「ワインセラーの猫の散歩道」でワインを楽しむ秋のハイキング|オーストリア

収穫の秋、食欲の秋がやってきました。ワインの生産地であるオーストリアでは、秋になるとブドウ畑のハイキングが大人気。ワイン片手に散策を楽しむ人たちの姿が各地で見られます。

今回訪れるのは、ウィーン北部の「ワイン地方」に見られる独特の街並み「ケラーガッセ」。ユネスコ無形文化遺産にも選ばれたワイン蔵とブドウ畑の並ぶ散歩道を歩きながら、ワイン文化について学んでみたいと思います。

ワインやグルメ好きな方だけではなく、体も頭も元気になるハイキングが好きな方、オーストリアののんびりした田園風景を楽しみたい方など、一度で何度も美味しいハイキングを、一緒に楽しんでみましょう!

目次

ケラーガッセの街並み
<ケラーガッセの街並み>

ワイン蔵通り「ケラーガッセ」

ウィーンからチェコの国境まで広がる地方は、オーストリア有数のワインの名産地です。この地方独特のワイン蔵通り「ケラーガッセ」の街並みは、ユネスコ無形文化遺産にも選ばれています。

「ケラー」はワインセラーやワイン造りの地下蔵を、「ガッセ」は小路を意味し、文字通り「ワインセラーが並ぶ小路」という意味になります。

この地方のワイン造りを特徴づけるのは、「レス」と呼ばれる黄土です。この土壌の丘が、往来や洪水などによって削られると、次第に切通しの道ができ、この道の両側の壁に横穴を掘ると、ちょうどワイン醸造に適した温度と湿度の地下蔵になります。この地方の美味しいワインは、土と人間のコラボだったわけですね。

「レス」の土壌で片側だけ削られた道
<「レス」の土壌で片側だけ削られた道>

ウィーン北部のほとんどのワイン産地の村には、このケラーガッセがあり、きれいに整備された地下蔵から、廃墟寸前で崩れかけたものまで、さまざまな表情を見せてくれます。

オーストリアで人気の白ブドウ
<オーストリアで人気の白ブドウ>

ブドウ畑と隣接しているので、ハイキングや散歩に訪れる人も多いケラーガッセの街並みですが、今回はその中でも、ブドウとワイン造りについてさまざまな学びがあり、ケラーガッセとブドウ畑両方の景色が楽しめる、私が知る中でも最も整備されたケラーガッセに行ってみました。

「ワインセラーの猫」とは?

今回訪れた、「ワインケラーの猫の小道」という変わった名前のハイキングコースには、屋内展示4か所を含む25の展示や説明書きがあり、ワイン造りの歴史や、この地方の文化に触れることができます。

行程は4.15kmで、ゆっくり展示を見て、休憩をはさんでも2~3時間で歩くことができます。緩やかな坂道で、ハイキング初心者向けですし、学びの要素が多いので、ワイン好きの大人だけでなく、ファミリーにもおすすめですよ。

駅からのアクセスも良く、途中で水飲み場やベンチ、トイレなども整備されていますので、ハイキングだからと身構えず、お散歩気分で気軽に楽しめます。

ワイン蔵にはブドウのツタが絡んで、ワイン産地らしい風情がある
<ワイン蔵にはブドウのツタが絡んで、ワイン産地らしい風情がある>

「ワインセラーの猫の小道」というハイキングコースの名前は、この地方のワイン造りの「お守り」にもなっている、ワインセラーに住む黒猫が元になっていますす。

気温が低い地下のワイン蔵に住む猫は、温かい樽の上に座る習性があります。猫が座りたくなるほど温かい樽の中では、発酵が活発に行われていて、将来良いワインになるので、猫が上に座った樽を、ワインの作り手たちはしっかり覚えておくという習慣があります。

また、「ワインセラーの猫」には、地下蔵独特の「黒カビ」の意味もあります。なぜカビ=猫なのか不思議に思われるかもしれませんが、このカビの見た目はふわふわの毛皮のようで、遠くから見たら黒猫のように見えることがあります。

このカビはアルコール蒸気を栄養源とし、ワイン造りに適した高湿度な環境でしか生育しないため、この黒カビが生えたワイン蔵は、ワイン造りの最適だという証拠になります。

地下の酒蔵には、美味しいワインを作る酒蔵の特徴である、黒カビがぎっしりついて、これが黒猫に見えるときがある
<地下の酒蔵には、美味しいワインを作る酒蔵の特徴である、黒カビがぎっしりついて、これが黒猫に見えるときがある>

この二つの理由から、「ワインセラーの猫」はこの地方のワイン造りのシンボルになり、この散歩道の名前にもなっています。

かわいい黒猫の装飾がいたるところにあるケラーガッセ
<かわいい黒猫の装飾がいたるところにあるケラーガッセ>

ケラーガッセとワイン畑をハイキング

それでは、ケラーガッセを歩いてみましょう。スタート地点にはホテルがあり、ここでチップカード(デポジット5ユーロ)を受け取ると、コース上の一部のワイン蔵や展示室のカギを開けることができ、内部を見学することができます。

緩やかなスロープを上がっていくと、ブドウにちなんだ装飾がかわいいワイン小屋が立ち並んでいます。パステルカラーの牧歌的な街並は、どこか別の時代にタイムスリップしたような感覚になりますね。

ワインの神バッカスをかたどったレンガ造りのワイン蔵
<ワインの神バッカスをかたどったレンガ造りのワイン蔵>

少し歩いていくと、チップカードを使って見学できるワイン蔵があります。中に入ってみると、半地下のスペースがあり、ブドウジュースを作るための古い装置が展示してあります。この装置の樽の中に収穫したブドウを入れ、てこの原理でブドウを絞るのに使われていたもので、オーストリアのワイン生産地ではおなじみの道具です。

ブドウジュースを絞る装置
<ブドウジュースを絞る装置>

奥の扉を開けると、地下蔵につながっていて、ワインの樽が並んでいます。気温は10度ほどでひんやりして、湿度が高いことがわかります。ほとんどのケラーガッセの家は、このように半地下に一部屋あり、そこから本格的な地下蔵につながる構造をしています。

外観がかわいい小屋なのに対し、奥は迷路のようになっていて、ワイン造りの奥深さを感じさせますね。

地下蔵の階段
<地下蔵の階段>

また地上に戻り、散策を続けます。コース上には黒猫が目印の看板が点在していて、ワイン造りに関するさまざまなトリビアを知ることができます。

黒猫の看板とベンチ。右には地下蔵への入り口がある
<黒猫の看板とベンチ。右には地下蔵への入り口がある>

別の屋内展示では、子供向けの触って学べるワークショップもあり、ぶどう搾り機の使い方や、樽の作り方、地下室を作るためのレンガの組み方などを、試行錯誤しながら学ぶことができます。私もさまざまなワイン造りの資料館を訪れてきましたが、このような実践的な展示は初めてで、勉強になりました。

自分でレンガを組んで、地下蔵の作り方を体験できる展示
<自分でレンガを組んで、地下蔵の作り方を体験できる展示>

更にコースを歩いていくと、次第に周りには、茂みに隠されてしまうような、風情たっぷりの小屋も見られるようになり、この寂れた感じがたまりません。

ケラーガッセのはずれにある、ワイン蔵への入り口の扉
<ケラーガッセのはずれにある、ワイン蔵への入り口の扉>

丘を登りきると、息をのむような景色が広がっています。眼下にぶどう畑が広がり、周りもブドウ畑に囲まれていて、ワイン造りのパラダイスにいるようです。収穫直前の白ブドウがたわわに実り、秋の青空によく映えます。

眼下に広がるブドウ畑
<眼下に広がるブドウ畑>

景色を楽しんで休憩した後は、かかしが並ぶ牧歌的なハイキングコースを下り、土壌がむき出しになった切通しを歩くと、先ほどのケラーガッセに並行した二本目の小道にやってきます。

ここでもチップカードを使って入れる展示があり、ワインの香りを当てるクイズや、地元のワインや農産物を売っている自動販売機、ワイン造りの歴史やトリビアを教えてくれるビデオなどもあります。

ブドウ畑の中も散策できます
<ブドウ畑の中も散策できます>

地元のワインや、おつまみのパンとパテが入ったピクニックバスケットを事前に注文しておいて、ハイキングの後半で楽しむこともできますし、ハイキングの後で近隣のワイン居酒屋「ホイリゲ」で、ワインとおつまみを楽しむこともできます。体を動かした後のワインは最高ですね!

ホイリゲのワイン売り場
<ホイリゲのワイン売り場>

この日は、搾りたてのぶどうジュースが発酵してワインになる途中の、この季節限定の飲み物「シュトルム」を注文しました
<この日は、搾りたてのぶどうジュースが発酵してワインになる途中の、この季節限定の飲み物「シュトルム」を注文しました>

参考記事:ウィーンで若いワイン、シュトルムやモストを満喫する秋

まとめ

ワイン造りの歴史と文化を歩いて触って体験できる、「ワインケラーの猫の道」のハイキング。秋の青空に、牧歌的で街並みを歩くと、何百年も前からワイン造りに携わってきたこの地方の人たちの情熱と歴史を感じ、タイムスリップしたような錯覚にとらわれます。

秋のオーストリアのハイキングは最高に気持ちがいいので、町の観光だけでなく、郊外や田舎に足を延ばしてみてはいかがでしょうか?

ワインセラーの猫の散歩道 Kellerkatzenweg

※出発地点のホテルの営業時間外は、チップカードは使えませんが、ハイキングは可能

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ひょろ

オーストリア、ウィーン在住。10年以上暮らしてもまだ新しい発見の連続のウィーンの魅力を、記事執筆、現地調査、ネットショップなどを通じてお届けしています。国際機関勤務を経て、バイリンガル育児の傍ら、ミュージカル観劇が趣味。

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