アムステルダムのレトロな別世界「スタッズアルキーフ」

スタッズアルキーフ

オランダ在住のKayo Temelです。

アムステルダムの市立公文書館「スタッズアルキーフ」には、「宝物室」と呼ばれる展示室があり、およそ300点のコレクションを無料で見学できます。アムステルダムの歴史を物語る展示品はどれも興味深く、美しい建物やインテリアも一見の価値があります。

目次

無料で見学できる「宝物室」

スタッズアルキーフ
<©Stadsarchief Amsterdam/ Alphons Nieuwenhuis>

「スタッズアルキーフ(Stadsarchief)」は、アムステルダムのカイザー運河沿いにある市立公文書館です。アムステルダムのおよそ750年の歴史を記録した文書や地図、写真などが保管されています。

300点ほどのコレクションを展示した「宝物室(schatkamer)」は無料で一般公開されていて、アムステルダムの散策中に、気軽に見学ができます。

先日、シンゲルの花市場に出かけた際に、歩いて2、3分ほどのスタッズアルキーフを久しぶりに訪れました。

堂々たる存在感の「デ・バーゼル」

デ・バーゼル (De Bazel)

数百万点もの資料を保管するスタッズアルキーフは、建物のスケールも壮大です。オランダ人建築家カレル・デ・バーゼル(1869-1923)が設計し、1926年に完成した建物は「デ・バーゼル(De Bazel)」と呼び親しまれています。

アムステルダムの運河沿いの家は、間口5mほどしかないのですが、ファイゼル通りに面したデ・バーゼルの間口は100mもあります。さらに10階建てなので、周りにある高くても5階建ての建物のなかで、かなりの存在感を放っています。

デ・バーゼルはもともと1824年に国王ウィレム1世が設立した「オランダ貿易会社」の建物でした。「オランダ貿易会社」は、17~18世紀にアジアを植民地化して海上帝国を築いた「オランダ東インド会社」の後を継ぐ組織です。

堂々たるデ・バーゼルは、かつて宗主国オランダの威厳を体現する建物でした。

デ・バーゼルに刻まれた海上帝国の栄光

デ・バーゼル

デ・バーゼルには、海上帝国オランダの歴史が刻まれています。まずは、入口の「NEDERLANDSCHE HANDELMAATSCHAPPIJ(オランダ貿易会社)」 の館銘板。その左右には女性の像があります(上写真)。

両手を開いて前に向け、目を開けてる右側の像が「ヨーロッパ大陸」、両手を胸の前でクロスさせ、目を閉じている左側の像が「アジア大陸」を表しています。「開かれたヨーロッパ」と「閉じたアジア」という二項対立の表象には、ヨーロッパ中心主義の価値観が反映されています。

19世紀はヨーロッパ列強がこぞってアジアを侵略した時代です。「先進的なヨーロッパ」に対する「遅れたアジア」など、ヨーロッパ人たちは自らの優位性を可視化させるべく、偏見にもとづいたオリエント像をつくりあげていました。

3人のオランダ領東インド総督の彫刻

建物の上部には、「オランダ東インド会社」の功績を記念して、3人のオランダ領東インド総督の彫刻が据えられています(上写真)。

左から順に17世紀の総督ヤン・ピータースゾーン・クーン、19世紀の総督ヘルマン・ウィレム・デンデルス、20世紀の総督ヨハネス・ファン・ヒューツで、時代ごとの服装も忠実に表現されています。

彫刻

北東と南東の角には、『海運』と『貿易と産業』の像があります(上写真)。オランダ人彫刻家ランベルトゥス・ザイル(1866-1947)の作品で、エジプト美術のような不動のポーズが美しい彫刻です。2mほどの高さにあり、近くから見上げると迫力があります。

SAFE DEPOSIT

1964年になると「オランダ貿易会社」は、農林金庫と経営統合して「オランダ総合銀行」になりました。デ・バーゼルの南側には「SAFE DEPOSIT(貸金庫)」の入口が残っています。動物の頭の浮き彫りや幾何学的なフレームは、建築家カレル・デ・バーゼルのデザインです。

アールデコの華やかな装飾

スタッズアルキーフは、インテリアデザインの美しさも魅力のひとつです。とくに「宝物室」はレトロな別世界で、訪れるたびに心が高鳴ります。

壁や天井にはアール・デコの模様が描かれ、床や柱はモザイクで装飾されています。街の喧騒から遮断されて、まるでこの場所だけ時間がゆっくり流れているかのような、不思議な気持ちになれる私のお気に入りの場所です。

アール・デコの模様
<©Stadsarchief Amsterdam>

アール・デコの模様
<©Stadsarchief Amsterdam/ Martin Alberts>

最も重要な文書が保管されていた、15世紀のキャビネット(上写真)も展示されています。1892年まではアムステルダム旧教会の「鉄の礼拝堂」に置かれ、厚い石壁によって火災から守られていました。

金庫扉
<©Stadsarchief Amsterdam/ Martin Alberts>

「宝物室」のエントランスには、かつての金庫室を守っていた重厚な金庫扉(上写真)がそのまま使われています。厚さ70cmを超える大扉です。

回廊に並ぶ24のショーケース

コレクション
<©Stadsarchief Amsterdam>

吹き抜けを囲む回廊にはショーケースが並び、上階では「写真家たちが見た街の歴史」、下階では「アムステルダムの12の感動の物語」をテーマにしたコレクションを見学できます。

史料

スタッズアルキーフでは21世紀初頭まで、建物の解体や区画整理に先立って、アムステルダムの街並みを記録するために写真家が雇われていました。

現在の街と比較しながら、史料として眺めるのも興味深いですが、私はいつもアート作品として楽しんでいます。なかでもジョージ・ヘンドリック・ブライトナー(1857-1923)は、アムステルダム印象派を代表する、私が好きな画家の1人です。

ブライトナーは画家としてアムステルダムを描き、写真家として街を記録しました。その写真には素描作品のような美しさがあります(上写真)。

史料

左上:アムステルダムの最も古い居住地とされるニーウェンダイクで発掘された、1225年から1300年頃の革靴。履き心地の良さそうな形で、800年前の靴とは思えないほど良好な保存状態です。

右上:奴隷の虐待に関する、公証人による1765年の陳述書。30cmほどもある本の厚さに驚いてしまいました。「奴隷船では船主らが、奴隷に殴る蹴るの暴行を加えていた」など、乗組員による証言も記載されています。

左下:1864年にフレデリクス広場に完成した展示ホール「パレイス・フォー・フォルクスフライト」。残念ながら1929年4月18日の火災により焼失しています。

右下:第二次世界大戦中、ユダヤ人を識別するために「J」の字が刻印された身分証明書と、着用が義務付けられたダビデの星。この身分証明書の持ち主2人は1943年末に隠れ家で逮捕され、翌年、アウシュヴィッツで虐殺されました。隣には、1934年に小学校の教室でクラスメートと撮影されたアンネ・フランクの写真も展示されていました。

孤児院の記録

一番印象に残ったのは、孤児院の記録(上写真)です。1800年1月3日にプリンセン運河沿いで、エリザという女の子が生後わずか1日目で発見されました。エリザのそばに残された半分に切られたトランプは、いつか両親が残り半分のトランプを持ってエリザを引き取るため割符でした。エリザは孤児院に引き取られましたが、10日後に亡くなってしまったそうです。

お土産物ショッピングや食事も楽しめる

小さな映画館
<©Stadsarchief Amsterdam>

スタッズアルキーフでは企画展も開催され、70人ほどが入れる小さな映画館(上写真)ではアムステルダムに関する映像作品が上映されています(いずれも無料)。毎週日曜日の午後には、デ・バーゼルの見学ツアー(有料)も開催されています。

スタッズアルキーフの書店では、アムステルダムに関する本の他に、ポストカードやカレンダー、アクセサリー、キッチンウエアなどのお土産物も購入できます。

デ・バーゼル内のカフェレストランもおすすめです。今回私は、ハイネケンビールを片手にビッターバレン(球状のコロッケ)を頬張りながら、「宝物室」の余韻を楽しみました。

ビッターバレン

スタッズアルキーフは、シンゲルの花市場からは徒歩3分ほど、アムステルダム国立美術館からは10分ほどの場所にあります。アムステルダムの散策中に立ち寄ってみてください。

スタッズアルキーフ Stadsarchief Amsterdam

  • 所在地:Vijzelstraat 32, 1017 HL Amsterdam
  • アクセス:アムステルダム中央駅よりトラム24番(VUmc行き)で6分Muntplein下車徒歩3分
  • 営業時間:火~金 10:00~17:00/土・日 12:00~17:00
  • 見学ツアー:毎週日曜日14:00より/7.50ユーロ
  • 公式サイト:Stadsarchief Amsterdam

※施設の詳細やアクセス方法など掲載内容は2023年3月時点のものです。

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Kayo Temel

オランダ在住。アムステルダムの美術アカデミーで絵画を学び、イラストレーターとして活動中。20年の在蘭経験を活かして、オランダを満喫するためのローカルな情報をお届けします。

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