第2回 なぜ文明は3000年も続いたのか?男装の君主ハトシェプスト女王〈全5回エジプト)

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第2回 なぜ文明は3000年も続いたのか?男装の君主ハトシェプスト女王〈全5回エジプト〉

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交易で豊かさをもたらした
名君 ハトシェプスト女王

古代エジプトにおいては男性がファラオ(王)になるのが通例でした。女性が女王として国を統治した例は他にもありますが、後世に名を残した女王としてはハトシェプストは群を抜いていると思います。私がとくに惹かれるのは「戦争ではなく、交易によって国を繁栄させたこと」です。エジプトはナイル川の恵みもあって豊かな国ではありましたが、鉱物や動植物、スパイスなどエジプト国内ですべてが賄えるわけではなく。彼女は周辺諸国と積極的な交易関係を築くことで、エジプトをさらに豊かにしたのです。ハトシェプストは20年以上もの間国を統治しましたが、その間は内戦も発生せず、対外戦争は一度のみ。武力で富を得るのではなく、国の内側を豊かにしようとしたその政治姿勢は、他の男性ファラオたちと比較しても非常に際立っており、素晴らしいと感じています。

ハトシェプスト女王像
◀ハトシェプスト女王像
▲ハトシェプスト女王像
壁画
▲ハトシェプスト女王葬祭殿に描かれたプント国(現在のエリトリアル周辺)との交易を表した壁画
古代エジプト年表
わこナビ1

現世から「神聖なる世界」へ
の上昇を意図した構造

ハトシェプスト女王葬祭殿

この3層構造は、上層に登るにつれて空間の神聖さが高まっていく宗教的な階層を表現しています。中央のスロープを登る行為そのものが、現世から神の世界へと近づく精神的な旅を意味していたのです。最も神聖な上層テラスには最高神アメン・ラーが祀られているとともに、女王の葬祭礼拝堂も備わっていることから、彼女のもつ権威が偉大であったことが伺いしれます。

ハトシェプスト女王
葬祭殿

ハトシェプスト女王葬祭殿

ルクソール西岸にある、ハトシェプスト女王が建てた巨大な建造物。彼女の死後の安寧を祈り、守護神アメンらを祀るために作られました。約3500年前(紀元前15世紀)の建物ですが、崖と調和し現代建築のように洗練されたその姿は「古代エジプト建築の最高傑作」の一つに数えられています。

歴史からその存在を
消されかけた悲劇

カルナック神殿のレリーフ▲ハトシェプストの姿が削り取られたカルナック神殿のレリーフ

ハトシェプストの肖像や壁画の多くは、後世に削り取られたり別の王の姿に改変されたりしています。幼少のトトメス3世の摂政だった彼女は、後に共同統治者として自ら王位に就きました。かつてこの記録抹消は、実権を握ったトトメス3世が王座を奪われた恨みによる「個人的な復讐」だと広く信じられていました。しかし実際には、彼女の彫像や浮彫は単に破壊されただけでなく、トトメス3世やアメンヘテプ2世の姿へと改められていることが判明しています。これは単なる怒りによる破壊ではなく「ファラオは男性が継ぐもの」というエジプトの伝統的な王位継承の正当性を整えるための、後世の統治者たちによる組織的な歴史の書き換え(政治的措置)であったと考えられています。

わこナビ2

偉人として現代に蘇る
女王の姿

新10ポンド紙幣

歴史からその存在を消し去ろうとする動きに負けず、現代のエジプトにおいてその偉業が改めて称えられています。2022年に発行された新10ポンド紙幣のデザインとして彼女の肖像が採用されたのです。エジプトの豊かな歴史と女性の活躍を象徴し、改めて後世にその偉業が伝えられることとなりました。

Memo

ホルス神に供物を捧げる王という構図の壁画ですが、削り取られずきれいな状態で保存されていることから、描かれているのはハトシェプスト女王ではなくトトメス3世であろうという、さみしい考察がなされています。

壁画

男として王座に就いた
男装の女王

ハトシェプストはファラオ(王)になるために男装していました。これは300年前にエジプトを統治した女王と同じやり方です。様々な苦労や決断のプロセスがあったと思います。最終的に非常に平和な時代を築いたという点で、とても尊敬しています。ハトシェプストが女性であることが確認されたのは近代(19世紀半ば)のこと。葬祭殿に残された壁画や彫像には顎髭や男性の腰巻きが表現されており、女性であることはほとんど描かれていませんでした。つまり、女性でありながら男性のファラオとして王政社会を生き抜いてきたことが伺いしれます。それほど女性が王として君臨することは異例で難しいことだったのかもしれません。

わこナビ3

一本の歯が「女王」を
特定した!?

2007年、ハトシェプストの名が刻まれた小箱に納まっていた「折れた奥歯の破片」が、長年身元不明だった女性のミイラと合致することが判明し、資料からの推定ではなく科学的にハトシェプストが女性であったことが特定されたのです。そのミイラは現在エジプト文明博物館にて保存・展示されています。

Memo

ハトシェプスト女王葬祭殿に残された女王像。見た目では女性と判別はできません。

女王像

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