公開日:
最終更新日:
【新型コロナウイルス】今、世界で最も感染率が高い国「アイルランド」から変異種ウイルスの影響などをレポート
アイルランドは数週間前までは、世界で最も感染率が低い国のひとつで、WHOからも高く評価されていました。しかし、クリスマスシーズンが過ぎた先週、1日に4,000人~8,000人もの新規感染者を出すほど、感染率が世界で最も高い国になってしまいました。この記事では、アイルランドで流行している変異種の詳細や、現地レポートをご紹介いたします。
目次
- アイルランドで感染率が急増した背景
- 「変異種」が人々の生活に及ぼす影響
- 感染者の入院率、重症化率、年齢、性別など
- アイルランドで感染率が高い地域
- 現時点でのワクチン情報
- 厳しいロックダウンの影響
- コミュニティサポートとホームスクール
- まとめ
アイルランドで感染率が急増した背景
<ピーク時期の感染者の推移を示すグラフ(2020年12月29日~2021年1月11日)(画像参考:『Epidemiology of COVID-19 in Ireland-14 day report』| HPSC)>
アイルランドでは、クリスマス頃から急激に感染のピークになりました。その理由としては以下のようなことが挙げられます。
慎重な人たちが大多数だけど、感染を気にしない少数派もいる
アイルランドは、屋外イベントでも人が集まらないほど、慎重な人たちが大多数です。しかし、どこの地域にも、いまだにマスクをつけずにローカルなお店に入ってショッピングしている少数派がいます。しかも、そういう人は共通して、店主と長話をしています。話の内容が聞こえてくるので、聞いてしまったのですが、「自分はマスクを付けるのは馬鹿馬鹿しいと思う。あんなのは気休めだ」という主張を延々と。・・・
お店や公共の乗り物でのマスク着用はアイルランドでは義務化されているので、本来であればお店の人がしっかりと注意しなくてはなりませんが、人との関係性が非常に重視されるアイルランドでははっきりと正面から相手を注意する人はほとんどいません。
クリスマス前のロックダウン緩和
アイルランドでは、クリスマスシーズン前にロックダウンが緩和され、レベル3へと移行しました。11月の厳しいロックダウンの効果で1日の感染者数が100人台まで下がっていたので、政府は大丈夫だと判断したのでしょう。
しかし、これが大きな判断ミスであったことをクリスマスの後に知ることになりました。
クリスマスシーズンの帰省ラッシュによる感染
ロックダウン緩和後に、急激に感染者が増えた原因のひとつに、英国をふくむ世界各国からの旅行者や帰省が増えたことが挙げられます。地元メディアTHE IRISH TIMESによれば、クリスマスシーズンだけで、54,000人を越える渡航者がアイルランド各地の空港に降り立ったとのことです。
その際に14日間の隔離は義務付けられていませんでした。なぜなら、いつの間にか「飛行機に乗る72時間前にPCR検査を受ければ良い」というルールに変更されていたからです。
実際に私の義理の妹もロンドン郊外からアイルランドへ帰省しましたが、飛行機に乗る前に英国でPCR検査を受け陰性であることが分かったので渡航許可が下りました。
しかし、このPCR検査で完全に感染を防げるわけではありません。そこで義理の妹は、高齢の両親に会う前にアイルランドに到着してから、もう一度アイルランドのPCR検査を受けました。
ここでも、彼女は陰性でした。そこでやっと両親に会えました。しかし、多くの人は英国のPCR検査だけで済ませていることが考えられます。というのもアイルランドのPCR検査は義務付けられてはおらず、その上結構高額だからです。
ちなみに、THE IRISH TIMESによると感染者の中から変異種ウイルスが見つかり、政府が英国からの渡航を禁止したあとも約1,500人が入国したそうです。
クリスマスに家族で集まる
ロックダウンの緩和で「クリスマスシーズンは少人数であれば家族が集まってもよい」というルールになったため、そこで感染が広がったと考えられます。また、中には寂しい思いをしているだろうと思った孫が、老人ホームにいる高齢の祖母を訪れて感染させてしまい、そこから集団感染に発展したというケースもありました。
各地でレイヴの開催
ある一部の人たちがAirbnbを通して大きな家を借り、レイヴ(ダンスパーティー)をアイルランド各地で開催しました。そして、SNS上で参加者を募り家を破壊した上に集団感染を引き起こしたという衝撃的なニュースが報道されました。開催した本人は会場に現れなかったという話です。
「変異種」が人々の生活に及ぼす影響
現在、アイルランドではイギリスで最初に感染が確認された「B117」という変異種と、南アフリカで最初に感染が確認された「501.V2」の2種類が流行しています。
イギリス型の変異種はクリスマス頃にアイルランドではじめて発見されました。どちらの変異種も今までのコロナウイルスよりも感染力が高いと言われています。
今のところブラジル型の変異種は確認されていませんが、英国がロックダウン中も空港を封鎖しておらず1月15日まで南アメリカからの渡航者を受け入れていたことで、今後英国とアイルランドでブラジル型変異種が流行する可能性も高いと言えるでしょう。
感染者の入院率、重症化率、年齢、性別など
<ピーク時期の、感染者の性別を示すデータ(左から性別、患者数、率、Male=男性、Female=女性)(画像参考:『Epidemiology of COVID-19 in Ireland-14 day report』| HPSC)>
伝染病の監視をするアイルランドの専門機関「ヘルス・プロテクション・サービランス・センター(HPSC)」によれば、変異種による感染者が急増した2020年12月29日~1月11日の2週間の間に確認されたアイルランドの新規感染者数は67,157人でした。
そのうち1,699人が入院、95人が重症化し、亡くなった患者数は103人でした。入院率は2.53%、重症化率は0.14%、死亡率は0.15%となっています。また、人口10万人あたりの死亡率は2.16%です。(参考:HPSC)
ちなみに、HPSCの親機関であるHSEは公的な機関でアイルランドにある全ての国立病院を運営しています。HSEのリーダーは国によって任命され予算は100%保険省から出ていますが、それをどのように使うかはHSEに委ねられています。
<ピーク時期の感染者数と年齢を示すデータ(左から、年齢、患者数、率、yrs=歳、単位は人、median age=年齢の中央値、mean age=平均年齢)(画像参考:『Epidemiology of COVID-19 in Ireland-14 day report』| HPSC)>
※年齢の中央値と平均年齢の両方を示しているのは、統計学上より詳細なデータをユーザーに提供するためです。データを使う用途によっては、平均値か中央値のどちらかが重要視されます。
これによると、なんと1,367人もの幼児(0歳~4歳)が感染していることが分かりました。また、一番感染が多い年齢層が24歳~34歳で、2週間のあいだに13,145人も感染しています。
<感染者の年齢と、年齢別の入院率、重症化率を示すデータ(Number of cases=感染者数、Cases hospitalized=入院患者数、Cases admitted to ICU=入院患者数)(画像参考:『Epidemiology of COVID-19 in Ireland-14 day report』| HPSC)>
どの年齢層も入院はしているものの重症化率は低く抑えられています。特に若年層の入院率や重症化率が低いのは、従来のコロナウイルス(変異以前)と同じようです。
ここで少し気になるのが65歳以下の重症化率が高いことです。55歳~64歳の重症化率が比較的高い数字を示しています。
アイルランドで感染率が高い地域
<感染者の多い地域を示すデータ(左からCounty=県名、Number of confirmed cases=感染者数、右端は、人口10万人あたりの感染者数)(画像参考:『Epidemiology of COVID-19 in Ireland-14 day report』| HPSC)>
こうしてみてみると感染者数の多い地域のほとんどが都市部、または人口密度が高い地域だということが分かります。これはある程度は仕方のないことです。しかし、ドニゴール県をはじめとする国境周辺の田舎地域で感染者数が増えているのが気になります。
政府はこれについて具体的な理由を発表していませんが、私なりにいろいろとリサーチしてみた内容を下でご紹介します。
都市部
<ピーク時期における、首都ダブリンの地域別感染者数と感染率(左からダブリン県内の地域、感染者数、感染率)(画像参考:『Epidemiology of COVID-19 in Ireland-14 day report』| HPSC)>
ダブリンは、北部や北西部が特に感染者数が多いようですね。それとは対照的に南部が一番少ない状況です。
北西の田舎ドニゴール県
<ピーク時期における感染者の分布図(人口10万人あたりの感染者数を多い順に濃い色から薄い色で示しています)(画像参考:『Epidemiology of COVID-19 in Ireland-14 day report』| HPSC)>
アイルランド北西部にあるドニゴール県は、美味しい魚が食べられる漁村として有名でその美しい景観から、シーズン、シーズンオフ関係なく多くの観光客が訪れる地域です。しかし、住民の数はそれほど多くなく過疎化地域となっています。一体この小さな漁村で何が起きているのでしょうか?
ドニゴール県で開業している医師の(GP、日本でいうホームドクターのような存在)Dr Martin Coyne氏が、現地メディアのインタビューに答えました。その記事の中でマーチン医師は、アイルランドで最も感染率が高いドニゴール県で感染が増え続ける理由について、以下のように述べています。
「先日、家の近くのローカルなお店に行ったら店員がマスクなしで接客していたよ。」
「私の患者で、家で隔離しているはずのコロナ患者が出歩いてショッピングしていたよ。」
「コロナ感染の疑いがある私の患者が、テストの結果が出るまでは隔離生活を送らなくてはならないのに出歩いていた・・・。」
(引用:Newstalk)
ちなみに、これはあくまで少数派でその他大勢は、気をつけてソーシャルディスタンスを保っているそうです。しかし、この一部の人たちがルールを守らないことで感染を広がっていることが問題だと医師は述べていました。
また、このNewstalkのレポーターでドニゴール県に住んでいる人がいるのですが、さらに興味深い内容の発言もありました。それは、ドニゴール県で確認されている感染の多くが北アイルランドとの国境周辺の地域で起きているというのです。具体的にはリフォード(Lifford)とストラベーン(Strabane)という地域です。
北アイルランドは英国のなかでも最も感染率が高い地方のひとつです。ロックダウン中にルールを守らず越境してくる人も多いそうでロックダウン解除後は家族、親戚、友人を訪れる人たちも多いことは容易に想像できます。
現時点でのワクチン情報
現在、アイルランドの介護施設や老人ホームではすでにワクチンの配布が始まっているなどのさまざまな情報が飛び交っていますがほとんどが到着を待っている状態です。
HSEによると優先的にワクチン接種が行われるのは以下の人たちです。
- 65歳以上
- ヘルスケアワーカー(医療従事者、介護職など)
HSEの情報によればアイルランドは今の段階ではEUで承認された2種類のワクチンを購入し、もう1種類のワクチンが承認されるのを待っている状態です。すでに購入されたワクチンは、「Moderna」、そして変異種にもある程度効果があるとされている「Pfizer-BioNTech」です。
その他、臨床実験の結果において賛否両論が分かれる英アストラゼネカのワクチンもEUの許可が下り次第購入する予定との情報が飛び交っていますが、正確なところは分かっていません。
一度感染者が出てしまった老人ホームはワクチンを延期しなくてはならないので、その間に感染が広がるのを防ぐためにも早急な対応が求められます。
厳しいロックダウンの影響
アイルランドのレベル5のロックダウンは1月5日から始まりました。11日に予定された学校の再開も延期され、ホームスクールが始まりました。
前回と同様、一番厳しいロックダウン生活が短くて1ヵ月、長くてあと2~3ヶ月は続く予定です。
レベル5のロックダウンによる規制は以下です。
- 不急不要の商品の販売、建設を禁止
- 家から5km以上の移動の禁止
→こちらは、食品の購入の場合は例外とみなされます。 - 5km以内でも県境、国境を越える行為は罰金と懲役
- レストランやパブも営業禁止。
→テイクアウトやデリバリーは様々な情報が飛び交っており正しい情報が分かっていません。 - 同居していない家族や親戚の訪問も禁止
罰金や懲役については、前回の現地レポート(『【コロナウイルス第2波】アイルランドの現地情報|2度目のロックダウン(2020年11月12日現在)』)で紹介したので、そこから転記します。
- 室内でイベントやパーティを開催した人は、1,000ユーロの支払いか1ヵ月の懲役、またはその両方
- 2回目の違反者は、最高1,500ユーロまたは3か月の懲役あるいはその両方
- 3回目以降の違反者は、最高2,500ユーロまたは6か月の懲役あるいはその両方
- 特別な理由なく自宅から5km圏内を超える移動、およびに県境を超える行為は2,500ユーロ、あるいは6ヶ月の懲役
私が住むアイルランド西部の田舎でも感染のホットスポットが点在しており、そういう場所にかぎって大手スーパーがあるので覚悟を決めて2週間分の食品調達に挑みました。
感染者数が多い地域ということもあって以前のロックダウン中と比べるとだいぶ人が減ったように感じます。
駐車場に停まっている車も少ないように感じました。ショッピングを終えて家に帰ってきたら、すべての食品に消毒液をスプレーします。すべての作業が終わる頃には、心身ともに疲れがでてもう何もやる気が起きませんでした。
私の場合、仮眠ができる環境なのですぐに回復しますが、子供の面倒を見てくれる人がいないシングルマザーやシングルファーザーは、本当に大変だと思います。それにロックダウン中もエッセンシャルワーカーの家族などは、ワンオペで託児所も閉まっているので大変な思いをされていることでしょう。
コミュニティサポートとホームスクール
上の写真に写っているのは実はお手紙です。ロックダウンで辛い思いをしておられる高齢者のために村の子供たちがお手紙を書くという企画で娘が描きました。(私もピチューの顔部分の折り紙、少し協力しました。)
このほか、アイルランドではコロナ感染者が隔離生活に困らないように食品や物資を届ける体制が整っています。現在、日本の田舎で起きているようなコロナ感染者の家に石を投げつけたり、ロックダウン緩和中に娘や息子が英国から帰省したからといって村八分にされたりという話は聞いたことがありません。
しかし、ルールに従わずまわりを感染させた場合は別の話です。直接は言わなくてもSNS上では匿名で徹底的に非難されているのをたまに見かけます。
11日からホームスクールがはじまっていますが、学校によっては週に1回担任の先生が宿題を届けて子供たちがしっかりと宿題をやっているかを確認するところもあります。
私と夫はもし政府が1月11日以降も学校を再開すると決定した場合は、担任の先生と話しあって完全にホームスクールにする予定でした。アイルランドでは、両親が教員免許を持っていなくてもしっかりとカリキュラムをこなし一定の条件を満たせば、学校からホームスクールに変更することが可能です。
しかし、娘はほかの子供たちと関わることで社会性を身につけていかねばならないので、感染が落ち着いているときはなるべく学校に通わせたいというのが正直なところです。
まとめ
今回は、新型コロナウイルスの変異種により感染者が急増しているアイルランドから現地レポートをお伝えしました。この記事が少しでも同じような状況下で苦しむ世界中の人の参考になれば幸いです。
参考文献
Rankingアイルランド記事ランキング
-
Maroon
- アイルランド在住のトラベル・ライター兼YouTuber。アイルランドから「アイルランドの田舎暮らし」の面白さを発信しています。現地では、ネイリストやネイル講師としても活動しています。