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どこもかしこも不安定? 岐阜のフシギ感覚スポット「養老天命反転地」
岐阜のイメージといえば、緑豊かな山と清らかに流れる川、そして里山での昔ながらの生活といった、変わらぬ古き良き日本の原風景――この自然ゆたかな岐阜の地で、不安定なフシギ感覚を楽しめるのが「養老天命反転地」です。
養老天命反転地は、2016年にテレビ番組でロケに使われたことで一気に注目され、その後もインスタグラムなどSNSの普及によって「映える写真スポット」として、その人気ぶりはますます勢いに乗っています。
その一方、訪れた人のSNSや紹介サイトでは、「危険な公園」「異空間」「摩訶不思議」というフレーズが並び、一癖も二癖もありそうな予感......。いったい養老天命反転地とは、何の目的で作られたテーマパークなのか? 何がそれほどまでに人々を引きつけるのか? 何だか心配ですが、園内をすみずみまで歩き、その謎に迫ってみることにしました。
目次
<5. 養老天命反転地の全体が見渡せるスポット「精緻の塔」>
1. 不安定過ぎなテーマパーク「養老天命反転地」とは
養老天命反転地がオープンしたのは、今から30年近く前の1995年のこと。岐阜県南西部、養老山脈のふもとに、国際的な美術家で建築家の荒川修作とパートナーで詩人のマドリン・ギンズ(ともに故人)が構想して形にした「心のテーマパーク」として産声を上げました。自然界にある水平や垂直な線がことごとく除かれていて、人工的な地平線がいくつも存在し、不安定で複雑な空間が形作られています。
園でもらえるパンフレットを手にすると、荒川+ギンズの2人は、「人間は人間の『身体』の無限の可能性を活かし、この世界を希望ある未来に転換すべきだ」という結論に至ったと書かれています。養老天命反転地という名前には、私たちの身体を変革して死を克服する、つまり「運命を反転させる手段としてのテーマパークである」という思いが込められているそうです。
この園内を見てまわり終わった時点で、荒川+ギンズが至った結論に少しでも共感できるのか? 死を超えた先の世界を見ることができるのか? 果たして私の運命も反転してしまうのか? 入園してわずかの間に、私の心まで不安定になりかけていました。
ともあれ、一度、我に返り、どれくらいの時間で敷地内を見て回ることができるのか調べてみると、敷地は約18,000平方メートル。ざっと見るだけなら、1時間ほどで回れる手頃な大きさです。見る前からいろいろ考えても仕方ない。Don't Think. Feel! ということで先へ進みました。
2. のっけから仰天!「養老天命反転地記念館」
ここは養老天命反転地の中でも、映え写真が撮れる人気スポットのひとつです。こんな写真をSNSで見かけたことはないでしょうか? チケット窓口から入って前方に見えるこのカラフルな建物は、「養老天命反転地記念館」で、オープンして2年後に建てられました。24色の色が使われているこちらの建物は、オフィスとして使えるようにデザインされたとのこと。
館内へ入ると、のっけから仰天! カラフルな室内の床は、丘のように盛り上がっているところや窪んだところがあって、かなり不安定な構造になっています。それに、床にはさまざまな高さの塀が迷路状に配置されているのですが、よくよく見ると、天井にも上下反転した状態で同じ塀が突き出しているのです。これが、反転の世界......。
丘のように高いところに立てば、館内の迷路を見下ろしているように感じ、窪んだところから見れば、迷路の塀がそびえ立っているように感じます。最初は何ともなくても、館内で迷路に沿って歩いてみると、だんだん平衡感覚と遠近感が鈍ってくるのが分かります。もしかするとこの感覚は、運命、いやむしろ天命に抗っている感覚に近いのでしょうか。
館内にはいくつか出入り口があるので、気分転換が必要だなと感じたら、こまめに外の空気を吸いに出ることをおすすめします。しかしこの出入り口、場所によって急斜面に続いているところもあるので、油断は禁物です。
3. 岩登りの先には何が?「昆虫山脈」
「養老天命反転地記念館」の先に現れるのは、「昆虫山脈」という名前のごつごつした大きな岩が積み上がった険しさ120%のパビリオンです。
岩山の頂上には甕(かめ)と汲み上げ式のポンプがあり、どうやらポンプの蛇口からは水が出ている様子。あの頂上で、湧き出ている水を求めてやってくるのは? 緑豊かな養老山脈に生息しているさまざまな昆虫たち?
岩山の頂上を目指し、グラグラして不安定な岩にバランスを崩しそうになりながら、こわごわよじ登ったところで、すべてを理解することができます。水を求めてやってくる存在の答えは、どうやら「昆虫ではない」ということに。
むむむ、これは......。昆虫山脈は、頂上を目指して登ってみた者にしかその答えが分からない、厳しく険しい奥の深いパビリオンなのでした。
ちなみに、登るよりも降りるほうに恐怖を感じます。安全に地上へ降りるまでが昆虫山脈です。お戻りの際も、どうぞ気を引き締めて!
4. 天井は1階の反転!「極限で似るものの家」
昆虫山脈の横には、養老天命反転地のメインパビリオンである「極限で似るものの家」があります。斜面に立つ迷路状の壁と1枚の大きな屋根で構成されている建物で、屋根は岐阜県の形をしています。地面には、岐阜県の地図が描かれ、天井を見上げると屋根にも岐阜県の地図が、鏡に映したような状態で描かれています。位置関係が左右反転している岐阜県の地図は新鮮に感じられます。また、2005年に行われた「平成の大合併」よりも前に作られているため、合併前の地名が残っていて、懐かしい地名を見つけてノスタルジックな気分を味わえる方もいるかもしれません。
さて、地面と天井の反転を堪能したところで迷路状の壁を伝って中へ入ってみます。すると、内部には家具が地面だけでなく、天井や地下に取り付けられているのを見ることができます。取り付けられているというよりも、むしろ「めり込んでいる」と言ったほうが、より実態に近いかもしれません。バスタブやベッドが壁を貫通していたり、天井に卓上電話が置かれたデスクがあったりするのですが、これらの家具も屋根の造りと同じように、地面と天井にあるものが反転していて、見ているうちに「家」そのものへの疑念が湧いてきます。
中へ進むにつれ、だんだんと頭が混乱して外へ出たくなり、近くの入口から外へ出てみると、再び中の様子を知りたくなる、そんな「不思議でクセになりそう」なパビリオンが極限で似るものの家なのです。
5. 養老天命反転地の全体が見渡せるスポット「精緻の塔」
極限で似るものの家を出た先にあるのが「精緻の塔」と名付けられたパビリオンです。ここにも岐阜県の地図をあしらった大きな斜面があり、ここに立って振り返ると「養老天命反転地記念館」「昆虫山脈」「極限で似るものの家」と、その近くに竹で作られた「不死門」を眺めることができます。また、視線を先に向けると、すり鉢状に窪んだ大きな「楕円形フィールド」が目の前に広がります。
この精緻の塔はトリックアートのような写真が撮れる絶好の映えスポットです。斜面に植えられている木も斜めに生えているので、マイケル・ジャクソンのように身体を斜めに傾けたポーズ写真を簡単に撮ることができます。また、映えスポットであると同時に、この急斜面でケガをする人が多いらしく、警備スタッフが常に見回っているスポットでもあります。精緻の塔の中には迷路がありますが、出入り口は作られていないため、パビリオンの下に開いている空間から這いつくばって入ります。慌てて頭を打たないように気をつけるほか、楕円形フィールドの広々とした解放感につられて、走り出したくなる気持ちをぐっと抑える必要がありそうです。
6. 9つのパビリオンが点在する「楕円形のフィールド」
「楕円形のフィールド」は極限で似るものの家の一部を切り取った形になっています。この中には「精緻の棟」をはじめ、「陥入膜の径」「白昼の混乱地帯」「もののあわれ変容器」「想像のへそ」「運動路」「宿命の家」「切り閉じの間」「地霊」というフシギな名前の小さなパビリオンが9つ点在しています。また、148もの回遊路と大小さまざまな5種類の日本列島が組み合わせられています。
楕円形のフィールドでは、日常の平衡感覚や遠近感のことは脇に置いて、荒川+ギンズの作り上げた天命が反転してしまう世界にどっぷり浸りましょう。何からどう体験したらいいのか分からない方は、養老天命反転地のパンフレットに書かれている荒川+ギンズが提案する「使用法」を見ながら回ることをおすすめします。
腰掛けても不安定!「白昼の混乱地帯」
極限で似るものの家で見た家具が無造作に置かれている「白昼の混乱地帯」。ただでさえ傾斜のある地面の上に斜めに置かれたソファーに腰掛けてみましょう。本来、ソファーには寛ぎをもたらす要素もあるはずなのに、その不安定さに寛ぎどころか心の落ち着きを失いそうです。そんな状況で、ぐるりと周りを見渡してみれば、文字通り、白昼に混乱を来たしてしまうはずです。
白昼の混乱地帯とペアになるパビリオンは、フィールドの奥にある「運動路」です。ここは、最も傾斜が大きく、ソファーに腰掛けると転がり落ちそうな感覚になります。
緩やかな傾斜が逆に不安定!「もののあわれ変容器」
楕円形のフィールド内の窪みの底付近に位置する、傾きの緩やかなパビリオンは「もののあわれ変容器」です。ほかのパビリオンよりも緩やかな傾斜が逆に安心と油断を生じさせるようで、歩くほどにバランスが崩れて不安定さを増していく感覚が味わえます。油断禁物、心して入ってほしいエリアです。
フィールド奥にある「想像のへそ」は、もののあわれ変容器とペアのパビリオンで、屋根がなくて傾斜がきついのが特徴です。
日本の真ん中「岐阜」で不安定!「宿命の家/降り立つ場の群れ」
楕円形フィールドの底にあたる部分で、フィールド全体にまたがる大きな日本列島の中で岐阜県にあたるパビリオンが「宿命の家/降り立つ場の群れ」です。岐阜県には「日本の人口中心地」「日本の真ん中」なる観光スポットがありますが、この楕円形フィールドの中心にも岐阜県が位置づけられているのは、偶然ではない何かを感じます。
養老天命反転地のメインパビリオン「極限で似るものの家」とまったく同じサイズで、迷路の作りも一緒だそう。上を覆う屋根がないので、迷路の形状がよく分かります。荒川+ギンズが提案する「使用法」によると、このエリアは廃墟として位置づけられていて、異星人であるかのように降り立ってさまようのがおすすめだそう。
先行き不安定な黄色のエントランスの「地霊」
楕円形フィールドの外壁の傾斜を利用した「地霊」は、あざやかな黄色の入口が印象的なパビリオンです。黄色は、目立つがゆえに工事現場やサインで注意喚起に使われることが多く、この地霊でも何やらフシギな香りを匂わすシンボルカラーとしての役割を十分に果たしています。
細長くて、先が薄暗くて見にくいパビリオンの中は、人が1人ようやく通れるほどの幅で奥へ進むにはかなりの不安を伴います。しかし、勇気を振り絞って歩いて奥まで進むと、天井から光が降り注ぐ空間に行きつきます。そこで天井に見えるもの、それが地霊の正体なのかもしれません。
地霊と同じように暗がりを効果的に使ったパビリオンが「切り閉じの間」です。こちらも斜面を使った構造をしているのが特徴です。
腰掛けても不安定!「陥入膜の谷」
精緻の棟とペアのパビリオン「陥入膜の谷」は、宿命の家と運動路の間に位置しています。傾斜の大きな小ぶりの丘のような場所に建てられたパビリオンの斜めに傾いた壁の間には、ガスレンジやテーブルセットなどが置かれています。荒川+ギンズによる「使用法」には、「通り抜けたり回ったりする時は、目を閉じること」と書かれていますが、その通りに体験するのは危ないため、目を閉じてみる場合は必ず立ち止まるようにしましょう。
余談ですが、「陥入膜」とは、どんな膜なのでしょうか? はっきりとした解に辿り着くことはできませんでしたが、英語では、「trajectory membrane」と表記するようで、「人生の軌跡を表す膜」という意味合いなのかもしれません。
7. 養老天命反転地でおすすめの楽しみ方
さて、養老天命反転地の中を一通り見てきたわけですが、テーマからして壮大かつ難解なだけに、一体、どのように楽しんだらいいのか悩んでしまう方もいるのではないでしょうか。そこで、この不思議なテーマパークの楽しみ方の例として、私から3つ紹介したいと思います。
アート作品として楽しむ
冒頭に引用でご紹介した、荒川+ギンズが長い時間をかけて至った「人間は人間の『身体』の無限の可能性を活かし、この世界を希望ある未来に転換すべきだ」という結論に立ち返りましょう。今この瞬間に肉体を伴った自分の存在と、目の前に広がる養老天命反転地が問いかけてくるフシギな世界との融合を、自分の心の赴くままに受け止め、唯一無二のアート作品として楽しんでみてはいかがでしょうか?
それで、結局どういうことなのか――よく分からないという結論に至るのも、アートの一部。人生の岐路に際して、2度、3度と足を運ぶうちにじわじわと味わい深い良さを見つけられるかもしれません。
非日常な感覚を楽しむ
とにかく、斜面や傾きが日常と異なる別世界のような養老天命反転地の世界で、非日常な感覚を存分に楽しんでみましょう。そのヒントとなるのは、パンフレットに記載されている「養老天命反転地:使用法」です。いわば創造主ともいえる荒川+ギンズの二人が提案する「使用法」をもとに、天命に抗い反転させてしまいかねない非日常の瞬間をひとつひとつ積み重ねてみるのはいかがでしょうか。
SNS映えする写真撮影を楽しむ
最近の来場者のほとんどが、このSNSに許可が必要な場合もありますので、養老公園事務所(0584-32-0501)へお問い合わせください。
重ねての注意になりますが、養老天命反転地の斜面や窪みは不安定で歩きにくいテーマパークです。歩きやすい格好で楽しみ、ケガにはくれぐれも気をつけてください。
8. 養老天命反転地は養老公園にあり
ここまで紹介してきた養老天命反転地は、養老山麓に広がる県営公園の一部です。養老公園の中には、このほかにも観光で訪れたいスポットがいくつかありますので、お時間の許す限り、足を運んでみてください。
養老の滝
「養老の滝」は日本の滝百選にも選ばれた名瀑で、高さ30m、幅約4mの清らかで見事な景観は、見る人の心を癒してくれます。ここの滝の水が酒に変わったという「養老孝子物語」という伝説は有名です。
岐阜県こどもの国
1歳から小学生までが楽しめる遊び場には、青空の下で思い切り身体を動かして楽しめる複合遊具や芝生広場、期間限定のこどもプールなどがあります。室内施設では、工作教室や絵本の読み聞かせなどイベントが開催されています。
楽市楽座・養老
大きな真っ白いテントが目印の「楽市楽座・養老」では、屋台で定番のスナックフードや岐阜県の郷土料理や土産物を販売しています。名古屋から岐阜まで続く濃尾平野を一望できるデッキで、岐阜の味に舌鼓を打ちながらゆっくり過ごすことができます。
9. 養老天命反転地へのアクセス方法
養老天命反転地へのアクセスは、車が便利です。公園内にはいくつかの駐車場があり、養老天命反転地には第1および第2駐車場が便利です。多くの来場者が見込まれるシーズンには、臨時駐車場も開かれますので、公式サイトをご確認ください。
また、電車で向かう場合は、最寄り駅の養老鉄道養老線「養老駅」から徒歩で15分ほどかかります。路線バスの運行はありませんので、養老駅からの交通手段は、近鉄タクシー(0584-32-1135)へ連絡して、タクシーをご利用ください。
電車でのアクセス
<最寄り駅>
養老鉄道養老線「養老駅」から徒歩で約15分
<最寄り駅までのアクセス>
JR東海道本線「大垣駅」にて養老鉄道養老線に乗り換え
JR関西本線・近鉄「桑名駅」にて養老鉄道養老線に乗り換え
車でのアクセス
養老I.C.より約10分、大垣I.C.より約20分、関ケ原I.C.より約25分
タクシー JR大垣駅より約35分。またはJR岐阜羽島駅より約35分
10. 養老天命反転地の基本情報
最後に、養老天命反転地の基本情報です。
- 住所:〒503-1267 岐阜県養老郡養老町高林1298-2
- 電話番号:0584-32-0501(養老公園事務所)
- 開園時間:9:00~17:00(入園は16:30まで)
- 休園日:火曜日(祝日の場合はその翌日)、年末年始(12月29日~1月3日)
※荒天の場合は閉園することがあります - 入場料:一般770円(530円)、高校生510円(380円)、小・中学生310円(210円)
※小学生未満は無料
※障がい者手帳を持っている方および介助者1名は無料
※( )内は20名以上の団体料金
※小中学生・高校生のみの入場は不可 - 駐車場:養老公園内の公園管理駐車場は無料(9:00~17:00)
- 公式サイト:養老天命反転地
© 1997 Estate of Madeline Gins. Reproduced with permission of the Estate of Madeline Gins.
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高橋尚美
- 愛知県生まれ。大学進学をきっかけに上京し、卒業後はIT系雑誌の広告営業やWebメディアの広告企画の仕事に就く。結婚・出産を経て、2009年に岐阜市へ移住し、2017年からフリーランスライターとして活動を始める。現在、フリーペーパーやWebメディアでインタビュー記事を中心に執筆し、子育て・教育・食・健康・住まいなどの分野を得意とする。