ビレッテ・ビッテBillette, bitte(乗車券を拝見します)!

スイス連邦統計局BFSが公表している資料によると、スイスを訪れてホテル等の宿泊施設を利用した日本人は1990年代には年間50万人を超えていた。近年では日本人の宿泊客数は年間30万人前後に減っているが、それでも宿泊施設を利用する外国人ランキングの上位10位以内(平均7~8位)を常にキープしており、今も昔もスイスの観光業界にとって大事な「お得意様」であることに変わりはない。

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旅行会社主催のツアーでスイスを訪れる場合は観光バスによる移動が大半で、氷河特急などの鉄道を利用する場合でもその切符購入や座席指定はすべて事前に済んでいるので安心だが、航空券とホテルのみのフリープランや個人旅行の場合はそうはいかない。日本に外国人観光客向けのJR鉄道フリーパス「ジャパン・レールパス」が存在するように、スイスにも外国人観光客が購入・利用できる「スイスパスSwissPass」という切符がある。このスイスパスを持っていれば一部の山岳・登山鉄道を除くほぼ全てのスイス国内鉄道・バス・路面電車・フェリーに乗ることができる―スイスパスは氷河特急の区間も有効なので、これを持っていれば座席予約(必須・有料)のみで乗車することができる―が、スイスカードSwissCard(外国人観光客のための「公共交通機関半額カード」)利用者やその他一般の乗客はその都度適切な切符を自力で購入しなければならない。

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私たち日本人にとって電車やバスは「切符を買って・もしくは運賃を支払って利用するもの」で、これはお約束というよりはむしろ常識だ。そもそも日本の鉄道駅にはほぼ必ず改札口があるので切符を買わないとホームに行くことすら不可能なのだが、スイスを始め欧州の多くの国では鉄道駅に改札口がなく、トラム(路面電車)やバスへの乗車の際にも運転手さんに運賃を支払うシステムや設備は(田舎の一部路線を除いて)基本的にない。

SW_20130301_04.jpg(トゥールガウ州の州都フラウエンフェルト駅。1番線ホームは駅前駐車場と直結している)

乗車の際には切符を買わなくてはならないのがお約束であるのはスイスでも当然なはずなのだが、切符を持たないまま電車やバスに乗ることが不可能ではないのが現実。車内では検札係がやってくる場合もあるが、経験から言うと(特に短距離路線の場合は)出会わない確率の方が高いので、結果シュヴァルツファートSchwarzfahrtと呼ばれるいわゆる無賃乗車を行う乗客が少なからず存在する。一昨年まではインターシティなどの長距離列車内では小額の追加料金を支払えば車内での運賃精算が可能だった(長距離路線以外では今も昔も不可能だ)のだが、2011年12月以降はこの制度が廃止となり、現在はスイス国内のすべての路線で「電車には必ず切符を買ってから乗ること。有効な乗車券を持たない乗客には、その理由にかかわらず正規運賃に加えて高額な罰金や手数料が科せられますよ!」ということになっている。これはスイス人やスイス在住者はもちろん、システムに不慣れな観光客や現地語を解さない外国人にも適用される厳しいルール。違反乗車を行った乗客の個人情報はデータバンクに登録され最低2年間は消されることが無いので、2回目・3回目の違反など「常習犯」には更に割り増しの罰金が科せられる仕組みになっている。通常の検札は制服を着た車掌さんが行うが、私服の検査官による「不意打ち」的コントロールもあるので要注意だ。

意図的・計画的な無賃乗車ではなくても「急いで乗車したから切符購入の時間がなかった」とか「外国人なので切符の買い方がわからなかった」などという言い訳は通用しないので、スイスパスを利用されない方には下記の方法で必ず有効な切符を乗車前に購入されることを強くお勧めしたい。

都市部にあるベルンやチューリッヒなど大きな鉄道駅や複数の路線が乗り入れする乗換駅には有人の切符販売窓口がある。

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窓口担当者は皆とても親切で辛抱強く、ほぼ全員が独・仏・伊・英の4ヶ国語を解する(はずだ)のは有り難い。切符の自動販売機は駅構内の各所にあるのだが、この操作方法は複雑難解なのでスイス人やスイス在住者でもちょっと慣れが必要だ。

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スイスの独語圏では切符/乗車券のことをビレットBillett(複数形だとビレッテBillette)と呼ぶのが一般的。標準ドイツ語で切符/乗車券を意味するファーカルテFahrkarteやファーアオスワイスFahrausweisという言葉はスイス人にとってその見た目や響きがあまりにも「ドイツ語っぽ過ぎる」のだろうか、券売機にもしっかりとBilletteと書いてあるのがスイスらしい所だ(ファーカルテと言ってももちろん通じるのでご安心を)。機械の仕様はスイス全土ほぼ統一で、日本のように決まった金額の運賃ボタンを押すのではなく、発着および経由駅の駅名や座席種別・切符の種類(片道/往復/1日券)・割引カードの有無・乗車日などを4ヶ国語(独・仏・伊・英)対応のタッチパネルで入力・指定して購入する方式だ。

SW_20130301_07.jpg(まず始めに4ヶ国語で「ようこそ」と書かれた部分をタッチして言語を選ぶ仕組みになっている)

乗車区間(と経由地)さえわかっていれば鉄道だけでなくバスやフェリーを含めた公共交通網すべての切符が全国どこでも買え、支払いにはスイスフランだけでなくユーロ(ただし紙幣のみ、お釣りはスイスフランで返ってくる)や各種クレジットカードも使えて便利。回数券やお得な割引切符も買え、更にはプリペイド方式の携帯電話への入金(チャージ)なども出来て大変多機能なのだが、あまりに多機能なためスイス人ですら目的の「商品」にたどり着けないことも稀ではない。画面上にずらりと並ぶ選択肢から正しいものを選んだり複数のページをめくったりする操作方法は特に高齢者にとっては困難を極め、私の義理の母はこの券売機との格闘を早々にあきらめて有人窓口を利用している。

スイスでは毎年12月の第2土曜日に鉄道やバス・トラムなどすべての公共交通のダイヤおよび運賃の一斉改訂がある。昨年12月の改訂ではチューリッヒ地区の運賃システムが大幅に変更となり、特に観光客にとっては目的の(もしくは正しい)乗車券を求めることがとても難しい複雑なシステムになってしまった。意に反する違反乗車や面倒を避けるためにも、チューリッヒ訪問の際には中心市街地とその隣接するゾーン内の公共交通機関(観光船を除くチューリッヒ湖の定期運行船も含む)の乗り降りが自由なチューリッヒ・カードZürichCARD(24時間券24フラン/72時間券48フラン)の利用を強くお勧めしたい。チューリッヒ中央駅の構内にある観光案内所を始め鉄道の各駅・チューリッヒ空港・市内のホテルなど様々な場所で購入可能なこのチューリッヒ・カード、チューリッヒ空港も有効ゾーンに入っているので空港到着の直後から市街への移動に使えるのが便利だ。美術館や博物館の入場が無料になる特典や、提携ショップ・レストランなどでの割引付きなのも嬉しい。

参考リンク

チューリッヒ・カードについて(チューリッヒ観光案内所HP内、英語)
www.zuerich.com/en/Visitor/zuerich-card.html

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Asami AMMANN-HONDA

スイス東部トゥールガウ州の農村在住。元書店員、現在は兼業主婦(介護補助士&日本語教師&日独英通訳)。趣味はスポーツ・園芸・料理、専門は音響映像技術。

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