温泉の効果って本当にあるの? 温泉ソムリエが効果・効能をわかりやすく解説

温泉の効果って本当にあるの? 温泉ソムリエが効果・効能をわかりやすく解説

私たちの身近にある温泉。ざぶんと温泉に入ると、疲れ切った身体が癒やされ、リラックスできる...と感じる人が多いと思いますが、具体的に「何がどう身体に良いの?」と聞かれると、なかなか答えられないのではないでしょうか。

そこで今回は、温泉ソムリエマスターと温泉健康指導士の資格を持つ筆者が、泉質ごとの効果や効能について分かりやすく解説します。「ただ入浴するだけ」からはもう卒業しませんか? 温泉の効果に関する知識をちょっと深めることで、温泉旅行がぐっと楽しくなりますよ!

目次

<1. そもそも温泉と水道水は何が違う?>

<2. 温泉に効果・効能がある3つの理由>

<3. 温泉法に定められている「適応症」とは>

<4. 「湯治」って何を指す?>

<5. 適応症の反対? 禁忌症も存在>

<6. 温泉の効果・効能を元にした温泉地の選び方>

1. そもそも温泉と水道水は何が違う?

温泉の給湯口
<出典元:写真AC

家のお風呂でも、温泉でも、身体を温めることの効果は絶大。いずれも約40℃の状態で10分~15分ほど浸かることで、血行が促され、身体を芯から温めてくれたり、高いリラックス効果が得られたりします。

では、温泉と水道水の違いはというと、温泉にはさまざまな成分が含まれることがあげられます。温泉は成分の含有量により10種類の泉質に分類され、それぞれ温泉成分ごとに健康効果が異なります。

たとえば、イライラしているときに「カルシウムが足りてないんじゃない?」なんて、よく言われますよね。実はカルシウムを多く含む温泉には、鎮静作用があるとされており、精神を落ち着かせてくれる効果が期待できます。他にも、塩分を多く含む温泉に入れば、保湿効果が期待できますし、弱アルカリ性の泉質は皮膚の角質を落としてくれるので、つるつるすべすべなお肌に導きます。

そして、温泉と水道水の違いに、色や匂い、ヌルヌル感もあげられるでしょう。水道水は、一般的に無色透明。味も匂いもありませんよね。温泉の場合は、無色透明なものだけでなく、乳白色、黒、青、緑などいろいろな色湯があります。泉質によっては、しょっぱかったり、鉄サビのような匂いを感じたり。トロトロ・ヌルヌルとした肌触りが特徴の温泉もあります。

家のお風呂も気持ちいいですが、温泉には目で楽しみ、香りに癒やされ、トロリとした湯に包まれる安心感など、一度の入浴でたくさんの幸せを感じられます。

2. 温泉に効果・効能がある3つの理由

さて、温泉にはなぜ効果があると言われるのでしょう? 様々な視点から考えられる3つの理由を見ていきましょう。

理由1:温泉の成分が体に染み込むから

温泉に入った瞬間、体がシュワシュワな気泡に包まれたり、ツルツル、ヌルヌル感を感じたりしたことがありますよね。そんなとき、温泉のエネルギーを吸収したような感じがしませんか?

その直感は事実。泉質によって効果や効能は異なりますが、温泉成分は主に私たちの皮膚から吸収され、皮下組織や血管に働きかけます。

温泉には化学物質が含まれるため、多種多様な薬湯効果があります。例えば、海に近い温泉地でよく見られる「塩化物泉」の場合、皮膚に塩分が付着して汗の蒸発を防ぐため、湯上り後の肌はぽかぽか感が持続します。

このように、泉質により効果や効能は変わってきますので、後で説明する「泉質別適応症」を覚えておくことで、体調に合わせて温泉を選ぶことができます。

理由2:温熱効果があるから

体を温めると血管(特に手や足先の末梢血管)が広がり、血行が良くなることで新陳代謝が活発になり、体中の不要な老廃物を排泄する働きを促してくれます。

ここで一つ注意点!「温泉」=「熱いもの」というイメージを持っているかもしれませんが、温泉には「温泉法」で決められた2つの定義があります。

ひとつは、源泉温度が25℃以上であること。2つ目は、含有成分に関する特定条件が、一つ以上(※下記別表の19項目のうちいずれかひとつ)既定値に達していること。つまり、冷たくてもぬるくても、実は温泉。逆に成分がなくても温泉ということになります。

物質名

含有量(1㎏中)

溶存物質(ガス性のものを除く)

総量1,000㎎以上

遊離炭酸(CO2)

250㎎以上

リチウムイオン(Li+)

1㎎以上

ストロンチウムイオン(Sr2+)

10㎎以上

バリウムイオン(Ba2+)

5㎎以上

ロ又はフリイオン(Fe2+,Fe3+)

10㎎以上

第一マンガンイオン(Mn2+)

10㎎以上

水素イオン(H+)

1㎎以上

臭素イオン(Br-)

5㎎以上

沃素イオン(I-)

1㎎以上

ふっ素イオン(F-)

2㎎以上

ヒドロひ酸イオン(HAsO42-)

1.3㎎以上

メタ亜ひ酸(HAsO2)

1㎎以上

総硫黄(S)〔HS-+S2O32-+H2Sに対応するもの〕

1㎎以上

メタほう酸(HBO2)

5㎎以上

メタけい酸(H2SiO3)

50㎎以上

重炭酸そうだ(NaHCO3)

340㎎以上

ラドン(Rn)

20(百億分の1キュリー単位)以上

ラジウム塩(Raとして)

1億分の1㎎以上

ちなみに、お湯の温度は1度変わるだけでも、身体への効果が変わるとされているので、実はすごく大切。具体的には42℃を堺に、リラックス状態(副交感神経が働く)と興奮状態(交感神経が働く)が切り替わります。

ぐっすり安眠したい夜の入浴時には、リラックスできる38℃~40℃ぐらいの温泉がおすすめ。

逆にシャキッと身体を目覚めさせたい朝風呂などには、交感神経を刺激させる42~43℃ぐらいの温泉に入るようにしましょう。朝から活動的な気分になれて、お仕事も頑張れそうです。

理由3:リラックスできるから

昔から「病は気から」という言葉があるように、私たちにとってストレスが一番の大敵。ストレスを取り除き、リラックスすることで、病の治りも早まったりしますよね。

温泉は入るだけでも、ほっとひと息つける瞬間を与えてくれます。それに加えて、山奥や海が近い自然環境に恵まれた温泉なら、心が癒やされる効果も倍増。自然豊かなのどかな露天風呂に浸かると、心のモヤモヤや溜まったストレスがスーッっと消えていくような気分になりますよね。

これは「転地効果」と言って、日常から離れ、美しい自然豊かな場所に身を置くことで、心身の凝りをほぐしてリラックスすることができます。

また温泉そのものというよりも、旅館のおもてなしに癒やされたという人も多いのではないでしょうか。これは泉質ほどではありませんが、リラックス効果を得るための大切なファクター。あなたは、大きな旅館が好きですか? それとも、アットホームな民宿が好きですか?

心地よいと思った宿を定宿にしてみるのもひとつの手。お気に入りの場所でくつろぐのも、ストレス解消には効果が高いとされています。

3. 温泉法に定められている「適応症」とは

いくら温泉に効果があると言っても、その効果を何でも好きにうたっていい訳ではありません。

温泉の定義には、環境省が定めたルール(適応症)が二つあります。一つは、すべての温泉に共通する効果「一般的適応症」、もう一つは泉質別によって変わる効果「泉質別適応症」。

ただし適応症は、ときどき見直されることがあるので要注意。古い情報だと内容が誤っていたり、新しく項目が追加されていたりする場合もあるので、最新の情報を得るようにしましょう。

具体的な一般的適応症には、神経痛や五十肩だけでなく、私たち現代人を悩ませる、自律神経不安定症、うつ状態や睡眠障害などのストレスによる症状も含まれます。

そして泉質別適応症は、お湯に含まれる成分の含有量によって、10種類に分けられます。泉質別適応症は、温泉による健康効果を上げる要ですので、詳しく知りたい方は下記の泉質別適応症一覧をチェックしてくださいね。

泉質

適応症

単純温泉

一般適応症

塩化物泉(食塩泉)

きりきず、やけど、慢性皮膚病、虚弱児童、慢性婦人病

炭酸水素塩泉

きりきず、やけど、慢性皮膚病

硫酸塩泉

動脈硬化症、きりきず、やけど、慢性皮膚病

二酸化炭素泉

高血圧症、動脈硬化症、きりきず、やけど

含鉄泉

月経障害

硫黄泉

慢性皮膚病、慢性婦人病、きりきず、糖尿病
硫化水素型の硫黄泉の場合:(上記に加えて)高血圧症、動脈硬化症

酸性泉

慢性皮膚病

放射能泉

痛風、動脈硬化症、高血圧症、慢性胆のう炎、胆石症、慢性皮膚病、慢性婦人病

ちなみに、日本で最も多い泉質は何かご存知ですか? それは、無色透明で刺激が少ない「単純温泉」。優しい泉質なので、子供から高齢者まで、安心して入れます。単純温泉の中でも、pH値が7.5以上のアルカリ性だと「美肌の湯」になる嬉しいおまけ付き。温泉に入ってお肌をツルツルにしたい人は、pH値もチェックすると良いでしょう。

4. 「湯治」って何を指す?

温泉というと、ゆったりとリラックスすることをイメージする人も少なくないですよね。しかし、武田信玄や豊臣秀吉などの戦国武将が戦いで傷つき、疲れ切った身体を癒やしてきたといわれるように、もともと温泉は療養をするための「湯治」が目的でした。

そこで気になるのが、湯治の期間。昔から「湯治は、七日一回り、三回りを要す」といわれてきました。これは、ワンクール7日間(1週間)の入浴サイクルを作り、それを3回、合計3週間繰り返すという意味。

でも、だからといって、会社を3週間も休むなんて、現実的ではありませんよね。そこで、おすすめなのが週末だけの「プチ湯治」。週末だけでも良いので、日常から離れて、温泉地でゆったり温泉を楽しむ習慣をつくってみてはいかがでしょうか。「治す」というより、「予防」や「健康増進」の効果を上げるように心がけるといいでしょう。

5. 適応症の反対? 禁忌症も存在

ひとくちに温泉といっても、お湯の成分によって、さまざまな効果の違いがあります。その泉質の分類は10種類に分けられ、環境省が「適応症」を発表しています。

その反対の意味を持つのが「禁忌症」。分かりやすくいうと、温泉療養をしてはいけない人のこと。たとえば、熱があるような急性疾患、活動性の結核、重い心臓病を持つ人など、進行形の疾患は禁忌症に含まれ、本来、入浴してはいけません。こういった病気になったら、病院に行くのが基本。無理して温泉に入らないようにしてくださいね。

ちなみに「適応症」や「禁忌症」については、入浴施設の脱衣所などに掲げられている温泉分析書に詳しく書かれています。見かけたら、一度目を通してみると良いでしょう。

6. 温泉の効果・効能を元にした温泉地の選び方

ここからは、効果や効能をもとにした、おすすめの温泉地をご紹介します。どこへ行こうか迷うときの参考にしてくださいね!

美肌を手に入れたいなら「中山平温泉」

中山平温泉
<出典元:写真AC

温泉に入ったついでに綺麗になれたら、女性にとってこれほど嬉しいことはありません。一般的に「美人の湯」といわれる3大泉質があるので、それを覚えておくと良いでしょう。

それは、炭酸水素塩泉、硫酸塩泉、硫黄泉。泉質名にこれらが入っていたら、それは「美人の湯」になります。他にも、体感的にヌルヌルするようなpH値の高いアルカリ性の湯は、皮膚の表面を溶かし角質層を柔らかくするクレンジング効果が高いため、湯上り後の肌がすべすべになります。

さらに、保湿効果に優れ、セラミドを整えてくれる成分「メタけい酸」にも注目! 他の成分が少なくても、メタけい酸が温泉1kg中に50mg以上含まれる場合は、温泉とみなされます。

このすべての条件を満たすのが、宮城県鳴子温泉郷「中山平(なかやまだいら)温泉」。

この温泉は、入った瞬間からヌルヌルしているのが分かります。あまりにも肌がヌルヌルするので、通称「うなぎの湯」としても有名。pH値の高いアルカリ性で、3大美人泉質(炭酸水素塩泉、硫酸沿線、硫黄泉)をすべて含んでいるスゴイ温泉です。それに加えて、天然の保湿成分メタけい酸も豊富。まるで天然の美容液に浸かっているような、贅沢な気分を味わえます。

コロナ禍におすすめなのは「草津温泉」

草津温泉の湯畑

誰もが知る天下の名湯といえば、草津温泉。都心からも行きやすい、人気の温泉地ですよね。強酸性の草津の湯には、群馬大学との共同調査で、新型コロナウイルスを不活化させる効果があることが分かりました。2021年、観光客が集まる湯畑周辺に「手洗い場」が設置されたのも、アルコール消毒代わりに使ってほしいとの想いから。

草津には主に6つの源泉がありますが、今回の調査でその効果が判明したのは、湯畑源泉。なんとコロナウイルスの9割以上を不活化させることが証明されました。

免疫力を上げてくれるレアな温泉「増富ラジウム温泉郷」

日本には、非常に数が少なく珍しい、見つけたらラッキーな三大希少泉質があります。それは、含鉄泉、放射能泉、二酸化炭素泉。その中でも放射能泉(ラジウム泉)は、免疫力アップに一役買ってくれるとされています。

都内からも行きやすい、山梨県の「増富ラジウム温泉郷」は、その名の通り、泉質名が放射能泉。国民保養温泉地にも指定されていて、全国から療養目的で通う人がいるほど人気を集めています。

ラジウム泉は、空気よりも重いため水面ギリギリに溜まりやすい傾向があり、入浴と同時に吸引することでその効果を発揮するとされています。半身浴ではなく、肩までどっぷり浸かって、温泉に鼻や口を近付けた状態で大きく呼吸をするようにしましょう。

知れば知るほど、奥が深い温泉の世界。より温泉を満喫するため、効果や効能について知っておくと損はありません。

日々の疲れがたまったら、温泉を巡ってリラックスしてください。その際には、脱衣所などで温泉分析書のチェックもお忘れなく。温泉に対する考え方がきっと変わるはずです!

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安藤美紀

温泉ソムリエマスターの資格を保有し、温泉や旅をテーマにトラベルライターとして10年活動。これまで訪れた温泉宿は約300軒、執筆記事数はトータルで850を超える。さらに入浴法を極めたいと、温泉健康指導士の資格も取得。お家でも入浴剤や入浴法を研究しながら温泉気分を楽しんでいる。

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