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【オランダ】アムステルダムを彩る彫刻ビエンナーレ『ARTZUID』
アムステルダム南区では、2年に1度の彫刻の祭典『ARTZUID』が開催されています。8回目の開催となる2023年は、オランダ国内をはじめフランスやベルギー、日本やアメリカなどのアーティストが参加し、国際色豊かな51作品が展示されました。
目次
オランダを代表する彫刻ビエンナーレ
2023年5月20日から9月24日にかけて、アムステルダム南区で彫刻ビエンナーレ『ARTZUID(アート・ザウド)』が開催されています。8回目の開催となる2023年は、オランダ国内外のアーティストの作品51点が展示されました。会場は、ヒルトン・アムステルダムの前にある広場と、そこから東西に延びるアポロラーン通り、南北に延びるミネルヴァラーン通りで、2kmほどのルートになっています。さらに、ミュージアム広場にも1点の作品が展示されています。
ARTZUIDは、「誰もが無料でアートに親しみ、アートを通して人々が路上で出会う」ことを目指しており、野外に設置された作品は無料で気軽に楽しむことができます。私は、時間帯や天気によって印象の変わる彫刻を眺めるのが楽しみで、ARTZUIDが開催されるたびに、何度も南区に出かけています。
現代アートの巨匠の作品も展示
<『Imperial LOVE』 ロバート・インディアナ, 1966-2017年>
2008年の初開催以来、ARTZUIDには国際的に活躍するトップアーティストや、新進気鋭のアーティストが参加してきました。20世紀のフランスで「生の芸術」を提唱したジャン・デュビュッフェや、オランダ現代アートを代表するカレル・アペル、「LOVE」の彫刻で名高いロバート・インディアナなど、著名なアーティストの作品も展示されています。
<左:『Tour aux récits』 ジャン・デュビュッフェ, 1973-2007年/右:『Head on a Chair』 カレル・アペル, 1971年>
ARTZUIDには、フランス、ドイツ、ベルギー、スイス、ノルウェーやチェコなどヨーロッパ諸国をはじめ、日本やアメリカなど、海外のアーティストも参加し、オランダの有望な若手アーティストも紹介されています。ひとつひとつ丁寧に鑑賞していくと、あっという間に1、2時間が経ってしまうほど見どころ満載です。
工業材料や廃品がアート作品に
<ブロック塀や鉄骨、タイヤ、ロープなどの廃材を組み合わせて作られたDavid Badeの『Another Blòki in the Wall』2023年>
2023年のARTZUIDのテーマは「Transfer(移行)」で、主にネオ・ポップの作品がセレクトされています。また、工業材料や廃品、大量生産品、自然の木や石などを材料にしたアルテ・ポーヴェラや、ヌーヴォー・レアリスムの作品も展示されました。互いに影響を与えながら発展してきた芸術運動の作品を並べることで、古い様式から新しい手法への「Transfer」が示唆されています。
今回のARTZUIDには、鉄、アルミニウム、ポリエステル、材木、レンガ、ガラスなど、さまざまな素材の作品が展示されました。ARTZUIDは体験型展覧会なので、作品に触れることができます。私も興味のある作品を触りながら、つるつる、ピカピカ、ザラザラ、といった質感を思う存分楽しみました。
<『Trashstone 531』 Wilhelm Mundt, 2011-2022年>
テープで貼り合わせたゴミにポリエステルと硬化剤を塗り、サンドブラスト加工、ワックスの重ね塗り、磨き上げの工程を経て、艶やかな表面と、独特の凹凸をもつ「石」が作られています。
<『Lupine Honeycomb』 Arne Quinze, 2021年>
一目見た時は、飛行機の焦げた残骸かと思うほどに力強く、なおも飛び立とうとするような姿に心を奪われました。後に、ルピナスの花を表現したものだと知り驚きました。アルミニウムをグリップマシンで折り畳んで作られています。
<『NA BIKA TU NA FO』 Marcel Pinas, 2023年>
オランダ領ギアナ(今のスリナム)のアファカ文字をモチーフにした作品です。深みのある赤褐色のサビを見ていると、なにか昔の駅舎を眺めているような懐かしい気持ちになりました。
<左:『Girosplode』Willem Harbers, 2021年/右:『Tingeling』 Hans van Bentem, 2023年>
上の写真の左側の作品は、古い水道管をリサイクルし、地面から成長する植物に見立てています。既製品をアートとして展示する、マルセル・デュシャンのレディメイドの手法を受け継いでいます。
右側の作品にも多くの既製品が用いられていますが、オランダの陶器、中国の磁器、チェコのクリスタル、木材加工はセネガル、ブロンズの鋳造はインドというように、伝統的な職人技に重きを置いて、世界の優れた工房から収集されたものが使用されています。
アート初心者でも楽しめる
2023年のARTZUIDではアートを通して若者たちにアプローチしようと、親しみやすい作品がセレクトされています。陽気な形、カラフルな色彩、時にくすっと笑えるような作品は、その制作背景を知らずとも素直な心で楽しめました。
<『Fat Convertible』 Erwin Wurm, 2019年>
風船のような太っちょのコンバーチブルは、陽射しをうけてキラキラと輝き、 たくさんの人が集まる人気作品でした。消費主義の権力、富、体重などの問題について疑問を投げかける作品だそうです。
<『Frankey zet ARTZUID op z'n kop』 Frankey, 2023年>
「ルート沿いに隠された1点を見つけられますか?」と公式サイトに書かれていた作品は、見上げるような高さに設置され、街路樹の枝葉のなかで逆立ちをしていました。
<『Garden Mobile 2』 Frans Muhren, 2005-2020年>
幾重かの鉄の輪が風に揺られて動いていたので近寄ってみると、なんと「優しく回してみてください」とのこと。鉄の質感やキィキィと軋む音に、子どもの頃に遊んだ公園のグローブジャングルを思い出しました。
遠くにカラフルな作品が見えると、疲れも忘れてどんどん歩いてしまいます。会場は緑豊かな通りで、木陰のベンチもたくさんありますので、彫刻を眺めながらゆっくり休憩もできます。
お気に入りの3作品
最後に、私がARTZUIDの会期後もパブリックアートとして恒久展示をしてほしいと思ったお気に入りの3作品をご紹介します。
『DAION』は日本人彫刻家Savakoさんの作品で、緑に映える鮮やかな色彩と楽しい形に目を惹かれました。アポロラーン通りがベートホーフェン通りと交差する広々としたベストスポットに立ち、トラムからも眺められます。
ARTZUIDの解説によれば、DAIONは「大きな音」の意味で、腹部の丸い穴から風とともに吹き抜ける巨大な力を表現しているそうです。「未来には開かれた世界がある」という願いを体現するように、周囲を清々しく明るい雰囲気にしていました。
<『New World』 Ronald A. Westerhuis, 2022年>
空から降りてきた月が、木立に佇んでいるような風景です。直径が4、5mもある巨大な球体に、吸い寄せられるように足が向かいました。木漏れ日を浴びて気持ち良さそうな「月」に、人工物と自然の心地良いコントラストと調和を感じました。
<『Untitled (Concrete Mixer)』Wim Delvoye, 2012年>
空に向かってそびえる、ゴシック様式の教会のようなフォルムです。鋼で表現された尖塔アーチは軽やかで、中央の尖塔はケルンやノートルダムの大聖堂を彷彿とさせます。陽射しが降りそそぐとなお美しく、時を忘れて眺めてしまいました。
ARTZUIDの楽しみ方
ARTZUIDの開催期間中は音声ガイドアプリが利用でき、毎週土曜日と日曜日にはガイドツアーがあります。アーティストが制作の裏話などを語るアーティストトークや子どもたちが工作を楽しむアートキャンプなどのイベントも開催されています。
ミネルヴァラーン通り1番地にあるインフォメーション・パビリオン(上写真)では、マップやカタログ、ポストカード、アートブックを購入でき、カフェのテラス席で一息つくのもおすすめです。気になったアーティストの情報をARTZUIDの公式サイトやSNSなどで調べてフォローするも楽しみのひとつです。
アムステルダム中央駅からARTZUIDに向かう場合は、トラム24番で20分ほどの停留所「Minervaplein」で下車してください。すぐ近くに、会場のミネルヴァラーン通りがあります。ミュージアム広場に展示された作品を鑑賞して、そこから徒歩で向かう場合は、アポロラーン通りまで約1kmの道のりです。
インフォメーション・パビリオンでは、彫刻作品のミニチュアも販売されていました。
ARTZUID 2023
- 開催期間:2023年5月20日~9月24日
- 会場:アムステルダム南区のアポロラーン通り(Apollolaan), ミネルヴァラーン通り(Minervalaan), ミュージアム広場(Museumplein)
- 公式サイト:ARTZUID
※次回ARTZUIDの開催は2025年になります。
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Kayo Temel
- オランダ在住。アムステルダムの美術アカデミーで絵画を学び、イラストレーターとして活動中。20年の在蘭経験を活かして、オランダを満喫するためのローカルな情報をお届けします。