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銀座「観世能楽堂」で日本の伝統芸能、能に親しむ

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記事投稿日:2017/06/30
最終更新日:2017/09/20

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渋谷から銀座の新名所GINZA SIXに舞台が移った観世能楽堂。初心者でも能に親しみを感じられる試みを、以前にも増して推進しています。その試みのひとつ、事前講座に参加し、初めて能を鑑賞しました。

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© 観世能楽堂

屋根がある観世能楽堂の舞台。もともと屋外で松を背景に、神に奉納していた名残。

今の日本には目を背けたくなるもの、ことが氾濫しています。勝ち負け、白黒はっきりしたものが人気を集める。たとえば大相撲。神聖な場においてプロレスじみた荒技で相手を傷つけ、土俵外に出た敗者を執拗に突き落とし、勝利のガッツポーズを掲げる一部の力士。テレビの民放放送では品性のない芸人が汚い言動で視聴者の関心を引こうとする。また、東京の公共交通機関や駅、街なかでは日本人がかつて備えていた、美しく清らかな心の持ち方を感じることは、あまりありません。人と人が平然とぶつかり、譲り合う心遣いは希薄。

都会で忙しく働き、暮らす人は勝ち負けに腐心し、心をなくしているように思えます。かくいう私も、この都市で強い気持ちを張り、生計を立てる日々を過ごしています。

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© 観世能楽堂

公演の1カ月前に催される事前講座。

そんな私が、偶然、能の世界に触れる機会を得ました。観世能楽堂が松濤から銀座に能の舞台を移したことに、話題性を感じたのがきっかけ。記事づくりのヒントを探しに、観世能楽堂のホームページをひらいて真っ先に目に留まったのは能の演目(曲)を実演前に解説する、事前講座の案内でした。主たる読者を能の初心者に想定するなら、この講座は必聴と考え、参加したのでした。

講座の開始時間は平日の夜からと、仕事を終えてから向かうことができます。事前講座は演目のあらすじを能の研究者が関心を喚起する話術で説明。実際の舞台では謡(うたい=いわゆるコーラス)は昔言葉のため、何を謡っているのか初心者にはわかりづらい。その言葉を現代語に置き換え、どんな内容なのか軽妙に解説してくれます。また、能楽師が動きのどこを見て欲しいのか、どんな気持ちで演じるのか語ります。難解そうと誤解していた能が、これらの解説や言葉で、距離が縮まる気がします。

この講座参加で初めて能の舞台空間に身を置いた時の感動も忘れられません。清浄な空気に包まれる厳かで、心地よい緊張感。それは日常ではなかなか味わうことができない感覚でした。

00310_170602_03.jpg© 前島吉裕/観世能楽堂

演目『経正』の主役(シテ)、経正は琴の名手。扇を琴に見立てる所作が優美。

事前講座で予習して迎えた荒磯能の舞台公演。若手の能楽師が演じ、彼らの研鑽の機会になっているそうです。入場料金も手頃で、一つの演目も1時間ほど。初心者が最初に能を鑑賞するのに向いたものになっています。

この日の演目は没落武士の平 経正(つねまさ)と、奈良春日野に棲む翁と鬼が主役。700年の歴史を経て、洗練の美意識のもと、極限まで無駄を排除した演劇。余白の多さが観る側にさまざまな想像力を喚起させ、張りつめた雰囲気に包まれます。とはいえ、緊張から気が疲れるということはなく、最小限の動きに魅せられ、神に捧げる芸能に立ち合っているという神秘的な感覚に浸ることができました。

とりわけ感銘を受けたのは、鬼や未練を残す亡霊など畏れられる存在への慈愛の深さ。亡霊は生前の栄華を懐かしむものの、亡き者にされたことを恨みはしない。鬼は悪者ではなく、人の心を奥底にひそませている。能は弱者が主人公になって雅に舞い、最後には救済される特別な芸能なのです。弱者の哀しみが能楽師の手や首の傾き、最小限の動きで表現され、胸に迫ってきます。

表情のないはずの面が、所作により哀愁を帯びていくよう目に映る。その不思議な様子に驚き、同時に能の優しさが心に沁み入ってきました。能楽師の山階彌右衛門さんに、舞う側から見どころを教えていただきました。「まずは構えとか足の運びの美しさ。これが能らしいところです。それから、謡の言葉づかい。登場する鬼や亡霊、武士も全員が敬語で謡うのが能の美しいところ。それはたぶん、神様に捧げる芸能だったことに由来しているのではと思います」

00310_170602_04.jpg© 前島吉裕/観世能楽堂

演目『野守』前半の主役である翁。視界の効かない面をかぶりながらの、滑らかな足の運びに注目。

そして観劇後、能の表現する優しさに大きな影響を受けたことに気づきました。この感化の度合いは個人差がもちろんあるでしょう。私の場合は行動や考えに変化が生じました。日常で強張らせていた気持ちがすっとほぐされていく。他人に抗するのではなく、受けとめ、平穏な感情を保つ。能をはじめて観たあと、街なかでのストレスがとても和らげられた気がします。

私のように、都会での他者との関係に気疲れしている人に、能はぜひ観てほしいです。

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© 前島吉裕/観世能楽堂

演目『野守』後半には春日野に棲む鬼が主役になる。翁から鬼へ。衣装と動きが劇的に変化。

それでも能は敷居が高いと気おくれする人には初心者向け特別企画をお勧めします。山階彌右衛門さんにこの夏の予定を伺いました。

7月8日・9日には「能楽堂へ行ってみよう!」を開催。両日の13時・15時・17時に各回15分、能楽師が能の解説と仕舞を実演します。予約不要・入場無料(先着順で定員になり次第締め切り)です。8月22日14時からと19時30分から開催の「はじめて能」も能を親しむのに最適。約1時間の演目で、動きのある場面をダイジェストで見せるというもの。気軽な入場料金になっていますし、お得な親子ペア券も用意されています。演能を途中で止めて場面説明を解説し再スタートをする特別な上演スタイルで、事前知識がなくても、舞台に集中しながら内容が理解できるのです。

この夏は特別企画の能から古典芸能の真髄に触れてみてはいかがでしょうか? 

【二十五世観世左近記念 観世能楽堂】
銀座6-10-1 GINZA SIX 地下3階  TEL. 03-6274-6579
観世能楽堂
hhttp://kanze.net/

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