世界最高峰のファインアート・アンティークフェア TEFAF

カクテルリング

毎年3月、世界屈指のギャラリーがこぞって出展するオランダのアートフェアTEFAF。2021年は新型コロナウイルスの影響で9月に延期され、オンライン開催となりました。珠玉のコレクションの中から、ハイライトとなった10点をご紹介します。

目次

選りすぐりの芸術品が並ぶTEFAF

オランダのマーストリヒトで毎年3月に開催されているTEFAFは、ファインアートやアンティーク、宝石、家具、陶器など、多彩なジャンルの傑作が世界中から集まるアートフェアです。古代の遺物からコンテンポラリーアートまで、作品リストは7千年の美術史をカバーします。

2021年のTEFAFにはオランダ、フランス、イタリア、スイスなど欧州諸国をはじめ、アメリカ、カナダ、アルゼンチン、日本、韓国、インドなど、およそ20カ国から250を越えるギャラリーが出展しました。

審査に通った高品質の作品のみが展示されるTEFAFには、美術館の学芸員や目利きのバイヤーも足を運び、来場者数は毎年7万4,000人にのぼります。

会場の様子を紹介するTEFAFのハイライト動画はこちらをご覧ください。

2021年のTEFAFはオンライン開催

TEFAF2021

2021年のTEFAFは残念ながら、新型コロナウイルスの影響で9月に延期され、オンライン開催となりました。9月9日~13日の開催期間中に、特設ホームページで700点にのぼるコレクションが無料で公開されました。

コレクションはギャラリー、アーティスト、時代、ジャンル、価格帯などでカテゴライズされ、ギャラリーのオーナーにコンタクトするためのメールフォームもあります。TEFAFの雰囲気をお伝えするために、2021年のハイライトに選ばれた10作品をご紹介します。

神聖ローマ皇帝が愛した16世紀のカニ

カニ

パリのChristophe de Quénetainが出品した「カニ」は、16世紀に作られたブロンズのインクスタンドです。ハサミの構え方や脚の節々、甲羅の凹凸など、今にも動き出しそうなほど写実的です。

神聖ローマ皇帝ルドルフ2世(1552-1612)が所有していた由緒ある品ということもあり、その価格はなんと20万ユーロ(約2,600万円)!毎年のことながら、TEFAFの価格帯には圧倒されます。

このルドルフ2世のカニと並んで、17世紀のカニ模様の花瓶と、19世紀のカニの陶器作品も展示されました。異なる世紀の写実表現を比べた結果、私の個人的な順位は、ルドルフ2世のカニ(きりっとしてスタイリッシュ)、花瓶のカニ(青一色)、陶器のカニ(カラフルで派手)です。

アール・デコに華を添えたジュエリー

カルティエ,ルネ・ボアヴァン

ニューヨークのFD Galleryは、天然真珠とダイヤモンドをふんだんに使ったカルティエの一点物のネックレス(写真左)を出品しました。幾重にも連なる真珠には奥深い輝きがあり、しっとりとした重みを感じさせます。価格は30万~50万ドル(約3,300万~5,500万円)で、見た目と同様に華やかです。

カルティエがこのネックレスを制作した1930年代は、アール・デコのファッションが流行していました。簡素で機能的なドレスをまとった女性たちは、存在感のあるジュエリーに夢中になっていたのです。

時を同じくして、奇抜な造形のジュエリーで人気を博していたのがルネ・ボワヴァンです。今回、ベルギーのEpoque Fine Jewelsから、17.04カラットのサファイアとダイヤモンドがセットされたカクテルリング(写真右)が出品されました。

彫刻作品のような力強さと、凛とした気品のあるデザインです。それにしても青が美しすぎて、思わずため息が出てしまいます。

17世紀オランダで流行したトリックアート

鷹狩道具のある静物

アムステルダムのSalomon Lilianは、クリストフェル・ピエルソン (1631-1714) の「鷹狩道具のある静物」を展示しました。ピエルソンはレンブラントやフェルメールと同時代を生きたオランダ黄金時代の画家で、トロンプ・ルイユ(現代のトリックアート)のジャンルで数々の作品を残しました。

対になった絵画の両方が、これほどに良い状態で保存されているのは極めて稀なことだそうです。私も最初にサムネイルを見た時は17世紀の絵画だとは気付かず、よくアムステルダムの街中で見かけるような、現代作家の作品かと思ってしまいました。実際の絵画の質感を見られなかったのが残念です。

キース・ヘリングがオランダ名物を頬張ると?

キース・ヘリング

キース・ヘリング (1958-1990) は1980年代のアメリカを代表するアーティストで、リズミカルな線と大胆な色使いの作風で知られています。ヘリング自身がHIV感染者だったこともあり、AIDS撲滅をはじめ、人種差別撤廃、核廃絶など、社会的なテーマを扱う作品も制作しました。

ニューヨークのVan de Weghe が出品した「Untitled (Knokke #3)」には、オランダ名物ハーリング(塩漬けにした生ニシン)の尻尾を持ち、口いっぱいに頬張る様子が描かれています。オランダ語のニシンのスペル「Haring」が、ちょうどヘリングの名字のスペル「Haring」と一致していて微笑ましい作品です。お値段は180~200万ドル(約1.9~2.2億円)!

確かな素材と熟練の職人技

キャビネット

パリのSTEINITZが出品した優美なキャビネット(写真左)は、パリの一流の家具職人によって1770年頃に制作されました。かつてはフランス北部のアルトワ伯が所有していましたが、現在はロスチャイルド家のコレクションになっています。オーク材の骨組みに、漆塗りのパネルや金箔の装飾をほどこし、天板には大理石が使われるなど趣向が凝らされています。

セーブルの「チャンディガル・キャビネット」(写真右)は一見するとポップですが、材料には高級磁器セーヴル焼が使われています。280年の歴史を誇る国立セーブル製陶所と、ロンドンのデザインスタジオDoshi Levienのコラボレーションで、2017年に限定版として制作されました。扉を開閉するたびに、割らないよう緊張してしまいそうです。

色鮮やかに装飾された写本

装飾写本

スイスのHeribert Tenschertは1490年に制作された装飾写本を出品しました。ベラム紙に描かれた103点のミニアチュールはどれも、600年前の作品とは思えないほど鮮やかです。

写本を注文したベルコンブの貴族フランソワーズは、当時としては巨額の1000リーブル金貨を支払っています。中世において写本はとても貴重なもので、なかでも壮麗な挿絵がつけられた装飾写本は高価なものでした。

フランソワーズは聖フランシスコへの忠誠の証として装飾写本を制作しました。写本はそれほどに意義深い行いで、何より写本自体が、芸術品として世代を超えて受け継がれるものだったのです。電子書籍が手軽に読める現代は確かに便利ですが、一冊の本に真心をこめて向き合うフランソワーズの姿がうらやましくもあります。

二千年の時を隔てた彫刻作品

アフロディテ,Cubo y Extensión

パリのGalerie Chenelが出品した「アフロディテ」(写真左)は、1世紀のローマ帝国で制作された女神像です。17世紀後半より、ローマのヴィラ・ドーリア・パンフィーリに据えられ、1910年にパリのオークションで落札されて以降は個人蔵となりました。このほどの提示価格は180万ユーロ(約2.3億円)です。

ギリシャ彫刻のように写実的な「アフロディテ」は、神々しさと官能性を湛えています。右脚を後ろに引いて佇む姿は慎み深くありつつも、濡れたように身体に張りついた薄衣には艶かしさが漂います。

一方、ギリシャ神話から二千年の時を経て、ニューヨークのLeon Tovar Galleryは、1960年代の実験的なアートシーンで活躍したヘスス・ラファエル・ソト (1923-2005) の「Cubo y Extensión」(写真右)を出品しました。

ソトはインスタレーションの可能性を大きく広げたアーティストで、2018年にエスパス ルイ・ヴィトン東京で開催された「ヘスス・ラファエル・ソト展」では「Pénétrable BBL Bleu」を体験した方もいらっしゃるのではないでしょうか。

神に捧げられた静かなる彫像、 片や、鑑賞者の体験も含めて作品が完成するインスタレーション。時代ごとに様式こそ異なるものの、芸術家たちの美への探究心は不変です。

2022年はTEFAF開催35周年

2022年のTEFAFは3月12日~20日に開催される予定です。TEFAFが開催35周年を迎える節目の年でもあり、例年通りマーストリヒトの国際展示場での開催が期待されています。

オンライン開催では作品画像を限りなく閲覧でき、それなりの感動やインスピレーションを得られますが、やはり心打たれる作品に対峙した時の高揚感は何ものにも代えられません。

2022年のTEFAF開催が決定したら、ぜひマーストリヒトの会場を訪れてみようと思います。3月にオランダを訪れる方は、ぜひTEFAFのスケジュールをチェックしてみてください。

TEFAF 2022

  • HP
  • 開催日:2022年3月12日~20日
  • 会場:Maastricht Exhibition & Congress Center, MECC
  • 住所:Forum 100, 6229 GV Maastricht
  • アクセス:マーストリヒト駅よりHasselt行き各駅停車で3分Maastricht Randwyck駅下車徒歩5分

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Kayo Temel

オランダ在住。アムステルダムの美術アカデミーで絵画を学び、イラストレーターとして活動中。20年の在蘭経験を活かして、オランダを満喫するためのローカルな情報をお届けします。

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