マウリッツハイス美術館が世界初のギガピクセル美術館に!<オランダ>

フェルメールの『真珠の耳飾りの少女』をはじめ、珠玉の名品を収蔵するマウリッツハイス美術館がこのほど、世界初のギガピクセル美術館をオープンしました。10億画素の超高解像度写真で制作された360度パノラマツアーを楽しめます。 

目次

新型コロナ危機を逆手にとった新しい試み

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デン・ハーグにあるマウリッツハイス美術館 (Mauritshuis) は、フェルメールの『真珠の耳飾りの少女』やレンブラントの『テュルプ博士の解剖学講義』など17世紀と18世紀の絵画を中心に、およそ800点のコレクションを誇るオランダ屈指の美術館です。

2020年は新型コロナウイルスの影響を受け、世界中の多くの美術館が危機的な状況に追い込まれるなか、マウリッツハイス美術館は苦境をチャンスに変えるべく、11月26日にギガピクセル美術館をオープンしました。特殊カメラで撮影した10億画素の超高解像度画像(ギガピクセルイメージ)によって実現された、高精細な360度パノラマツアー(英語・オランダ語)を、家にいながらオンラインで楽しめます。

美術界ではこれまでにも、美術品のギガピクセルイメージが公開されたり、ギガピクセルイメージを用いたヴァーチャルツアーが企画されることはありましたが、美術館をまるごと撮影してギガピクセル美術館をオープンするのは世界初の試みです。しかも、360度パノラマツアーは全て無料で利用できます。

VRも体験できる360度パノラマツアー

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360度パノラマツアーには、マウリッツハイス美術館の歴史やコレクションを紹介するイントロダクションツアー(Introductory tour) と、自分で館内をめぐるフリーツアー(Free exploration) の2種類が用意されています。

ツアーがスタートする3階の中央ホールから各室に歩を進めて、実際に美術館を訪れているように鑑賞することもできますし、左下のフロアマップをクリックして移動することもできます。

人間の目の解像度をはるかに超えたギガピクセルイメージはとても精細で、展示作品にズームすると、実物を見るよりもさらに詳細まで鑑賞できます。私は未体験ですが、VRゴーグルを持っている方はVRも体験できます。

細やかな筆致まで鑑賞できるギガピクセルイメージ

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<フェルメールの『デルフトの眺望』のディテール。川面の光をうけて輝く船は、細かい光の点を置くポワンティエ技法で描かれています>

フェルメールの『デルフトの眺望』やレンブラントの『テュルプ博士の解剖学講義』など主要作品36点は、個別に撮影されたギガピクセルイメージを鑑賞できます。作品横に表示されたカメラのアイコンをクリックすると、オーディオとテキストの作品解説があり、さらに拡大画像とともにディテールの説明もあります。

以下、私の印象に残った解説をいくつか挙げてみます。

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ウィレム・ファン・ハーヒトの『カンパスペを描くアペレス』(写真左上)に描かれた40枚を超える画中画のうち、ルーベンスの『アマゾンの戦い』 やクエンティン・マセイスの 『両替商とその妻』など、いくつかの作者と作品名が拡大画像とともに紹介されています。

ピーテル・パウル・ルーベンスの『ろうそくを持つ老婆と少年』(右上)の拡大画像では、老婆の左手の高さが修正された跡や、年老いてなお変わらない瞳の色を表すための、一筋の青色が見られます。

クララ・ペーテルスの『チーズとアーモンドとプレッツェルのある静物』(左下)では手前に置かれたナイフが、画家自身が夫に贈られたブライダルナイフであることや、水差しの蓋に映る小さな自画像が描かれていることが分かります。

ヤン・ダヴィス・デ・ヘームの『花瓶の花』(右下)には、艶をきそう花や果実とともに、12種類の昆虫が描かれています。蝶やハチ、毛虫など、拡大画像で昆虫探しを楽しんでみてください。

下描きが浮かび上がる赤外線写真

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フェルメールの『真珠の耳飾りの少女』など数作品では、赤外線写真も公開されています。赤外線は絵画表面の絵具の層を通過するので、完成作品では見られない下絵を確認できます。

『真珠の耳飾りの少女』はこれまでの研究で、フェルメールが少女の耳やターバンの上部、首筋の位置を修正していたことや、背景にカーテンが描かれていたことが判明しています。素人目には分かりづらいとはいえ、確かに赤外線写真では少女の輪郭が修正されているようにも見え、背景にも布地のような柔らな濃淡が認められます。

また、マウリッツハイス美術館の公式HPによると、ヤン・ブリューゲルとルーベンスの共作『人間の堕落とエデンの園』の赤外線写真では、「画家が修正する前の2匹の犬が見える」ようです。エデンの園で暮らすアダムとイヴや、様々な動物が描かれた見応えのある作品なのですが、私は残念ながら「修正前の犬」を見つけることができませんでした。下に2枚の写真を並べてみます。

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画面中央の2匹の犬は、どうしても同じに見えてしまいます。私が見つけられた唯一の違いは、「左下のサルが下描きではやや大きかった」ことのみです。

ハーグの宝石箱と呼ばれるマウリッツハイス美術館

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360度パノラマツアーではぜひ、美術館の華麗なインテリアも鑑賞してみてください。マウリッツハイス美術館の建物はもともと、17世紀半ばにオランダ領ブラジルの総督を務めたヨハン・マウリッツ伯爵の邸宅として建てられたもので、ヤーコプ・ファン・カンペン設計のオランダ古典様式建築の代表作です。1815年にオランダ王国が成立した後、初代国王ウィレム1世が王立美術館として1822年にマウリッツハイス美術館を開館しました。

壁に張られたシルクの布には美しい植物模様が編み込まれ、中央ホールは赤、3階は緑、2階は青に統一されています。重厚な階段ホールや、暖炉ごとに趣向が凝らされたマントルピース、優美なシャンデリアやカーテン、天井画、調度品など、貴族の邸宅として格式高くありつつも、どこか親しみやすい雰囲気です。

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<黄金の間>

最も壮麗なのは、18世紀初頭にルイ14世様式で装飾さた「黄金の間」です。柱の装飾やシャンデリア、絵画の額縁には金箔が押され、天井にも繊細なレリーフが施されています。寄木張りのフローリングや、人の腕の形をしたキャンドルホルダーなど、細部にまでこだわりが見られます。

ヴェネツィアの画家ジョバンニ・アントニオ・ペレグリーニによる壁画と天井画は、2012年より2年間をかけた改修工事の際に、煤汚れが除去され当初の色彩を取り戻しました。さらに近年の研究結果として、CGで再現された1700年代と現在の「黄金の間」も公開されています。

360度パノラマツアーが美術館にもたらす好結果

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マウリッツハイス美術館のマルティーネ・ゴッセリンク館長は、ギガピクセル美術館は「遠く離れている、あるいは病気などでオランダに旅行できない人たち、さらにはオランダの17世紀美術を研究する人たちにとって便利なツール」であり「素晴らしい発明」だと称えています。

私も以前はたびたびマウリッツハイス美術館に足を運んでいたのですが、コロナ禍の規制で、ふと思い立って美術館に出かけることが難しくなりました。ギガピクセル美術館では、お気に入りの展示室を再訪したり、充実した作品解説をゆっくり読んだりして、実際に美術館を訪れているような雰囲気を楽めるので、本当にありがたいツールだと思います。

マウリッツハイス美術館プロジェクトマネージャーのサンドラ・フェルデル氏は、「360度パノラマツアーを体験した人たちはマウリッツハイス美術館を訪問したくなるでしょう」と語り、ギガピクセル美術館を無料で公開することは、結果として来館者の増加に繋がると考えています。

たしかに、実際の絵画に対峙する経験は何ものにもかえられません。ヴァーチャルでは味わえない感動と、一方でヴァーチャルだからこそ得られる発見を、バランス良く楽しめたらと思います。

マウリッツハイス美術館 (Mauritshuis)

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Kayo Temel

オランダ在住。アムステルダムの美術アカデミーで絵画を学び、イラストレーターとして活動中。20年の在蘭経験を活かして、オランダを満喫するためのローカルな情報をお届けします。

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