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イタリア式庭園、その不思議な魔力と「ティヴォリのエステ家別荘」について
※2018年4月、加筆修正をいたしました。
※サムネイルはイメージです。(ガルダ湖の庭園 Photo by Pixabay[CC0])
西洋風の庭園文化は、日本のそれとは異なる魅力を放っています。特にイギリスの庭園が有名ですが、この他にもフランスヤドイツ、スペインなどのヨーロッパ各国、そしてもちろん、イタリアにも独自の庭園様式があります。
※掲載写真はイメージです。クリエイティブ・コモンズ・ライセンスに基づき掲載しています。
参考:クリエイティブ・コモンズ公式サイト(外部サイトに遷移します)
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- イギリスともフランスともちがう、イタリア流のガーデニングとは?
- イギリス、フランス、イタリア別に、ヨーロッパの代表的な庭園様式をご紹介
- 世界遺産にも登録された「ヴィラ・デ・エステ(ティヴォリのエステ家別荘)」
- 音楽を奏でる庭!? 「オルガンの噴水」
イギリスともフランスともちがう、イタリア流のガーデニングとは?
ヨーロッパの庭園と聞いて思い浮かべるのは、ピーターラビットや不思議の国のアリスの世界に代表されるような、イギリス式庭園が多いのではないでしょうか。ガーデニングのお膝元もイギリスだと思われていることが多いのは事実です。また、フランスも独自の庭園様式を確立していることで知られています。
しかし、実はイギリスやフランスが独自の庭園様式を確立するよりずっと前、ルネサンス期に既に庭園の様式を確立していたのはイタリアだったのです。
今回は、そんなイタリア式庭園の魅力を紐解くと共に、世界遺産にも登録された庭園「ヴィラ・デ・エステ(ティヴォリのエステ家別荘)についてもご紹介しましょう。
イギリス、フランス、イタリア別に、ヨーロッパの代表的な庭園様式をご紹介
出典:Flickrより Photo by Julia Maudlin[Villa Lante, Bagnaia, Italy](CC-BY)
※こちらはイタリア式のランテ荘庭園です。
まずはヨーロッパの代表的な庭園様式の特徴を大まかに捉えてみましょう。ここでは、イギリス式、フランス式、イタリア式の3つに絞って、特徴をご紹介します。
イギリス式庭園
15~17世紀頃のイギリスはイタリア式やフランス式の様式を受け継ぎ、幾何学的な配置や刈込によるオブジェ(トピアリー)が流行していました。
しかし、18世紀頃に、別名"風景式庭園"ともいわれる様式を発展させていきました。これは、自然に近い景観を造り上げることを目指します。いかにも草花が自然の中に咲いているかのような、さり気ない美しさを良しとし、華美な演出は控えガーデン雑貨は脇役程度にしか使いません。
また、19世紀以降に確立された園芸技術をもって、現代の「イングリッシュガーデン」として定着しました。今日、「ガーデニング」と呼ばれるときにイメージされるのは、まずイングリッシュガーデンの様式となっています。
ポイントは以下の3つです。
- イタリア式、フランス式よりも後に確立された様式(18世紀以降)
- ありのままの自然
- 草花の高さや配色を意識する
※註:ルイス・キャロル著「不思議の国のアリス」の初版は1865年となるため、庭園様式はイングリッシュガーデンが想像できますが、アレンジ作品やアリスをイメージした庭園によっては、後述のフランス式庭園に近い様式が見られます。
代表例:チャッツワース・ハウスの庭園
フランス式庭園
次に、フランス式庭園は17世紀~18世紀に確立した様式です。こちらは左右対称の整然とした美しさ、技巧を凝らした造形的な美しさを目指します。
植物を刈り込むことで、塀のような通路を作ったり、俯瞰すると庭園自体が模様のように見えたりするのが大きな特徴です。木々がさまざまな形に整えられるため、やや人為的な印象を受けるでしょう。
また、通路も直線的であったり、中心点に噴水を設置したりと植物以外も幾何学的なこだわりが見られます。
ポイントは以下の3つです。
- 左右対称、等間隔
- 幾何学的な模様、平面的
- 人為的な要素が大きい
代表例:ヴェルサイユ宮殿の噴水庭園、ロワール渓谷に建つ複数の城の庭園
イタリア式庭園
そして、ヨーロッパの庭園の起源ともなるイタリア式庭園。この様式は14世紀~16世紀頃に確立されたと言われています。
イタリア式は自然的な美しさ、そして造形的な美しさの両方を兼ね備えています。華やかだけれど、どことなく野性的味も匂い立つ、何とも言えない魅力に満ちているのが特徴です。
これまでの様式を振り返ると、フランス式はイタリア式の造形的な要素を拡張し、イギリス式はイタリア式の自然的な要素を拡張していったとも言えるのではないでしょうか。
ポイントは以下の3つです。
- 別荘(ヴィラ)の習慣から発展
- 噴水やカスケード(階段滝)など、水を効果的に用いる
- 彫刻など人工物の設置
代表例:ヴィラ・デ・エステ(後述)、ランテ荘
世界遺産にも登録された「ヴィラ・デ・エステ(ティヴォリのエステ家別荘)」
なぜ、イタリアでは早くから庭園様式が確立していたのでしょうか。
それは、古代ローマ時代にさかのぼります。当時の知識人や支配者は郊外にヴィラ(別荘)をもつ習慣があり、イタリア式庭園はこういった別荘から発達していきました。
さらに、忘れてはいけないのがルネサンスの到来。これからご紹介するイタリア式庭園「ヴィラ・デ・エステ(ティヴォリのエステ家別荘)」は、中世の貴族エステ家の別荘ですが、エステ家はルネサンスの時期にさまざまな芸術家たちのパトロンでもありました。
ヴィラ・デ・エステの場所はローマ郊外30Km。16世紀に出来たこの館の庭園は、イタリアを代表する最も見事な噴水庭園の一つです。
イタリア式庭園の特徴として、「水を効果的に用いる」ことを挙げましたが、大小、実に500以上の噴水を持つヴィラ・デ・エステはその様子が非常によく分かります。
音楽を奏でる庭!? 「オルガンの噴水」
圧倒的な存在感をもつのが、「オルガンの噴水」。
なんと、落下水は完全自動水力式のオルガン演奏の動力となり、二階部分に装飾の一部のように埋め込まれたオルガンが、水力によって摩訶不思議な音楽を奏でるのです。 庭園に音楽までもを持ってきた点が、さすが華麗なイタリア式といったところでしょう。
参考:Flickrより Photo by M.Maselli[Tivoli (Rome), Villa d'Este](CC-BY,SA)
ネプチューンの噴水と池
ダイナミックに吹き上げるネプチューンの噴水から眼下を見下ろすと、手入れされた樹木に囲まれ滔々(とうとう)と水を湛える池に癒されます。
イタリア式庭園には、一年中美しい常緑樹の並木が多いのも特徴です。
出典:Flickrより Photo by Neo_II[Villa d'Este Brunnen / Tivoli](CC-BY)
楕円の噴水
ヴィラ・デ・エステの中でも際立って美しい楕円の噴水の姿は圧巻です。目の前に立つとその美しさ、力強さに一瞬で圧倒されてしまうでしょう。
イタリア式庭園は、斜面をうまく利用する点も特徴的です。階段や段差のコントラスト、踊場を利用して立体感を演出しているのがよく分かります。
出典:Flickrより Photo by Neo_II[Villa d'Este Brunnen / Tivoli](CC-BY)
百の泉の小道
こちらは、庭園内の小道沿いに二段に並んだ噴水。周囲の緑と流れ出る水のきらめきとが見事に調和し、いつまでも歩いていたくなるような麗しい光景です。
参考:Flickrより Photo by Andy Hay[Le Cento Fontane, Villa d'Este, Tivoli](CC-BY)
豊饒の女神の噴水
もう一つ、イタリア式庭園の特徴として、彫像を多用している点も挙げられます。
彫像はよくある聖人像や神話の神々だけでなく、古代の地母神や怪物、動物など面白い彫像が緑に囲まれるように、あるいは水と調和して見え隠れし、時々思いがけない彫像との出会いにハッとさせられます
参考:Flickrより Photo by Avinash Kunnath[Through the hedges, the Grotto of Diana](CC-BY)
さて、後のヨーロッパ式庭園に多大なる影響を及ぼしたイタリア式庭園、いかがだったでしょうか。貴族の別荘という広大な敷地を舞台に、緑と水、そして彫像や音楽までもを見事に調和させた技術や美的感覚はさすがイタリア。
古代ローマ時代の庭園を理想としただけあって、ひっそりとしたイタリア式庭園に迷い込むと、なんだか時の流れが巻戻ったような不思議な感覚に襲われます。イギリスの自然美、フランスの造形美とも一味違った一種の魔力が潜んでいるように感じるのです。
一年中その魅力に触れられるイタリア式庭園、一度訪れてみてはいかがでしょう。
ヴィラ・デ・エステ(ティヴォリのエステ家別荘)基本情報
名前(英語):Villa d'Este,Tivoli
公式サイト:http://www.villadestetivoli.info/indexe.htm
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