「神様が鏡を投げ入れた村」で夜神楽! その神秘の裏側にみた世界

神楽 宮崎

皆さんは「神楽(かぐら)」を見たことがありますか?日本には数多くの神楽舞がありますが、古い神話の世界を現したものや、土地の神様に捧げるものまでその形は様々です。今回は五百年もの歴史を持つ「銀鏡(しろみ)」の神楽と、その祝子(ホウリ)...舞人たちと出会った旅のお話です。

目次

1. 辺境の地に隠された「神秘」の世界とは

銀鏡神社

「銀鏡神楽(しろみかぐら)」、国の重要無形民俗文化財でもあるその神楽を、私は「銀鏡 -SIROMI-」という映画で初めて知りました。

そして、神秘的で奥深い神楽の存在や、人々が生活の中で神楽と正面から向き合って生きている姿に感動して、映画を見たその日に「今年の銀鏡神楽を見にいく!」と心に決めたのです。

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神戸からフェリーに乗って一晩。宮崎港から電車やバスを乗り継ぐと銀鏡までは3時間以上かかります。

山の奥向こうにあるという銀鏡。街からはほど遠い辺境といった場所なのですが、そこには一体どんな世界が隠されているのでしょうか。

銀鏡

「銀鏡(しろみ)」という神秘的な名前。

神話の世界では、磐長姫(イワナガヒメ)が投げた鏡が村の竜房山に引っ掛かり、村を白く照らしていたことから「白見村」となり、それが白銅鏡(しろかねかがみ)だったので「銀鏡(しろみ)」という名になったそうです。

竜房山の麓に銀鏡神社があり、その周辺には縄文時代の遺物も数多く発掘されていて、ここら一帯がパワースポットのような場所になっています。

2. 心の込もった迎え入れに心緩むひととき

銀鏡神社への道

銀鏡神社へ行く道の、橋のたもとに小さな売店があります。私は神楽の前日からこの売店の隣にある宿に泊まっていたのですが、集落にひとつしかないというその売店に行くと村人たちに出会えました。

夕方になると、売店には明日の神楽の舞手さんや準備を終えた神職さんや宮司さんも来られたりして、私が銀鏡神楽を見に来たことを知ると、皆さんが暖かく迎え入れてくれたことがとても印象的でした。

神楽 準備

神楽初日。神社では朝から準備が行われています。村人の手によって作り出される斎場の飾りは、綱一本から丸ごと全部。その年に取れた稲藁をひとつずつ細い綱にして結界が張られ、大鳥居のしめ縄も同時に作って取り替えられるなど、時間をかけ心を込めて神楽の斎場が作り上げられていきます。

しめ縄の取り替え

3. 「星神楽」は、なぜ宇宙を感じさせるのか?

銀鏡神楽には、他の地域の神楽にはない特別な舞いがあります。全部で33番ある舞いを丸一晩かけて舞うのですが、銀鏡神楽では前日の夕刻に1番だけ奉納する「星神楽」という舞いがあります。映画「銀鏡 -SIROMI-」では、その星の神楽の存在が重要なポイントとして描かれていました。

神楽

そんな「星神楽」が、内神屋(うちこうや)と呼ばれる神聖な場所で始まりました。宮司さんが神様に祝詞をあげると、ゆっくりと舞が始まります。

男性が二人で舞う内のひとりは手に「一反の白い木綿布」を持ち、もうひとりは「星の餅(一重ねの餅を半紙で包み榊の枝に取り付けたもの)」を持って舞います。この二つは舞の後すぐに内神屋天井のそれぞれの場所に飾られました。

神楽

この舞は、銀鏡神楽の中に北極星を中心とした「星信仰」があるということを物語っていて、二十八宿(月がおよそ28日をかけて星々を一晩づつ巡る)が天井にイメージされたその「星飾り」の下で舞う、とても意味深い神楽なのだそう。宇宙的とも言える、あまりのスケールの大きな世界観に圧倒されてしまいます。

星飾りの榊
<星飾りの榊の穂先は北を向き、布は東の端に飾られるようになっている>

4. 神様たちがお面に降臨する「降居神楽(おりいかぐら)」

次の日の夕方。そわそわしながら宿の玄関で待っていると、徐々に遠くの方から笛と螺貝の音が聞こえてきました。各集落の神社から神様のお面(面さま)が到着したようです。

お面は大切に箱に入れられ社家の当主が背中に背負って運んで来られました。橋のたもとで5柱の神様(面さま)は合流し、一緒に銀鏡神社への道のりを歩いて向かいます。

神楽

今日はこのお面をつけて舞う「降居神楽(おりいかぐら)」があるのですが、その時にはお面に神様が降臨して舞うのだといいます。勇壮な神々の舞。そんな神様たちをお迎えする所から、舞われてからそれぞれの神社へお帰りになる所までの全てを、この祭りでは共に見届けることができます。

神楽

5. 猪の頭が捧げられた祭壇の意味とは?

暗くなる頃には寒さがやってきて、この日は心底冷える夜になりました。私はとにかく寒さに弱いのでモコモコに厚着をしていましたが、舞手と奏者の皆さんは白装束で薄着のままです。

ここで今晩から明日のお昼前まで夜通しで行われる神楽。よほどの想いがないと居続けるには厳しいような極寒の中、覚悟を決め火鉢の前に居場所を構えて、始まるのを待ちます。

神楽

今日、舞が行われるのは外神屋(そとこうや)の斎場。山と呼ばれる祭壇には、天に向かう竹の柱にお飾り(椎の小枝の塊に御幣を刺したもの)が付けられていて、そこに神様を勧請するのだそうです。神楽が始まる前に、祭壇の中央には数頭の猪頭が、その隣にお米、お酒、もちなどの神饌が並べて置かれました。

神楽
<外神屋の祭壇上では5頭の猪頭が、静かに神楽を見守っていた>

なぜ猪の頭なのかというと、銀鏡では狩猟が行われていて、それを現した神楽もあるのです。32番の「ししとぎり(注※)」は猪狩りの様子を演じ、豊猟と狩りの安全を祈り、山の神に感謝する神楽です。祭壇に捧げられた猪の頭は祭りの最後にシシズーシー(おかゆ)となって会場で振る舞われます。その時に皆で一緒に食べることによって、銀鏡の人々の生き方をリアルに感じ取れるようなとても貴重な体験ができるのです。

(注※)ししとぎりとは...銀鏡では太古から猪などを狙った狩猟生活が営まれており、また、その後の焼き畑農耕時代にも作物を荒らす大害獣の猪猟が盛んに行われていた。猪は良質のタンパク質供給源でもあったため、この地の最も大切な神饌となったのだそう。そのため、神楽演目の中にも「狩りの作法」や「狩り言葉」を滑稽な所作と米良弁(めらべん)とで表現した狩法神事の式32番「ししとぎり」がある。

6. 自然の中に身を置いて感じ取る「夜神楽」の醍醐味

夜神楽

銀鏡神楽の全33番ある舞はそれぞれに個性豊かで、沢山の物語を楽しめます。祝子(ホウリ)の舞や行動ひとつにも意味がしっかりと込められていて、丁寧に表現がされていることに見入ってしまいました。

伊勢神楽の岩戸開きの頃にはちょうど夜明けとなり、遠くの山並みを朝日が照らし始め、徐々に太陽が昇っていく様子を感じられるのも自然の中で見る神楽ならではの醍醐味です。

夜明け

穏やかな時間が流れている中で、ひたすら繰り返したり飛び跳ね続けるような舞もあります。そんな中でホウリは時にトランス状態に入っているかのよう。どれだけ息が上がっていても立ち止まることはなく、ご神事だからこそできるような真剣な舞が続きます。

ひとつの舞はゆうに半時間超え、ときに1時間を超えています。ホウリたちは時が過ぎていくほどに舞の中に次第と深く入り込んでいくようでした。

7. 生きていく上で大切なものを実感する時

神楽

そばで見ていて感じたのは、銀鏡神楽は飾り立てることのない素朴な神楽で、生活の延長線上にあるものだということ。神楽ショーではなく、日々の感謝の想いが込められた舞なのだということでした。

映画でも描かれていた通り、神楽に関わる時間は村人たちにとって無くてはならないもので、ここでの生き方が反映されたものとなっているようです。そんな中には、山村留学で来ているこども達の存在もありました。

神楽

こども達が舞う時、内神屋(うちこうや)では大人たちがその姿をジッと見つめていました。神楽ばやしの奏者からは、舞っているこどもたちをサポートするべく指示している声が時折聞こえてきます。

ここでは神楽をどう完璧にやるか、美しくやり終えるかということよりも、皆んなで力を合わせていかに銀鏡神楽を作り上げていくか、という時間そのものを大切にしているのだと感じました。

8. 夢心地に漂いながら、日常生活に感謝を想う

神楽

いよいよ終わりの時間が近づいてきました。いざ神楽の世界に飛び込んでみると、祭囃子と舞の空間の揺らぎが居心地よくて何だか離れ難くも思えてきます。この神楽を通して村人たちの大切な場所、銀鏡という世界にスッポリと招き入れてもらえたからこそ余計にそう感じられるのでしょうね。

いつまでもここに漂っていたいような心をこちらへ引き戻しつつ、どこか夢心地のままにゆっくりと神楽の終わりを迎えていきます。

神楽
<衣笠(みかさ)荒神は、こどもたちが田植えの所作をする稲育成祈願の神楽>

神楽
<聖域にかけられた長い綱を外す神楽「鎮守(くりおろし)」。終わりが近づいてくる>

ししとぎり
<「ししとぎり」は猪狩りの作法を滑稽に描いた狂言、昔からの狩り言葉が使われる>

その場に行って、初めて知り得る感覚があります。丸一晩をその場で共に過ごすことで出会うことができる、銀鏡神楽のめくるめく世界。たどり着くまでには時間もかかる辺境の地ですが、そこには簡単には見つからない宝物のような時間がありました。

旅をしながら、その土地の生活の一部に触れることができるなんて素敵ですよね。皆さんもぜひ一度ここに訪れて、銀鏡に流れる暖かな時間に触れてみてはいかがでしょうか。

銀鏡神社

動画でもご覧ください。

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銀鏡(しろみ)神楽

  • 住所:宮崎県西都市銀鏡492 銀鏡神社
  • 開催日時:12月14日の夕方から15日の朝(銀鏡神社大祭は12月12日~16日、式一番「星神楽」は13日の夕方頃)
  • 関連サイト銀鏡神楽(西都市観光協会)

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Hinata Yoshioka

フォト&ライター。国内を転々と旅した後、沖縄にたどり着き12年を過ごす。現在は神戸を中心に活動中。ハワイ好きでフラ歴もあり、ロミロミマッサージのセラピストとしての一面も持つ。好きなことは料理・物作り・音楽・読書・写真・旅などあらゆることに興味はつきない。世界を船でぐるり2周した物語もWebで掲載中!!

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