名画の世界を「体感」できるアムステルダムの新スポット!

アートワーク

クリムトの描いた黄金の世界と、フンデルトヴァッサーの追い求めた原始の風景。会場の壁と床360度に投影される名画につつまれ、画家の見た世界に没入できる新感覚のデジタルアートセンターが、アムステルダムにオープンしました。

目次

没入型のアート体験

アートワーク
<Photo: Culturespaces / Eric Spiller>

2022年4月22日、アムステルダムの西区にオランダ最大のデジタルアートセンター Fabrique des Lumières(ファブリーク・ドゥ・ルミエール)がオープンしました。展覧会場の3,800平方メートルの壁と床にアートワークが投影され、来場者は360度の映像と音楽につつまれながら作品を「体感」できます。

ファブリーク・ドゥ・ルミエールを設立したCulturespaces社はイマーシブ(没入型)アートの先駆者で、パリやニューヨーク、ドバイ、ソウルなど世界各地にデジタルアートセンターを設立しています。

アムステルダムのファブリーク・ドゥ・ルミエールでは最新技術を駆使し、100台以上のプロジェクターと特殊な音響装置を用いて、光と音による新感覚の展覧会が開催されています。

19世紀の建物も芸術作品

カルチャーパーク
<Photo: Culturespaces / Charles Duprat>

ファブリーク・ドゥ・ルミエールは、1885年に建造されたアムステルダム西部ガス工場の跡地にオープンしました。ガス工場は1967年に閉鎖されたものの、現存する19の建物はオランダの国家記念物に指定され、2003年には工場跡地をリノベーションしたカルチャーパークが誕生しています。

ファブリーク・ドゥ・ルミエールの建物も、オランダの著名な建築家イサク・ゴッシャルク(1838‐1907)が設計した歴史建造物で、赤レンガが美しいネオルネサンス様式です。

大迫力のプロジェクション

『グスタフ・クリムト~黄金の動き』展

オープンを飾る『グスタフ・クリムト~黄金の動き』展のテーマはウィーン分離派で、その初代会長を務めたグスタフ・クリムト(1862-1918)と、エゴン・シーレ(1890-1918)ら同時代の画家たちの作品が会場を彩っています。

会場に入るとまず、辺り一面の光の世界に圧倒されました。ホールは1,230平方メートルの広さで、天井は17mの高さがあり、四方八方に映し出される映像は想像以上の迫力です。

今回の展覧会では、数百枚もの写真を組み合わせたアニメーションが作成され、来場者を幻想的につつみこむ空間が演出されています。

アニメーション
<Photo: Culturespaces / Eric Spiller>

帝政オーストリアの煌びやかな芸術を象徴するように、ウィーンの美術史美術館(Kunsthistorisches Museum)やブルク劇場(Burgtheater)の建物も登場します。

私は実際に美術史美術館を訪問した際に、その優美なインテリアに魅了されて何十枚も写真を撮影しましたが、今回のイマーシブ・アートにはまた別の魅力がありました。柱やアーチ、装飾など建物のすみずみまでが生き生きと輝いているように映ったのです。

永久に輝くクリムトの絵画

『接吻』や『ユディトⅠ』のプロジェクション
<Photo: Culturespaces / Eric Spiller>

クリムトの代表作である『接吻』や『ユディトⅠ』のプロジェクションが始まると、ホールはたちどころに壮麗な雰囲気になります。黄金や華やかな色彩のモチーフがキラキラと舞い、まるで万華鏡の中にいるような感覚になりました。

独自の遠近法や陰影を持つクリムトの絵画は宗教画のように神秘的で、さらに、ベートーベンやショパンの崇高な音楽に心を揺さぶられながら、幻想の世界に酔いしれることができました。

クリムトの緑豊かな風景画
<Photo: Culturespaces>

個人的に一番印象深かったのは、クリムトの緑豊かな風景画が映し出された場面です。

クリムトは毎年夏になるとオーストリアのアッター湖畔に滞在し、森や果樹園、草木などの自然を描きました。展覧会場の壁は光溢れる木立となり、足元の床一面には草原が広がります。

林の向こうには村も見え、ふと自分の故郷と重なり、リンゴ畑で木登りをしたり、草むらに寝転がったりした子供の頃を思い出しました。ともすると草いきれさえ感じられそうな臨場感です。

フンデルトヴァッサーの理想郷

フンデルトヴァッサー ~ウィーン分離派の偉跡を追って
<Photo: Culturespaces / Sophie Lloyd>

クリムトの展覧会と並んで、『フンデルトヴァッサー ~ウィーン分離派の偉跡を追って』展も開催されています。

フリーデンスライヒ・フンデルトヴァッサー(1928-2000)はウィーン分離派から強い影響を受けた画家です。10代の頃にスケッチ旅行で訪れたアフリカの美しさに心を動かされ、無機質的な直線を嫌い、曲線的な表現で自然への回帰を唱えました。

フンデルトヴァッサー ~ウィーン分離派の偉跡を追って
<Photo: Culturespaces / Eric Spiller>

フンデルトヴァッサーにとって曲線や渦巻きは、大空に向かって枝葉を広げる植物のような、力強い生命の象徴です。展覧会場一面にうごめく抽象的なモチーフは、次第に風景を織り成し、来場者はやがてフンデルトヴァッサーのユートピアへと誘われます。

『Memories』展
<Photo: Culturespaces / Spectre Lab>

ファブリーク・ドゥ・ルミエールには、古典・近代芸術のためのホールの他に、現代アーティストの作品を上映する会場もあります。現在は、光が視神経を伝達していく仕組みを描いた『Journey』展と、人間のアイデンティティを形作る記憶についての『Memories』展(上写真)が開催されています。

日蘭でイマーシブ・アートを味わう!

イマーシブ・アート
<Photo: Culturespaces / Marijn van Laerhoven>

今回、クリムトとフンデルトヴァッサーの展覧会でクリエイティブディレクターを務めたのは、イマーシブ・インスタレーションで30年のキャリアを持つジャンフランコ・イアヌッツィ氏です。2010年よりフランスや韓国、アラブ首長国連邦などで、Culturespaces社のデジタルアートセンターの設立に携わってきました。

イアヌッツィ氏は、埼玉県の角川武蔵野ミュージアムで2022年6月から11月末まで開催されている『ファン・ゴッホ ー僕には世界がこう見えるー』展のクリエイティブディレクターも務めています。

私は今夏、久しぶりに日本に帰国することになったので、ぜひ日蘭それぞれのイマーシブ・インスタレーションを見比べてみようと思っています。さらに、7月8日から10月29日にかけて日本橋三井ホールで開催されるイマーシブアートミュージアムでも、モネやルノワールの世界を体感してみようと思います。

時空を超えて名画の世界に没入できるイマーシブ・インスタレーションが、より身近なものになっていくのが楽しみです。

ファブリーク・ドゥ・ルミエール 施設情報

  • 公式サイト: Fabrique des Lumières
  • 開館時間:9:00-17:00(金・土曜は9:00-21:00)
  • 観覧料 :大人17ユーロ, 17 歳以下12ユーロ, 5歳以下無料
  • 住所:Pazzanistraat 37, 1014 DB Amsterdam
  • アクセス:アムステルダム中央駅よりバス21番で7分Van Hallstraat下車徒歩6分

※施設の詳細やアクセス方法など掲載内容は2022年8月現在のものです。

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Kayo Temel

オランダ在住。アムステルダムの美術アカデミーで絵画を学び、イラストレーターとして活動中。20年の在蘭経験を活かして、オランダを満喫するためのローカルな情報をお届けします。

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