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エコツーリズムやエコツアーとは何のこと?
日本では1990年代から広まってきた「エコツーリズム」や「エコツアー」。従来の観光旅行とは違う切り口の旅のスタイルが人生に新たな気づきや価値観を与えてくれると、人気が高まっています。
この記事では、そんなエコツーリズムやエコツアーをもっと知りたいという方のために、その仕組みや考え方、ツアーの探しかたまで詳しく解説していきます。SDGsへの関心の高まりなども後押しとなり、今後もエコツーリズム、エコツアーからは目が離せません。この記事を参考に、ぜひ参加を検討してみてくださいね。
目次
<3. エコツーリズム、エコツアー事例(エコツーリズム大賞より)>
1. エコツーリズムやエコツアーとは
<出典元:写真AC>
エコツーリズムやエコツアーが従来型の旅行と異なるのは、訪問先の資源・環境保全について、旅行者側が主体的な意識や責任感が求められる点です。とはいえ、堅苦しく考えなくても大丈夫。まずは大きな概念を簡単に理解しておきましょう。
エコツーリズムとは
エコツーリズムの定義は、国ごとの機関や研究者によってさまざまな解釈がありますが、日本ではエコツーリズム推進法第2条による以下の定義があります。
「エコツーリズム」とは、観光旅行者が、自然観光資源について知識を有する者から案内又は助言を受け、当該自然観光資源の保護に配慮しつつ当該自然観光資源と触れ合い、これに関する知識及び理解を深めるための活動をいう
(エコツーリズム推進法第2条より抜粋)
エコツーリズムの大きな特徴は、旅行する側が地域固有の魅力である環境や文化について、その保全に対し「責任を持って」体験するという考え方にあるといえるでしょう。
エコツーリズムの意義
エコツーリズムの大きな意義は、それが経済発展と矛盾せず、むしろ好循環を生み出すことで地域を活性化できるという点にあります。
旅行客は、エコツーリズムの旅を経験することで自然や文化の重要性に気づきを得て、その環境保全に対する意識が高まります。一方、訪問先の地域住民は、自らの地元の資源の価値を再認識し、さらに地域の魅力を高めようと意欲的に取り組み、それがまた新たな観光客を呼び込むことにつながります。
こうして、地域の環境や文化を大切に保全しながらより良く経済が回ることで、地域の持続的な活性化につながっていくというわけです。
エコツアーとは
上記に挙げたエコツーリズムの考え方に基づいて作り出される旅行(商品)が、エコツアーです。
環境省の定義によれば、「日本を代表するような優れた自然の中を探訪するツアーだけではなく、生活文化を題材としたような体験ツアーもエコツアーの範疇である」とされており、エコツアーはどのような地域でも成立すると考えられています。
エコツアーは大きく
- いわゆる豊かな自然を体験するツアー
- 有名観光地など従来型旅行をエコ化したツアー
- 身近な自然や地域で、産業や文化を体験するツアー
と3つに類型化することができます。このように考えると、エコツアーは著名で大規模な自然遺産へ行くことだけではなく、日本のどの地域でも、またごく身近なところでも、実践することが可能だということがわかります。
2. エコツーリズム、エコツアーの内容例
エコツーリズムやその概念に基づくエコツアーの内容は地域や主催者によって千差万別ですが、一般的には以下のような内容が含まれていますので参考にしてください。
地域固有の文化を体験する
エコツアーでは、特定の地域でしか体験できない文化的な活動を通じ、その文化を醸成した自然資源への理解を高め、保全について考えるという内容のものが多くあります。
たとえば日本独自の信仰である修験道は、山岳信仰と宗教が習合して成立しており、地域の自然資源と文化が非常に密接に関わっている一例です。
中でも2004年に世界遺産に登録された熊野古道は、登録名が「紀伊山地の霊場と参詣道」ということからもわかる通り、自然崇拝に根ざした霊場や参詣道が良好に保存されていることで、今も多くの修験者(山伏)が存在しています。ここでは実際の修行者である山伏をガイドに、参詣道・修験道を歩きながら、自然なくしては成り立たない文化のありかたを体感するエコツアーが人気です。日本人のみならず、エコツアーと日本文化に関心を寄せる多くの外国人からも注目を集めています。
ガイドからの解説を受ける
エコツーリズムで大きな役割を果たすのが、ガイドによるガイダンス(自然や歴史・文化についての詳しい説明)です。
たとえば夏の釧路湿原では、ガイドに従ってカヌーに乗り、湿原湖を散策するエコツアーが人気です。国際的に重要な湿地の保全を促進するためのラムサール条約に登録されている釧路湿原では、そこに住む希少な動植物の名前や特徴はもちろん、地元住民の生活にどのように関るのかなど、地域全体との関係性や生態系まで専門家のガイドが深く解説してくれるそうです。
ガイドは、旅行者の地域に対する気づきを与えるとともに、その資源をどうしたら守れるかを旅行者に考えてもらうことを促す、という役割も果たします。
3. エコツーリズム、エコツアー事例(エコツーリズム大賞より)
環境省と一般社団法人日本エコツーリズム協会の共催で、2005年から毎年実施されているのが「エコツーリズム大賞」。エコツーリズムの優れた取組みを表彰し、広く紹介することで、全国のエコツーリズム活動の質量の向上や関係者の情報交換、連帯感の醸成などを図ることを目的とした制度です。
ここでは、過去18回の受賞者から、特徴的な事例をご紹介します。
第18回大賞
てしかがえこまち推進協議会 及び一般社団法人 摩周湖観光協会
硫黄山(アトサヌプリ)の噴気孔を特定自然観光資源に指定。認定ガイド制度を整備し、ツアーの開発・販売も行うことで、利用者に付加価値の高い特別な体験を提供するとともに適正な資源の管理を実現することに貢献した先進事例として評価された。
第18回優秀賞
公益財団法人トトロのふるさと基金
狭山丘陵の林地や湿地を買い取って「トトロの森」と名付け、管理と保護を行う。一方でツアー・イベントなどの開催で森の利用を促進する。来訪者と地域住民の双方がこの地域のファンとして関連事業に継続的に関わっており、民間の取組みで生物多様性の保全に貢献しているとして評価された。
第18回特別賞
京都一周トレイル会
京都市内の行政や地域団体、交通事業者等、多様な団体による活動組織で、京都市内にトレイルコースを開設。案内板の設置やガイドマップの販売、パトロール、コースの維持補修、PR等に取り組む。従来の観光とは異なる京都の楽しみを提案しているとして評価された。
第17回特別賞
富士北麓ユニバーサルアドベンチャーツーリズム協議会
4つの団体により構成される協議会で、異業種が連携して新たな自然体験アクティビティの開発を行う。障がい等により旅行が困難な方等を対象に、オンラインツアーを企画・実施、また、ドローンやカメラからのライブ映像とガイドによる双方向・リアルタイムのガイディングを実施するなど、先進的な取り組みが評価された。
第16回特別賞
二尊院 宿坊えんとき
山口県長門市の古刹、龍伏山天請寺二尊院(りゅうふくざん てんしょうじ にそんいん)が運営する体験宿坊「えんとき」が、山岳修行をエコツーリズム化。宿泊者限定の重要文化財公開、地元の漁船クルージングなど、信仰と文化を組み合わせたユニークな体験を提供し、地域資源の活用と地域活性化に貢献したとして評価された。
エコツーリズム大賞のサイトでは過去18回の受賞者(団体)とその受賞内容を一覧することができます。意外に身近なところで魅力的なエコツーリズムに取り組んでいる事例を発見できるかもしれません。
- エコツーリズム大賞(一般社団法人 日本エコツーリズム協会)
4. エコツアーが盛んな地域
日本では1990年代から活動が活発化してきたエコツアー。中でも、北海道の知床半島、長野県の軽井沢町、鹿児島県の屋久島、沖縄県の西表島などは日本におけるエコツアーのパイオニアともいえる地域です。ここでは、エコツアーが盛んな地域の活動例をご紹介します。
北海道(知床半島)
<出典元:写真AC>
日本で初めて世界自然遺産に登録されたことでも知られる知床は、海と陸、さらに淡水が密接に影響し合う環境に、森林・湿原・湖沼などが集中しています。ここでは、固有・希少な野生の動植物によって、きわめて多様な生態系が築かれています。
日本有数の景勝地かつ世界遺産でもあることから、観光客が増加しすぎることはかねてよりの懸案事項で、環境保全を最優先した観光地として工夫を続けています。近年は外国人の個人旅行の多様なニーズに対応するという観点からも、エコツーリズムに積極的に取り組んでいます。
長野県(軽井沢)
<出典元:写真AC>
国内きっての代表的な避暑地として知られ、夏のイメージが強い軽井沢ですが、実際には世界有数の活火山である浅間山、多様な種類の日本固有の野生動物や魚類、さらには、外国人保養地としての歴史から貴重な建築物などの文化施設も多く、様々な資源に恵まれています。
こうした資源を守りつつ、通年で来訪者数の増加に努めるエコツーリズムに古くから取り組んできた地域のひとつです。
鹿児島県(屋久島・奄美群島)
<出典元:写真AC>
鹿児島県に属する屋久島、奄美群島はいずれも世界自然遺産に登録されています。屋久島はその面積の約9割が森林で、樹齢千年を超える屋久島スギ原始林は特別天然記念物にも指定されています。固有種、希少種など多様な植物が生息し、登山、海、川と様々なアクティビティも可能なことから、質の高いガイドの育成に注力しています。
一方、奄美群島も、国内最大規模の亜熱帯照葉樹林、多くの固有な動植物、サンゴ礁などの自然環境に加え、自然に深く根付いた伝統芸能など、島独自の文化を体験するエコツーリズムに注力しています。
東京都(檜原村・小笠原諸島)
<出典元:写真AC>
意外に思われるかもしれませんが、地域によっては自然が豊かな東京都。たとえば、東京の奥座敷とも言われる西部の檜原村は、ブナの原生林や秋川渓谷などの自然資源と郷土芸能などの文化を合わせたエコツーリズムに取り組んでいます。
また、世界自然遺産でもある小笠原諸島も東京都の一部。ホエールウォッチングをはじめとしたダイナミックな自然資源と人間との共生を目指し、島の尊さを後世に伝える活動としてエコツーリズムに取り組んでいます。
沖縄県(西表島)
<出典元:写真AC>
日本最大のサンゴ礁域、さらに亜熱帯の森林など、雄大な自然に恵まれた西表島。イリオモテヤマネコに代表されるような、数多くの希少種、固有種が生息しており、生物多様性の基準で2021年に世界自然遺産に登録されました。
自然と、それに密接に関わる独特の文化とを融合させたエコツーリズムに注力しており、島をゾーニングして立ち入り人数を制限するなど、環境に配慮した秩序ある取り組みが特徴です。
5. エコツアーの探し方
ここまで読んで、エコツアーに参加してみたい!と思われた方に、エコツアーの具体的な探しかたをご紹介します。
1. 自治体のサイト
エコツーリズムに積極的な地域では、自治体のサイトでエコツーリズム関連情報を提供しています。具体的なエコツアーへのリンクも貼られていますので、お目当ての地域があればまずその自治体の公式サイトをチェックしてみましょう。
2. 環境省のサイト
環境省自然環境局が運営するサイト「エコツーリズムのススメ」では、エコツーリズム推進法で全体構想が認定された団体が掲載されています。日本各地のエコツーリズム推進協会がその取り組みや構想など、それぞれのポリシーを記載していますので、自分の関心や問題意識とマッチする地域を選ぶことができます。
3. 旅行会社のパッケージツアー
多くの旅行会社がガイド付きのエコツアープログラムを販売しています。エコツアーは、自然の奥深くに入り込み、体力を使うものも多いため、慣れたガイドが対応してくれるパッケージツアーから選ぶのも安心です。初級者向け~上級者向けまでさまざまなプランが用意されていますので、旅行会社に相談の上、選ぶのも良いでしょう。
また、旅行会社の阪急交通社ではSDGsを体験する海外旅行商品をそろえている特集がございますので、こういった特集を見て申し込むのもいいかもしれませんね。
4. 現地オプショナルツアー
一般の旅行に加えて、気軽にエコツアーに参加したい場合には、旅行サイト等で「エコツアー・自然体験」などを検索すると良いでしょう。2時間、半日、1日など、時間と予算に合わせて、さまざまなタイプのプランから選ぶことができます。
6. エコツアーの申し込み方
エコツアーは、インターネットやメール、電話などで申し込むことができます。人数に限りがあるツアーも多いので、特にハイシーズンや人気のツアーは早めの予約がおすすめです。また、エコツアーは天候や道路状況で中止になることもありえます。万一、中止になったときの代替策なども検討しておくと良いでしょう。
7. 海外のエコツーリズム事情
エコツーリズムの概念はもともと海外から来ており、世界にはエコツーリズムに積極的に取り組む国が多数あります。ここでは代表的な海外のエコツーリズムとエコツアー事情についてご紹介します。海外旅行へ出かける際の候補に加えてみてはいかがでしょうか。
オーストラリア
<出典元:写真AC>
海外でのエコツアー、初心者におすすめなのはエコツーリズムの先進国とも言われるオーストラリアです。観光立国で環境が整っている、日本からの直行便が多い、時差が少ないなど、オーストラリアは海外エコツアーを気軽に試す条件に恵まれています。
亜熱帯から砂漠まで気候帯が多様で、多くの珍しい動植物に触れ合えるほか、先住民アボリジニの文化を保護し、伝える手段としてもエコツアーは注目されています。また、国の施策としてエコツアーを行う会社の認証制度があるので、きちんとしたツアーに参加できるのも安心できるポイントです。
コスタリカ
<出典元:写真AC>
中央アメリカに位置するコスタリカは世界でも最も早くエコツーリズムの概念を実践した国として知られ、国土の4分の1が自然保護区域に指定されているほどです。
コスタリカは地形がバラエティに富んでおり、小さい国ながら多様で貴重な生態系を見ることができます。熱帯雨林のトレイル、「世界一美しい鳥」と呼ばれる野生のケツァールの観察、温泉が流れる川でのアクティビティ、珍しいカエルに出会うナイトウォークなど、手つかずの自然を感じられるツアーが豊富です。
ルワンダ
過去の内戦から立ち直り、急激な発展を遂げている東アフリカの国、ルワンダ。自然資源が豊富なこの国では、環境保護意識の高いハイエンドの観光客にターゲットを絞り、エコツーリズム戦略に力を入れて、過剰な観光客の殺到による資源破壊を避ける施策を取っています。
ルワンダのエコツアーで目玉といえば、「ゴリラトラッキング」。野生のマウンテンゴリラのファミリーに会えるこのツアーは、ゴリラ観察は1日1時間までと厳しい制限があり、参加費も高額ですが、世界中から参加希望者がやってきます。参加費の一部は、ゴリラの保護や繁殖のために使われています。
環境保全が待ったなしの世界的な課題となっている現在、エコツーリズムやエコツアーは、ますます注目度が高まる旅行のスタイルです。とはいえ、基本は旅行なので、まずは楽しみましょう!その体験から、素晴らしい自然や文化を未来に残すにはどうしたらいいのかについて、それぞれのレベルで考えるところにこそ意義があります。
エコツーリズムやエコツアーの仕組みや考え方を知って、これまでとは違う旅のスタイルを楽しんでみてくださいね。
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