公開日:
最終更新日:
昭和・平成・令和を駆け抜けた蒸気機関車「雨宮21号」乗車記
かつて全国で蒸気機関車が活躍していました。白煙を上げながら真っ黒な鉄の塊が進む姿は迫力があり、鉄道ファンでなくても心が踊ります。
北海道・遠軽町丸瀬布地区の「森林公園いこいの森」では、約100年前に製造された蒸気機関車が大自然の中を走り回っています。全国で唯一動態保存されている森林鉄道蒸気機関車「雨宮21号」に乗車しました。
もくじ
森林鉄道で活躍した雨宮21号
遠軽町(えんがるちょう)は、北海道の東側、オホーツク管内中部に位置する内陸の町です。丸瀬布(まるせっぷ)地区は2005年10月1日に遠軽町と合併するまで「丸瀬布町」として独立した自治体でした。町面積のほとんどが山林で、林業を主幹産業としています。同地区には豊かな自然を活かした「森林公園いこいの森」があり、キャンプ場や温泉が整備されています。園内2kmに線路が敷かれ、観光蒸気機関車「雨宮21号」が運行されています。
雨宮21号は、1928(昭和3)年に東京・深川区(現在の江東区)の雨宮製作所で製造されました。国産初の11トン機関車で、全長5m27cmとコンパクトな車体が特徴的です。全部で3両(18号・19号・20号)が製造され、昭和3年に丸瀬布町内の武利意(むりい)森林鉄道に投入されました。1949(昭和24)年に雨宮19号が車番変更され、「雨宮21号」となりました。
武利意森林鉄道は、1928(昭和3)年に国有林から伐り出した丸太や生活物資の搬送を目的に、北海道庁拓殖部林務課によって敷設されました。戦時中は木材の需要が高まり、最盛期は森林鉄道ながら、支線も含めて総延長84kmに達しました。しかし昭和中期になると、トラック輸送に変換されて森林鉄道は衰退します。1963(昭和38)年3月末に全線が廃止されました。
観光列車として第二の人生を送る
役割を終えた蒸気機関車が次々と解体されていく中、雨宮21号は地域住民の保存運動により解体をのがれて丸瀬布の営林署に保存されました。
その後、林野庁森林技術総合研修所林業機械化センター(群馬県)に移管協議が行われましたが、地域の方々などが「雨宮21号は貴重な歴史資料であり、地元に残すべき」と、要請活動や陳情、移管反対の署名行動などを展開。林野庁は移管を断念し、1976(昭和51)年に丸瀬布町(現在の遠軽町)に譲渡されました。
丸瀬布町は、雨宮21号の有効利用として、丸瀬布森林公園いこいの森内の旧武利意幹線の軌道の一部を使用して観光列車を走らせることを計画します。1980年に運行を開始。春から秋の土曜・日曜・祝日と夏休み期間(7月下旬~8月中旬)は、原則として毎日運転しています。昭和初期に希少性が評価され「北海道遺産」「準鉄道記念物」「林業遺産」「近代化産業遺産」に認定されています。
約12分の蒸気機関車の旅
いこいの森駅に雨宮21号が停車しています。小さな車体ながら水蒸気をあげて出発を待つ姿は迫力満点。運行時間は10時から16時30分で、12時30分を除いて30分間隔で出発しています。開園時に新造された開放型の客車のほか、大正14年に製造され岡山県の井笠鉄道で使用されていたレトロな客車が使用されています。席の指定はないので、好きな場所を選んでください。
蒸気機関車の始動は、とても手間がかかります。薪をくべて蒸気圧を上げる作業から始まり、注水、足回りの整備、油さしなど、数々の工程を経て午前10時の始発に備えます。レールの状況を判断しながら石炭をくべており、乗客が多いゴールデンウィークには8日間で1.5トンもの石炭を消費したこともあるそうです。
キップを買って改札を通ります。多くの人たちは、蒸気機関車を見るのが初めて。ワクワクしながら駅員さんに切符を切ってもらっています。出発に向けて機関士がボイラーに石炭をくべると、懐かしい臭いが漂ってきました。
定刻になり、ポォーという汽笛を鳴らして雨宮21号が出発します。約2㎞、12分ほどの短い旅が始まりました。公園内のキャンプ場では、バーベキューなどを楽しむファミリーが手を振っています。乗客も、それを見守る人も全員笑顔。森林からそよぐ風が心地よく、いつまでも乗車していたい気分になりました。
誕生100周年に向かって走り続ける
いこいの森駅に到着すると、あちこちから「楽しかった」という声が聞こえてきました。雨宮21号は2028年に「誕生100周年」を迎えます。これからもずっと、訪れる人たちを笑顔にしてくれることでしょう。
森林鉄道 雨宮21号
- 住所:北海道紋別郡遠軽町丸瀬布上武利
- 電話:0158-47-2466
- 実施期間:4月下旬~10月中旬
- 運行日:開園期間中の土・日・祝日
- 公式サイト:森林鉄道 雨宮21号
関連記事
Ranking北海道記事ランキング
-
吉田匡和
- 札幌市在住のよろずライターです。美味しい食べ物から温泉、穴場スポットや定番スポットの知られざる楽しみ方など、地元ライターらしい視点でワクワクを紹介します。