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世界で最も遅いカーニバル!スイス・エルマツィンゲンの「グロッペンファスナハト」
エルマツィンゲン(Ermatingen)は、スイス北東部のボーデン湖畔にある小さな自治体。このエルマツィンゲンでは、「グロッペンファスナハト(Groppenfasnacht)」という名前の、ちょっと特別なカーニバルが毎年春に開催されている。
国内外に知られる有名イベント、その理由は...
グロッペンファスナハトは、600年以上もの長い歴史を誇るイベント。グロッペGroppeとはドイツ語で「カジカ(小型の淡水魚の一種)」のことで、グロッペンファスナハトは「カジカのカーニバル」という意味だ。カジカという小さくて地味な淡水魚の名前を冠したカーニバルというだけでも興味深いが、最大の特徴はその開催時期。カーニバルは通常、復活祭(イースター)前の46日間の四旬節(いわゆる「断食期間」)に入る前に行われる祭事。ところが、グロッペンファスナハトは四旬節の真っ最中である復活祭の3週間前に催されるのが伝統で、つまり何と「世界で最も遅いカーニバル」なのだ。スイス国内はもちろん、ボーデン湖の対岸にあるドイツやオーストリアでもその名が知られいてる有名なお祭りなので、期間中には一万人以上の訪問者があり、普段は静かな湖畔の街が一気に盛り上がる。
カーニバルは毎年行われるが、それに加えて「グローサー・グロッペンウムツーグGrosser Groppenumzug(大カジカ行列)」という、より大規模な行列が3年に一度執り行われる。今年(2018年)もちょうどその年に当たったのだが、3年前・2015年の「大カジカ行列」は、カーニバルの600周年とも重なり、記念すべきイベントとなった。
<行列の主役・「カジカ王」>
カジカと教皇の面白い関係
カジカの名前を冠していること、そして「季節外れ」のカーニバルであることの理由については面白い逸話があり、これには今からおよそ600年前の1414年~1418年に南ドイツのコンスタンツで開かれた「コンスタンツ公会議」が関係している。「コンスタンツ公会議-ああ、そういえば世界史の授業で聞いたなぁ!」と思い出す方も多いのではないだろうか。この公会議には3名の教皇(対立教皇)が参加したのだが、そのうちの一人・ヨハネス23世が諸事情で逃亡せざるを得なくなり、一時身を寄せた先がボーデン湖を挟んでコンスタンツの対岸にあるエルマツィンゲン。エルマツィンゲンの人々はヨハネス23世に宿や食事などを提供して丁重にもてなしたのだが、その「食事」―奇しくも前出の四旬節(断食期間である四旬節の間は肉食はタブーだが、魚はOK)中だった―で提供されたのが、中世当時には美食&高級食材として知られていたカジカだったらしい。人々のもてなしに感謝した教皇は、その返礼として、エルマツィンゲンの人々に「四旬節中にもう一度カーニバルを執り行う」ことを許可したのだそうだ。
<風刺劇に登場した3人の教皇。ローズ色の衣を着ているのが、逃げ出すヨハネス23世>
この話はもちろん「伝説」止まりで、実際には春の訪れを喜び祝う民間慣習との結びつきの方が強いと思われる。古くから湖での漁業が盛んだったエルマツィンゲンでは、暖かくなって湖の氷が溶け、再び漁に出られるようになる春の訪れを待ち望んでいたであろうことは想像に難くない。それを象徴するように、カーニバルの行列には網や魚などを持った漁師(の衣装を着た人たち)も欠かせない。
カエルや水鳥など、水ぎわの生物をモチーフにした山車や衣装もたくさん登場するのは、湖との関係が強いエルマツィンゲンならでは。
<可愛らしいカエルに扮した子供たち>
もちろん他のカーニバルと同様に、グッゲンムジークGuggenmusik(派手な打楽器のリズムに合わせて奏でられる、カーニバル特有のブラスバンド音楽)や風刺劇なども楽しめる。エルマツィンゲンに行く際には、道中にあるラインの滝やシャフハウゼン、シュタイン・アム・ラインなどの訪問と組み合わせるのもお勧め。ちょっと足を延ばして、ドイツのコンスタンツやメアスブルグ、花の島・マイナウ島など、ボーデン湖畔の名所を訪れてみるのもいいアイデアだ。来年(2019年)のグロッペンファスナハトは、3月27日(水)~31日(日)の開催。どうぞお見逃しなく。
■グロッペンファスナハトの公式HP(独語のみ)
http://www.groppenfasnacht.ch/
※カーニバルの詳細情報、歴史、フォトギャラリーなど
■エルマツィンゲンへのアクセス
チューリッヒ駅からシャフハウゼンSchaffhausen行き又はコンスタンツKonstanz行きの電車に乗り、シャフハウゼン行きでは終点・コンスタンツ行きでは終点の一駅手前のクロイツリンゲンKreuzlingenで下車。そこから普通電車に乗り換えて、エルマツィンゲンErmatingenまで。チューリッヒからは片道およそ1時間40分。
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Asami AMMANN-HONDA
- スイス東部トゥールガウ州の農村在住。元書店員、現在は兼業主婦(介護補助士&日本語教師&日独英通訳)。趣味はスポーツ・園芸・料理、専門は音響映像技術。