【オランダ】ゴッホの森に佇む「クレラー・ミュラー美術館」 

オランダ東部のヘルダーラント州にあるクレラー・ミュラー美術館は、世界で2番目の規模を誇るゴッホ・コレクションを所蔵しています。デ・ホーヘ・フェルウェ国立公園内にあり、広大な自然の中でサイクリングも楽しめます。

オランダ政府観光局はクレラー・ミュラー美術館と国立公園の一帯を「ゴッホの森」としてPRしており、アムステルダムからの小旅行にも最適なエリアです。

目次

ゴッホの第二の故郷

ゴッホの第二の故郷
<Photo: Kröller-Müller Museum>

クレラー・ミュラー美術館 (Kröller-Müller Museum) は、オランダ東部にあるデ・ホーヘ・フェルウェ国立公園 (Nationaal Park De Hoge Veluwe) 内に位置する近現代美術の美術館です。ドイツ人美術収集家ヘレン・クレラー・ミュラー(1869-1939)のコレクションを基に、1938年に開館しました。

ヘレン・クレラー・ミュラーは、1907年から1922年にかけて約11,500点の美術作品を収集しました。特にゴッホのコレクションは、アムステルダムのゴッホ美術館に次いで世界で2番目の規模を誇り、クレラー・ミュラー美術館には国内外から年間約40万人が訪れます。

私にとって、クレラー・ミュラー美術館は以前から訪れたいと思っていた場所で、2024年7月にようやく訪れることができました。アムステルダムから友人と車で向かい、高速道路を利用して約1時間のドライブでした。公共交通機関を利用する場合は、アムステルダムから電車とバスを乗り継いで約1時間40分です(アクセス方法は記事末尾の「施設情報」をご参照ください)。

国立公園をサイクリング

クレラー・ミュラー美術館はデ・ホーヘ・フェルウェ国立公園内に位置しているため、まず公園のチケット(大人13.05 ユーロ、6~13歳 6.55 ユーロ)を購入する必要があります。公園には、オッテルロー (Otterlo) 、フンデルロー (Hoenderloo)、スカールスベルゲン (Schaarsbergen) の3か所のエントランスがあり、公園内を自由に移動できる自転車を無料でレンタルできます(下写真)。

私と友人は、フンデルローのエントランスに車を駐め、そこから自転車で公園のほぼ中央にある2.5km先のクレラー・ミュラー美術館へ向かいました。公園内には自転車道が整備されており、車を気にせず快適にサイクリングを楽しめます。

フェルウェ国立公園

クレラー・ミュラー美術館に到着すると、まず真っ赤な彫刻が目に飛び込んできました。マーク・ディ・スヴェロの『K-Piece』です(上写真/奥)。鋼鉄を組み合わせた巨大な彫刻で、背景の豊かな緑と目の覚めるような赤とのコントラストが鮮やかです。

その傍らには、オズワルド・ウェンケバッハの『ジャック氏』が訪問者を出迎えます(上写真/手前)。美術館で芸術鑑賞をする男性を模したこの彫刻は、その微笑ましい佇まいで人々に愛され、クレラー・ミュラー美術館のシンボルとなっています。

ゴッホの名作を堪能

ゴッホの名作を堪能
<Photo: Kröller-Müller Museum, Marjon Gemmeke>

クレラー・ミュラー美術館には、90枚の絵画と180枚のデッサンからなるゴッホ・コレクションがあり、美術館の中央にはゴッホ・ギャラリーがあります(上写真)。

私のお目当ては、初めて鑑賞する『夜のカフェテラス』でした。その大胆な色使いや想像以上に厚く塗られたランタンの光を、間近でじっくりと味わいました。

ゴッホは手紙に、「これは黒のない夜の絵だ。美しい青と紫と緑だけで、その中でライトアップされた部分は、淡い硫黄色やレモングリーンで彩られている」と綴っています。ゴッホが色彩にこだわって描いたカフェテラスは、青い夜空の下で輝き、吸い込まれるような魅力がありました。

Kröller-Müller Museum
<Photo: Kröller-Müller Museum>

『ジョゼフ・ルーランの肖像画』(上写真/左)や『ルーラン夫人ゆりかごを揺らす女』は、美術館の照明の影響か、いつもゴッホ美術館で鑑賞しているゴッホの絵画より一層鮮やかに見えました。『ジャガイモを食べる人々』や農民たちの肖像画、ジャガイモの静物画なども、ゴッホ美術館の作品と比べると面白さが増しました。特に、ゴッホの切なさと情熱が凝縮された『盛りを過ぎた4本のひまわり』(上写真/右)には心を打たれました。

近代美術のギャラリー

近代美術のギャラリー

クレラー・ミュラー美術館ではクロード・モネやピート・モンドリアン、パブロ・ピカソといった近代の巨匠の作品も鑑賞できます。

ジョルジュ・スーラの『シャユ踊り』やテオ・ファン・レイセルベルヘの『満潮のペール=キリディ』をはじめとする新印象派の緻密な点描技法に圧倒されたり、オディロン・ルドンの『キュクロプス』の幻想的な色合いに魅了されたり、フロリス・フェルスターの『雪の風景』に故郷の情景を重ねてみたり、とても見応えのある展示でした。

近代美術のギャラリー

近代美術の豊富なコレクションは、写実主義から抽象主義に至るまで、19世紀から20世紀にかけての美術の発展を物語っています。

スーラの忠実な支持者として知られるポール・シニャックが点描画に移行する前に描いた『Port-en-Bessin, La Valleuse』(上写真)や、象徴主義の画家ヤン・トーロップが点描法を試していた時代の『版画愛好家アーヒディウス・ティメルマン博士』など、それぞれの画家の表現技法の変遷も垣間見ることができました。

ロニ・ホーン『Opposites of white』
<ロニ・ホーン『Opposites of white』, Photo: Kröller-Müller Museum, Marjon Gemmeke>

ヘレン・クレラー・ミュラーの収集した美術コレクションには、一貫して上品さが漂っているように感じられました。彫刻展示室や廊下には柔らかな光が差し込み、絵画展示室も心地よいサイズで、まるで彼女の邸宅で美術品を鑑賞しているかのような雰囲気でした。

企画展『The Wood for the Trees』

2024年3月23日から9月15日まで開催されている企画展 『The Wood for the Trees』は、自然と人間の関係をさまざまな方法で探求するアーティストたちによる展覧会で、壮大な自然に対する人間の責任や役割が示唆されています。

エイヤ=リーサ・アフティラの『APRIL ≈ 61°01' 24°27'』は、壁一面に南フィンランドの森を映し出すイマーシブアートで、美術館の廊下から見える木々と一続きになるように演出されています(下写真)。アフティラは、人間中心の視点から世界を見せるのではなく、自然がダンスを踊りながら春から夏へと移り変わっていく様子を表現しています。映像に近づくと自らの影がスクリーンに映り込み、まるで森の中に足を踏み入れたかのような感覚になりました。

Kröller-Müller Museum
<Photo: Kröller-Müller Museum, Marjon Gemmeke>

ハンス・オプ・デ・ベークの『集落』は、東南アジアの村をミニチュアで再現した幻想的なインスタレーションです(上写真)。西洋人が休暇旅行でよく知っている「牧歌的」な村が、色彩を失い灰色の風景となり、気候変動による海面上昇で村が危険に晒されている様子が表現されています。村を見下ろすように階段状の鑑賞席が設けられており、心行くまでその不思議な薄暗さと静寂に浸ることができます。水面に映る光は、まるで蛍のようでした。

25ha(ヘクタール)の彫刻庭園

クレラー・ミュラー美術館には、ヨーロッパ有数の規模を誇る彫刻庭園があります。アリスティド・マイヨール、ジャン・デュビュッフェ、マルタ・パンなど、個性的な彫刻家の作品160点が緑豊かな自然の中に点在しています。

彫刻作品はサイズも材料もコンセプトもさまざまで、遠くからモダン彫刻と自然のハーモニーを鑑賞したり、近づいて素材の感触を確かめたり、さまざまに楽しむことができます。

彫刻庭園

  1. 1. マルタ・パン『浮かぶ彫刻~オッテルロー』1960-1961年, photo: Cary Markerink
  2. 2. クレス・オルデンバーグ『こて』1971年, photo: Valerie Spanjers
  3. 3. ヘルマン・マイヤー・ノイシュタット『WD-Spiral Part One CINEMA』2001年, photo: Eva Broekema
  4. 4. ジャン・デュビュッフェ『エナメル・ガーデン』1974年, photo: Valerie Spanjers

私と友人は美術館を鑑賞した後、1時間半ほど彫刻庭園を散策しました。小高い丘を登った先で突然巨大な石の群れに出会ったり、作品の中に入って窓から森を眺めたり、彫刻に登ったりと、どこを歩いても楽しい景色に出会えました。

ちょうど天気の良い日だったので、芝生の上で寝転んでいる人や、ピクニックをしている家族連れもいました。レストランでランチをする際は、彫刻庭園内にある屋外レストランがおすすめです。テラス席は緑に囲まれ、美術館内のカフェよりもメニューが豊富です。

彫刻庭園の無料マップは美術館内にありますが、事前に公式サイトからダウンロードすることもできます。

芸術と自然を満喫できる「ゴッホの森」

ゴッホの森

クレラー・ミュラー美術館と彫刻庭園を鑑賞した後は、デ・ホーヘ・フェルウェ国立公園の北部にある「聖ヒューベルトゥス狩猟館 (Jachthuis Sint Hubertus)」までサイクリングを楽しみました(上写真)。この狩猟館は、ヘレン・クレラー・ミュラーとアントン・クレラー夫妻の別荘で、1914年に建築家ヘンドリク・ペトルス・ベルラーヘによって設計されました。

両翼を広げて立つ塔が美しく、門柱灯や大時計、石版装飾、彫刻など、細部にまでこわだりが感じられるデザインです。現在はオランダの国家遺産に指定されており、池の畔や庭園の中を散歩することができるほか、館内ではガイドツアー(大人6ユーロ、6~12歳3ユーロ, 要予約)も開催されています。

ゴッホの森

デ・ホーヘ・フェルウェ国立公園には5,500haの森林が広がり、ヒースの平原や草地、松林の中をサイクリングできます(上写真)。森には野生の羊や鹿、キツネ、イノシシなどが生息しているそうです。

また、公園内では森林レンジャーによる散策ツアーや、地元の特産品マーケット、自然や科学に関するワークショップ、子ども向けの演劇など、年間を通してさまざまなイベントが開催されています。

まとめ

芸術と自然のユニークな組み合わせを満喫できる「ゴッホの森」をご紹介しました。アムステルダムから約1時間半の小旅行で、クレラー・ミュラー美術館や彫刻庭園、さらにデ・ホーヘ・フェルウェ国立公園を楽しむことができます。ゴッホの名作を鑑賞したい方や、オランダの大自然を体験したい方は、ぜひ足を運んでみてください。

Kröller-Müller Museum
<Photo: Kröller-Müller Museum, Wieneke Hofland>

施設情報

クレラー・ミュラー美術館 Kröller-Müller Museum

  • 所在地:Houtkampweg 6, 6731 AW Otterlo
  • アクセス:アムステルダム中央駅よりNijmegen行きインターシティで54分Ede-Wageningen下車, Apeldoorn Station行きHermes RRReisバス108系統に乗り換えて18分Rotonde下車, De Hoge Veluwe National Park行きHermes RRReisバス106系統に乗り換えて8分Kröller-Müller Museum下車徒歩3分
  • 営業時間:火~日, 祝日10:00~17:00/1月1日休館/ 2024年の月曜日は2月12日, 2月19日, 4月29日-8月26日, 10月21日, 10月28日, 12月23日, 12月30日のみ営業
  • 入館料:大人13ユーロ, 13-18歳 6.5ユーロ, 12歳以下無料, ミュージアムパス無料
  • 公式サイト:クレラー・ミュラー美術館

※事前にチケットの予約・購入が必要です。

※日本語のガイドツアー、オーディオガイドがご利用いただけます。

デ・ホーヘ・フェルウェ国立公園 De Hoge Veluwe National Park

  • 所在地:Houtkampweg 9, 6731 AV Otterlo
  • アクセス:クレラー・ミュラー美術館へのアクセス方法と同じです。
  • 開園時間:4月8:00~20:00/ 5月8:00~21:00/ 6~7月8:00-22:00 /8月8:00~21:00/ 9月9:00~20:00/ 10月9:00~19:00/ 11~3月9:00~18:00
  • 入園料:大人13.05ユーロ, 6-13歳 6.55ユーロ
  • 駐車場:公園内9.25ユーロ, 公園入口前4.65ユーロ
  • 公式サイト:デ・ホーヘ・フェルウェ国立公園

※クレラー・ミュラー美術館のチケットとは別に、公園のチケットも購入する必要があります。公園のチケットはオンラインまたはエントランス窓口で購入できます。

施設の詳細やアクセス方法など掲載内容は2024年8月時点のものです。最新情報については、必ず公式サイトなどでの確認をお願いいたします。

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Kayo Temel

オランダ在住。アムステルダムの美術アカデミーで絵画を学び、イラストレーターとして活動中。20年の在蘭経験を活かして、オランダを満喫するためのローカルな情報をお届けします。

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