日本人に生まれてよかった!と感動する 削りたてのかつお節を築地場外へ買いに行こう!!

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<築地場外、波除神社の向かいでかつお節を販売する「松村」。日本橋に河岸があった大正15年(1926年)の創業。早朝から9時くらいまでは料理人らしき人たちが次々と立ち寄り、店頭はプロフェッショナルな活気があふれる>

築地市場は80余年の歴史に幕を閉じて、豊洲市場へと移転しますが、場外の店は築地で商いを続行。つまり、一般の買い物客は古き良きマーケットの風情をこれからも変わらずに楽しめるのです。その場外で日本の食文化を支える、かつお節店「松村」を訪ね、普遍の活気と商いに元気をもらいました。

目次

かつお節の思い出

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<カツオの腹側からとれた、かつお本節の腹節で、黒ずんだ部分は血合い。背側でとれた節は背節と呼ぶ。腹節は脂肪が多くコクがあり、背節はあっさりした味わい。腹節1kg(5本くらい)の通販価格5,000円。以下、価格は税込>

私は築地市場近くの病院で半世紀ほど前に生まれ、佃島で育ちました。築地市場に近い住環境もあって、母や明治生まれの祖父は海鮮物や厚焼き玉子、海苔、かつお節など食材の多くを築地場外で求めていたようです。子供のころ、台所に立つ母は毎日、木製の削り器でかつお節を削り、私もその手伝いをしていました。削るときのシュッシュッという音と立ちこめてくる良い香り、堅い感触のかつお節をカンナの刃に上手く当てられるかドキドキした気持ち。かつお節をめぐるシーンは今も鮮明に思い起こすことができます。かつお節を削って、だしを取り、味噌汁や煮物を作り、茹でた野菜や木綿豆腐に削り節をふりかける。そんな調理の有りようは私の家が特別ではなく、当時は当たり前だったのではないでしょうか。私の味覚の根っこに刻みこまれているであろう、削りたてのおいしさ。改めて味わってみると、自分の体と心がどう感応するのか楽しみにして、築地場外のかつお節専門店「松村」に向かいました。

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<煙の香りが強く、適度な酸味があり、しっかりとした味わいのだしが取れる「荒節(あらぶし)」にカビ付けと乾燥を重ね、天日干ししたのが「枯節(かれぶし)」で、アオカビの働きで旨味が増し、荒節よりまろやかな味わいになる。だしもより澄んだものがとれる。かつお節のパック製品はどちらを原料にするかで値段も味わいも大きく違う>

毎朝、削りたてを販売

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<かつお節を削るベテランスタッフ。削りの現場では、幼少時に日々、嗅いだ懐かしい香りに包まれた>

半世紀前、家で普通に使われたかつお節の削り器はいつの間にか、台所から消えました。鉋(かんな)刃の研ぎを母が面倒に思うようになったのか、身近に頼める人がいなくなったからなのかはわかりません。持参すれば研いでくれる刃物屋さんはあるでしょうが、当時と比べると、削り器がごく一部の人が使う特殊な存在になったのは否めないでしょう。最高のおいしさを堪能したい私は自分でも削ってみたいと願い、家の近所で腕の立つ研ぎ師さんと、その人が刃の調整も行う削り器を見つけ、購入を検討しています。自分で削る気は無いけれど、削りたてを味わってみたいという人は「松村」を頼ってみてください。こちらの軒先には店内で削ったばかりのかつお節が並び、一般の人にもグラム単位で販売しています。特注の木箱のなかに薄く削られたかつお節が山盛りになっている景色は、昔ながらの河岸の風情があり、魅せられます。

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<鹿児島県指宿市枕崎・山川地区、静岡県焼津市、四国など産地から届いたかつお節の表面に付着する砂を洗い、30~40分蒸して、削りやすいように柔らかくする>

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<手で曲がるくらい柔らかくなった、そうだ裸節。ソウダガツオが原料で、濃厚な味と色が付くのが特徴。お椀物には向かず、煮物やうどん、そばなど濃い味付けの料理に使われることが多い。ただ、用途は限定されるわけではなく、使う人が納得していれば、どんな料理に用いてもいい>

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<かつお節をエアーで押し当てながら14枚の鉋の刃で削る。 厚さには「厚削り」と「薄削り」がある>

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<削りたてのかつお節を味見させてもらったが、ほのかな塩気があり、このまま酒の肴になりそうなおいしさだった>

さまざまな節がある

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<軒先に並ぶ削りたての削り節と、お話を聞かせてくれた代表取締役の松村 茂さん。「特上削」は500gで2,000円、「上削」は500gで1,890円、「中削」は500gで1,780円。「特上削」は一本釣りで、「上削」は巻き網で獲ったカツオ を使用。巻き網で獲ると、追い込まれたときの恐怖心からカツオに乳酸がたくさん含まれてしまい、だしを取ると少し渋みが出ることもある。この2ランクは上品で淡白な味。「中削」はカツオとソウダガツオが半々混じっている。ちなみに「並削」はほとんどソウダガツオ。ランクが下がると、より魚っぽい味気を必要とする料理に向いていく>

節になる原魚はカツオだけでなく、メジマグロやゴマサバ、ヒラサバ、ムロアジ、マイワシ、ウルメイワシ、カタクチイワシなどさまざま。また、節を厚く、または薄く削るだけでなく、粉状に加工した商品も販売していました。豊富な商品バリエーションを前にすると、最初はどれをどれくらい買えばよいのか戸惑うかもしれませんが、スタッフに用途や味の好みを伝えて、相談してみましょう。的確なものを選んでくれるはずです。訪問中、「松村」の一般客にも優しい敷居の低さを見知った一方で、和食の途方もない奥深さも覗き見たような気がします。たとえば、店頭の削りたての節にはランクが表示されていますが、品質の違いという単純な意味ではなく、淡白で余韻の長い味、瞬間的に強い味、魚らしい味気の割合など、多様な好みに合わせて分けられています。また、各商品の用途は目安を提案するものの、実際は料理する人の選択が大事と心得ています。そのお客さん第一の姿勢は、場外での長年の商いで築き上げてきたものだろうと感服したのでした。

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<メジマグロから血合いの部分を取って節にしたものを薄く削った。カツオより色味が白く、だしを取るととても淡白な味わいになる。そのため、味付けの濃い料理ではなく、本当に上品なお椀のだしに使われる。一片の節を舌にのせると、マグロの刺身そのものの味が口のなかに広がり、心酔した>

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<厚削りのカツオ節。500gで2,020円。厚みがある分、長時間の煮出しに耐え、しっかりとしただしが取れる。たとえば蕎麦屋はこれを20分くらい灰汁を取りながら煮出している。カツオのほかに、ソウダガツオやサバの厚削りも扱う。カツオのわずかな酸味を打ち消すために、カツオでだしを取った後、最後にサバやイワシなどの青い魚を足す料理人もいるそう。繊細な和食のニーズに対して多彩に応える品揃えなのだ>

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<かつお節を粉に削った商品。写真の真っ白な粉はメジマグロの節を粉にした「めじ粉」。250gで890円。「かつお粉」は250gで655円、「枯本節粉」は250gで1,070円。粉だとお湯に入れっ放しでだしが取れるし、何かにふりかけて食べることもできる。焼きものや炒めものなどの調理にも使えて一般の人には手軽。松村 茂さんはご飯にかけて、しょうゆをかけて混ぜて食べるのが好きだとか>

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<向こう側が透けて見えるほど薄く削られたかつお節>

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<削りたてはおいしいが、時間経過とともにおのずと酸化が進んでいく。いっぺんに使えない人のためや、地方発送では窒素ガスを充填した袋に詰めている。開封後はなるべく早く食べきり、保存はジップロックに小分けにして、中の空気を抜き、冷蔵庫や冷凍庫で保管を。暖かい所に長く放置するとカビが生えることがある>

特上の鰹節を味わってみた

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<素朴な趣きの紙袋。どうしても窒素パック詰めではなく、紙袋に詰めて欲しいと望むお客さんも多いらしい>

削りたてのかつお節を使って晩御飯を食べたくなり、削りたての特上かつお節を家に持ち帰りました。上品で淡白という特上を選んだのは、自身の食の好みに合わせて。50歳を過ぎて、薄味の和食を私の体は欲するようになったのですが、同じ嗜好を持つ妻に託して簡素な和食のおかずを作ってもらいました。冷蔵庫の昆布を合わせて、「松村」のホームページでの案内を参考にだし汁を取り、煮物、汁物に使ってみたのです。妻はふだんから健康を気遣った料理を大事にしていますが、削りたてのかつお節を用いると、旨味が大きくグレードアップ。まろやかな滋味がじんわりと体に溶けこんでくる印象で、お腹のあたりが温かく心地よくなり、幸せな余韻がしばらく続いたのです。そして、そのおいしさは、母の手間を惜しまない、かつての料理に通じると、懐かしい感情も湧き上がったのでした。

ちなみに江戸時代は食事で健康を保つ考えが広まり、かつお節はやや体を温め、栄養を補う食材だと評価されたそうです。400年以上前から庶民がかつお節をいかに尊重していたかを知ると、私の感銘もDNAに刷りこまれた味の記憶からくるものなのかなと想像しました。

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<だし汁で豚肉と冬瓜を煮た料理>

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<だし汁に卵とワカメを和えた汁物>

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<木綿豆腐に削り節をのせる。シンプル&ストレートに特上の風味を味わえる>

株式会社 松村

住所:東京都中央区築地6-27-6
電話:03-3541-1760 (受付時間5:00~12:00)

営業時間:4:00~12:00

定休日:日曜、祭日、豊洲市場の休市日
HP :
http://www.katsuobushi.jp/

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ヤスヒロ・ワールド

東京佃島生まれ育ちの江戸っ子。旅行ガイドの編集者。
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