「読み、書く」楽しさに出合える 浅草 田原町のユニークな本屋「Readin'Writin'」

00310_180907_001.jpg1959年12月竣工の材木の倉庫で、駐車や町会の神輿置き場にも使われた物件。店主、落合 博さんは、高い天井と中2階がある構造が気に入り、ここで書店「Readin'Writin'」を開店した

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「読み、書く」楽しさに出合える本屋「Readin'Writin'」

江戸時代は田原町(たわらまち)と呼ばれた、浅草に近い地域に約1年前、ユニークな書店がオープンしました。店主は、元新聞記者。本好きの心をとらえる選書に加えて、文章を書く個人レッスンや、新聞づくりのワークショップも開き、「読み、書く」両方の楽しさに出合える場になっています。

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浅草通りから入った、個人商店の多い路地沿いに立地。隣にはホームメイドのレモンパイが人気の洋菓子店がある。周辺は浅草拝領屋敷の跡地で、明暦の大火(1652年)以降、江戸城下町の仏教寺院がこぞって移ってきたため、空の高い伸びやかな景観のなかに凛としたムードも漂う

謙虚な店主

昔ながらの街の本屋さんが姿を消している今、個人経営の書店が各地で生まれています。大手取次会社から毎日一方的に送られてくる新刊本ではなく、テーマのもと新旧の名書を一冊一冊選び、店主の個性が品揃えに強く反映される店。著者と読み手をつなげるイベントも盛んにおこない、コーヒーやお酒も楽しめる。コンパクトな空間に工夫と活気が満ちあふれ、本が好きな人たちの心をとらえています。新聞記者として書く仕事に30年以上関わってきた落合 博さんが2017年4月に開店した「Readin' Writin'」もそんな魅力的な本屋さん。落合さんにまず聞きたかったのは、定年の1年半ほど前に依願退職してまで書店を営みたいと考えた理由。問いかけると、「いろいろな出会いがあり、タイミングが合ってそうなりました。すっと胸に落ちるような話ではなくて申し訳ないです」と笑います。個人の熱情を主題にしたストーリーに仕立てようとする目論見があっさりかわされました。「幼いころから本屋をやるのが夢だったり、本が好きで仕方がないわけでもない。あえて言うと、本のある空間が好きでした」と落合さん。約2年間を準備期間として、たとえば、著書やイベントを通じて書店を個人経営するノウハウを発信する京都上京区「誠光社」の堀部篤史さんや、杉並区荻窪「Title」の辻山良雄さんの話を聞き、助言を求めるなど、取材をするようにして情報を集めたそう。配本を大手取次に委ね、返本ができて仕入れの負担も少ないかわりに利益率も低い旧形態ではなく、勧めたい良書を買い取りして扱う、新しい書店経営を目指す人たちの背中を、彼ら先人が力強く押しているのでしょう。

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店主の落合 博さん。読売新聞大阪本社、トライアスロンJAPAN編集部を経て、毎日新聞社に入社。体育・スポーツ担当の論説委員やコラムを担当。趣味はランニングや読書など

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落合さんの著書『こんなことを書いてきた』(創文企画)。毎日新聞の記者としてスポーツの現場を取材し、コラム「発信箱」に綴った文章が中心に掲載されている

格好いい空間

初めて「Readin' Writin'」の扉を開けたとき、ニューヨークのマンハッタンやブルックリンにありそうな、倉庫の武骨な造りを活かすクールでモダンな雰囲気に魅せられました。外開きのドア、大きなモルタルの床、白い壁と天井、シナベニア材を多用した什器、柱と梁を本棚に用いるアイデア、裸電球が天井から垂れる照明、ロフトのような中2階に敷かれた琉球畳とステンレスの手すり。内外観を構成するものすべてがスタイリッシュで、店主はさぞ建築と空間デザインの造詣が深いのだろうという想像を落合さんは即座に否定。「すべて建築家におまかせでした。リクエストしたのは、天井の低い中2階で圧迫感を感じないよう畳敷きにすることくらい。僕は次々となされる提案に対して答えただけです」。だとしたら、その建築家のセンスがフルに発揮されたということ。事細かな注文がないのに、これだけ美しく、格好よい空間に仕上がったのは、建築家がもともとの倉庫という素材に創造心が刺激されたのと、ある意味、アーティスト的な自尊心を持つ建築家との関係が終始、良好だったからだろうと思いました。

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取材を通じて知り合った建築家に店舗の設計を依頼。基本はおまかせだったという

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構造材が剥き出しの物件。建築家はひと目でこの壁を書棚にしようと決めたとか。塗装した棚板を台にして本を並べている

選書が大事

落合さんは開店して最初に売れた本と、まとめ買いのあった本のスリップを、お客さんへの感謝の気持ちをこめて撮り、Twitterで公開。私はその投稿を日々楽しみに眺めています。書名から選書の傾向が伺えるし、たくさんの本をいっぺんに書店で求める人がいる事実に、嬉しい気持ちになるからです。実際、「Readin'Writin'」の店内でお客さんを観察すると、隈なく書棚を回遊し、さまざまなテーマの本に目を向ける広い視点が見てとれます。特定の本ではなく、偶然惹かれる本との出合いに期待し、あれこれ手を伸ばし、人によってはまとめ買いしたくなるのでしょう。その衝動を引き出せるかは選書しだいともいえます。「なんでもかんでも揃えたら、大きな書店さんのミニチュア版になってしまい意味がありません。個人商店はやっている人の個性というか、やり方が出るものじゃないかな。ただし、自分の好きなものだけ集めてもお金をいただけるわけではない。自分も読みたい本と気になる本、これなら買っていただけるんじゃないかとバランスを取りながら選びます」と、個人商店の本屋さんは選書がキーになると、落合さんは話します。

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本は主に、子どもの本の普及を目的に設立された「子どもの文化普及協会」を通じて買い取る。その取引関係もあって、一般の書店では扱いが減りつつある絵本などの児童書が多く選ばれている。子どもと過ごす時間がとても楽しいという落合さんの考えも影響しているのだろうか

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本を立てて表紙が見えるようにする「面出し」と、背表紙だけ見える「棚差し」。テーマに沿って選ばれた本の密度と、ゆったりした配置のリズムが目に心地いい。写真下段は東京本コーナー。時空を越えた都市の旅を促す名書は初見のものばかりで、ほとんどを読みたくなった

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本に使われた原画を店内で飾ったり、著者のトークイベントを催した本が置かれている。『フルーツパフェ逍遥』は、浅草の人気フルーツパフェ店「フルーツパーラーゴトー」のパフェを画家が描いた内容。遊郭を含めて浅草をテーマに選んだ本のコーナーもあり、周辺の散策に役立つ

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ときには判型の大きな絵本や展示中の本を正面入口の両側に面出ししている

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書くことについての本を選んだコーナー。ライティングの個人レッスンは予約制。基本的にあるテーマについて400字前後で文章をまとめてもらい、それについていろいろ話をする

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落合さんは仲間と任意団体「日本栞(しおり)学会」を立ち上げ、店が事務局になっている。栞史研究家が著した本のそばで、手描きの絵に文を添えた『本好きあるある栞』を販売

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ハンドドリップで煎れるコーヒーのほか、ビールやソフトドリンクを販売。本の購入時にコーヒーを注文すると100円引きになる

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中2階の琉球畳コーナー。本の購入者は畳でゴロリとくつろぎ、本を開いてビールやドリップしたコーヒーを飲む(有料)至福の時間を過ごせる

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中2 階の棚は月単位でレンタル可能。現在は4人が借りてイラスト作品や古書を販売している

極楽なトークイベント

「Readin'Writin'」は著者を招いての対談会やワークショップ、落語会など多彩な催しの場にもなっています。本にまつわるイベントはもっぱら出版社など外部からの要望によるものだそうですが、著者と読み手をつなげ、本の内容と、本からはみ出た情報も知ることができる貴重な機会になっていると思います。私は著者自身に会えるうえ、その個人的な嗜好や関心ごとに触れられるトークイベントが好きでよく足を運んでいます。しかし、得てして個人経営の書店の会場はスペースの制約上、椅子がぎっしりと置かれて、隣の人との距離が近く、窮屈さを感じることも多々あります。そんな状況が苦手な私ですが、「Readin'Writin'」の中2階で畳に足を伸ばし、対談を拝聴したときは、あまりにも楽ちんなので、話の内容に深く入っていくことができたのです。ドリップコーヒーやお酒を味わい、ゆったりと話に心酔する。これほど極楽な本屋さんを私はほかに知りません。

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トークイベントに参加する高揚感を、夜の情景が盛り立ててくれる

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イベント開催時は場所を空けられるよう、中央の書棚はキャスターを付けて可動式にした。手がけたのは、有名な都内の個人経営書店の本棚も造った職人

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『汗と涙と煩悩のチベット・ネパール・インド絵日記』(書肆侃侃房)の刊行記念トークイベント「二人のチベット」。チベット文化圏を旅する著者の安樂瑛子さんと、チベットの言語や文学、映画に詳しい東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所教授・星 泉さんが対談

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参加型のライフ&カルチャーコミュニティ"She is"は毎月の特集テーマから連想される本をゲストに選んでもらうイベント「She is BOOK TALK」を開催。2018年7月は「Readin' Writin'」に、文筆家・エッセイストの甲斐みのりさんを招き、「時代を超える名建築」をテーマに、お勧めの本や、トリップ感がもたらされる店や建築について話していただいた

個性を否定しないレッスン

落合さんが新聞社の運動部記者、論説委員時代に書いたコラムは限られた文字数のなかに、スポーツの現場で起こっている事実と、それに対しての意見と提言が簡潔に綴られています。今まで知らなかった視点を示し、見過ごしていたことに気づかせ、誰かに教えたくなるような「いい文章」。讃えると、自分は文章が決して上手ではないけれど、「定型」というものが確かにあると言います。「スポーツはすでに起こっていることで、みんなが結果を知っているわけです。それでも読んでもらうために、定型に従って書くことになります。僕らは作家ではないから、あることないことを机上では考えられない。人に話を聞き、資料を調べるのが仕事の基本。まずは取材をしなくては文章が書けませんね」。取材をもとに書き、人の文章を読みながら独学で定型を身につけていった落合さん。その経験を活かせればと、文章を書く個人レッスンや、新聞づくりのワークショップをひらいています。記者に求められたのは、読み手を意識し、客観性のある文章を書き、見やすくまとめる技術。ふと、落合さんのブログにあった「自分のことを書くのは苦手だ。恥ずかしいし、面白いはずがない。読み手としても一人称の文章を読まされるのはつらい」という言葉が思い浮かびました。「たびこふれ」に投稿する記事は、私が強く惹かれる店や人に対して、どう感じたかを基軸に原稿を書いています。落合さんの言葉は、その主観的な文章を読み手はどう受け止めているか、わかっているのかと、冷静に問いかけてくるように感じます。そんな私が文章の個人レッスンを受けたら、修正だらけになるのでは恐々と話すと「いやいや」と優しい笑みを浮かべる落合さん。「文章は人それぞれの個性が出るもの。それを無理やりこう書けとはしません。ただ、言葉の使い方や、書く前の準備としてこういうことをした方がいいのでは?という話はします。書き方のヒントをお話しするような感じです」。記者経験にもとづく基本は伝えるけれど、個性は否定しない。落合さんに、客観的に、自分の文章について意見をもらいたいと、肩の力が抜けました。

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「好きなこと、興味のあることについて、何か書いてみたい」「フリーペーパーやリトルプレスを作って、人に何かを伝えてみたい」という人のための、新聞作りのワークショップを開催。近々は9月23日、10月21日、11月18日の全3回の予定。参加者各自でテーマを決め、みんなでディスカッションしながら、「こうしたらよいのでは?」と互いに意見を言い合い、A4サイズ1枚(両面)の新聞を作る。リトルプレスやフリーペーパーの発行人・藤田一樹さんと落合さんが司会進行し、構成案を決めて取材。文章、写真、イラスト、広告をレイアウトしていく。各回の料金は1,000円(税込)。完成した新聞は1部100円で販売

Readin'Writin' (リーディンライティン)

住所:東京都台東区寿2-4-7
営業時間:12:00~18:00
定休日:月曜
電話:03-6321-7798
最寄駅からのアクセス:東京メトロ・銀座線「田原町駅」から徒歩2分
HP: http://readinwritin.net/ 
TWITTER : @ochimira

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東京佃島生まれ育ちの江戸っ子。旅行ガイドの編集者。
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