フランス最古の聖なるオークの木

オークの木

北フランス、アルヴィル・ベルフォース村の教会の敷地内には、推定樹齢1200年のフランス最古のオーク(ヨーロッパナラ)の大木があります。この大木は、幹の内側にふたつの極小礼拝堂を抱く聖なる木として、国の無形文化財にも認定されています。類まれで神秘的な、アルヴィルのオーク(Chêne d'Allouville)の物語をご紹介します。

目次

ユニークな外観

聖クォンタン教会

アルヴィル村の聖クォンタン教会の鐘楼の向かいに位置した、ユニークな外観の大きな木。私がこの木を初めて見つけた時の印象は、「なんてメルヘンチックな可愛い木!」でした。まるで、幹の穴からひょっこり、くまのプーさんが現れそうな感じだったのです。

オークの木

ヨーロッパでは馴染みの深いオーク(ヨーロッパナラ)。木の高さは18m、枝を張った円周は15mにも及びます。その幹には縦長の穴が空けられていて、根元から幹を半周するように木製の階段が取付けられています。

オークの木

実はこの大木は、推定樹齢1200年のフランス最古のオークの木でした。傍らに建てられた教会は18世紀のものですが、木はその遥か昔、9世紀からここに存在しているのです。そして、その幹の内側に、聖母像を奉った極小礼拝堂を抱く、類まれな聖なる木だったのです。

歴史を生きてきた聖木

ヨーロッパでは元々、長寿であるオークの木は、「聖なる樹木」として自然崇拝されてきた歴史があるそうです。

オークの木

アルヴィル村のオークがいつ植えられたのか、正式な記録はありません。

911年にノルマンディー王国誕生を祝って植えられた、という説もありますが、科学者たちの見解では、それ以前だろうということです。ノルマンディー王国の君主からイングランド王となったウィリアム一世(征服王ギョーム)が、軍隊を率いてイングランドへと向かう途中、この木の下で休んだ、という伝説もあります。

オークの木

この木が最初に記録に登場するのは、1696年のこと。戦が繰り返されていたこの地域で、教区司祭のジャック・ドゥラランド神父が、木の傍に教区民を集め、既にくり抜かれていた木のくぼみに聖母像を滑り込ませて、平和への祈りを捧げました。こうして聖なるオークの木が誕生し、人々の信仰心のよりどころとなったのです。

現在、幹内は極小の礼拝堂で、入口には、そのことを記した木製の板が掛けられています。

幹の中に礼拝堂

長い歴史の中で、聖なる木は、何度も破壊される危険から生き残ってきました。とりわけフランス革命時には、権力者であった聖職者を憎む群衆に燃やされそうになりましたが、村の教育者の説得によって、難を逃れることが出来ました。19世紀には、ナポレオン三世の皇后ウジェニーから、金色に塗られた聖母の木像が寄贈されています。

オークの木

その頃には、木は「歴史的記念碑」として広く認識され、多くの人が訪れるようになったので、大規模な修復工事が施されました。礼拝堂の内側は、17世紀のスタイルで羽目板に覆われ、新しい祭壇が設けられました。損傷の酷い幹の部分は、鱗型の木片で覆われ、欄干つきの階段が造られました。1912年には、稲妻に直撃され、20世紀末には大木が倒れないように、金属製の丈夫なサポートが取り付けられました。

再生保存プロジェクト

今日では、再生保存プロジェクトが設置され、オークの木は常に観察され、根を保護し、破損や病気など、木への負担を可能な限り回避する努力が続けられています。木を痛めることなく、安全に観光客が訪問できるように、木の周囲も整備されました。

木の傍らには、末永くこの聖なる木を守ってゆくための募金箱が設置されています。「あなたの寄付は、この由緒ある木の維持と保護のために使用します」と明記されています。

幹内のふたつの礼拝堂

では、幹の内部にある二つの礼拝堂に、ご案内します。

聖母礼拝堂(Chapelle de la Vierge)

地上階にあるのは「聖母礼拝堂」です。人ひとり通行するのがやっとの程の、細長い穴を通り抜けて中に入ります。

聖母礼拝堂

中の広さは、長さ1.75m、幅1.17m、高さ2.28m。中央にある木製の祭壇には、聖母像が設置されています。寄木細工の8角形の天井の真上に、もうひとつの礼拝堂が位置しています。

聖母礼拝堂

隠者の部屋(Cellule ermitale)

2階にある礼拝堂は、「隠者の部屋」と呼ばれています。当初ここは、神父が寝泊まりするために造った空間でした。極小の「庵」という訳ですね。

隠者の部屋 

こちらは小さなドアを押して中に入ります。正面には、木製のキリスト像が奉られています。その上部に天井はなく、幹の内部がむき出しになっています。

隠者の部屋

私はこの場所を何度も訪ねていますが、礼拝堂に入るといつも、畏怖のような緊張感が沸き上がってきます。ひんやりとして薄暗い幹の内側で、「偉大なるもの」と一人で向き合うような気分になるのでしょうか?

さいごに

アルヴィル村の聖なるオークの木の物語、いかがでしたか?

遠い昔から、移り行く時代や人々の生死を目撃してきたこの聖なる木には、現在のコロナウィルス騒動は、どのように映っているのでしょう?

秋も深まり、黄色くなったオークの木の葉が散りゆくまで、あと少し。木の下には、今年も、たくさんのどんぐりが落ちていました。少し拾って、お守りにしようかな。もうすぐ、ヨーロッパには厳しい冬がやってきます。

どんぐり

みなさま、お身体に気をつけて。心軽やかに、旅に出られる日が、早く戻ってきますように。

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原田さゆり

旅・文化・猫を愛する、フランスの田舎在住者。フランス中を旅しています。

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