東京開催は7月10日まで!クリムト好きなら見逃せない『クリムト展 ウィーンと日本 1900』

2019年6月現在、東京都美術館で開催されている『クリムト展 ウィーンと日本1900』についてご紹介いたします。

目次

代表作を含めて過去最多のクリムトの油彩画作品にひたる

かつて欧州において、広大な権勢をふるっていたハプスブルク家。その帝政末期にあたる19世紀末ウィーンの芸術を象徴する画家がグスタフ・クリムトです。

『クリムト展 ウィーンと日本 1900』は、2018年に没後100年を迎えてもなお人気の高いグスタフ・クリムトの生涯とその作品をたどる、ファンには待望の展覧会。2019年に日本とオーストリアが国交を結んで150年になるのを記念して開催されています。過去、美術史上の潮流として他の作家とくくられて紹介される機会は数しれませんが、クリムトだけにスポットを当てた展覧会は日本では珍しいのではないでしょうか。事実、25点以上ものクリムトの油彩画を一度に見ることができるのは本開催が初めてといいます。

冒頭の展覧会用ポスターのメインビジュアルは、第10回ウィーン分離派展(1901年)で初披露された《ユディトⅠ》。これは油彩に初めて本物の金箔を用いたとされる作品で、クリムトの代名詞でもある「黄金様式」の時代の一作目として見逃せない一品でしょう。ローマ国立近代美術館から日本初出品の《女の三世代》も見どころの一つです。世界屈指のクリムト・コレクションを収蔵するベルヴェデーレ宮オーストリア絵画館の監修を受けて、このような企画が実現する運びになりました。

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ベルヴェデーレ宮オーストリア絵画館(外観)© Belvedere, Vienna, Photo: Ouriel Morgenstzern

開催は、2019年7月10日までは東京都美術館で、同年7月23日から同年10月14日までが場所を移して、愛知県・豊田市美術館での開催。ここでは、東京都美術館での展覧会をレポートします。

時代の風を受けたウィーン分離派の旗手

本開催は全8章で構成され、大きく分けると、前半にあたる1章から4章まではクリムトの足跡や彼を取り巻く時代性を展開。後半は「5章:ウィーン分離派」「6章:風景画」「7章:肖像画」と連なり、クリムト作品の主テーマともいえる「生命の円環」を掲げた8章まで、クリムトの作品世界に没入することができます。

ここで少し、ウィーン分離派とクリムトの関係について説明を。

分離派とは、旧態依然とした保守勢力から自由を求める芸術家たちのグループ、またその運動のこと。政情不安を抱えながらも近代化が進む帝都にあって、ウィーン分離派は先進的で希望に満ちあふれた活動であったことでしょう。当時の気運は、1898年に竣工した「分離派会館」の正面扉上に掲げられた彼らのモットー「時代にはその時代にふさわしい芸術を、芸術には自由を」によく表れています。このウィーン分離派を代表し1899年まで初代会長を務めたのが、誰あろうクリムトでした。

第4回ウィーン分離派展(1899年)で発表された《ヌーダ・ヴェリタス(裸の真実)》は、クリムト自身の意思表明を帯びたメッセージ性の強い作品です。見る立ち位置をどう変えてみても、その手に真実を映す鏡を持って直立した裸婦と向き合うことになり、こちらの心を見透かされているような落ち着かない心持ちになります。当時の画壇では批判が巻き起こったといいますが、それはきっと、クリムトの狙い通りだったに違いありません。

2ヌーダ・ヴェリタス(裸の真実)_クレジット入り.jpgグスタフ・クリムト《ヌーダ・ヴェリタス(裸の真実)》
1899年 油彩、カンヴァス 244×56.5cm
オーストリア演劇博物館 © KHM-Museumsverband, Theatermuseum, Vienna

ウィーン分離派の拠点「分離派会館」は今も現存していて、その地下に常設展示されている壁画が《ベートーヴェン・フリーズ》です。本開催の原寸大複製の出品では見どころの一つですが、その全長は、なんと34メートル超!

実物の修復の際に制作された精巧な原寸大複製を用いて、コの字型に囲まれた壁画空間を忠実に再現。空間装飾を得意としたクリムトの技量を余すことなく堪能できます。パソコンやスマートフォンの画面で見るだけでは、この大作の良さはなかなか伝えきれないはず。これこそ、現地で体感するべき芸術体験ではないでしょうか。

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グスタフ・クリムト《ベートーヴェン・フリーズ》(部分)
1984年(原寸大複製/オリジナルは1901-02年) 216×3438㎝
ベルヴェデーレ宮オーストリア絵画館 © Belvedere, Vienna

ここで、ぜひオススメしたいのが音声ガイドです。《ベートーヴェン・フリーズ》の展示空間で音声ガイドを操作すると、ヘッドフォンに流れるBGMは、やはりベートーヴェン。交響曲第九番ニ短調 作品125 「合唱」第4楽章、つまり「歓喜の歌」と作品解説を聞きながら、第九をモチーフにした壁画を愛でることができます。この没入感はスゴいですよ。

日本趣味を感じる《赤子(ゆりかご)》と初来日の《女の三世代》

「5章:ウィーン分離派」の一つ前、「4章:ウィーンと日本 1900」では欧州に影響を与えた日本文化とウィーン芸術との関わり合いを紹介しています。ここでは、クリムト生涯の友人になるエミーリエ・フレーゲの若かりし頃を描いた《17歳のエミーリエ・フレーゲの肖像》や、クリムト晩年の作品の一つ《赤子(ゆりかご)》を鑑賞することができます。

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グスタフ・クリムト《赤子(ゆりかご)》
1917年 油彩、カンヴァス 110.9×110.4cm
ワシントン・ナショナル・ギャラリー
National Gallery of Art, Washington, Gift of Otto and Franciska Kallir with the help of the Carol and Edwin Gaines Fullinwider Fund, 1978.41.1

様々な布地のテクスチャが重なり合う頂点に赤子を配した構図ですが、うねるような柄や輪郭線によって、まるで画面が生命を宿しているかのような印象を受けませんか。この作品は、日本の浮世絵にみられる平面構成を自身の創作に取り込んだ、クリムトならではの表現といえるでしょう。

《赤子(ゆりかご)》はまた、クリムトにとって重要な3作品《哲学》《医学》《法学》に通底する一連のテーマ「生命の円環」につながっているものと考えることができます。「新しい生命」、それを生み出す男女の「性」、万人に迫り来る「老い」や「病」、そして「死」といった人間のライフステージはクリムトの大きな関心事でした。

今回初来日した《女の三世代》は、それがわかりやすく象徴化された作品でしょう。老婆、そして幼子を抱く女性を「老い」と「成長」になぞらえて対比的に描いています。主体に緊張感を与えている画面を縦に3分割した構図が面白く、左右の文様部分は、老婆の流す涙か、大地を潤す雨か、はたまた空にまたたく星々か、いろいろと妄想が膨らみます。この《女の三世代》は、「8章:生命の円環」で鑑賞できます。

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グスタフ・クリムト《女の三世代》
1905年 油彩、カンヴァス 171×171cm
ローマ国立近代美術館 Roma, Galleria Nazionale d'Arte Moderna e Contemporanea. Su concessione delMinistero per i Beni e le Attività Culturali

金ピカで官能的......だけに収まらないクリムトの眼差し

会場を入ってすぐ目にするのは、自身49歳の時にアトリエで撮影されたクリムトの肖像写真。猫を抱いてはにかむような顔が印象的で、クリムトをよく知らないで訪れた来場者も思わず心が和んでしまうひとコマです。そのクリムトの笑顔から「1章:クリムトとその家族」が始まります。

クリムト家において、画家グスタフは7人兄弟のうちの第2子にあたり、上に姉のクララ、下に3人の妹と2人の弟がいました。この章で掲げられている唯一の油彩画が《ヘレーネ・クリムトの肖像》。モデルのヘレーネは、グスタフの姪にあたり、弟エルンストの忘れ形見です。

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グスタフ・クリムト《ヘレーネ・クリムトの肖像》
1898年 油彩、厚紙 59.7×49.9cm
ベルン美術館(個人から寄託) Kunstmuseum Bern, loan from private collection

弟エルンストは、兄グスタフと同じウィーン工芸美術学校に入学。卒業前後から「芸術家カンパニー」として兄とその友人フランツ・マッチュとともに活動し、当時の建設ラッシュの波に乗って、次々と舞台美術や建築の装飾絵画を手がけていきます。しかし、残念なことにエルンストはグスタフが30歳になった1892年に他界し、「芸術家カンパニー」は解散。図らずも、グスタフが画業に傾倒していくきっかけになりました。

《ヘレーネ・クリムトの肖像》は、グスタフが仲間の芸術家たちとウィーン分離派を旗揚げした翌年、1898年の作品です。当時の彼はヘレーネの後見人であり、肖像のヘレーネは6歳。まるでパステル画を思わせるような淡い筆致の平面的な空間に、年齢よりも少し大人びた顔立ちを浮かべています。この作品にみられる画面構成は、のちに続く肖像画の様式美の片鱗を感じさせます。

ウィーンにおけるユーゲントシュティールを担ったクリムトですが、派閥対立からウィーン分離派を脱会(1905年)した後、1907年から1908年にかけて制作する《接吻(恋人たち)》で「黄金様式」のピークに到達すると、以降のクリムトは、色彩構成や東洋的図柄のコラージュなどの面構成に移っていくのが見て取れます。

「7章:肖像画」で鑑賞できる《オイゲニア・プリマフェージの肖像》は、そうしたクリムト後期における重要な作品と位置付けられています。巡回の豊田市美術館は、この肖像画の所蔵館です。同館では習作ドローイングが同時に公開される予定、こちらも必見です。

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グスタフ・クリムト《オイゲニア・プリマフェージの肖像》
1913/14年 油彩、カンヴァス 140×85cm
豊田市美術館

『クリムト展 ウィーンと日本 1900』

東京会場:東京都美術館 企画展示室
会  期:2019年4月23日(火)〜 7月10日(水)
住  所:〒110-0007 東京都台東区上野公園8-36
開室時間:9:30~17:30(金曜日は20:00まで)※入室は閉室の30分前まで
休 室 日: 6月17日(月)、7月1日(月)
HP:https://klimt2019.jp

豊田会場:豊田市美術館
会  期:2019年7月23日(火)〜 10月14日(月・祝)
住  所:〒471-0034  愛知県豊田市小坂本町8-5-1
開館時間:10:00~17:30 ※入場は閉館の30分前まで
休 館 日:月曜日 ただし、8月12日、9月16日、9月23日、10月14日は開館。

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釜谷保徳

台東区在住の編集人。過去に住んだ静岡、名古屋、福岡も好きですが推しは故郷の飛騨・高山です。

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