ペルー秘湯巡り/その2 『アウト・オン・ア・リム』神秘の鉱泉

温泉

アメリカ人女優シャーリー・マクレーン。名作映画「愛と追憶の日々」(1983年)でアカデミー賞主演女優賞を受賞、ヴェネツィア国際映画祭やベルリン国際映画祭でも女優賞を受賞しているハリウッドの重鎮です。

女優としてだけでなく、精神世界や自身の神秘体験を綴った書籍も多数執筆。中でも世界的なベストセラーになったのが、1983年に刊行された『Out on a Limb(アウト・オン・ア・リム)』です。

Out on a Limb(アウト・オン・ア・リム)

『Out on a Limb(アウト・オン・ア・リム)』。日本語翻訳本は1986年に出版されました。

>>「アウト・オン・ア・リム」 シャーリー・マクレーン[角川文庫(海外)] - KADOKAWA

本書に登場するシャーリーが初めて幽体離脱を体験したというペルーの鉱泉。「本当にそんな温泉があるの?」「あるなら、それは一体どこ?」と多くの方が思っているに違いありません。

今回はシャーリー・マクレーン著『アウト・オン・ア・リム』(山川絋矢、山川亜希子訳/角川文庫)を片手にシャーリーの足跡を辿りながら、彼女が経験した不思議な世界を疑似体験して頂きましょう。お手元に本書をお持ちの方は、ぜひ一緒にご覧ください。

目次

シャーリーの神秘体験はいつのこと?

まずはシャーリーと友人のデイビッドがペルーを訪れた時期を推察してみましょう。

1970年代後半に妻子ある男性との禁断の愛に終止符を打ったシャーリーは、デイビッドの誘いでペルーのアンデス地方へと向かい、そこで2週間半程度過ごしました。本書ではシャーリーのアンデス滞在最後の日に、新聞を読んでいたデイビッドが『ニューヨークですごい停電があったらしい』(P369)と話し、その後、町はずれの山の斜面に暮らす占い師にニューヨーク市長選の行方を尋ねています。

ニューヨークの大停電は1977年7月13日、ニューヨーク市長選は同年11月8日。そのことから、シャーリーが幽体離脱を体験したのは1977年6月の末ということになります。

ちなみにその占い師は『禿で指の長い男の人が勝ちます』(P373)と予言していますが、その言葉の通り、市長に当選したのは頭の禿げたエドワード・コッチ議員でした。

海抜ゼロメートル地帯から標高15,806フィート(4,818m)のアンデスへ

ニューヨークからリマのホルヘ・チャベス空港へと降り立ったシャーリーは、迎えに来てくれたデイビッドの車に乗って、一路アンデスを目指します。本書にはリマの"スーパーマーケット"と呼ばれたボデガ(個人商店)で買い物する2人の様子が書かれています。

インカコーラ

そこにはペルー名物のインカコーラが登場!46年も前からペルー人に愛されてきたんですね。

リマ市街を抜け中央自動車道を通過する2人、本書にはサン・マテオやチクラという地名も登場します。

中央自動車道

『・・・山の土はここでは濃い赤い色だった。鉄鉱石の色だとデイビッドが言った。』(P267)

ペルーの国旗

『・・・眼下には、曲がりくねった山道が見え、ずっと上、二万フィートの頂上にはペルーの国旗がはためいていた』(P267)

標識

『そして海抜一万五八〇六フィートで、私たちは一つの標識を見た。その標識はアブラ・アンティコナという鉄道の踏切のそばにあり、スペイン語で次のように書いてあった。"世界最高度の鉄道線路"。そしてその隣にもう一つの看板が立っていた。それには、"空飛ぶ円盤は存在する。UFOとの接触地点"とあった』(P268)

アブラ・アンティコナという地名より、「Ticlio(ティクリオ)」という別称のほうが有名でしょう。ここにはアンデス中央鉄道の最頂部であり、かつアメリカ大陸で最も高所に位置するティクリオ駅があります。シャーリーがみた風景は、21世紀の今もほとんど変わっていないようです。

神秘の鉱泉はジョクジャパンパにあり

ジョクラパンパ

『さあ着いた。ここがジョクラパンパだよ。僕らの泊まる場所だ』

『デイビッドは道路の向かい側にある一つのレンガ造りの建物を指した。二十五メートルほど行った所にもう一つ建物があるきりで、他には何も見えなかった。』(P269)

本書でいうジョクラパンパとは、Llocllapampa(ジョクジャパンパ)のこと。そう、前回のペルー秘湯巡り/その1でご案内した炭酸泉の湧く村がある場所です。シャーリーがはじめて幽体離脱を体験したという鉱泉は、ジョクジャパンパ地区にある「Baños Termales de Acaya(アカヤの温泉)」。アカヤの泉温は29度、リュウマチ性疾患や胃腸病、神経症などに効く薬湯として古くから利用されてきました。

レストラン・オリンピコ

『通りを隔てて、"ホテル"と向かい合っている煉瓦の建物は"めし場"と呼ばれていた』(P272)

シャーリーが"めし場"と呼んだ建物は、このレストラン・オリンピコのこと。私が訪れた時は閉まっていたので中の様子は分かりませんでしたが、地元の人が利用する食堂であることは間違いありません。

"めし場"の脇の通路

"めし場"の脇の通路を下ると、マンタロ川へと降りることができます。足元が悪く、シャーリーが『階段は急で、うす暗がりの中で踏みはずしはしないかと気になった』(P273)と心配していたるのも頷けますね。

マンタロ川

『下の方から水が流れている音が聞こえてきた。そして日没の光の中に、すばらしいマンタロ川の全貌が現れた』

『「こっちだよ」とデイビッドは言って、煉瓦の囲いのようなところに私をつれていった』(P273)

写真右手のトタン屋根の建物は料金所。シャーリーが訪れた46年前は無料だったようですが、現在は有料となっています。

10.JPG

『彼は粗末な木の戸を開けて中に入り・・・』(P273)ということで、私も早速中へ入ってみました。

これがアウト・オン・ア・リムの世界

鉱泉

デイビッドが『これが、有名なアンデスの鉱泉だよ』とシャーリーをいざなったのがここ。屋根に作られた明り取りから差し込むオレンジ色の光が、黄金色の影を床に落としています。青く塗られた壁は湿気でボロボロになっているものの、その模様が天界に延びる雲のようにも見えてなんともいえず幻想的。古びた小屋なのにその空間はどこか神々しくもあり、不思議な感覚を覚えました。

鉱泉

湯船の底から炭酸ガスの泡が湧き出ているのが確認できます。ただしシャーリーが描写するほどたくさんの量ではありません。彼女が大げさなのか、時代とともに湯船の底に砂や砂利が溜まってガスの出が悪くなっているのか・・・。

中はそれほど暗くはありませんでしたが、私もデイビッドよろしく持参したロウソクに火を灯し、鉱泉に浸かってみることにしました。

鉱泉

『意外なことに、水は暖かく、まるでシャンペンみたいな感じに泡立ち、パチパチと音をたて、肌をチクチクと刺激した』

・・・シャーリーはこう書き記していますが、いやいや、冷たい!浸かってしばらくは、湯船の中でブルブル震えていました。

しかし、肌にまとわりつく炭酸ガスの刺激は確かに気持ちよく、なんだか浮遊感もあります。空間が閉ざされていることで不思議な落ち着きも感じられ、徐々に気持ちがリラックスしてくるのが分かりました。

シャーリーはデイビッドの導きの中でロウソクの光と一体になり、瞑想状態に入っていきます。

『突然、私は周囲のエネルギーと私の呼吸の動きが互いに関連し合っているのを感じた。空気自体が鼓動しているようだった。いや、それよりも私が空気だった。私は空気であり、水であり、暗闇であり、・・・』

そう感じることができれば、どれほど素晴らしいでしょう!

鉱泉

肌を刺激する炭酸。オレンジ色の光に輝く透明感のあるモスグリーンの鉱泉は、神々しくさえ感じます。 鉱泉から出た後は、私もシャーリー同様寒さで歯がカチカチ鳴るくらいでしたが、服を着てしばらく経つと、身体の芯から温まるのを感じました。

プールタイプの温泉も

プールタイプの温泉

『アウト・オン・ア・リム』では触れられていませんが、アカヤには個室だけでなく、温泉プールもあります。46年前には、この温水プールはなかったのかもしれませんね。

アンデスの強い日差しのおかげで戸外は暑いくらいですが、ここも水温はやはり低め。しかも子供が大はしゃぎしているわ、湯船の隅っこには藻が浮いているわで、ちょっと入る気にはなれませんでした。

本書にはウィチュカプキオ温泉も登場!

前回のペルー秘湯巡り/その1でご紹介したエメラルドグリーンに輝くウィチュカプキオ温泉。実はシャーリーとデイビッドはここも訪れているんです。

ウィチュカプキオ温泉

『半マイルほど行くと木でできた小屋があり、そこから石の階段が山肌にくり抜かれた洞穴へと下っていた』(P297)

ウィチュカプキオ温泉

『石段をおりていくと、そこのほうに泡立つ硫黄泉があった』(P297)

これはまさにウィチュカプキオ温泉そのもの!アカヤの温泉の上流にあることや、『半マイル(約1.6km)ほど行くと木でできた小屋があり"』(P297)いう表記も合致しており、間違いないと思われます。

アメリカの大女優がこの辺りを歩き回り、デイビッドと精神世界や霊的領域について語りあい、すばる座から来たというマヤンの言葉に耳を傾けたりしていたなんて、想像するだけでもワクワクしますね。

最後に正直な感想を

シャーリー・マクレーンが幽体離脱を体験した神秘の湯、いかがでしたでしょうか。

著書のほか、YouTubeには1987年にテレビ映画として放映されたものがアップされているので、そちらも合わせてご覧になると、シャーリーの世界をよりリアルに疑似体験できることでしょう。(エピソードや細かい描写は著書とは違うようなので、あくまでイメージということで)

ただし彼女がペルーを訪れた46年前とは人も環境もずいぶん変わってしまいました。シャーリーが描写するほどアンデスの人々はみすぼらしくありませんし、民族衣装を着る人もめっきり減りました。人や物の往来が増えたことで便利にはなりましたが、その分自然は失われ、村人がUFOの話題を口にすることもありません。

私は朝9時過ぎにアカヤを訪れましたが、しばらくすると隣の個室から地元の人たちのはしゃぐ声や、バシャバシャと水を叩く音が聞こえてきて、とても瞑想なんてしていられませんでした。

また後にジョクジャパンパ村の役場の人と話す機会があったのですが、村の誰一人としてシャーリーの名前も『アウト・オン・ア・リム』のことも知りませんでした。もし地元の人が知っていれば、観光資源としてこの辺りをもっと活かすことができたでしょうに・・・。

それでも、世界中のスピリチュアルファンが焦がれるシャーリーの湯を体験できたことは、とてもいい思い出になっています。『Out on a Limb』とは「木の上の果実(真理)を得るためには、"危険を冒して"枝の先まで行かなければならない」という意味。皆さんにとっての大切な"木の上の果実"を手に入れるために、いつかペルーのアンデスを訪れてみてくださいね。

Baños Termales de Acaya/アカヤの温泉

  • 住所:ハウハのバス停から西へ23.3kmの地点(フニン州)
  • 営業時間:8:00~17:00/無休
  • 料金(個室、温水プール共):大人3ソレス、子供2ソレス

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原田慶子

ペルー・リマ在住ライター。ペルーの観光情報からエコやグルメの話題などを幅広く執筆。ペルーに関する情報誌等の取材協力。

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