【オランダ】世界最大級の海洋コレクションを誇る『国立海洋博物館』

国立海洋博物館は、海運大国としてのオランダに焦点を当てた博物館です。約500隻の船の模型や古い海図、武器、絵画などが収蔵されています。17~18世紀のオランダ海上帝国の興亡や海洋の豊かさを守るための現代の取り組みなどを学ぶことができます。

目次

世界最大級の海洋コレクション

海洋博物館
<Photo: Het Scheepvaartmuseum>

アムステルダムにある国立海洋博物館 (Het Scheepvaartmuseum) は、オランダの海運や海事史を紹介する博物館です。世界で2番目に大きな海洋コレクションを所有し、その収蔵品は30万点に及びます。アムステルダム中央駅から徒歩15分ほどの距離に位置し、オーステルドック(東港)の水辺に美しく映える建物です。

この建物は1656年にアムステルダム提督府の倉庫として建てられました。戦艦隊の船具や武器が保管され、船乗りたちの飲料水として使用される約4万Lの雨水を貯める貯水槽も備えられていました。17世紀に建てられた現存する倉庫としては最大のもので、1970年にはオランダの国家遺産に指定されています。

1970年代初頭までは海軍の倉庫として利用されていましたが、1972年より修復工事が始まり、1973年に国立海洋博物館がオープンしました。オランダ古典主義の建物は1辺約70mの正方形で、中庭を囲む4つの棟で構成されています。建物自体もぜひ芸術作品として鑑賞してみてください。

世界最大級の海洋コレクション
<Photo: Twycer>

【写真1・2】博物館に入ると、まばゆい光が降り注ぐアトリウムに目を奪われます。幾何学模様のガラス屋根は、2007年から4年以上かけて行われた大規模改修工事で取り付けられたもので、古い航海図に描かれた羅針図と航海線をモチーフにしたデザインです。

【写真3】クロークやトイレのある地下は、レンガ造りのアーチが印象的です。

海が支えたオランダの繁栄

オランダは古くから海と密接に関わってきました。風車による干拓で広げられた国土の4分の1は、海抜ゼロメートル地帯です。現在は水門やダム、防波堤、洪水コントロールシステムなどによって国土が守られています。私が暮らすアムステルダムは、平均海抜が-2mで、スキポール空港も海抜がマイナス3メートルの海の下に位置しています。

干拓のために運河が張り巡らされると、やがて水運や貿易が発展しました。大航海時代には、オランダは大海原に進出し、オランダ領東インド(現在のインドネシア)、台湾、マラッカ、オランダ領ギアナ(現在のスリナム)、オランダ領ブラジルにまで支配を拡大しました。17世紀から18世紀にかけて、オランダは一大海上帝国を築き上げました。

国立海洋博物館では、船舶模型や地図、武器、絵画、植民地から集められた品々などの展示品を通じて、オランダ海上帝国の歴史を学ぶことができます。

船舶模型や地図、武器、絵画、植民地から集められた品々
<Photo: Twycer>

コルネリス・クラース・ファン・ウィーリンゲンの『ジブラルタルの海戦』は、八十年戦争中の1607年4月25日に起きた、オランダ海軍がジブラルタルに錨を下ろしていたスペイン艦隊を奇襲し、圧倒的な勝利を収めた出来事を描いています(上写真)。この作品は縦1.8m、横4.88mの大作で、すぐ前に置かれた大砲が臨場感を演出しています。

船舶模型や地図、武器、絵画、植民地から集められた品々
<Photo: Twycer>

『珍品のキャビネット』には、植民地からオランダに運ばれた珍しい品々が並んでいます(上写真)。17世紀や18世紀のオランダ人は、ヨーロッパでは手に入らないか、または見たこともない希少な宝飾品や武器、楽器、衣類、磁器、貝殻、動物の剥製などを収集していました。裕福な収集家たちは、地球儀や天球儀を眺めながら、世界を手に入れる喜びに浸っていました。

舵に取り付けられた舵頭(左写真)や、船首に取り付けられた船首像(右写真)

舵に取り付けられた舵頭(左写真)や、船首に取り付けられた船首像(右写真)は、その大きさと表情の迫力が際立っていました。オランダではかつて、船首像に宿る精霊が船を護り、沈没した場合には船員の魂を死者の国へと導くと信じられていたそうです。

星が輝く宇宙のような雰囲気
<Photo: Twycer>

航海計器が並べられた展示室は、まるで星が輝く宇宙のような雰囲気です(上写真)。大航海時代の船乗りたちは、太陽や月、星を頼りに船の位置を把握して、遥か遠いアジアやアメリカ大陸を目指しました。この展示室は、彼らの冒険心と航海技術の見事な融合を感じさせてくれます。

羅針盤や六分儀などをタッチパネルで操作できるインタラクティブな仕掛けもありました。正確な経度を測定する方法が発見されていなかった時代には、これらの計器が船乗りたちの命綱でした。座礁や衝突、長期間の漂流による餓死や疫病などの危険を顧みず、大海原に乗り出した船乗りたちの情熱に思いを馳せました。

18世紀の貿易船アムステルダム号

国立海洋博物館の一番の見どころは、オランダ東インド会社の貿易船『アムステルダム号』のレプリカです(下写真)。アムステルダム号の船内を自由に歩き回りながら、オランダ東インド会社の歴史や、船乗りの生活の様子を学べます。

18世紀の貿易船アムステルダム号

1748年に建造されたアムステルダム号は、全長が48m、幅は11.5m、喫水は5.5mで、排水量1100tを誇る商船でした。オランダのテクセル島からバタビア(現在のインドネシアの首都ジャカルタ)にむけて出航するものの、1749 年 1 月 26 日にイギリス海峡で嵐により難破してしまいます。

1969年にイギリス南岸のヘースティングズ近郊で難破船として発見され、その後 1984年、1985年、1986年に大規模な発掘調査が行われました。1985 年からレプリカの建造が始まり、忠実に再現されたアムステルダム号は、1991年から国立海洋博物館の桟橋に横付けされています。

18世紀の貿易船アムステルダム号

アムステルダム号には船首楼と船尾楼があり、甲板からはオーステルドック沿いにあるNEMO科学博物館や、遠くにはアムステルダム中央駅、聖ニコラス教会などを望むことができます。高さ56mものアムステルダム号のマストは、力強く迫力があります。

アムステルダム号

【写真1】アムステルダム号は42門の大砲を搭載していました。18世紀の航海において、大砲は砲弾でマストを倒し、船体に穴を開け、敵船を沈めるための重要な武器でした。船内には鉄砲や拳銃などの武器もあり、敵船や海賊の襲撃を警戒していたことがうかがえます。大砲の横に展示されているハンモックには、実際に寝てみることができました。

【写真2・3】アムステルダム号は乗組員203名、兵士127名、乗客5名を乗せて出航しました。倉庫には、食糧やワイン、家庭用品、入植地で用いる銃やレンガ、アジアの商品を購入するためのギルダー銀貨が入った箱 27 個が積まれていました。

【写真4】船底部の木材のフレームを間近に見ることができます。

アムステルダム号居住スペース

居住スペースには、食堂や船乗りたちの部屋があります(上写真)。寝室のあるスペースは、腰をかがめないと通れないほど天井が低く、ベットの長さも160cmと驚くほどの小ささでした。

なお、アムステルダム号にはかつてVR体験ができるシアターがありましたが、現在はなくなっていますのでご留意ください。

オランダ王室の「水上の黄金の馬車」

オランダ王室の「水上の黄金の馬車」
<Photo: Pim Hendriksen>

アムステルダム号の向かいにある艇庫には、オランダ王室の手漕ぎ船が展示されています(上写真)。1815年にオランダ王国(ネーデルラント連合王国)が成立した際に、初代国王ウィレム1世の命によって造られました。

1816年から2年の歳月をかけて建造された船は、金箔の装飾品で豪華に装飾されています。17mの長さがあり、船首には海の神ネプチューンの像が据えられ、船尾にはオランダ王家の紋章があしらわれいます。2015年に大規模な修復が行われ、建造当初の輝きを取り戻しました。 

国立海洋博物館のメインギャラリー

国立海洋博物館のメインギャラリーには、船の模型が展示されています(上写真)。漕ぎ手となったのは海軍選りすぐりの士官候補生で、船が堂々と進むように特別な訓練を受けていました。オールを水面に真っ直ぐ突き刺して速度を落とすのではなく、船を穏やかに停止させるために、目的地までのストロークが慎重に計算されたといいます。漕ぎ手は王族や客人を見ることを許されず、自分のオールのみに視線を向けなければなりませんでした。

1841年に新君主ウィレム2世の就任式で初航海を迎え、その後は王室の祝典や海軍観艦式などで使用されました。最後に使用されたのは1962年のユリアナ女王とベルンハルト皇太子の銀婚式のお祝いで、1970年代には王室が、船の使用を停止すると発表しました。

1991年にアムステルダム号のレプリカが華々しく お披露目された際、オランダ東インド会社による奴隷貿易を美化するものだと批判の声が上がったように、「水上の黄金の馬車」と讃えられた豪華な船は、時代にそぐわないと判断されたのかもしれません。

水上の黄金の馬車
<Photo:Toni CC BY 2.0>

2022年1月にはウィレム=アレクサンダー国王が、白人領主にひざまずく奴隷が描かれた「黄金の馬車」の使用を休止すると表明しています(上写真)。オランダでは過去の植民地主義や人種差別をめぐる議論が重ねられてきました。国立海洋博物館もまた、専門家との対話を通じて、オランダ海上帝国の奴隷制や搾取などに焦点を当てた展示を取り入れています。

家族みんなで楽しめる博物館

家族みんなで楽しめる博物館

国立海洋博物館には子どもたちが楽しめる展示もあります。

今年の3月に8歳の甥を連れていったところ、アムステルダム号では、自分の身長よりも大きい舵輪を回してみたり、船乗りのベットに寝てみたり、積荷を引き上げてみたり、船内を探検するように楽しんでいました(上写真)。

クジラの物語

西棟で開催されている『クジラの物語』は、クジラや捕鯨の歴史を紹介する展示で、大きなクジラの模型の中に入ったり、クジラの尻尾の模型を触ったりできます(左写真)。

甥が一番気に入っていたのは、『ダイバーのドリス』というプレイルームです(右写真)。船や灯台など海辺のセットがあり、パズルやクッションキューブ、おままごとキッチンなどの遊具で遊べます。

中庭に面して広々としたカフェレストランがあるので、子どもが疲れたら休憩やランチもできます。私たちはスープやサンドイッチなどをいただきました。すぐ隣にはミュージアムショップもあります。

カフェレストラン

国立海洋博物館 Het Scheepvaartmuseum

  • 公式サイト:国立海洋博物館
  • 所在地:Kattenburgerplein 1, 1018 KK Amsterdam
  • アクセス:アムステルダム中央駅より徒歩20分、またはアムステルダム中央駅よりバス22系統で4分Kadijksplein下車徒歩4分
  • 営業時間:10:00-17:00/ 4月27日, 12月25日, 1月1日は休館
  • 入館料:大人18.5ユーロ, 13-17才8.5ユーロ, 0-12才無料, ミュージアムパス無料, アイ アムステルダム・シティ カード無料
  • ※国立海洋博物館ではレストランとショップを含め、ピン決済とクレジットカード決済(アメリカンエキスプレスを除く)のみで、現金での支払いはできませんのでご注意ください。
  • ※施設の詳細やアクセス方法など掲載内容は2024年5月時点のものです。

Related postこの記事に関連する記事

Rankingオランダ記事ランキング

ランキングをもっと見る

この記事に関連するエリア

この記事に関連するタグ

プロフィール画像

Kayo Temel

オランダ在住。アムステルダムの美術アカデミーで絵画を学び、イラストレーターとして活動中。20年の在蘭経験を活かして、オランダを満喫するためのローカルな情報をお届けします。

Pick upピックアップ特集

全国の動物園&水族館 徹底取材レポート特集!デートや家族のおでかけなど是非参考にしてみてください♪

特集をもっと見る

たびこふれメールマガジン「たびとどけ」
たびこふれサロン

たびこふれ公式アカウント
旬な情報を更新中!