知られざる東京の花の名所、教えます

小金井公園

都内でひそやかに咲く花々。その美しい情景に詩や短歌を添えて展示するギャラリーを訪ねました。そこは花鑑賞の穴場を知り尽くす粋な館長が控える、東京の名所でした。

花の写真館
<葛飾区金町にあるギャラリー「花の写真館」。館長の松山忠徳さん(78歳)と泰子さん>

目次

柴又の縁でめぐり会う

年初に葉山の博物館で催されたアート展で、偶然、写真好きな夫妻と知り合いました。出展者のひとりとして会場に立った私は、来場した夫妻が口にした「柴又から来ました」という一言に気が留まったのです。寅さんファンの私は、「たびこふれ」の取材をきっかけに柴又詣での熱が高まり、ほぼ毎月、足を運んでいます。そんな大好きな町からの客人とあって、前のめりで話しこんだのでした。夫妻は柴又に隣接する金町(かなまち)で「花の写真館」というギャラリーを運営され、花を鑑賞する穴場情報も提供しているといいます。柴又の町名を耳にしなかったら、そこまで立ち入った会話は交わさなかったでしょう。活動に興味を覚え、夫妻との縁を感じた私は、ギャラリーを訪ねてみることにしたのです。

花の写真館
<松山さんの写真と短歌、友人の作品が飾られた、かつての待合室>

情に厚い寅さんワールドを実体験

週に2、3日は奥様の泰子さんと一緒に日帰り旅(撮影取材)に出かけているギャラリー館長の松山忠徳(ただのり)さん。留守がちなため、訪問には予約が必須です。歯科医院の建物を活用した空間にはソファが置かれ、ゆったりとなごむことができます。「飲み物、食べ物は持ちこみ自由。くつろいでいってください」という二人に心づくしの歓待を受けました。初めて会う客人を気さくにもてなす、寅さんファミリーのような温かな人柄にジーンと胸が熱くなりました。

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<写真と短歌の配置を考え、インクジェットプリンターで自らプリント>

熱く軽妙な写真詩歌人

美しく咲いてもすぐに散ってしまう花のはかなさに惹かれ、それぞれの花のもつ個性的な風情を追いかけるようになった松山さん。写真は生まれ育った浅草で、小学生のときから熱中していた趣味。花と周囲のバランスをとらえる視点、詩的な描写には独自の美意識が感じられます。実際、写真家・松山さんは詩歌人でもあります。

「写真の世界は大海原を船で行くような壮大で奥の深いものですが、詩歌の世界は反対に一語一句まで気を遣う繊細なもの。その両者を組み合わせたらおもしろいものができるのではないかという発想から写真詩歌集を作りました」。

花の写真には以前は詩を、4~5年前からは短歌を添えています。短歌の方が一瞬にして絵と文字が心のなかに飛びこんでくるとお客さんに助言されたからだとか。

「私は見切りが速いんです」という柔軟な思考が軽妙です。誕生日ごとに富士山や夕陽など花以外にも新たなテーマを自分に課すという、好奇心の多様な広がり。絶えず新たなものに関心を抱く心のもちように若々しい活力を保つ秘訣があるのかもしれません。

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<好評の写真歌集カレンダー。インク代の実費のみで分けているそう。名入れ注文にも応じています>

タクシーに乗り、名所情報を収集

40年以上前、北区滝野川で「花の写真館」というフォトギャラリーを営み、当時から都内と東京近郊の隠れた花の名所を探すことをライフワークにしていた松山さん。その後、もっと隠れた花の名所を探すにはどうすればよいのか考えた結果、タクシーの運転手に転業。東京じゅうを走り回ることで、知らなかった名所にも出合えるし、今どこで咲いているのかリアルタイムの情報も入手しやすいからです。

「お客さんが教えてくれることもありましたが、同僚からの口コミがとくに役立ちました」。

そうして29年間タクシーに乗り、名所情報の収集・蓄積に打ちこんだ松山さん。都内の名所は訪ね尽くし、東京近郊まで足を伸ばして、2,000カ所ものガイドブックには載っていない花の名所を取材。定年退職し、金町で再開したギャラリーで、膨大な情報を提供しています。松山さんはなぜ有名な所ではなく、隠れた所に咲く花を探すのでしょうか?

「路地裏やあまり人が通らない所にも懸命に咲く花があります。その存在に気づき、きれいだなと感じた瞬間に花はその人に安らぎを与えたことになります。ところが、かなりの量が咲き、誰もが感動するような所でも、あまり人に知られていない名所があるんです。人知れず咲いて散っていく花を少しでも知ってもらえればと私はギャラリーを設けました。」

松山さん

松山さんの背後にあるのは200冊を超えるアルバム。5万枚に及ぶ写真資料を閲覧可能です。パソコンにはデジタル写真を500万コマ以上、2,000点以上の花の写真詩歌集のデータを保存しています。

松山さんが推す、都内の桜名所6選

「ビルの谷間や街路樹として咲く東京の桜は華やかに咲いているときでも、どこか場所違いの所に咲いているような寂しさを感じさせます」と、都内の桜の美点を語る松山さん。名所を訪ねるにはタイミングも大切。松山さんは花びらのピンク色が濃い7~8分咲きと、満開のときに向かいます。

「桜の花は咲いていく途中は、強い風が吹いてもなかなか散らないものです。ところが満開になると、少し風が吹いただけでパーッと花が散ってしまう。そうした潔さが好きです。飛んできた花びらをカップ酒に浮かべて一気に呑む。そんな一年にたった一日か二日しかないチャンスを毎年楽しみにしています」。

江戸っ子らしい粋な言葉を口にしながら、松山さんは満面の笑顔になりました。

膨大な資料
<都内の桜名所500ヶ所をリサーチした資料も希望者には分けています>

1. おすすめの名所/国立劇場・前庭広場(千代田区)

この地生まれの品種「駿河小町」のほか、「小松乙女」、「神代曙」、「仙台屋」など珍しい種類の桜を一度に見られます。ボケ、利休梅、サンシュなど同時期に咲く花も楽しめます。

国立劇場 前庭広場
<撮影:松山忠徳>

2. おすすめの名所/子供の森公園(品川区)

9体の怪獣像が置かれる通称「かいじゅう公園」。花の量は普通ですが、怪獣像とのバランスがおもしろく、子供も喜ぶ花見になるでしょう。

子供の森公園
<撮影:松山忠徳>

3. おすすめの名所/桜堤通り(調布市)

京王多摩川駅から日活撮影所付近まで多摩川沿いに、約1kmにわたって桜の並木道が続きます。遊歩道には国内外の彫刻家たちの彫刻9点が展示され、桜と一緒に鑑賞できます。

桜堤通り
<撮影:松山忠徳>

4. おすすめの名所/都市農業公園(足立区)

都内の桜の名所に咲くのはソメイヨシノがほとんどですが、この公園には開花時期が異なる49品種290本の桜が順次満開になり、3月下旬から4月下旬まで長期間にわたって楽しめます。白、黄、淡紅、濃紅、紅の雲がたなびくように見える「五色桜」も見どころ。

都市農業公園
<撮影:松山忠徳>

5. おすすめの名所/小金井公園(小金井市)

大島桜の巨木が見ものです。写真左下の自転車から大きさが伝わるでしょうか。大島桜はソメイヨシノより約一週間遅れて咲く品種。桜餅の葉はこの桜の葉を用いています。

小金井公園
<撮影:松山忠徳>

6. おすすめの名所/汐入公園(荒川区)

東京スカイツリーRが見える隅田川沿いの公園。桜の名所として有名な浅草の隅田公園よりも、桜と東京スカイツリー、首都高速とがバランスのよい構図で撮れます。

汐入公園
<撮影:松山忠徳>

泰子さんが撮影のアシストに花を照らしています。松山さんの歌人名は「花心想旅人(カシオペア)」。おいしいものも、美しい花も二人で愛でれば、なお楽しい旅になる。そんな想いが名前にこめられています。

夢は本にまとめること

松山さんには夢があります。100ヶ所くらいに花の名所を厳選して本にまとめることです。自費出版ではなく、広く流通する書籍。多くの人に隠れた名所に咲く花を見て欲しいと願っています。興味のある出版社の編集者は松山さんにコンタクトしてみてください。このブログでは今後も松山さんに旬の花の名所情報を提供していただきます。お楽しみに!

花の写真館(平成・万葉集の館)

  • 住所:東京都葛飾区金町5-15-4
  • 予約電話:03-3607-2786 ※外出がちなので、訪問は要予約
  • HP:花の写真館
  • SNS:FacebookTwitter

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