メンタルヘルス改善につながる旅行の効果【心理カウンセラーが解説】

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心身ともにリフレッシュできる旅行ですが、メンタルヘルス改善にもさまざまな効果を発揮する可能性があることをご存じでしょうか。この記事では、上級カウンセラーの資格を持つ著者が、旅行を通して得られる10の心理的効果を紹介するとともに、それによって期待できるメンタルヘルスへのポジティブな影響などを解説します。

また、メンタルヘルス改善を目的として旅行をする際に押さえたい9つのポイントについても解説しますので、これから旅行の計画をする方はぜひ参考にしてください。

※なおこの記事は、旅行によってメンタルヘルスが改善することを確約するものではありません

目次

<1. メンタルヘルス改善につながる旅行の効果>

<2. メンタルヘルス改善に効果的な旅行の9つのポイント>

<3. 結び:メンタルヘルス改善に旅行を利用しましょう>

1. メンタルヘルス改善につながる旅行の効果

それでは早速、メンタルヘルス改善につながる、旅行に伴う10個の心理的な効果について解説していきます。

その1:集中力が高まる

旅行がメンタルヘルス改善をもたらす1つ目の効果は、「いま、ここ」にある気持ちや感情に意識を集中できる点です。

旅先では、目の前にある風景や食事に集中しやすく、瞑想やマインドフルネスのように心を落ち着かせて集中力を高める効果が期待できます。近年、ストレス対策として瞑想やマインドフルネスが話題になっていますが、ストレスの原因がすぐそばにある日常の中で実践するのは簡単ではなく、なかなか効果を実感できない方も多いのではないでしょうか。

風景を見て集中力が上がる
<出典元:写真AC

旅行などを通して一時的にストレスの原因から距離を置くことで、自然と自分の感情や意識に気付くきっかけが得られます。旅先で沸き起こる感情は解放感や楽しさといったポジティブなものばかりではなく、ときには異文化と接する居心地の悪さや、危険を目の前にして緊張感を抱くこともあるかもしれません。しかし、そうしたネガティブな感情も含め、自分の本当の気持ちや意識に気付くことがメンタルヘルス改善の第一歩と言えます。

その2:ストレスを軽減できる

旅行中は、心配事から物理的に距離を取れるので、ストレスが軽減します。ストレスをコントロールするコツとして、自分でコントロールできないことについてはあきらめる、という考え方があります。旅行は、このストレスコントロールを実践するのにうってつけです。

例えば、旅行先へ仕事用のノートパソコンを持って行かなければ、自分が抱えている仕事に対してアクションを起こすことができなくなります。すると、少なくとも旅行中は仕事のことをあきらめざるを得なくなり、結果的に感じるストレスが軽減するのです。

旅行中のストレス軽減効果について検証した研究(「旅行のストレス低減効果に関する研究」より)もあります。研究では、ストレスを受けたときに分泌されるコルチゾール(別名ストレスホルモンとも)の値を測定し、旅行の前後と比べて旅行中のコルチゾール値が減少していたことを発見しました。

その3:幸福度が高まる

旅行がメンタルヘルス改善にもたらす効果として、旅行中の幸福度が高まる効果も期待できます。旅行中に食べる料理や見渡す景色が特別なものに感じられた、といった経験をお持ちの方もいるかもしれません。

これは、旅行やイベントといった特殊な状況下では気持ちが盛り上がっており、普段より幸せを感じやすくなっているためです。こういった効果はある意味では「気のせい」と考えられますが、実際に体にも変化が起きていることが研究で分かっています。

前項で挙げた研究では、コルチゾールのほかに、クロモグラニンAというタンパク質の値も測定しました。クロモグラニンAは、充実感や高揚感といったポジティブなストレスを受けたときに分泌される物質です。

結果は、旅行の1日目から徐々にクロモグラニンAの分泌量が増え始め、中盤をピークとして最終日に向けて下降するという山型のグラフを描きました。この研究から、特に旅行の中盤において充実感や高揚感を感じる傾向があることが伺えます。

その4:日常に対する満足度が高まる

旅行には、旅行以外の日常生活に対する満足度を高める効果も期待できます。

例えば、観光地の写真や情報を眺めながら、自分にとって最高の旅行計画を想像するだけでも、目の前にある大変な状況から一時的に気をそらすことができるでしょう。このように、実際に旅行しなくても、旅行のことを考えるだけで幸福感を得られることもあります。

旅行計画を想像
<出典元:写真AC

また、休暇の予定と幸福感の関係について調査した研究(「A study of the impact of the expectation of a holiday on an individual's sense of well-being」より)によると、人は休暇の予定があるときが最も幸せを感じやすく、家族との関係、健康状態、経済状況といった生活の質全般について、より前向きに受け止める傾向があるようです。

そのため、旅行を通じてメンタルヘルス改善を目指すなら、実行できるかどうか考えすぎずに、まず旅行の予定を決めてしまうのが得策かもしれません。

その5:うつ病のリスクを低下させる

定期的な旅行がうつ病のリスク低下につながることを示す研究結果もあります。

1500人の女性を対象に実施されたアメリカの研究(「Vacations improve mental health among rural women: the Wisconsin Rural Women's Health Study」より)では、年に2回以上休暇をとっている女性は、休暇を取らない女性に比べて、うつ病や慢性的なストレスに苦しむ可能性が低いことが分かりました。

また、高齢者の旅行とうつ病の関係について調査した研究(「No travel worsens depression: reciprocal relationship between travel and depression among older adults.」より)によれば、1年間旅行しなかった人は、1年以内に旅行した人と比較して、翌年のうつ病リスクが71%高かったことも示されています。

なおこの結果はいずれも、旅行をすれば必ずうつ病を予防できることを示すものではありません。

その6:燃え尽き症候群を予防する

旅行には、燃え尽き症候群を予防する効果も期待できます。燃え尽き症候群は、継続的かつ過剰なストレスを原因として起こるもので、うつ病の一種とも考えられています。

燃え尽き症候群
<出典:写真AC

燃え尽き症候群の予防には、適度な息抜きが不可欠です。特に近年は、新型コロナウイルス感染拡大の影響により自由に外出できない状況が続いており、閉塞感に対して強いストレスを感じている人も少なくありません。

そのため適度な旅行は、閉塞感を払拭して燃え尽き症候群の予防につながる効果が期待できます。

その7:旅行を共にした人との絆が強まる

美味しい料理や美しい景色といったポジティブな体験は共有されやすい傾向があることから、同行したパートナーや友人との関係を強める効果も期待できます。

人の幸福度は人間関係に左右される面が大きいため、旅行を共にした人との絆が強まることは、人生に対する満足度を高めることに直結するとも言えます。200人の大学生を対象として実施された幸福度に関するアメリカの調査(「Very Happy People」より)では、幸せな人は不幸な人に比べて社交的で、1人で過ごす時間が短かったことも示されています。

その8:自信や自尊心が向上する

旅行中は達成感を味わう機会が多くあるため、自信や自尊心の向上にもつながります。

初めて訪れる街で目的地までのルートや交通手段を模索したり、外国語で料理を注文したりといった小さな行動の一つひとつが、自信や自尊心の向上につながるのです。

また、旅行を通じて新たな友人を作ることができれば、これもやはり自信や自尊心の向上につながります。さらに、幸せな人に囲まれている人は将来幸せになる可能性が高いことを示す研究結果(「Dynamic spread of happiness in a large social network: longitudinal analysis over 20 years in the Framingham Heart Study」より)があることから、旅行中のように精神が充実した状態でできた友人とは、お互いに幸せをおすそわけする「幸せの相乗効果」も期待できそうです。

その9:共感能力が高まる

旅行をすると、普段なじみのない文化や生き方に触れることにより視野が広がるため、寛容で柔軟な考え方ができるようになります。

また旅行中には、道を尋ねたり、交通機関のチケットを買ったり、タクシーの運転手と話したり、たまたま乗り合わせた同乗者と歓談したりと、初めて出会った人とコミュニケーションする機会が多くあり、共感能力が高まる効果も期待できるでしょう。

道を尋ねる
<出典:写真AC

共感能力が高まると他人を信頼できるようになるので、対人関係のトラブルにも対処しやすくなります。

その10:自己認識が高まる

旅行を通していろいろな人と出会い、さまざまな考え方を知ることによって、他人に対する共感や受容感が強まるだけでなく、自分自身に対する認識も深まる効果が期待できます。

自己認識を深めて「本当の自分」を捉えられるようになると、アイデンティティの確立や獲得に役立ちます。アイデンティティの喪失はメンタルヘルス悪化の要因の1つになるので、それを予防することは精神の安定につながります。

2. メンタルヘルス改善に効果的な旅行の9つのポイント

ここからは、実際にメンタルヘルス改善を意識して旅行をする上で押さえておきたいポイントを解説します。旅行の計画を立てる前にぜひチェックしてみてください。

ポイント1:短期的な旅行を繰り返す方が心理的には良い

メンタルヘルス改善のために旅行をするなら、長期的な休暇をとってたまに旅行するよりも、短期的な旅行を頻繁にする方がより効果を見込めます。

これは、休暇を取得するとその期間中のストレスレベルは下がるものの、ある程度の期間が経過すると元通りになることを示す研究(「Effects of a respite from work on burnout: Vacation relief and fade-out.」より)があるためです。

また、旅行の計画中から幸福度が高まる効果が得られることも踏まえると、旅行が終わったら次の旅行の予定をすぐに立てる、という感覚の方が精神衛生的に良いと言えそうです。

ポイント2:自分で旅行の計画を立てる

旅行の効果を最大限に発揮するためには、自分で旅行の計画を立てることが重要です。

旅行の計画
<出典:写真AC

例えば、仕事の出張などの望まない形で観光地を訪れたとしても、自分の思い通りに満喫することができなければ満足できる旅行となる可能性は低いでしょう。そうなると、メンタルヘルス改善に効果的な旅行とは言えなくなってしまいます。

実際に、旅行によって人生の満足度が高まる要因として、旅行の満足度が関係していることを示す調査結果(「Would You Be More Satisfied with Your Life If You Travel More Frequently?」より)もあります。

ポイント3:事前に決められるものは決めておく

無計画な旅行はかえって心身にストレスを与えてしまうので、宿泊するホテルや利用する交通機関など、事前に決められるものは可能な範囲で決めておくことをおすすめします。

特に、旅行慣れしていない人が初めての国や土地を訪れる場合は、想定外のことが起きるケースも珍しくありません。想定外の事態に遭遇したときのストレスは非常に大きく、人によっては旅行したこと自体を後悔する可能性すらあります。

そのため、事前に決められることは決めておき、なるべく旅行中の精神的負担を軽減しましょう。

ポイント4:万が一の事態に備える

事前に決められることを決めておくのと同じように、万が一の事態に陥った際の備えも、可能な範囲で用意しておくことをおすすめします。

特に海外旅行で、フライトの遅延や欠航、乗り継ぎの失敗、荷物の紛失や盗難などに遭遇して、帰国のスケジュール自体に影響が出ると、メンタルヘルス改善どころではなくなってしまいます。旅程によっては、旅行保険などの備えも検討しておくと良いでしょう。

さらに宿泊先で安眠できない可能性を考えてアイマスクや耳栓を用意したり、車酔いに備えて酔い止めを用意したり、飛行機に不安を感じる方は気晴らしの本やゲームを用意したりすることも効果的です。

ポイント5:余裕を持った日程を組む

メンタルヘルス改善のために旅行するなら、余裕のあるスケジュールを組みましょう。旅行の日程はある程度事前に決めておいた方が安心ですが、分刻みで自由度のないスケジュールを組むと、それはそれで心が休まらなくなってしまいます。

例えば電車やバスなどの公共交通機関が、予定どおり運行するとは限りません。いざというときに慌てないように、適度な自由時間と適度な選択肢を用意しておくことをおすすめします。

同行者がいる旅行ではなおさら、余裕を持った日程を組むことが大切です。睡眠不足や疲労によって、同行者に対して攻撃的になってしまう可能性もあります。余裕のない旅行はかえって友人やパートナーとの間に溝を作ることになるため、くれぐれも注意してください。

ポイント6:できるだけ規則正しい生活を心がける

旅行中は、睡眠時間や食事時間が不規則になりがちなので、なるべく規則正しい生活を心がけましょう。2泊3日などの短期旅行であっても、生活リズムが不規則になると旅行を終えてからの反動が大きく、元のリズムに戻すのに相応の時間がかかってしまいます。

規則正しい生活 イメージ
<出典:写真AC

不規則な生活リズムは、幸せホルモンとも呼ばれる脳内物質セロトニンの分泌に支障をきたしますので、旅行中もできるだけ規則正しい生活を心がけましょう。

ポイント7:仕事道具は旅行に持って行かない

旅行がメンタルヘルス改善に効果的な理由の1つは、仕事から物理的に距離を取れる点にあります。その効果を十分に発揮するためには、旅行先へ仕事道具を持って行くのは避けた方が無難です。

旅行先で仕事ができる環境を整えてしまうと、オンとオフのメリハリがなくなり、メンタルヘルスに悪影響を及ぼす可能性が高まります。

リモートワークの浸透により、ネットワーク環境が整っていればどこでも仕事のできる状況だからこそ、仕事用の端末を持たずに外出する機会を設けることが大切です。

ポイント8:初対面の人との交流を意識する

旅行中は、積極的に初対面の人と交流してみてください。より一層メンタルヘルス改善効果が見込めます。旅行先での人との交流を通して友人知人が増えれば、旅行を終えたあとの日常生活に対する満足度も向上するでしょう。

ただし、無理は禁物です。コミュニケーションに不安を感じる人や、初対面の人に恐怖を感じる人は、自分が安心できる空間の確保を優先してください。

ポイント9:疲れたら無理をせず休む

メンタルヘルスを改善するためにもっとも重要なことは休養です。そのため旅行中であっても、身体的・精神的に明らかな疲れを感じたときは休むことを心がけましょう。

無理をせず休む
<出典:写真AC

普段からメンタルヘルスが悪化しやすい傾向のある人は、特に無理をしがちなので注意が必要です。事前に立てたスケジュールを完璧にこなすのではなく、ときには予定をキャンセルしてでも休養の時間を取ることを意識してください。

しかし、スケジュールを完璧にこなそうとする人にとって、予定をキャンセルすることもまた精神的なダメージになり得ます。そのため、自分にそういった傾向があることを自覚している人は、旅行を計画する時点で少し物足りなく感じる日程を組んだり、自分の限界を客観的に判断してくれる友人やパートナーにスケジュールをチェックしてもらったりするのが良いでしょう。

3. 結び:メンタルヘルス改善に旅行を利用しましょう

旅行に期待できるメンタルヘルス改善効果と、その効果を発揮するために押さえたいポイントについて紹介しました。旅行を通して、これだけ多くのポジティブな心理的効果を得られる可能性があります。一方で、予定の組み方や事前準備の仕方によっては、強い不安やストレスにつながる恐れもあるため注意が必要です。

ストレスを感じる対象から距離を取るだけでも、メンタルヘルスを改善する効果は期待できます。疲れているときに、無理をして知らない土地や見たことのない景色を見に行こうとする必要はありません。今回の内容を参考に、くれぐれも無理のないスケジュールを立てて、心理的に余裕をもった旅行を楽しんでください。

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市川円

心理カウンセラー。えんカウンセリングルーム代表。ADHDやうつで悩む妻との出会いをきっかけに、ITベンチャー企業に勤務するライターから心理カウンセラーへ転身。ライター経験を活かし、主にメンタルヘルス改善のコツや陥りがちな認知の歪みなどに関する情報発信をブログで行っています。

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