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「山車まつり日本一」愛知県の誇る犬山祭(無形文化遺産)の見どころをご紹介
<Photo by Bariston>
4月から5月は春祭りのシーズンです。豪華絢爛な山車(だし、さんしゃ)が町を練り歩き、祭を担う男たちの威勢のいい声が飛び交うなど、各地で賑わいをみせます。
国の重要無形文化財に指定されている祭りの33件が、2016年に「ユネスコ無形文化遺産」(山・鉾・屋台行事)として登録されました。そのうち愛知・岐阜・三重の祭りは11件。東海エリアは古くから山車やからくり人形のものづくりが盛んな土地です。その中でも、愛知県は最多の5件が認定され、「山車まつり日本一」を誇っています。祭りでは、賑わいある雰囲気はもちろん、見事な造りの山車をみて楽しみ、その背景にある歴史、文化を感じることができます。
2019年からコロナの影響で各地で祭りのキャンセルが続いている中、ユネスコ無形文化遺産の1つ「犬山祭」が今年4月最初の週末に3年ぶりに開催されました。
2022年の犬山祭は祭りの保存・技術伝承を目的とし、例年の様な集客は行わなかったため、詳細の日程は数日前にしか発表されませんでした。露店等も三光稲荷神社の境内のみと限定されていましたが、それにもかかわらず多くの人々が集まっていました。そして、久しぶりの伝統の祭りの開催を一番喜んでいるのは、祭りを担う犬山の人達のようでした。威勢よく車山を操っている姿は地域の絆を感じ、改めて祭りの良さを感じました。
見どころいっぱいの犬山祭を山車の由来やその歴史ともにご紹介します。
目次
山車まつりとは
<亀崎潮干祭の山車行事 Photo by 名古屋太郎>
犬山祭を語る前に、まず山車(やま)まつりとは何かみてみましょう。
山車まつりとは
地域社会の安泰や災厄防除を願って、地域の人々が一体となって行う、山車の巡行を伴う祭礼行事です。 祭りに迎える神の依り代であり、神を囃(はや)す役割を担う山車等は、各地域の幾世にもわたり継承されてきた伝統工芸・ 技術の粋をこらした彫刻・金工・木工・織物・漆等で飾り付けされています。 伝統の継承を通じて、祭礼にあたり披露される芸能や口承に向けて、地域の人々は年間を通じて準備や練習に取り組み、世代を超えた多くの人々の間の対話と交流を促進し、地域社会の絆を形成する重要な役割を果たしています。
山車とは
日本で祭礼の際に引いたり担いだりする出し物の総称です。花や人形などで豪華な装飾が施されていることが多く、また地方によって呼称や形式が異なり、曳山(ひきやま)・祭屋台・屋台・車楽(だんじり)、鉾(ほこ)などとも称ばれます。
山車の読み方は、「だし」「さんしゃ」「やま」です。
「だし」の語源は、神社の祭礼のときに引く屋台の、中心の鉾の先につけた、垂れ下がった竹籠の編み残し部分を「だし」と呼んだことに由来すると伝わっています。「山車」は当て字で、祭りのときに神の降りる依り代として作られる小さな山が豪華になり、車の形となったことにちなんでいます。
山車の由来
古来、神は天から地上へ降りてくる際、高い山や木等を依り代とすると考えられ、山自体を神とする 神体山が全国各所に存在します 。 山車の起源は、祇園御霊会の「山」にあるとされ、疫病や天災をもたらす祟る神を慰め、 他界へ送り出すために始まったと言われています。応仁の乱(1467年~1477年)以降、京文化とともに「山」が各地に伝播し、その地域ごとに工夫・洗練され、独自の山車文化が形成されました。地域により形態や名称が異なっています。
「山車まつり日本一」の愛知県の山車
愛知県の山車の発生は室町時代と言われています。愛知県の山車等の所在数は422輌(2016年度愛知県教育委員会調べ)で、その形は種類に富んでいますが、多くは台車形式の曳山(ひきやま)です。
山車まつりの際に披露される芸能も多様で、愛知県では多くの山車からくりが上演されています。愛知県内全体でからくりを搭載する山車は150輌近く存在しています。
また、「山車まつり日本一」を誇る愛知県は、全国で最多の5つがユネスコ無形文化遺産として登録されています。
- 犬山祭の車山行事
- 尾張津島天王祭の車楽舟行事
- 亀崎潮干祭の山車行事
- 須成祭の車楽船行事と神葭流し
- 知立の山車文楽とからくり
どの山車まつりも、歴史のある豪華絢爛で、それぞれ特徴があります。
犬山祭はどんな祭り?
<針綱神社の前に集まる山車13輌 Photo by Bariston>
今回ご紹介する祭りは、3年ぶりに開催された愛知県の誇るユネスコ無形文化遺産登録祭りの1つの犬山祭です。
犬山祭は、毎年桜の季節の4月第1土・日曜日に開催される国宝犬山城の麓にある針綱神社の例祭です。1日目は試楽祭(しんがくさい)、2日目は本楽祭(ほんがくさい)と呼ばれ、2日間にわたり山車の祭りが繰り広げられます。
主役は豪華な3層の車山。(犬山では「車山」と書いて「やま」と呼びます) 犬山祭は華やかな高さのある車山が城下町の古い町並みを巡行することで有名です。
犬山祭では両日とも車山13輌が笛や太鼓に合わせ「からくり」を順番に針綱神社に奉納します。この犬山のように全てが江戸時代から伝わるからくり人形で「奉納からくり」を披露するのは全国でも類がないと言われています。
夜には車山に飾られた365個の提灯に灯りが灯され、夜車山が夜桜の下町を巡行し、美しい幻想的な世界が広がります。
犬山祭は通常の来場数50万人と言われる一大祭りです。
【犬山祭】
- 住所:愛知県犬山市犬山北古券8(犬山祭保存会・犬山からくりミュージーアム)
- 電話:0568-55-4875
- 開催時間:8:00~21:30
- 開催日:4月の第一土曜・日曜日
- 交通案内:名鉄「犬山駅」西口よりメイン会場の犬山城前広場まで約20分
- 公式サイト:犬山祭
犬山祭のはじまり
犬山祭は、犬山城の麓にある針綱神社の祭礼として寛永12年(1635)に始まったと伝えられています。1600年、関ヶ原の戦いで戦乱の世は終り徳川幕府が成立、尾張徳川藩の家老の犬山城主が町衆に氏神を尊重すべしと言ったのが犬山祭の始まりといわれています。祭りに参加する町は、犬山城下の針綱神社の氏子域です。
当初は、下本町が馬の塔を、魚屋町が茶摘みの練り物を出していましたが、1641年には下本町が車山に変えて人形からくりを奉納するようになり、江戸中期まで今の犬山祭の原型がほぼできあがっていたと言われます。
2022年の犬山祭は第388回と数えられています。380年以上受け継がれてきた伝統行事なのです。
犬山祭の見所
全国的に珍しく全ての車山(13輌)にからくり人形を備え、からくりを針綱神社に奉納します。昼は満開の桜の下で豪華に、夜は365個の提灯をいっせいに灯して町を巡行する絢爛さが見どころです。重さ3t超の車山を、男達が豪快に持ち上げて方向転換する「どんでん」、そして曳いて方向転換する「車切り」は大迫力です。
見所1:勇壮な昼車山
<巡回する車山>
犬山祭の主役はなんといっても「車山 (やま)」です。三層からなる豪華な車山は、高さ8mもあります。重厚な車山は釘一本も使わずに組み立てられています。13輌のうち12輌は三層で、1輌は船型で浦嶌(うらしま)と呼ばれてる車山があります。車山にはそれぞれ名前があり、装飾のそれぞれ個性的です。
<船型車山 浦嶌>
最上層(上山)にはからくりが置かれ、中層(中山)はからくりを動かす繰り方が乗ります。また下層(下山)にはお囃子(笛や太鼓)が乗ります。
それぞれの車山は、町内単位で管理・運営されています。車山蔵を出発して、町内の狭い路地を大きな車山がうまく通り抜けていく様子も見どころです。
桜満開近くに車山が町を巡行する光景は特別に壮観です。
ところで、車山の動力はどうなっているのかご存知でしょうか?
<車山を押す男衆>
車山には引綱がありません。練り歩きの際には引く綱が付けられますが、引っ張っていないようです。後ろの人もそれほどしっかり押している様子でもないのに、車山は静かに進んでいきます。動力はいったいどこにあるのでしょう?下山のさらに下に潜り込んだ人が押しているのです。まさに縁の下の力持ちです。
見所2:勇壮な車山の曳き回し -どんでんと車切り-
車山が曳かれる時、狭い城下町で方向転換するために、犬山祭で一番の盛り上がりをみせる妙技「どんでん」「車切」が繰り出されます。
「どんでん」
車山の片方の車輪を十数名のてこ衆(車山を動かす人)が力を合わせて持ち上げ、反対側の車輪を軸に向きを90度ないし180度を変える動きのことです。重さ3tから5tの車山を担ぎ上げ、操る様は大迫力です。てこ衆の掛け声が飛び交い、成功の瞬間、観客から大歓声があがります。どんでんは、どんでん返しに由来しているそうです。
「車切(しゃぎり)」
車輪が4輪とも地に着いた状態で、横に車輪をずらしながら、勢いよく向きを変える妙技です。 石畳の城下町で、車切りが行われるガガガという音が響き、車切が終わる度に見物客の歓声があがります。
どんでんは、行われる場所(針網神社・本町交差点)と時間が決まっていますが、車切は、曲がる必要がある時に随時行われます。
2022年は、小規模開催のため、各町内を限定移動のみでの開催だったので、どんでんは見ることができませんでしたが、威勢の良い車切を昼と夜に何回かみることができました。
見所3:幻想的な夜車山
<三層の夜車山>
<船型夜車山>
犬山の「夜車山(よやま)」は、1年間を表す365個の提灯が3層ともびっしり灯った車山が町内を巡ります。365個の提灯は、すべて蝋燭で灯されるため、炎がゆらゆらと動き、その光景はまさに幻想的です。
夕方になると昼間の巡行から一旦それぞれの車山蔵に戻り、提灯をどんどん飾りつけていきます。そして18時半になると、夜の巡行がはじまります。幻想的に彩られる夜車山は、昼間同様、要所で車切やどんでんを見せてくれます。その度に提灯が大きく揺れ、見ている観光客から歓声があがります。
365個の提灯がさがった車山を男衆が持ち上げ方向転換をさせる時、提灯は大きく揺れ、提灯と提灯がぶつかり合うので、炎が立ち上がることもあるそうです。燃え始めると男衆は上まで走り登って提灯を払い落として火を消し止めるそうです。
見所4:からくり
<からくり Photo by Bariston>
犬山祭のからくり人形の演技は江戸時代から伝わっています。13輌の車山が異なる演目そして動きのからくりを載せています。
通常は、祭りの2日とも、13輌の車山が針綱神社に集合し、順次からくりが披露されます。1日目の試楽祭では観客に対して披露されるのに対し、2日目の本楽祭では神事として神社の本殿でからくりが奉納されます。そのため、観客の方からは1日目の方が見やすいようです。また、城下町の要所要所でもからくりが披露されます。人の手によってからくり人形を動かす様は見ごたえ抜群です。
2022年は、小規模開催として、2日目の日曜日にのみ針綱神社でのからくり奉納をする予定でしたが、雨天のため中止となり、一部の地域で雨の降っていない時間帯に車山蔵の前でからくり奉納が行われたということです。
まとめ
<桜の中巡回する車山 Photo by Bariston>
桜の満開の季節に行われる犬山祭は、伝統を継承する町の人々によって守られ、江戸時代から380年以上も続いている絢爛豪華な祭りです。
犬山はこの10年に町おこしが成功し、毎年訪れる度にお店も増え、若者が町に戻ってきているのを感じてきました。今年3年振りに行われた犬山祭では、祭りの担い手にたくさんの若者の顔もあり、指導する年配の人達から確実に伝統が世代を繋いで継承されていることを目の当たりにしました。車山を飾り、誇らしげに動かす男衆の輝いた顔から祭りの活気が溢れ出ていました。
みどころ満載の犬山祭をぜひ一度訪れてください。
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Sachiko
- 名古屋市出身、海外滞在歴30年、38カ国490以上の都市を訪れました。多趣味で、アート系のクラッシック鑑賞、バレエ・ダンス鑑賞、美術鑑賞、アンティーク収集から、スポーツ系のテニス・ダイビング、グルメまで色々なことが好きですので、様々な視点で皆様に旅の楽しさがお伝えできればと思っています。捨て猫2匹をインドネシアで拾い、日本まで連れてきました。