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【アルジェリアその④】近代建築の巨匠に影響を与えた、中世イスラム教の村「ムザブ」へ

記事投稿日:2020/07/08最終更新日:2020/07/09

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東京都にはユネスコの世界遺産が2件、登録されています。

ひとつはフェリーで片道25時間半かかる、都内(!)であること忘れがちな「小笠原諸島」と、もうひとつがJR上野駅から徒歩で行ける上野公園内の「国立西洋美術館本館」です。今回は国立西洋美術館を設計した建築家が着想のヒントを得たとされる、現在でも敬虔なイスラム教徒たちが暮らすオアシスを、アルジェリア南部に訪ねました。電車で簡単には行けませんでしたが...。

>>>【アルジェリアその③】「美しい」と名付けられた古代ローマ遺跡と、皇帝の名前の都市 の記事はこちら

目次

「国立西洋美術館本館」は3大陸で登録された世界遺産のひとつ

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(上野公園にある「国立西洋美術館本館」)

上野公園にある「国立西洋美術館本館」は、正しくは「ル・コルビュジェの建築作品―近代建築運動への顕著な貢献―」の構成資産のひとつとして、日本以外に6ヶ国(フランス、アルゼンチン、ベルギー、ドイツ、インド、スイス)、3大陸(ヨーロッパ、アジア、南アメリカ)の広範囲で、2016年にユネスコの世界文化遺産に登録されました。登録名にある「ル・コルビュジェ」とは建築家の名前でスイス生まれ、フランスで暮らし、1955年に「国立西洋美術館本館」の基本設計を行い、4年後の1959年に竣工しました。彼が設計した他の代表的な16作品と共に、合計で17作品が世界文化遺産に登録されており、初めて複数の大陸にわたって登録されています。

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(2019年に開催された「ル・コルビュジェ展」)

ル・コルビュジェ(1887-1965)は「近代建築の巨匠」のひとりと称され、1926年39歳の時に「近代建築の五原則」を発表して注目を集めました。彼の「近代建築の五原則」に基づき、理想に最も近かったとされる美術館が、先に挙げた「国立近代美術館本館」です。

ル・コルビュジェの生涯、考え方は下記にまとめられていますので、ご興味をお持ちの方はご参照ください。

【関連記事】

「国立西洋美術館で開催中の『ル・コルビュジエ 絵画から建築へ―ピュリスムの時代』に行ってみよう」

既に彼の企画展自体は終了していますが、彼が設計した世界遺産の美術館には入館できます。通常、個人が所有、管理している住居や施設は外観だけで、内部は見られないので、名画鑑賞を兼ねて行ってみてください。

近代建築の巨匠とアルジェリアとの出会い

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(フランス時代の建物が並ぶアルジェ市内の街並み)

北西アフリカの一角位置するアルジェリアは、1962年までフランス領でした。ル・コルビュジェは1930年に首都アルジェの都市計画を次々に発表し、1937年50歳の時には「アルジェ地方計画委員会」の委員に選ばれています。1931年にはアルジェで講演会を行い、その足で首都アルジェから南に600km離れた、伝統的で敬虔なイスラム教徒たちが住む「ムザブ」を訪れ、その独特の街並みに魅了されて着想のヒントを得ています。

しかし、ル・コルビュジェのアルジェの都市計画は、残念ながら陽の目を見ませんでした。背後の山がアルジェ港まで迫り、海岸沿いに広がるわずかな平地と坂が折り重なるアルジェで、彼の都市計画が実現していたら...と思うと興味は尽きません。

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(村の中央にあるイスラム教のモスク)

その後ムザブは、1982年に「ムザブの谷」の名称で世界文化遺産に登録されています。ムザブは空港もある玄関口の主都ガルダイアを中心とし、エル・アーティフ、ブヌーラ、ベニ・イスゲン、メリカ、5つのオアシスがある村の総称です。現在はアルジェからの空路で1時間半の直行便もあるムザブですが、ル・コルビュジェが訪れた当時は開発も進んでおらず、砂漠によって周囲を隔絶されたオアシスがあるだけで、600kmの道中は過酷であったことは想像に難くありません。

一路、南に600km離れたオアシス「ムザブ」へ

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(今でも村内では伝統的な暮らしが)

ムザブは約10kmの広がり、27万本のナツメヤシ、3千の井戸があると言われているオアシスです。標高500m前後に広がる岩砂漠地帯で、夏は摂氏40度を超える一方で、冬は霜が降りることもあり、年間降水量は200m程度です。紀元11世紀にイスラム教徒のなかでも、さらに少数派であった「イーバード派」を信奉していた人びとが迫害を恐れて、流浪の末に砂漠のオアシスにたどり着いたのが始まりとされ、14世紀中期までに5つの村が形成されました。

村の中心部にはイスラム教のモスク(礼拝所)があり、そこから円を描くように建物が広がっており、大きさや色も決められています。中央にモスクを据えて、小さい建物が折り重なる風景は、ル・コルビュジェも影響を受けた立体主義(キュビズム)の作品を見ているかのようです。

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(ベニ・イスゲン村の「顔役」ハッジさん)

外部の人が村の中に入るには「顔役」である、現地ガイドさんの同行が必須となっており、たとえアルジェリア人であっても、勝手に入ることは許されていません。それぞれの村では中世イスラム教の伝統が息づいており、古くからの習慣や文化を残した生活を営み、独自で強力なネットワークを持ち、今でも村の外のひととの結婚はないと言われています。人びとは知識欲が旺盛で、商売熱心であることでも知られています。現在では男性は生活のために村の外に出ることも多いですが、一方女性は留まることも多く絨毯や服飾などの織物を編んで生計を立て、市場への買い物も女性の代わりに男性が代わりに行くことも珍しいことではありません。

それでは行くつかの村の中に入ってみましょう。

伝統を守る敬虔なイスラム教徒たちの生活

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(村内に入る前に禁止事項を確認)

5つあるムザブの村のひとつ、ベニ・イスゲンのガイド「ハッジさん」に、彼の村内をご案内いただきます。ちなみ「ハッジ」とはイスラム教の聖地メッカへの巡礼を意味し、ハッジさんの先祖がかつて聖地メッカへの巡礼をしたことに由来する、ありがたいあだ名です。先に述べたように村の中は必ず「顔役」であるガイドさんと共に行動し、個人行動は認められていません。そのガイドさんがハッジさんで、観光客にも人気者です。

村に中に入る門の前には、まず「現地女性の撮影禁止」、「タンクトップなど過度な肌の露出禁止」、「喫煙禁止」を記した注意書きの看板があり、厳守するように言われます。

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(伝統的な衣装に身を包む女性)

ベニ・イスゲンで印象的なのは、女性が頭の先からつま先まで白い布で全身を覆って街を歩く姿で、未婚女性は両目を出し、既婚女性は片方の目だけを出して歩きます。女性は村外からの訪問者に気が付くと、自らで避けることもありますが、止むを得ず女性とすれ違うときががあり、そのときには絶対にカメラを向けてはいけません。砂漠の暑さを遮るために厚い壁に覆われた家は、細く曲がりくねった道は人びとの生活道路で商店があり、学校があり、途中にはモスクがあり、今でも人びとが厳格な教えを守り抜いて暮らしている様子がうかがえます。 

近代建築の巨匠が着想のヒントを得た建物

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(シディブラヒム・モスクの外観)

ムザブのもう一つの村として知られる、エル・アーティフへ。こちらも「顔役」との同行が必要です。フランス語が分かることから、「パリジャンさん」とのあだ名の顔役が同行してくれます。アルジェリアでは今でも年配の方を中心にフランス語を話す方も多く、パリジャンさんもそのなかのひとり。そのエル・アーティフの城壁外にある「シディブラヒム・モスク」は、ル・コルビュジェが着想のヒントを得た建物され、彼の後期の傑作でありフランスにある「ロンシャンの礼拝堂」に影響を与えたと言われています。

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(シディブラヒム・モスクの内部)

今でも祈りが捧げられているモスクは、流浪の末に砂漠のオアシスにたどり着いた、人びとの熱き信仰心に支えられた、700余年の歴史を有する建物で、イスラム教の学者「シディブラヒム」の名前が付けられています。小さなモスクですが摂氏40℃を超える、夏の砂漠の暑さを凌ぐための白く厚い壁と、優美な曲線が印象的で、建物内部の天井や支柱はナツメヤシの木で作られています。

世界の各地には豪華絢爛で壮大なモスクはありますが、シディブラヒム・モスクは実に質素で小さい建物です。その小さな建物が近代建築の巨匠ル・コルビュジェに影響を与えたと思うと感慨深く、また90年近く前に首都アルジェから南に600kmも離れたオアシスを訪れる、彼の建築に対する情熱を垣間見た気がしました。

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アルジェリアの記事【その①~④】はいかがでしたか?

ぜひいつかアルジェリアへお出かけください。

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