棚田って何? 棚田の絶景が楽しめる全国のスポットも紹介

棚田

美しい曲線を描きながら広がる棚田は、日本の原風景のひとつ。季節の移ろいとともに姿を変えていく光景を求めて、旅の目的地としても人気となっています。

この記事では、棚田って何? という疑問から始まって、全国各地にある絶景が楽しめる棚田を紹介します。雲海が包み込む棚田から、夜空の月を映す棚田、夕日が沈む海を望む棚田まで、日本には魅力的な棚田がいっぱい。思わず行ってみたくなる棚田が見つかるかもしれませんよ。

目次

<1. 棚田とは>

<2. 棚田にも色々ある? 呼び名による違いとは>

<3. 棚田と普通の田んぼは何が違う?>

<4. 棚田では米だけでなく、わさびなども栽培>

<5. 全国の有名な棚田はここにある>

<6. 海外にも棚田はある?>

1. 棚田とは

棚田とは、山の斜面や谷間の傾斜地などに階段状に作られた田んぼのこと。畦(あぜ)の重なる形が棚に似ていることから、「棚田」と呼ばれるようになりました。日本には約237万haの田んぼがありますが、そのうち約15万haが棚田だとされています。

日本各地の山間部にみられる棚田ですが、とくに西日本には棚田の約3分の2があります。また、新潟県の頸城(くびき)丘陵、岡山県の吉備高原、熊本県の阿蘇・九重山山麓は、棚田が集中する地域です。西日本の棚田は、石積みの男性的な棚田が多く、海に面して作られた棚田もみられるのが特徴。一方、東日本の棚田は、土で固められた女性的な曲線の棚田が多いのが特徴です。

時代の流れとともに減少傾向にある棚田ですが、近年はその価値が見直され、棚田を保全する活動が各地で行われています。美しい景観を観光資源として活用したり、オーナー制度を導入して都会の人との交流を深めたりするのもその一環です。「日本のピラミッド」とも呼ばれる棚田は、農民がつないできた努力の結晶。まさに、未来へと受け継いでいくべき、大切な遺産なのです。

2. 棚田にも色々ある? 呼び名による違いとは

ところで、棚田とよく似た言葉に、「千枚田」と「段々畑」がありますよね。でも実は、棚田とは少し意味の違う言葉なのです。そこで、「千枚田」と「段々畑」が何を指すのかみていきましょう。

2.1 千枚田

丸山千枚田
<出典元:写真AC

千枚田とは、たくさんの小さな棚田が並び、その数が千枚にも達しようかという景観を表した言葉です。つまり、とくに圧倒的な景観をもつ棚田のことを、千枚田と呼ぶのです。全国の有名な千枚田には、千葉県鴨川市の大山千枚田、石川県輪島市の白米(しろよね)千枚田、三重県熊野市の丸山千枚田などがあります。たとえば白米千枚田は、実際に1,004枚もの田んぼがあり、機械も入らない狭さの田んぼが連なっています。

2.2 段々畑

段々畑
<出典元:写真AC

段々畑とは、傾斜地などに階段状に作られた畑のこと。すなわち、お米を作る棚田に対して、野菜や果物を作るのが段々畑です。

棚田は水を張るため、区画が水平に作られますが、段々畑は斜面で作物を栽培することもあるのが特徴。とくに瀬戸内海の沿岸や島々に多くみられ、愛媛県にはみかんの段々畑が広がっています。

3. 棚田と普通の田んぼは何が違う?

傾斜地に広がる棚田と、平地に広がる田んぼ。その大きな違いは、水の利用方法です。平地の田んぼは、大きな川から用水路を通し、そこから田んぼへ水を直接流します。それに対して棚田は、斜面の上にため池や水路があり、上の田んぼから下の田んぼへと順番に水を流していくのです。

平地の田んぼよりも労力のかかる棚田ですが、より美味しいお米を生産できる場であることを知っていましたか? 昼夜の温度差が大きく、綺麗な水源にも近いため、棚田では上質なお米を作ることができ、棚田米ブランドとして人気になっています。また、生き物たちが田んぼと水路を自由に行き来できる棚田は、トンボやカエル、ホタルなど、多くの生き物たちが豊かに生息できる場。さらに、水資源を貯えたり、洪水や地すべりを防止したりと、人々の暮らしを守る機能も兼ね備えています。

棚田の保全が近年行われるようになったのも、こうした棚田の価値が見直されたため。一つひとつの田んぼは小さくとも、棚田がもつパワーは大きいのです。

4. 棚田では米だけでなく、わさびなども栽培

多くの棚田で作られているのは、もちろんお米。でも棚田で栽培される作物は、それだけではありません。

静岡県の伊豆市にある「筏場(いかだば)のわさび田」は、わさびを栽培する棚田。約15haもの土地に豊かな湧き水が流れるわさび田があり、日本一の水わさびの産地となっています。その栽培方法は世界農業遺産にも認定され、棚田ならではの石積みの美しい景観が広がります。

同じく静岡県では、お茶を栽培する段々畑も多くみられます。静岡市にある「奥長島のだんだん茶畑」、浜松市にある「瀬尻の段々茶畑」などが有名で、見上げるほどの急斜面に石垣が積み上げられた光景は圧巻です。また、浜松市にある「大栗安(おおぐりやす)の棚田」は、お茶とお米が半分ずつ栽培され、そのコントラストが美しいと評判です。

5. 全国の有名な棚田はここにある

春には水を張った姿が輝き、夏には緑、秋には黄金色の稲穂が煌めく棚田は、四季折々の美しさで癒しを与えてくれる場所。ここからは、全国の中でも絶景として名高い棚田を6つ厳選して紹介します。

5.1 星峠の棚田(新潟県)

星峠の棚田(新潟県)
<出典元:写真AC

山間に多くの棚田が広がる、新潟県の頸城丘陵。その中でもとくに美しい棚田が、十日町市にある「星峠の棚田」です。

大小約200枚もの田んぼが斜面に広がる圧巻の風景は、2009年のNHK大河ドラマ『天地人』のオープニングにも使われました。地形の関係で朝霧が発生しやすく、棚田と雲海が織り成す風景を求めて、多くのカメラマンが訪れます。

雲海が包み込む棚田を朝日が照らし出す風景は、幻想的なオレンジ色の世界。また、春先と晩秋には田んぼの水面が光り輝き、その姿は鏡のよう。夕日や星空も美しく、季節や時間によって風景が変化する様は、何度訪れても飽きません。2022年に農林水産省の「つなぐ棚田遺産」に認定された、米どころ新潟を代表する棚田です。

  • 住所:新潟県十日町市峠
  • 関連サイト:星峠の棚田(一般社団法人 十日町市観光協会)

5.2 姨捨の棚田(長野県)

姨捨の棚田(長野県)
<出典元:写真AC

棚田が多くみられる長野県でもとくに有名なのが、千曲市にある「姨捨の棚田」。川中島の戦いの舞台となった善光寺平、そして千曲川を見下ろす斜面に約1500枚の田んぼが広がる棚田です。

実はこの棚田、『古今和歌集』に「姨捨山の月」と詠まれた、平安時代からの月の名所。江戸時代には文学や絵画の題材にもなり、とくに春、水が張られた田んぼに月が移ろいよく姿は、「田毎(たごと)の月」として知られるようになりました。

1999年には全国で初めて棚田として国の名勝に指定され、2010年には重要文化的景観にも選定。現在では盆地の夜景を一望できるスポットとしても人気で、JR姨捨駅から歩いて約15分と、気軽にアクセスできる棚田としても親しまれています。

  • 住所:長野県千曲市八幡
  • 関連サイト:姨捨の棚田(信州棚田ネットワーク)

5.3 大山千枚田(千葉県)

大山千枚田(千葉県)
<出典元:写真AC

棚田は都会から遠い山間部へ行かないと見られない......というイメージがあるかもしれませんが、東京から車で約2時間の場所にも有名な棚田があります。房総半島の南部、千葉県鴨川市にある「大山千枚田」です。

東京から一番近い棚田として知られ、375枚もの田んぼが階段状に広がる光景は、たまらない懐かしさに溢れています。ため池や水路などがなく、日本で唯一、雨水だけで耕作を行う棚田としても貴重。都会の近くにありながら、多様な動植物が生息する場となっています。

この地で作られるお米・長狭米(ながさまい)は、粘りの強さと甘みが美味しく、明治天皇の大嘗祭(だいじょうさい)に献上された歴史も。毎年秋から冬にかけて、LEDライトを並べて開催されるライトアップイベント「棚田のあかり」も人気です。

  • 住所:千葉県鴨川市平塚540
  • 関連サイト:大山千枚田(鴨川市役所)

5.4 下赤阪(しもあかさか)の棚田(大阪府)

下赤阪の棚田(大阪府)
<出典元:写真AC

同じく都会から近い棚田は、大阪府にもあります。大阪市内から電車とバスで約1時間、大阪府唯一の村・千早赤阪村(ちはやあかさかむら)にある「下赤阪の棚田」です。

室町時代の『太平記』にも記されている、歴史ある棚田として貴重な存在。楠木正成(くすのきまさしげ)の戦いの地である下赤阪城址は、棚田を見下ろす絶好の展望スポットです。天気の良い日には、日本一の超高層ビル・あべのハルカスも望み、ここでしか見られない新旧のコントラストを楽しめます。

ボランティアによる保全活動が盛んで、田植えの時期には伝統的な衣装を着て「早乙女田植え」を開催。さらに11月には、約3,000個の灯籠で棚田をライトアップする「棚田夢灯り」も行われます。

  • 住所:大阪府南河内郡千早赤阪村東阪25
  • 関連サイト:下赤阪の棚田(大阪観光局)

5.5 大垪和西(おおはがにし)の棚田(岡山県)

大垪和西の棚田(岡山県)
<出典元:写真AC

岡山県の吉備高原は、全国の中でも棚田が多く集中する地域。とくに美咲町にある「大垪和西の棚田」は、瀬戸内地域で最大規模の棚田で、360度すり鉢状に約750枚もの田んぼが広がります。

棚田の独特な曲線が美しく、晩秋にみられる雲海、そして夕日に染まる風景も人気の棚田。ビューポイントや周遊コースが整備され、のんびりと棚田の風景を楽しめるほか、この地で育った棚田米は、町内のお店で名物の卵かけご飯として味わえます。

また、農林水産省の「日本の棚田百選」にも選定。そのパンフレットの表紙を飾ったのは、他でもないこの棚田でした。2022年には「つなぐ棚田遺産」にも認定され、活発な保全活動が行われています。

  • 住所:岡山県久米郡美咲町大垪和西419-1
  • 関連サイト:大垪和西の棚田(美咲町 産業観光課)

5.6 浜野浦の棚田(佐賀県)

浜野浦の棚田(佐賀県)
<出典元:写真AC

山間部に多くみられる棚田ですが、全国には海沿いの斜面に広がる棚田もあります。佐賀県玄海町、玄海国定公園内にある「浜野浦の棚田」は、そんな海に面した棚田として有名です。

海に流れ込む浜野浦川に沿って、大小283枚の田んぼが連なる石積みの棚田。西に面して入り江があるため、夕暮れどきには棚田の向こうの海へ沈む夕日を眺められます。なかでも美しいのは、4月下旬~5月上旬、田植え前後の夕暮れどき。水の張られた幾層もの棚田を、海の彼方へ沈む夕日がオレンジ色に染めていく光景は、まるで絵画のような美しさです。ロマンチックな光景から、「恋人の聖地」にも認定され、結婚式を挙げることもできます。

  • 住所:佐賀県東松浦郡玄海町浜野浦
  • 関連サイト:浜野浦の棚田(玄海町役場)

6. 海外にも棚田はある?

ここまで日本の有名な棚田をみてきましたが、もちろん海外にも棚田はあります。とくにアジアの山岳地帯に多く、なかでも有名なのが、ユネスコの世界遺産に登録されている3つの棚田です。さっそく紹介しましょう。

まずは、世界最大規模の棚田として知られる、中国南部・雲南省にある「紅河ハニ棚田」です。少数民族のハニ族によって1300年かけて作り上げられた棚田は、およそ3,000段、その標高差500mと、まさに圧倒的な規模を誇ります。田んぼの水面が鏡のように輝く風景、そして夜明けに包まれる雲海など、その絶景を求めて多くの人が集まる棚田です。

フィリピン・ルソン島北部にある「コルディリェーラの棚田群」は、"天国への階段"と呼ばれる壮大な棚田。2000年もの年月をかけて少数民族のイフガオ族によって作られ、棚田の総延長は地球半周分の2万kmにも達するといわれます。現在でも豊かに稲が植えられた棚田は、まさに天国へと続いていくかのような風景です。

リゾート地として人気のインドネシア・バリ島にあるのは、「ジャティルイ・ライステラス」と呼ばれる棚田。9世紀頃から継承されてきた、ヒンドゥー教の哲学に基づく水利システム"スバック"による棚田です。その水路は寺院によって管理され、バリ島を象徴する文化的景観となっています。

ジャティルイ・ライステラス
ジャティルイ・ライステラス<出典元:写真AC

日本の原風景として、そして守っていくべき大切な遺産として、今日も美しく輝いている棚田。そんな棚田を訪れる旅は、過去を思うだけでなく、未来を想像することにもつながるのかもしれません。棚田には、見る人の気持ちを懐かしさで包み込み、明日を照らす光を感じさせてくれる、不思議な魅力があります。思わず心動かされてしまう瞬間を求めて、棚田の旅へ出てみませんか?

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手塚 大貴

沢木耕太郎氏の『深夜特急』がきっかけで、アジアやヨーロッパ、南米など世界各地をひとり旅。オリンピックやサッカーワールドカップなど、スポーツ観戦の旅も好き。実は世界遺産検定マイスター。旅エッセイやコラムも得意としています。

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