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オーストリアではちょっと違う?バウムクーヘンの作り方と歴史
バウムクーヘンはドイツであまり有名ではないと聞き、オーストリアでのバウムクーヘン事情を調べてみました。日本ともドイツとも異なるようですので、今回はオーストリアの一風変わったバウムクーヘン文化についてご紹介します。
日本とオーストリアのバウムクーヘンの違い
バウムクーヘンはドイツ語のBaum(木)とKuchen(お菓子)をくっつけた単語で、「木のお菓子」を意味します。日本では、年輪が年を重ねるイメージに重なると、結婚式の引き出物などに好んで出されますね。
一方で、オーストリアでは、通常バウムクーヘンが結婚式に登場することはないですし、日常生活で目にする機会はほとんどありません。それどころか、多くのオーストリア人がバウムクーヘンと聞いてまずイメージするのはこれです。
日本で知られている、年輪のあるものとはずいぶん違いますね。年輪は一重しかなく、層になっているわけではありません。通常「中世風バウムクーヘン」「ハンガリー風バウムクーヘン」のような名称で、お祭りなどの屋台で売られています。購入するとセロファン紙が巻いてあるので、手でちぎりながら食べることができます。
中世騎士祭りでの炭火焼バウムクーヘンの屋台
田舎の村祭りでの、ハンガリー風バウムクーヘンの屋台
オーストリアでよく見かける一層タイプのバウムクーヘンの作り方
この中世風(ハンガリー風)バウムクーヘンの作り方をご紹介します。まずは、イースト生地を細く平べったく伸ばし、木の芯にらせん状に巻き付けて行きます。
生地を巻き付ける専用の木の芯
生地を巻き付ける作業
これを炭火、もしくは専用のオーブンで15分ほど温度調節しながら熱し、最後に砂糖を振りかけて表面をキャラメル状ににカリカリに焦がします。
中世騎士祭りでは、このように目の前で炭火で焼いて、焼きたてを食べることができます。
村祭りのハンガリー風バウムクーヘンの屋台に取り付けられた、店主自作の専用オーブン
細長い生地を巻いて作ってあるので、少しずつ手でちぎって食べます。キャラメルがカリカリして、生地はふわふわで、できたては格別に美味しいですよ。屋台では、シナモンシュガー、ナッツ味など、トッピングを選ぶことができます。(写真はシナモンシュガーです)
長い生地が輪っか状に外れる、中世風(ハンガリー風)バウムクーヘン
一層タイプのバウムクーヘンはどこから来た?
オーストリアでよく見かけるバウムクーヘンがこの形状なのには、いくつかの理由があります。
まず、このような木の芯に巻き付けて火であぶるタイプのお菓子は、中世の頃に既にヨーロッパで人気で、お祭りや結婚式などの家族イベントなどに好んで出されていました。だから今でも中世騎士祭りの屋台でよく売られているんですね。
また、この形状のお菓子は、現在でもオーストリアのお隣のハンガリーやチェコで人気です。ハンガリー語ではKürtőskalácsキュルテーシュカラーチ(直訳は「煙突ケーキ」)、チェコ語ではTrdelníkと呼ばれ、昔は祭典のためのお菓子でしたが、今では屋台の定番のお菓子となっています。ルーマニアに住むハンガリー人の間で好まれていたものが、その後ハンガリー、チェコの順番で伝わったと言われています。
またドイツには、少しタイプの違う一層型バウムクーヘンとして、木の芯に一枚の薄いイースト生地を張り付けたBaumstriezel(木のイースト生地の長いパン)と言うお菓子があるようですが、オーストリアではほとんど知られていません。
中世にヨーロッパのどこかで生まれ、愛されてきたこの一層型バウムクーヘン。これが年月を経るにしたがって、三種類のバウムクーヘンに枝分かれしたという説が最も有力です。一つ目は、原形をとどめたままルーマニアやハンガリー、チェコに渡り、もう一方ではドイツで一枚生地のもの(Baumstriezel)が作られ、そして、第三のバウムクーヘンが多層となり、ドイツから日本に渡ったと考えるのが自然なようです。
日本でお馴染みの年輪バウムクーヘンはドイツから
年輪のあるバウムクーヘンを見かける機会はほとんどないオーストリアと比べ、ドイツではマイナーながら地方によっては特産物となっているところもあります。多層型バウムクーヘンは長時間の作業と職人技が必要とされるため、専用の設備のある厨房で作られます。また、イーストを含まない生地という点でも、一層型とは少し異なります。
このドイツのバウムクーヘンが、第一次世界大戦で捕虜となって日本に渡ったドイツ人ユーハイム(Juchheim)によって伝えられ、日本でもおなじみのバウムクーヘンの原型となりました。
この多層型バウムクーヘンはヨーロッパの他の国にもありますが、オーストリアでもPrügelkrapfen(直訳すると「細い丸太のお菓子」)という名でひそかに存在しています。
オーストリアでは専用のオーブンを使わず、あくまで直火であぶることにこだわります。7時間直火の温度を調節しながら木の芯を回し続けるため、非常に手間がかかり、市販はされていません。そのため、結婚式や洗礼式などの特別な家族イベントに登場するだけで、ニーダーエースタライヒ州とシュタイヤーマルク州の一部の地域以外では、日常生活で目にする機会はほぼなく、ほとんどのオーストリア人は聞いたこともないお菓子です。
バウムクーヘンの歴史と今
一口にバウムクーヘンと言っても、ヨーロッパ中で色々な歴史を辿ってきているのですね。ドイツよりも東欧のチェコやハンガリーの影響の強いオーストリアでは、ドイツとはまた一味違うバウムクーヘン事情があるようです。もし、オーストリアのお祭りでバウムクーヘンの屋台を見つけたら、ぜひ焼きたての一層型バウムクーヘンを一口食べて、ヨーロッパの歴史と食文化の広がりを味わってみてくださいね。
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ひょろ
- オーストリア、ウィーン在住。10年以上暮らしてもまだ新しい発見の連続のウィーンの魅力を、記事執筆、現地調査、ネットショップなどを通じてお届けしています。国際機関勤務を経て、バイリンガル育児の傍ら、ミュージカル観劇が趣味。