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【たびこふれ美術館】第2話:寝苦しい秋の夜長にこんな絵はいかが?「死のダンス」
こんにちは♪
たびこふれ美術ライターのやすおです!
いやぁ~10月に入ったというのに暑い日が続きますね。
日中はまだまだ半袖の方が気持ちいいほど、夜は少し涼しくなってきましたが快適とまでは・・・
いったい日本の気候はどうなってしまったんでしょうね?(汗)
さて、今月はそんな暑く寝苦しい秋の夜長にぴったりの絵画に出会ってきました。
恐らくエストニアで最も有名な絵画であろう、その名も「死のダンス」!
どうぞお楽しみください~♪
エストニアは一般的に「バルト三国」と呼ばれる団子三兄弟のように3つくっついた国のひとつであり、「一番上は長男♪」の位置にあります。日本ではまだまだ馴染みの薄い国ですが、有名なところでいうと元大関の把瑠都を排出した国であり(把瑠都の名前はバルト三国に面するバルト海から取られています)、インターネット通信のSkypeもこの国生まれ、平成28年に導入されたマイナンバー制度はエストニアの制度をモデルにしているなど、知らないようで意外と縁がある国なのです。
そんなエストニアの首都はタリン。中世の雰囲気の残るこの素敵な町の中心近くに聖ニコラス教会があり、その中に今回目的の「死のダンス」が展示されています。
それがこちら!
この絵は15世紀の後半にベルント・ノトケという画家によって描かれたものであることがわかっています。縦1.6m×横7.5mの絵画で「大きいな~」と感じてしまうのですが、実は描かれた当時は横30mに及ぶ超大作であったそうで、長い歴史の中で現存する部分以外は失われてしまったようです。う~ん、もったいない。
その恐ろしい名前からわかるように、人間と死神(骸骨)が交互に配置され、お互いに手を取り合ってダンスに興じている場面が描かれています。西洋では古くから「メメント・モリ(死を忘るなかれ)」という考え方が根付いており、特に14世紀にヨーロッパの人口の三分の一ともいわれる命を奪い去ったペスト(黒死病)の大流行は、当時の人々の心にその思想を深く植え付けたのでしょう。
今までは戦争でも飢饉でも亡くなっていくのはいつも貧しい平民からでした。でも疫病は違います。いくら権力やお金があってもみな平等に恐怖を味わうのです。そういったことから様々な身分の人物が描かれているのも特徴です。
「人は死から逃れることはできない」
では、もう少し近づいて見てみましょう。
この絵画は一番左の高台に座る説教者からの言葉から始まり、すぐ右にいる死神の奏でるバグパイプによって人も死神も踊り始めます。絵の下部に書かれてある帯にそれぞれの言葉があり、それが対話するような形で進んでいくのです。(対話部分は、英語ガイドブックからの私の意訳で構成されています)
説教者
「善きものも、貧しきも富める者も、誰も死を免れないことを心に留めておいてください。死が予期せず訪れるかもしれないからです。」
死神
「みんなこのダンスに加わりな。法王、皇帝、すべての生けるものたちよ、貧しいものも富めるものも、大物も小物も。さあ一歩踏み出して、自己憐憫など役には立たぬ。覚えておきな、罪の許しを得るために、善行重ねておきなされ。さあ、俺のバグパイプに合わせて、みなの衆、今がそのとき踊るとき・・・」
教皇
「神よ!あなたは私になんて高い地位を与えてくださったんだ。しかしこうなってしまっては栄光は必要ない、権力も必要ない!すべてがいつかは放棄されるのだから...」
死神
「...(文字が消えてしまっており判別不能)...。さあ、教皇、俺と踊ろうぜ!」
こうやって掛け合いをしながら進んでいきます。
皇帝
「死よ!あなたは厄介な存在だ、私をどうしたい?私には金と権力がある。他国の王や貴族であれ皆が私を崇拝し敬ってきた。しかし今、あなたは私をうじ虫の餌にするために私を迎えに来たのですね」
死神
「お前は正義の剣でキリスト教を守るために選ばれたんだ。だが、結局お前はお前の私利私欲を満たすことが目的になるような盲目になってしまった!お前には俺がここまで迫っていたとは気付かなかったんだよな」
皇后
「私は今まで死の恐怖なんて知りませんでした。私は若く、皇后だから私にはあなたが迫ってくるなんて思いませんでした。ああ、もう少し長生きさせてください、お願いします。」
・・・とまあ、まだまだ続くのでとりあえずこの辺りまでで。
いかがでしょうか?なかなか恐ろしい内容ですよね。ペストという病気は当然当時は原因不明の病で、感染源も分からないためどうすることもできない、まさに死神に狙われた人々が次々に餌食になる...そんな状況だったんでしょう。
でも、怖いのはここから。
この絵、怖くないですよね?
ちょっと大きく拡大してみました。
皇后様の手を取って踊る死神は足を上げてルンルン♪と、顔だって「命取ってっちゃるぞ~!!」って感じではなく、とってもにこやか。皇后さまも顔は強張っていますが、手はつられて上げちゃって、しっかりと踊りに参加。この絵、怖いっていうより、なんだか・・・
滑稽に見えませんか?
当時のペストは原因不明の病。感染源もわからなければ、治療法も分からない、わかっていることはただ一つ、「必ず死ぬこと」。どうやっても回復しない、神様にどれだけ祈ってみても駄目、明日は自分が・伴侶が・子供たちがペストになるかもしれない・・・そんな出口の見えない地獄のような日々がペストとの戦いなのです。
それでは、そんなペストの恐怖を紛らわせるにはどうしましょう?
それは「死なんて怖くない!」と思うことです。
どうやっても逃れられない死があるなら、その死を受け入れるしかありません。
でもその時に死がとてつもなく怖い形相だったらとっても怖いですよね?
なので敢えて死を滑稽に描く。
この絵は、滑稽にでも描かないと耐えられないほどの恐怖に打ち勝つための絵画なのです!
・・・そう思ってもう一度この絵を眺めてみましょう。
それはきっと計り知れないほどの恐怖の塊に見えてくることでしょう!
さて、ちょっとひんやりして来ましたでしょうか?それではそろそろお休みに・・・
え?今度は怖くなって眠れないって?
そうですよね・・・今眠りについたら
明日の朝に目が覚める保証なんてないんですもんね。
おやすみなさい。
>>>絵画「死のダンス」を見ることができるエストニア タリンの「聖ニコラス教会」に訪れるツアーはこちらからチェック!
<東京発>
1.迷路のような街ヴィリニウス・バルトの真珠リガ・おとぎの街タリンをめぐるバルト3国8日間
<大阪発>
2.フィンエアー往復直行便利用!バルト3国周遊8日間
※上記ツアーは終了しています。
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編集部註:この記事は2019年10月に公開されていますが、2021年3月に修正しています。
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山上やすお
- 国内外の添乗員として1年の半分ほどを現地で過ごすかたわら、日本にいるときには各地で美術のカルチャー講師をしています。博物館学芸員資格保有。「旅に美術は欠かせない!」の信念のもと、美術の見方、楽しみ方を記事にしていきます。