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3年に一度、スイスの町に牛の鐘"カウベル"が一堂に会する日
スイスでは、アイドゲノシシェ・シェラー・ウンド・トリヒラートレッフェン(Eidgenössische Scheller- und Trychlertreffen)という催事が3年に一度開催される。頑張って意訳すると「スイス連邦カウベル奏者会合」となるこの催しが、先日私が住む村のすぐ近所で開催されたので、その様子をご紹介したい。
スイスの伝統に欠かせないカウベル
スイスには、季節の祭事などの機会に人々が大きなカウベルを鳴らして歩く伝統的な慣習がある。日本語の「カウベル」は英語のcowbellをそのまま使ったものだが、スイスのドイツ語圏ではこの手のものを総じてクーグロッケ(Kuhglocke/クー(Kuh)は牛、グロッケ(Glocke)は鐘の意)又は単にグロッケと呼ぶ。
グロッケは、製法によって大きく2つに分類される。ひとつは板金をハンマーで打って形成・溶接するもので、もうひとつは溶かした金属(基本的に銅)を型に流し込む鋳造のもの。専門的には、この鋳造のものが「グロッケ」で、それ以外のものは「シェレ(Schelle)」と呼ばれる。具体的な例を挙げると、教会の鐘やホテルのレセプションにある呼び鈴はグロッケ。カウベル(クーグロッケ)や鈴などは、その大きさを問わずシェレとなる。
面白いのは、シュヴィーツ州に代表されるスイスの中央部地域ではその呼び名が異なっていること。スイス中央部地域では、鋳造のものを「シェレ」、板金製のものは「トリヒレ(Trychle/方言によってトリーヒレ(Triechle)、トライヒレ(Treichle)など様々な発音がある)」と呼ぶのだそうだ。
クーグロッケは、もちろん牛など家畜の首に付けるのがそもそもの使用方法。現在は打楽器としてパーカッション奏者などの間にも広く浸透しているが、スイスではこれらの使用目的の他に、春祭りに際して大きな音で冬を追い払ったり、大晦日の行事で旧年の厄払い的な役割を担うなど、祭事用具としての役割も持っているのだ。
(外アッペンツェル準州の旧暦大晦日に行われる伝統行事「シルヴェスタークラウゼン」にて)
このような行事・祭事に特化してシェレやトリヒレを使う・演奏する人たちのことを、シェラー(Scheller)もしくはトリヒラー(Trychler)と呼ぶ。最初にご紹介した催事の名称にある「シェラー・ウンド・トリヒラートレッフェン」とは、「シェラーとトリヒラーの会合」ということだ。
スイス全土からカウベル奏者が大集合!
トリヒレやシェレには、地方や地域によって何百種類もの形やベルトの装飾・音色の違いがある。カウベル奏者会合にはスイス全土の「伝統行事や祭事でトリヒレやシェレを使う」130以上もの団体(総勢3,000人以上!)が参加するので、色々なトリヒレやシェレが一堂に会するのが魅力。参加団体のメンバーはお揃いの衣装などに身を包み、地域色豊かで美しい自慢のトリヒレやシェレを担いで(もちろん鳴らす)行進しながら披露する。
催事の最大の目的は全土のトリヒラーやシェラーが集って交流をすることにあり、どの団体が一番だとかいうようなコンテストやランキング評価はない。参加者も見物客も、各地から集まったたくさんのトリヒレやシェレ(とそれを鳴らす人々)を純粋に楽しんで愛でる素敵なイベントだ。
トリヒレは各人が1つ又は2つ持つのが基本。1つの場合は両手でベルト部分を持ち、2つの場合は「かつぎ棒」の左右に1つずづトリヒレを付け、棒を肩に掛けて持つ。どちらの場合も、行進に合わせてグループ全員がトリヒレを一定のリズムで鳴らしながら歩く。
屈強な男性たちはもちろん、若い女性たちもアクティブに参加している。ただ行進するだけでなく、リーダーの合図に合わせてフォーメーションを変えたり、トリヒレを体の周りで回転させたりもする。
色々な大きさ・形・種類のトリヒレはもちろん、リーメン(Riemen)と呼ばれる革製のベルト部分に施された美しい刺繍や装飾も見どころのひとつだ。
鞭(むち)を空中で振り回し、射撃音かと疑うほどの大きな破裂音を立てるパイチェンクナレン(Peitschenknallen)も、スイスの伝統芸能のひとつ。やはりその音で悪霊や冬などを追い払うのが目的だ。
実際に見た(聞いた)のは初めてで、迫力満点!
将来伝統を継承する次世代のトリヒラー&シェラーも参加。こんな様子も、「生き続ける伝統」の象徴だと言える。
イベントのハイライトは、行進の最後に参加者が広場に一堂に集まり、全員がトリヒレやシェレを一斉に鳴らす場面。歩きながらではなく、立ち止まってその場で一定の時間トリヒレやシェレを鳴らすこの行為は、ウストリヒレ(Ustrichle)又はウーストリヒレ(Uustrychle)(「かき鳴らし」とでも訳そうか)と呼ばれる。私自身、結婚式や地域の祭事などで5~10人程度のトリヒラーがウストリヒレをしている場面には何度か出会ったことがあり、その時にも音量や響きに驚いたが、数千人のトリヒラー&シェラーによるウストリヒレは圧巻。
(ウストリヒレをする団体のひとつ。ドローンなどで全景を空撮できれば最高だったのだが...!)
次の「スイス連邦カウベル奏者会合」は、3年後の2020年にアールガウ州のブレムガーテン(Bremgarten)で開催される(詳細な開催日時はまだ未定)。フォルクローレに興味がある方には、今から少しずつ情報を集め、旅行の計画を立て始めてみてはいかがだろうか。
素敵なトリヒレたち、3年後にまた会いましょう!!
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Asami AMMANN-HONDA
- スイス東部トゥールガウ州の農村在住。元書店員、現在は兼業主婦(介護補助士&日本語教師&日独英通訳)。趣味はスポーツ・園芸・料理、専門は音響映像技術。