部が今でも残っています。
これはダンテ・アリギエーリの叙情詩『神曲』地獄編にある有名な lasciate ogni speranza,voi ch'intrateを捩ったもの。ダンテの言葉が『汝ここに入るもの一切の望みを棄てよ』なら、このオルクスの口に書かれているのは『汝ここに入るもの一切の考えを棄てよ』。その意味はオルクスの口に入ればわかります。
心地よいひんやりとした気温の内部には、テーブルとイスが置いてあります。日常の様々な心配事、考え事は一旦置いて、この瞬間を楽しみなさいというメッセージかもしれません。
オルクスの口の上の方には大きな鉢、巨大なセイレーンに囲まれたテラスがあります。
妻に捧げた神殿
聖なる森の香を楽しみながらゆっくり歩いていくと、この公園で一番高く神聖な場所にたどり着きます。それは最愛の妻ジュリアに捧げた小さな神殿。
神話の登場人物、風変わりな動物、傾斜した家などを見た後に出会う神殿には、なぜか心奪われてしまいます。小さいながらも古代神殿同様に作ることでヴィチーノ・オルシーニが愛した妻ジュリアの優雅さと輝きを表現したかったのかもしれないですね。
最後に
恐怖、驚き、感嘆、夢、寓話などを通してみた怪物公園が辿りつくところは『平穏』。ヴィチーノ・オルシーニは自分自身にも、そして後世の私達にも伝えたいメッセージなのでしょうか?怪物公園と呼ばれるこの公園にある彫刻を見て思うことは本当に人それぞれです。だからこそ、ゆっくり味わうことで見えてくる何かがあるかもしれません。460年前の思いが今でも続く聖なる森、怪物公園。イタリアの稀有スポットに、ぜひ足を運ばれてみてください。
施設情報
モストリ公園
- 住所:Localita' Giardino 01020 Bomarzo (VT), Italy
- 電話番号:0761-924-029
- ウェブサイト:モストリ公園
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LeMuse-Japanitaly
- 鹿児島人でイタリア在住のピアノ弾き。音楽マスタークラスをイタリアと日本で開催。ローマで開催される美術展は全部見ます!少しでも時間があれば、気になる美術展を見にイタリアをぶらぶらする癖もあり。