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コンポステーラ街道〜フランスの巡礼村を訪ねて~
キリスト教巡礼路といえば、スペインの聖地を目指すサンティアゴ・デ・コンポステーラ街道。宗教的理由に留まらず、観光に、スポーツに、この巡礼路を歩いてみたいと思う人は世界中にいます。聖地巡礼旅のフランス側スタート地点には、スペイン国境近くの村を選ぶ人が多いのですが、実は巡礼ルートはフランス内陸、さらには国境を越えてヨーロッパ広域にいくつもの道が存在します。
今回は、世界遺産に登録されている「フランスのサンティアゴ・デ・コンポステーラの巡礼路」の中から、私が旅先で感銘を受けた3つの巡礼村をご紹介します。ぜひ巡礼者気分で聖なる村々を眺めてみて下さい。
目次
サンティアゴ・デ・コンポステーラ巡礼とは
中世から1000年以上の歴史を持つこの巡礼路は、スペイン北西部の街サンティアゴ・デ・コンポステーラにある大聖堂を目指します。聖堂は、キリスト12使徒のひとりである殉教者ヤコブの墓が見つかったとされる場所の上に建設されています。
聖ヤコブは、スペイン語ではサン=ティアゴ、フランス語ではサン=ジャック。ヤコブのシンボルであるホタテ貝マークが巡礼路の目印で、道中にある巡礼村には、毎年多数の人々が宿をとります。
中世の人々は、聖人の遺物、遺骨に触れることで、魂の救済を求めました。ヤコブはキリスト亡き後、イベリア半島(スペインはまだ建国されていない)で伝道活動を為し、戻ったエルサレムで処刑されました。
弟子たちによって奇跡を起こしながら運ばれたとされる全遺体が、サンティアゴ・デ・コンポステーラの地に埋葬されたと信じる人々には、巡礼の旅は計り知れない大きな意味を持つものだったのでしょう。
下の地図は、サンティアゴ・デ・コンポステーラ大聖堂への巡礼路です。巡礼者は、スペイン、フランスに留まらず、ヨーロッパ各国からスペイン北部西端にある聖地を目指します。フランスの主要巡礼路は青線で示された4ルート。
ユネスコ世界遺産には、1993年にスペイン国内の巡礼路が「サンティアゴ・デ・コンポステーラの巡礼路」で登録され、1998年にフランスの巡礼路の一部と途上の主要建造物群が「フランスのサンティアゴ・デ・コンポステーラの巡礼路」として別途登録されています。
世界遺産に認定されているフランスの建造物群は、13地域、63モニュメントに及び、そのうちの幾つかは単独でも世界遺産登録されています。有名な大聖堂、教会、修道院も多く含まれています。
永遠なるヴェズレーの丘
リモージュの道の起点ヴェズレーは、ブルゴーニュ=フランシュ=コンテ地方の中世の街並みの残る村。「ヴェズレーの教会と丘」という名称で1979年に単独で世界遺産に登録されており、また、「フランスの最も美しい村」の認証村でもあります。
現在ヴェズレーは村民500人程の小さな村ですが、12世紀には中世キリスト教スピリチュアリティの核となった場所です。聖人たちの遺物が祀られ、第2、3回十字軍発足の地となるなど、特異な歴史がある村です。イエスの処刑、埋葬、復活に立ち会った女性、マグダラのマリアの聖遺物があるということで、多くの巡礼者を集めました。
丘の上に建つ聖マドレーヌ大聖堂は、マグダラのマリア=仏名サント・マドレーヌに捧げられた教会。ロマネスク、ゴシック、ネオロマネスク様式が混合した大傑作で、歴史的建築物として非常に価値の高いものであり、大聖堂入り口にある「聖霊降臨」を描いた彫刻は必見です。
教会を出てすぐの丘上からの風景です。修道院の麓に村が形成され、その周囲は美しい緑でとり囲まれています。まさに小さな神の国、そこには永遠を感じる完全性を有しているのです。
絶壁の聖地ロカマドゥール
ヴェズレーから南西へ約400km。徒歩で90時間。フランス南西部の村ロカマドゥールは、絶壁の巡礼村として、とても人気のある場所です。まずは遠写での村の写真をご覧下さい。
高台にある駐車場付近からこの風景を目にした時には、「ここをずっと降りて、下からあそこまで登るんですか!?」と怯んだのは言うまでもありません。
岩壁を削って作られた7つの礼拝堂が存在する世界遺産の聖域(サン=ソヴール教会のサン=マタドゥール地下礼拝堂)は中位置にあります。脚力に自信のない者には厳しい巡礼地ですが、幸いにも参道途中には、有料のエレベーターもあります。
世界から隔離したような絶景の聖地は、モン・サン・ミシェルを思い出しますが、狭い参道の両脇がお土産屋やレストランでごった返しているのもそっくり。
ヤギの可愛い看板は、村の名を持つチーズの販売店。薄い丸型、手のひらサイズの「ロカマドゥール」は、優しい味の山羊乳のチーズで地域の特産品です。
巡礼者たちが祈りながら膝をついて登ったとされる216段の階段を登り切った先の聖域には、絶壁の中につくられた大小7つの礼拝堂があります。中でもノートルダム礼拝堂に祀られている黒い聖母像は、数々の奇跡を起こしたとされています。巡礼者たちは聖母に何を祈るのでしょうか。
癒しの街カオール
ロカマドゥールから南へ約50km。徒歩で12時間あまり。しずくを描くように流れるロット川に抱かれたカオールは、孤島のような小さな街。高い山に囲まれた絶壁村を経てここに辿り着いた巡礼者たちは、穏やかな川にかかる美しいヴァラントレ橋を見て、さぞ感動したことでしょう。
ヴェズレーやロカマドゥールの印象が"巡礼村"ならば、カオールの第一印象はリゾート地。訪れたのが夏だったので、カヌーなど川スポーツを楽しむ人々やバカンス中の英国人達が、のんびりカフェで雑談していました。
巡礼者たちが向かうのは、街中心にある12世紀建造サン=エティエンヌ大聖堂。ヴァラントレ橋と共にフランスのコンポステーラ巡礼路の主要モニュメントとして、世界遺産に認定されています。
ロカマドゥールなどのフランス南西部の山岳地域を歩き回った後、カオールに辿り着いた私は、水辺の風景に癒され、深い解放感に包まれました。こんな素敵な場所を終の住処にできたらいいな、と水辺好きな私は思ったのです。巡礼者たちはこの街の風景をどう受け止めたのだろう?きっと、神様の恵みに祈りを捧げて眠りにつき、早朝には次の地を目指して歩き出した無数の旅人たちがいたに違いないと思っています。
スペイン国境の村、サン・ジャン・ピエ・ド・ポーまでは、ここから約300km、徒歩68時間。そこから約1,000kmのルートの先に、目的地サンティアゴ・デ・コンポステーラは存在するのです。
さいごに〜巡礼がもたらすもの
人はなぜ巡礼の旅に出るのか?
AIからの答えは「1. 精神的・宗教的探究 2. 許しと贖罪 3. 癒しの探求 4. 個人的な再生 5. 伝統と文化 6. 個人的な挑戦と冒険」でした。
理由こそさまざまであれ、巡礼は目的地を目指す過程に価値があるというのは、誰もが同意することでしょう。自然の中、自分の呼吸の音を聞きつつ歩く過程で、人々は神様や自己との会話を繰り返し、大切な何かを見つけていくのに違いない。
時は秋、私も巡礼とまではいかなくても、もっと一人歩きの時間を作ろうと思いつつ今回の旅のページを閉じたいと思います。
では、また次の旅路でお会いいたしましょう。それまで、お元気で!
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原田さゆり
- 旅・文化・猫を愛する、フランスの田舎在住者。フランス中を旅しています。