公開日:
最終更新日:
アムステルダム散歩がもっと楽しくなる破風図鑑【後編】
前編では、木造の「三角破風」、ルネサンス様式の「階段状破風」、商人の「スパウト破風」をご紹介しました。後編では、17世紀アムステルダム発祥の「ネック破風」から、現在にいたるまでの破風の様式と、それぞれの破風を持つ歴史的建造物をご紹介します。
>>「アムステルダム散歩がもっと楽しくなる破風図鑑【前編】」はこちら
目次
ルイ14世様式のネック破風 halsgevel
ネック破風(halsgevel)は梁から垂直に立ち上がる「首(ネック)」を持ち、その両側が砂岩の装飾で縁取られます。頂に三角または半円形のペディメントを冠し、貝殻や植物などのレリーフがほどこされ、卵形窓を設けるものもあります。
ネック破風は1640年から1770年ごろに流行し、18世紀前半にはアムステルダムで最も一般的な様式になりました。それまでの素朴な破風とは一線を画す、華やかなルイ14世様式です。
<クロムハウトの家(Cromhouthuizen)>
ヘーレン運河沿いに堂々とそびえる、『クロムハウトの家(Cromhouthuizen) 』は、隣り合う4棟にネック破風がある1662年建造の邸宅です。アムステルダムの商人、そして美術品収集家として財を成したヤコブ・クロムハウトのために、建築家フィリップス・フィングボーンスが設計しました。
当時、ほとんどのネック破風はレンガ造りでしたが、『クロムハウトの家』は風格のある石造りです。1975 年には『聖書博物館(Bijbelsmuseum) 』がオープンしました。
聖書博物館 Bijbelsmuseum
- 住所:Herengracht 366-368, 1016 CH Amsterdam
- アクセス:トラム2, 12番Koningsplein下車徒歩4分
- 開館時間:火~日 11:00~17:00/ 月曜定休
- 入場料:大人8ユーロ、18歳以 4ユーロ、4歳以下無料
上の写真は、中央の「階段状破風」の建物をご紹介するために前編で使用したものですが、向かって右隣の建物はアムステルダムで最初に建てられたネック破風です。
ネック破風を考案したオランダ人建築家フィリップ・フィングボーンスによって、1638年にヘーレン運河沿いに設計されました。豪華な内装をもつこの建物は現在オフィスとして利用されています。
ネック破風は後に、階段状破風と組み合わせた「階段状のネック破風(verhoogde halsgevels)」としても発展しました。
ヘーレン運河168番地
- 住所:Herengracht 168, 1016 BP Amsterdam
- アクセス:トラム13, 17番Westermarkt下車徒歩3分
- 外観のみ見学可
エレガントな釣鐘破風 klokgevel
教会の鐘のようなシルエットをもつ釣鐘破風(klokgevel)は、ネック破風から発展した様式で、1660年から1790年頃に人気を集めました。
レンガの頂にペディメントを載せるネック破風とは異なり、釣鐘破風は最上部までレンガが積み上げられます。レンガの縁は、当時流行していた白髪のウィッグのような装飾で縁取られます。
<1669年建造の「階段状の釣鐘破風(verhoogde klokgevel)」>
ネック破風から釣鐘破風への変遷をうかがえる、1669年建造の「階段状の釣鐘破風(verhoogde klokgevel)」が、ブラウブルグワル通り22番地に遺されています。
底部にネック破風のような直角の立ち上がりを持ち、その上には釣鐘破風が造られているユニークなデザインです。
アムステルダムに唯一現存する「階段状の釣鐘破風」ですので、近くを散歩することがあればぜひ見上げてみてください。
ブラウブルグワル通り22番地
- 住所:Blauwburgwal 22, 1015 AT Amsterdam
- アクセス:トラム2, 12, 13, 17番Nieuwezijds Kolk下車徒歩3分
- 外観のみ見学可
釣鐘破風の装飾は初期こそシンプルだったものの、18世紀になると、花輪や果物のモチーフ、巻軸装飾、アシンメトリーな棟飾りなど、ルイ15世様式の豪華なものが流行しました。
カイザー運河では、シンプルな初期の釣鐘破風(上写真の右から2軒目)と、ルイ15世様式の華麗な釣鐘破風(上写真の右から3軒目)が隣り合っています。
カイザー運河561, 563番地
- 住所:Keizersgracht 561-563, 1017 DR Amsterdam
- アクセス:トラム2, 12番Keizersgracht下車徒歩4分
- 外観のみ見学可
17世紀の豪奢なフレーム破風 lijstgevel
フレーム破風(lijstgevel)は、屋根と壁を水平材で仕切る様式です。1660年代に考案され、主に片蓋柱(壁面から浮き出す装飾用の柱)と共に、間口の広い邸宅に用いられてきました。
1619年建造の『De Hoop』のフレーム破風(上写真)は、独創的な四分円のペディメントを持ち、その中央に「Hoop(希望)」を象徴する女性像が立っています。カイザー運河には豪華な邸宅が多いのですが、一際目を引くデザインです。
De Hoop
- 住所:Keizersgracht 209, 1016 DT Amsterdam
- アクセス:トラム13, 17番Westermarkt下車徒歩2分
- 外観のみ見学可
かつてレンブラントが暮らし、現在は博物館になっている『レンブラントの家(Museum Het Rembrandthuis)』にも、三角形のペディメントを持つ、均整のとれたフレーム破風が遺されています。
レンブラントの家は、ゴッホ美術館やアンネ・フランクの家などとともに観光客に人気のスポットです。ご訪問の際は、ぜひ外観も眺めてみてください。
レンブラントの家 Museum Het Rembrandthuis
- 住所:Jodenbreestraat 4, 1011 NK Amsterdam
- アクセス:メトロ51, 53, 54番/ トラム14番Waterlooplein下車徒歩4分
- 開館時間:10:00~18:00、月曜定休
- 入場料:大人15 ユーロ、17歳以下6ユーロ、6歳未満無料
大衆化した18, 19世紀のフレーム破風
18世紀以降、間口の狭い家屋にも簡素なフレーム破風が造られ、水平材の上部には屋根裏部屋が設けられるようになりました。
さらに経済が停滞した19世紀には、古くなった破風を取り替える際の、安価な改修工法としてフレーム破風の需要が高まります。
かつて、階段状破風やスパウト破風、ネック破風、釣鐘破風と多彩な様式を誇ったアムステルダムの建造物は、その多くが倹約的なフレーム破風に改築されてしまいました。現在もなお、フレーム破風が最も一般的な様式です。
私の暮らす住宅街も、そのほとんどがフレーム破風なので、運河沿いの表情豊かな家々を眺めると、おのずと心が弾みます。様々な時代の建物がひしめき合っているのが、アムステルダムの魅力です。
※観光施設の詳細やアクセス方法など掲載内容は2022年5月現在のものです。
関連記事
Rankingオランダ記事ランキング
-
Kayo Temel
- オランダ在住。アムステルダムの美術アカデミーで絵画を学び、イラストレーターとして活動中。20年の在蘭経験を活かして、オランダを満喫するためのローカルな情報をお届けします。