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【オーストリア】古代ローマ都市カルヌントゥムで2000年前にタイムスリップ
オーストリアでは、各地で円形劇場や公衆浴場など、多くの古代ローマ時代の遺跡が発掘されています。それもそのはず、ドナウ河より南側は、0~5世紀の間には古代ローマ帝国の属州として栄えていました。当時建設された町は、ウィーンをはじめとして、現在の街の原型になっています。
今回ご紹介するのは、ウィーンから南へ1時間のところにある古代ローマ遺跡「カルヌントゥム」。他の遺跡と異なり、その後町が作られなかったため発掘や研究が進み、現在はローマ人の生活が手に取るようにわかる、野外博物館になっています。
目次
立地と歴史
古代ローマ時代、ローマ人とゲルマン人は、ドナウ河を挟んで敵対していました。ローマの軍事都市カルヌントゥムは、ドナウ河の南に流れるライタ川とマーハ川の間に挟まれた、まさに戦略上の要所でた。
また、ポーランドの方で採れる琥珀をローマに運ぶための通商ルート上でもあり、ドナウ川と琥珀街道が交差する、交易上の要所でもありました。
ここには、市民都市と軍人都市が2キロメートル離れて建設され、それぞれに円形劇場やローマ風呂、学校や墓地などが作られました。現在、野外博物館として公開されているのは市民都市の方で、軍人都市は現在のバート・ドイチュ・アルテンベルクの町の地下に埋もれています。
<再建されたローマ時代の建造物>
ローマ属州パンノニア地方北部の首都として栄えていたカルヌントゥムは、最盛期の人口が5万人を超え、多くの歴史上の人物が訪れています。2世紀にこの町に自治権を与え、都市としたのがハドリアヌス帝。マルクス・アウレリウス・アントニヌス帝もここに滞在し、「自省録」の一部を執筆しています。また、2世紀の終わり、セプティミウス・セウェルスが皇帝になったのもこの町でした。
またこの近くには、4世紀ごろに建てられた巨大な門の廃墟もあり、オーストリアのローマ遺跡のシンボルとなっています。
当時の大都市として栄えたカルヌントゥムですが、4世紀以降異民族の襲撃を受けてから荒廃が進み、遺跡となって発掘されたのは19世紀のことでした。現在も発掘や修復が進められ、考古学の様々なフェーズを体感することができます。
室内展示と野外博物館
それでは、実際の展示内容を見つつ、古代ローマ時代を覗いてみましょう。
カルヌントゥムに到着すると、まずはビジターセンターがあります。ここには、チケットオフィスのほか、ミュージアムショップと屋内展示があり、ここを通って野外の展示に行くことができます。
屋内展示では、町の外にある住民墓地についての展示があり、奴隷でも立派な墓石が建てられたりと、当時の人たちの暮らしぶりを垣間見ることができます。
<ビジターセンターの墓石の展示>
野外展示に出る前に、カルヌントゥムの市民都市と軍人都市の模型があります。これを見ると、その都市としての規模の大きさと、文化施設の豊富さに驚かされます。
先に進むと、遺跡と共に、修復された建物群が見えてきます。まずは、発掘された遺跡から見ていきましょう。
<手前が現在進行形の発掘現場>
遺跡から喚起される想像力の妨げにならないよう、しかし、当時の生活の豊かさをイメージしやすいよう、細心の注意を払われた展示です。当時のままの床のモザイク画なども残っていて、再建箇所とオリジナル箇所の区別がわかりやすい展示になっています。
修復された庶民の家では、手工芸や店の様子が再現されています。陶器の製作途中の展示がとても自然で、今にもローマ人が帰ってきて続きを作るような気すらします。
貴族の館と大浴場
敷地に向かって左側は2011年に修復が完了した、貴族の館ヴィラ・ウルバナとローマ風呂(テルマエ)です。実験考古学の観点から、古代ローマ時代の工具や石材、工法を使って再建されました。
<再現されたローマ風呂の入り口>
貴族の館は、仕事部屋、のんびりワインを傾けるテラス、寝室や台所、豪華な大広間などが再現されています。どの部屋も、家具や衣服、本などの小道具がさりげなく配置されていて、まるで古代ローマ人のお宅訪問をしているような気分になります。
<ローマ人の普段の生活を再現した展示>
<晩さん会用の大広間>
この野外博物館の一番の見どころは、ローマ風呂の再現です。立派な入り口を抜けると、「ローマ人のリビングルーム」とも称された、ゆっくりくつろげる大広間に通されます。マッサージベッドや当時のボードゲーム、ワイングラスなどが配置され、一日ここでのんびり過ごせてしまいそうです。
<待合室の大広間>
浴室も二室再現されていますが、ここは世界で唯一の、古代の工法でオリジナルの場所に再建された、実際に使うことのできるローマ式の浴室です。また、ローマ式床暖房や水道も全て当時の技術を使って、手作業で作られています。
<当時の建築技法で再建されたローマ風呂>
実際に浴槽にはお湯が溜められ、脱衣所にはサンダルが脱ぎ捨てられ、タオルがかけられています。ローマ時代の床暖房も丸ごと再建されているので、展示室内の温度と湿度がほかの部屋より高く、空気まで当時の浴室をそのまま再現していることには驚かされます。
また、巨大な釜も再現されていて、お湯を焚くための設備などの舞台裏も覗き見ることができます。
<ローマ式床暖房の遺跡>
異教徒の門
カルヌントゥムから900mほど離れたところに、有名な「異教徒の門(ハイデントアー)」があります。これは、もともと四本足だった門の半分が崩落したものですが、現在でも堂々とした姿で、周辺から目立ってそびえたっています。
古代からこの地に建ち続けているこの門のことを、昔の人は「異教徒の門」と呼びましたが、実際は4世紀の戦勝記念のために建てられた凱旋門だったことが、研究の結果わかっています。
この地方のランドマークともいえる有名な遺跡ですので、ぜひ立ち寄って、歴史に思いを馳せてみてください。
まとめ
現在進行形の発掘現場と、古代ローマの工法を完全再現して再建された建造物を、同じ敷地内で見ることができる野外博物館「カルヌントゥム」。発掘から研究、実験、再現までの全ての工程が並行して展示されている、考古学的に非常に興味深い場所でもあります。
遠い昔の歴史かと思っていた古代ローマ時代の、普通の人々の日々の生活を身近に感じて、2000年前の歴史を五感で体感してみてくださいね。
カルヌントゥムの情報
- 営業時間:9:00~17:00(2020年6月1日〜11月15日)
- 入場料 :大人12ユーロ、子供6ユーロ
- 公式HP :https://www.carnuntum.at/de
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ひょろ
- オーストリア、ウィーン在住。10年以上暮らしてもまだ新しい発見の連続のウィーンの魅力を、記事執筆、現地調査、ネットショップなどを通じてお届けしています。国際機関勤務を経て、バイリンガル育児の傍ら、ミュージカル観劇が趣味。