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イタリアの冬には魔女が来る!? ナターレを締めくくる「ベファーナ」とは?
イタリアのナターレ(クリスマス)には、シーズンを締めくくるのに欠かせない人物がいます。子供たちが楽しみに待つその人物の正体とは。
1年間の中で最も重要な行事であるナターレの終わりを、現地の人々はどんな風に過ごすのでしょうか。
目次
- ナターレシーズンは、エピファニアの日まで
- ベファーナと呼ばれる老婆とは
- 子供たちに思いを託す老婆の仕事
- ベファーナが子供たちに贈るものとは
- その年の運を占う大薪火「ブルーサ・ラ・ベーチャ」
- 2017年、気になる炎の行方は......。
ナターレシーズンは、エピファニアの日まで
カトリックの国であるイタリアは、年間行事のほとんどが宗教的な慣習に沿っています。
キリスト教のなかでも、宗派によりその認識は多少異なるようですが、イタリアのクリスマスシーズンは、12月8日の「インマコラータ・コンチェツィオーネ(無原罪の御宿り=聖母マリアがその母アンナの胎内に宿った)」から始まり、ジェスー(イエス・キリスト)の降誕とされる12月25日の「ナターレ(降誕祭=クリスマス)」を経たその後、1月6日の「エピファニア(Epifania......公現祭=ジェスーの顕現の記念日)」までというのが通常です。
クリスマスツリーを飾るのも、どこの町でも華やぐクリスマス・マーケットの出店も、この期間に準じています。
<ナターレシーズンを盛り上げる、街中のマーケットの屋台>
ベファーナと呼ばれる老婆とは
12月25日はイタリアにとっても、1年のうちで最も大切な日。そのため、家族一同が集まる、年末の大イベントとなります。その後、新しい年を迎えようやくナターレシーズンが幕を降ろすのですが、シーズン最終日の夜、1月6日のエピファニアを迎える1月5日の夜中に動き出すのがベファーナと呼ばれる老婆です。
クリスマスと言えば12月24日の夜、子供達にプレゼントを運ぶサンタクロースの存在を思い浮かべますが、イタリアの場合、バッボ・ナターレ(サンタクロース)はどちらかというと、後から登場した存在です。宗教的には、この老婆の来訪を待つのが正式(?)な過ごし方と言えるでしょうか。
<魔女のようで魔女でない、ベファーナたち>
黒くて長いスカート、その上には黒いポケットつきのマントを羽織り、とんがり帽子にとんがり靴、手にはほうきを持ち、しわくちゃの顔にはとんがったわし鼻......。これがベファーナのトラディショナルな風貌です。
一見すると、典型的な恐ろしい魔女のようでもありますが、よく見ると優しい目をしています。
子供たちに思いを託す老婆の仕事
さて、ベファーナが毎年1月5日の夜に活動するのには、れっきとした伝説があります。
新約聖書などで語られる伝説によると、12月25日にベツレヘムにて降誕したジェスー(イエス)の噂を聞いたマージ(東方三博士)たちは、彼を拝むためベツレヘムへ向かうことを決行します。その途中で、道に迷いそうになったマージたちがジェスーの居る場所を訪ねた人物がベファーナだった、とされています。
このとき、彼女は素っ気ない返事をしてマージたちを追いやってしまったのですが、その後思い直し、自分もジェスーのご加護を、と彼らの後を追うも、時すでに遅し......。仕方なく、ジェスーを探すべく、生まれたばかりの赤ん坊のいる家を一軒一軒まわり、甘いお菓子を置いていったといいます。そのうちの誰かがジェスーであることを願って......。
それ以来、ベファーナは今でもジェスーを探しているのかもしれません。
<屋台の軒先には、ベファーナ用の靴下が>
ベファーナが子供たちに贈るものとは
この伝説が現在も残り、1月5日の夜に子供達は枕元に靴下を置いて、ベファーナの訪問を待ちます。翌朝、お菓子でパンパンに膨れ上がった靴下を見て喜び、そしてドキドキしながら中を確認します。
なぜなら、一年間良い子にしていた子には、ドルチェット(甘いお菓子)が、悪い子にはカルボーネ(炭)を置いていく、と言われているからです。
枕元に靴下を置き、贈り物をする風習はサンタクロースと非常に似ていますが、良い贈り物ばかりではない、と言うのが魔女らしいいたずら心を感じさせてくれます。
<ジョークで靴下の中に忍ばせる炭の形をしたお菓子>
さて、実際に子供たちへ贈り物をするのは、もちろん親御さんたち。
ということで、この時期に街のマーケットへ行くと、実にカラフルで甘いお菓子が並んでいます。その中には、ジョークを込めてカルボーネ(炭)を模したお菓子もあるのですが、黒い炭の形をしたもののほかに、赤色や黄色などの色をした炭のお菓子もあります。
これは逆にポルタ・フォルトゥーナ(Porta Fortuna、幸運の印)とされています。
<屋台はカラフルな甘いお菓子でいっぱい>
その年の運を占う大薪火「ブルーサ・ラ・ベーチャ」
そして、私の住むヴェネト州パドヴァという街には、このエピファニアの日に行われる恒例行事があります。それは、街の一番大きな広場である「プラート・デッラ・ヴァッレ(Prato della Valle)」にて、大きな薪を燃やすというもの。薪の上にはベファーナが仕掛けられるのがこれまた恒例です。
そのベファーナは、醜ければ醜いほど良いのだとか。
<夕方には、町の大きな広場に大勢の人々が集まってきます>
「ブルーサ・ラ・ベーチャ(Brucia la Vecia)」と題されるこのイベントの意味するところは、イタリア語の「ブルッチャ(燃える)」のヴェネト弁である「ブルーサ」と、「ベファーナ(老婆)」が訛って「ベーチャ」と呼ばれることから来ています。つまりは、「ベファーナ燃やし」と言うわけです。
<てっぺんにベファーナが置かれた、大きな薪が準備されます>
「ブルーサ・ラ・ベーチャ」に使われるこの薪は、一般的には「ファロー」と言われ、この日に燃やす薪の煙の流れる方向で、この年の運勢を予測するという意味があります。
そして、組み込まれる木や枝は、ナターレ用のツリーで使われたもみの木などを使用するのが本来のやり方。燃やした際に良い香りも出ることから、ナターレの終焉と、明けたばかりの新年を祝う意味を持っています。
2017年、気になる炎の行方は......。
<点火後、一気に燃え上がり、ベファーナの姿はみるみるうちに見えなくなって....>
「ブルーサ・ラ・ベーチャ」当日の広場は、夕方5時の点火を待つ人々でいっぱいになります。大きな薪なので消防隊も出動し、安全面も入念にチェック。辺りも暗くなり始めた頃に一気に点火されると、あっという間に大きな炎の塊が......そして、頂上のべファーナもみるみるうちにその姿を失くしてしまいました。
燃えるときの力強い火力とその燃える音は、これもポルタ・フォルトゥーナ。一年を無事に穏やかに過ごすことへの願いでもあるのです。
今年も良き年になるようにと思いを馳せ、こうして新年のスタートを切りました。
(執筆・写真:Aki Shirahama)
プラート・デッラ・ヴァッレ(Prato della Valle)に関する情報
- 住所:Piazza Prato della Valle, 35121 Padova PD, イタリア
- 関連サイト:Prato della Valle
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