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美しく、技術を極めた最高品質のヴィンテージアイウエアに出合え、 タイムトラベルもできる表参道の「ソラックザーデ」

記事投稿日:2018/09/02最終更新日:2018/10/16

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<「ソラックザーデ」を営む岡本兄弟。2005年に大阪でオープンし、2012年7月表参道に移転>

目次

最高品質のヴィンテージアイウエアに出合える表参道「ソラックザーデ」

表参道に世界各地からデザイナーやセレブが足を運ぶヴィンテージアイウエアショップがあります。扱うのは、かつて眼鏡が宝飾品のひとつとしてきらびやかな存在だった時代、1800年代から1990年代までの、最高品質の製品のみ。世界中を旅して眼鏡メーカーや代理店の古い倉庫からデッドストック(未使用品)を発掘。宝石のように美しい工藝品、あるいは現在では真似できない高度な技術で造りこまれた工業製品。それらの歴史、素材、製法を徹底して追究する姿勢にも感嘆させられます。ずっと大切に、長く愛用したくなる、普遍的な魅力をもつ眼鏡、サングラスを求めている人には最高のショップです。

出合いは一本のハリウッド映画から

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<社長の岡本龍允さん(左/兄)と、副社長の岡本竜さん。アラビア語の店名はオスマントルコ帝国の全盛期にスルタン(王様)を護衛する軍隊の長身の司令官2人につけられたニックネームに由来>

私は同じ映画を繰り返し観ることはほとんどありませんが、ごく限られた例外が1998年制作のサスペンス・アクション映画『エネミー・オブ・アメリカ』。小気味よく展開するストーリーを渋く演じるジーン・ハックマンのスタイリングに惹かれ、何度観ても飽きません。陰があり、特殊な工作技術と知識をもつキャラクターを印象づけたのは、武骨な黒いセルフレーム(プラスチック製)の眼鏡でした。テンプル(つる)の太さ、銀色の3点ピンポイント。同じフレームを手に入れたくて、その特徴的なフォルムや装飾を細部まで確認し、インターネットで調べ尽くしたのですが、さまざまなキーワードで検索しても、マッチする製品情報をつかめず、10年以上の歳月が過ぎてしまいました。

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<クールな空気感をまとう岡本兄弟。映画で使うアイウエアのスタイリングもおこなっている>

製品の特定を諦めかけた2012年春のこと。なにげなく検索したところ、このフレームが1940年代にニューヨークで創業された小さなファクトリー、タート・オプティカルの製品『F.D.R.』(1950年代製)だと判明したのです。教えてくれたのは、当時は大阪で予約制のヴィンテージアイウエアのショールーム「ソラックザーデ」を開いていた岡本龍允さん。岡本さんは事務所近くに複数いた職人や、大阪のレンズメーカーや工具店の協力を得ながらレンズ加工やメンテナンスの手法を独学。インターネットでも豊富な知識や情報を発信。そのうち劇中の『F.D.R.』について触れたテキストを私はキャッチできたのでした。

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<1999年4月に公開された『エネミー・オブ・アメリカ』のブルーレイ(2,381円+税)、DVD(1,429円+税)発売中、デジタル配信中。ジーン・ハックマン(左)がかけているのが『F.D.R.』>

©Buena Vista Home Entertainment, Inc.

https://www.disney.co.jp/studio/others/0282.html

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<タート・オプティカルの『アーネル』。ジェームス・ディーンやジョニー・ディップなどが映画でかけたモデルとして有名。「ソラックザーデ」は極上品をストックしている>

当時の「ソラックザーデ」は通販にも力を入れていて、なんと稀少な『F.D.R.』のデッドストックも販売していました。たまらず欲しくなり、視力を伝え、フレームの雰囲気に合うガラスレンズの加工も依頼。価値が高騰した今では考えられないほどリーズナブルで、誠実な応対からはヴィンテージアイウエアの深い見識と愛情が感じられました。眼鏡は生活に欠かせない日用品ですが、安売りしている大量生産品はすぐに飽きて、数年ごとに買い替えしたくなる消耗品なのに対して、『F.D.R.』は生涯愛用していきたいという格別な想い入れを抱き続けられます。愛用していると、文化遺産を使い継ぐ使命感が自然と湧き上がってくるのです。味わいあるかたちと質感。ヴィンテージフレームは日用品でありつつも、宝石を身に付けるときのような、感情の昂揚をもたらす、特別な装飾品でもあると思います。ちなみにレンズは岡本さんに勧められるままガラス製を選択。爽快な見え方を長く保持でき、重さや質感が1950年代より古いフレームによく合うというのが推奨の理由でしたが、そのメリットを日々、実感できました。

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<購入した『F.D.R.』を磨き、ネジを交換するなど、無償でケアしてくれる。セルフレームは3カ月~半年ごとのメンテナンスが理想>

高い経験値と技術に信頼を寄せる

『F.D.R.』 を購入して5年経過したころ、表参道に移転してからは通販を辞め、対面販売に特化した「ソラックザーデ」を訪問。ガラスレンズの透明な視界を依然、享受していましたが、紫外線量に応じてレンズ濃度が変わり、紫外線や眩しさから眼を護る調光レンズに変えてみたいと考え、店に向かったのです。実はヴィンテージフレームへのレンズ加工は破損リスクも高く、安さだけを売りにし、扱いの経験が少ないレンズ加工業者に依頼すると、大切なフレームを割られてしまうことも多々あるとか。私は当然のように、繊細な配慮をこめて、最後は手でガラスを削って微調整をする「ソラックザーデ」に頼りました。完璧に加工されたレンズで新たな視界を得た結果、このフレームを惚れ直すことになったのです。通常の5倍もの手間をかけて仕上げるという真のプロフェッショナルな姿勢と高い技術に、私は全幅の信頼を寄せています。

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<岡本兄弟の美意識が投影された「ソラックザーデ」地下1階の独創的で華やかなディスプレイ。お客さんの顔をはじめ、服装や嗜好、職業、生活環境などトータルに捉え、佳い感じの提案をするべく、対面販売のみの体制に>

あらゆる国を旅し、時代をリアルに感じる

「ソラックザーデ」は約200年間に渡るヴィンテージフレームを常時、約1万本ストックしているそうです。表に出す物はその一部で、お客さんの要望に応じて開示。それぞれの人がまとう雰囲気に合う提案をしています。そんな店内はさながら眼鏡博物館の様相。金、銀、真鍮、鉄といった無垢材で造られ、ネジからすべてハンドメイドの工藝品である1800年代のフレーム。アメリカがゴールドラッシュで沸いた1890年~1920年代の鼻パッドの無いフレーム。1930~1940年代のリムレス(縁無し)フレーム。タート・オプティカルが率先して造り始め、最先端のファッションアイテムとなった1950年代のセルフレーム。カルチャー発信地がアメリカからヨーロッパに移り、手工藝に自由で強烈な個性をもつデザインが融合していく1960 年代のアート・オブジェ的なフレーム。ジョン・レノンが掛けたようなヒッピースタイルのフレームが支持される一方で、軽くて自在に加工可能な新素材の誕生でデザイナーのコンセプトが造形を決定する新時代が到来した1970年代のエレガントなフレーム。さらに技術が進歩し、複雑で奇抜なデザインも具現化した結果、デザイナーズブランドが一世風靡する1980年代のクールなフレーム。個性ある小ブランドが大資本に買収された1990年代のフレームといった、各時代のフレームを幅広く揃えています。そうしたフレームの変遷を眺め、手に取っているうちに、東京に居ながら、心は地理も価値観も異なる場所や時空へとワープしていきます。ここは観光では気づきにくい、時代や国ごとの現実をリアルに感じ取れる「ワームホール」のような異空間なのです。

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<時代ごとの特徴的なフレームがタイムトラベルへと誘う>

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<アメリカ空軍の依頼でボシュ&ロム社が1937年に立ち上げたサングラスブランド、レイバンの『シューター』。店ではイタリア、ルクソティカ社にブランドの経営権が売却される1999年以前のアメリカ製またはフランス製のヴィンテージのみを扱う。現行レイバンはほとんどが中国製となったパーツをイタリアで組み立てていて、『シューター』は廃番となった。濃い色のレンズも格好よいが、あらゆるシーンでかけられ、紫外線にも強い薄色のレンズを勧めている>

リスペクトするもの

ひとつの時代に固執せず、いろいろなジャンルのヴィンテージフレームを扱うのは「僕らは飽き性だから」と笑う岡本さん。古いから素材が優れて味があるとか、ハンドメイドだから佳いと気分に流されず、冷静に時代ごとの価値を判断し、旨味を取り出して200年間分のバリエーションを揃える。こんなショップは世界唯一でしょうと胸を張る岡本兄弟が心底リスペクトするフレームがあると言います。ひとつは、途方もなく細分化してカスタマイズできる大量生産の仕方をした1930年代のアメリカのリムレス。デザインが一緒でも、鼻パッドだけで5種類あり、テンプルのかたちもサイズも替えられるよう生産されていました。単価を落とすために1個の商品をたくさん造る現代の手法とは異なる取り組みです。「むちゃくちゃお金を使った、国策レベルの生産体制。それは今、とうてい再現できない。だけど、職人が造る1800年代の手工藝的フレームは時間をかければ僕らでも造れるんです」。約100年前のアメリカの大量生産品は、ハンドメイドで少量生産の高価なフレームよりも、むしろ大きな刺激を受けると岡本さん。「味を出そうと思わず、普通に無意識に大量生産していた。それが当たり前だった時代のリアルを純粋に感じてもらえたらと思っています」。

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<1930年代にボシュ&ロムが製造したリムレスフレーム。鼻にかかるブリッジ部が5つのパーツに分かれ、フレキシブルに可動する複雑な構造。こんな手のこんだ工業品を大量生産できたアメリカは豊かだった>

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<フレーム幅の制限が無いリムレスは厚いレンズが似合い、度数が強くても、スタイリッシュな雰囲気に眼鏡を仕上げられる。「ソラックザーデ」はこうした1930~1940年代の古いフレームを最新のファッションとして提案。あえて厚くしたレンズの質感に味わいが出るよう、レンズの縁は自分たちで手作業で磨く>

岡本兄弟がリスペクトするフレームはもうひとつ。フランスの高級ジュエリーブランド、カルティエが手がけた1980年代のフレームです。「1個のデザインを完成させるのにカルティエの場合はたぶん10~30回くらい試行錯誤を重ねています。今のブランドはサンプルを造って1~2回修正してGOしている。完全に、究極的に、普遍的に絶対にこうであるべきというところに収めにいっているから、1980年代初頭に出たモデルが20数年間もずっと継続して売られているんです。デザインに加えて製法も、1個に対しての力の入れ方が凄い」。銀やプラチナ、金の厚いメッキを施したフレームはジュエリー職人が表面を真っ平らに研磨。そのため光をフレームに当てても、光のゆらめきが生じないそう。宝石の厳格な検品に応えるクオリティの仕事は圧巻の完璧さで、観る者とユーザーを心酔させます。

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<宝石細工師ルイ・フランソワ・カルティエが1847年に創立したカルティエ。ヨーロッパ各国の王室御用達のブランドとして高級ジュエリーと同じく、フレームも芸術性とクラフツマンシップに富む製品を造り続けている>

オリジナルを造る意義

「ソラックザーデ」は2015年にオリジナルフレームの制作を始動。現行フレームには無い重量感、ザラつき、ソリッド(無垢)感、研磨で丸みを出し過ぎていない角感を見事に蘇らせています。かたちをなぞるだけではありません。ヴィンテージフレームに極めて近い質感の素材を探し、パーツの接合手法など現在は採られていない難しい技術も忠実に再現。それは懐古趣味からではなく、その時代の美学を感じ取ると同時に、ヴィンテージとしての物の理解を深めたいからだといいます。私は岡本兄弟の追究心と熱情に心打たれ、今回の取材で彼らのリスペクトするヴィンテージフレームを身に着けたくなりました。とりわけ1930年代のリムレスフレームの武骨な雰囲気と快適な装着感に心奪われました。往時のアメリカの本気を日常で感じたい。そう夢みると、ふだんの景色が彩りを増して眼に映ります。ヴィンテージの魔法にかかり、約100年前の大陸を旅する日も近いようです。

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<「ソラックザーデ」オリジナルモデル。左は1940年代のフランスのブランド「マックスピッツオン」(1970年に倒産)のフレームを再現した『ポリティシャン』。セル生地はヴィンテージのものを福井県鯖江の倉庫で発見し、用いた。以前、同社のデッドストックを大量に仕入れて販売した際、世界的ギターリストのジョン・メイヤーが購入。以来、ジョンはこのブランドの復刻に駆り立てられるほど夢中になったとか。右はフロントがブラウン管のような立体的なデザインであることから『テレビジョン』と名付けられたフレームで、1960年代のフランス製品を復刻したもの。1960年代中期から後期は宇宙への夢を馳せた「スペースエイジ」と呼ばれ、大きなサイズのサングラスが登場。このフレームは当時の最先端をいくモデルだった>

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<オリジナルのセルフレームは分厚い蝶番を座彫りせず(埋めず)に浮かせた状態で設置し、ピンの頭も削り落とすヨーロッパヴィンテージの造り方を完全に再現した。強度がなく、見た目の美しさ以外の利点が見つからない、難しく合理的でない当時の製法。あえて自分の手を使ってトレースすることで見えてくる世界があるという>

ソラックザーデ SOLAKZADE

住所:東京都渋谷区神宮前4-29-4 Goro'sビルディング1階/地下1階
電話: 03-3478-3345
営業時間: 14:00~19:00
 ※1階は予約優先制。初めての訪問はまず地下1階へ
定休日:水曜
HP : https://www.solakzade-optician.com/

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記事投稿日:2018/09/02最終更新日:2018/10/16

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