ポーランドに住んで丸5年、まだまだポーランドと日本の文化や習慣の違いのさまざまに戸惑うこともありますが、同時にいい意味で驚くこともあります。そのひとつが「ポーランド人の花との付き合い方」です。

ポーランドの人々は花を贈るのが大好きです。街を歩けばあちこちに花屋が見つかりますし（たとえば筆者の義実家がある人口たった4000人の小さな村には、銀行と郵便局は1軒しかないのに、花屋は3軒もあります！）、空港や鉄道駅といった交通機関の窓口にも必ず花屋があります。というのも、ポーランドでは「花とともに出迎える」という風習があるのです。空港の到着口に行けば、両手に花束を抱えた人が親しい人の到着を待っているのを見ることができます。筆者も初めてポーランドの空港に降りたっとき、ブーケとともに出迎えてもらったことがあり、とても嬉しかったのを覚えています。

花を贈る・もらう機会というのは一年を通してたくさんあります。どんな機会でも花はプレゼントの定番アイテムですが、特に3月8日の「Dzień Kobiet（女性の日）」には欠かせません。日本でバレンタインに職場で義理チョコを配るように、女性の日には職場や学校で男性が女性に「義理花」を配ります。この日は朝からティーンエイジャーからビール腹のおじさん、年配の男性まで、ひっきりなしに花を買い求める男性たちで花屋は大賑わい、一年で一番のかきいれ時といっても過言ではありません。たとえふだんはお休みの日曜日であっても、女性の日はどの花屋も営業しており、街の中央広場には即席花屋スタンドも現れるほどです。

春の訪れを感じられるからか、女性の日にはチューリップが人気です。

季節の花といえば、今の時期は菊ですね。

日本で菊の花は仏花のイメージですが、ポーランドのお墓にも菊の花はよく供えられます。11月初めのポーランドのお盆"Wszystkich Swietych（万聖節）"の時期、墓前には菊を使ったアレンジメントがずらりと並びます。

お墓の右に供えられている菊の花。このお墓には白を基調としたアレンジメントがありますが、人によってはもっとカラフルで華やかなものを選ぶ人もいて、この時期ポーランドの墓地は色とりどりの花とキャンドルの灯りで大変綺麗です。

菊は墓前の花によく選ばれると書きましたが、ポーランドの人々にとっては必ずしも菊=葬式、お墓というイメージには結び付かないようです。よって、普段のプレゼントとして菊をメインとしたブーケをもらうことも少なくありません。日本人としては一瞬ぎょっとしてしまいますが...。

母の日にもらったブーケ　カーネーションと菊（ピンポンマム）のアレンジ

また、ポーランドの花屋のアレンジは、日本とだいぶテイストが違います。特徴的なのは、花のほかにいろいろな素材を使うこと。花に添えるグリーンにグルーガンでオーナメント-たとえばハート型のちいさなウッドプレートだったり、キラキラした大きめのビーズだったり-をつけたり、カラフルなスティックを添えたりと日本では見かけないタイプのブーケを楽しむことができます。また、ブーケの場合、ふんわりとした横に広がるものだけでなく、"縦にのびるアレンジ"というのもよくあり、こちらはスタイリッシュな印象です。

縦長のブーケ

花自体の数は少なく、個性的なグリーンと異素材の使い方と、なによりグルーガンで貼りつけられたポーランドの有名なチョコレート" Michałki" が印象的なブーケ

出産祝いのブーケ

花の代わりにベビー服がかわいらしくアレンジされています。

こんなふうにアイデア満載のユニークな花束があるポーランドですが、ポーランドの人々は特別な機会のみでなく、日常的にさらりと花を贈るのがとても上手です。家をお茶しに来た友達が薔薇の花一本にくるりとリボンを巻いたものを持ってきてくれたり、市場で売っていた季節の野の花を無造作に束ねたものがかわいらしかったから、と義母が買ってきてくれたり...花をもらうことは本当に数えきれないほどあります。花屋では男性の姿もよく見かけ、花を手にして街を闊歩している姿には照れくさい様子は微塵もありません。ポーランドの人々にとって花は、日常生活に彩りを添えるささやかなアイテムとして自然に生活に溶け込んでいるのを感じます。私ももらうだけでなく、さりげなく花をプレゼントできるようになりたいと思っているこの頃です。