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【アルジェリア】古き伝統を守り抜く "世界遺産ムザブの谷" をゆく
アルジェリアの魅力的な観光地として知られている場所の一つに、ムザブという世界遺産の谷があります。
国土の大半を占めるサハラ砂漠の中に突如と現れるこの谷は、昔からの伝統を重んじる村々が集まっているミステリアスな場所。その村のシステム、建築、生活様式は、アルジェリアの中でも特別なものとして一目置かれています。
今回はその謎に包まれたムザブの谷をご紹介していきます。
目次
ムザブの谷とは
首都アルジェから南へ600kmほど行ったサハラ砂漠北部のガルダイヤ県に位置します。
ムザブの谷というのは、ガルダイヤ(Ghardaia)、メリカ(Melika)、ベニイスゲン(Beni Isguen)、ブヌラ(Bou Noura)、エルアットゥフ(El Atteuf)の5つの村の総称として知られています。(現在は2つの村が加わり、7つの村となっています。)
1982年、世界遺産に登録されたムザブの谷。村の標高は500mにもなり、雨の侵食によって破壊された丘に囲まれています。
ここに住んでいるのはムザブ人(ムザバイト族)と呼ばれる厳格なイスラム教徒の人々です。
しかし、もともとは同じイスラム教徒内での迫害対象となったのち、この地にたどり着いたという悲しい歴史があります。そして彼らは主に商人として上手に、よく働くことでも知られています。そんな彼らの歴史などから、この谷の伝統を未来へと受け継いでいくといった強い思いを持つ人が多いです。
アルジェリア国内でも特に厳格な場所でもあるため、その村々に住んでいる人でない限り、勝手に入ることは禁じられています。そのため観光客は現地のガイドが必須です。
服装も露出が高い格好は避けるといった周りへの配慮が必要になります。
と、厳しいイメージが先行してしまいましたが、ムザブの谷の人は意外と気さくで優しい人ばかりです。なにより外国人観光客を見慣れている方も多いので安心ですし、治安がとても良いのです。
実際にどうやって行けるのだろう?
空路
ガルダイヤには国内線のみのガルダイヤ空港(Noumerate空港)があります。首都のアルジェや主要都市コンスタンティーヌなどからも直行便が出ています。
たとえばアルジェ出発だと片道1時間30分ほどになります。だいたいは1日に1便(夜の便)です。帰りの便は朝出発のため、観光を考えると最低3日間は必要となるでしょう。日によっては1日の便が多い時もあります。
アルジェリアの国内線の場合、座席指定しても実際は自由席の場合がよくありますのでお見知りおきを。
空港から宿泊地までは20分〜30分ほどです。
上記に記したとおり、ムザブの谷へは現地のガイド(村人)なしでは入ることができません。そのため、空港到着の際にガイドに迎えに来てもらうことになります。
陸路
実はガルダイヤに行くマイナーな方法として陸路があります。
高速道路は無料、車と根性さえあればアルジェとの600kmの距離も不可能ではありません。所要時間は約8時間ほど。(渋滞している場合はさらにかかります。)
しかし外国人観光客の場合は途中警察のエスコートが必要です。
所々にあるガソリンスタンドでお手洗い休憩もできますが、主に砂漠や山道のため頻繁にはありません。
このように過酷な道のりのように思える陸路ですが、景色はとても見応えがあります。まるで映画の中にいるような砂漠、途中遊牧民族を見ることができたり、青々とした緑でいっぱいの壮大な山など、アルジェリアの多様な風景を見ることができる贅沢な道のりです。
見どころをご紹介!
エルアットゥフ (El Atteuf)
エルアットゥフは、ムザブ人が1020年にこの谷に初めて作った村です。日本の家とはまったく異なる造りに、あっと驚くことでしょう。村は細く入り組んだ路地となっており、不思議な雰囲気をもつ別世界です。迷路のような道を歩いていると、ゴミ収集のために働くロバに出会うこともあります。
この村には、シディブラヒム(Sidi brahim)と呼ばれる白いシンプルなモスクがあります。このモスクは700年以上もの歴史があるモスクで、太陽の動きを見据えたミニマルな造りは、建築の三代巨匠といわれるル・コルビュジエ(Le Corbusier)に影響を与えたとか。
このモスクの近くにある昔から変わらぬままの形式のお墓も、とても興味深いものですよ。
ガルダイヤ(Ghardaia)
ガルダイヤは、ムザブの谷の首都として知られる場所のため、他の村よりも人が多く、賑わっています。
村の入り口付近には、伝統工芸品などが売られている市場が広がります。村の中へ進むと様々な商店があり、日本ではあまり見ることができない香辛料などもあります。
さらに村の奥地へ行くと、昔の家の内部を再現した展示や、井戸など、感心する水の利用システムの秘密を知ることができます。
ベニイスゲン(Beni Isguen)
ムザブの谷の中でも一番ミステリアスな村であるベニイスゲン。この村にも無数の井戸が存在しており、一度入ると迷ってしまいそうな狭い路地が印象的です。
ここの市場では、気軽に参加できるオークションがあり、日用品などが売られています。
高台にあるシンプルな監視塔を登ると村を一望できます。装飾は一切ない見張り塔ですが、窓の役目をしている穴から光が差し込み、神秘的な空間へと変わります。
この村には比較的新しくつくられたタフィレルト(Tafilelt)という場所があります。ここは地区全体が同じ建築士によってデザインされた新しい計画地区です。ここに住む限り、家の外部の装飾などは規定を守らなければなりません。
環境に優しい取り組みをしているエコ地区としても知られているんだとか。近くにはこの地区の子供達のみが入れる素敵なガーデンもあります。
全てが統一された家々は高級住宅街のような雰囲気です!
他にもムザブの谷には、様々な村が存在し、それぞれに規定があったりと雰囲気が異なります。
ムザブの谷の秘密
アルジェリアの中でも少し変わったムザブの谷。ここの秘密を紹介します。
片目の女性!?
ムザブの谷で一番最初に驚くのは、片目しか出していない白い布を纏った女性たち。本当に外からは片目しか見えません。
実は彼女たちは結婚しているため、このような正装をしているんです。ちなみに婚姻前は、顔を出すようにしています。結婚後は片目生活なんて、目が疲れてしまいそうですね。ちなみに、右目、左目の指定はないそうです。
みんな顔が似ている!?
ムザブの谷の住民は、「みんな顔が似ている」「目が悪い」という噂があります。
実際のところ、この噂の理由は、ムザブの谷の住民は親族内で結婚をするからなんだとか。目が悪いというのは、生まれてくる子供は障害のリスクが上がることからでしょう。
村にレストランやカフェがない!?
これらの村には観光地で欠かせないレストランやカフェがありません!村を出たところに数店ありますが、とても少ないのです。村ではレストランで食事をするという習慣があまりありません。
そしてカフェについては、彼らにとってカフェに入ることは仕事をサボっていることと同じ。カフェに長居し、時間を潰す、ここでは悪いイメージのようです。働き者が多いムザブの谷では、他とまったく違う考え方があります。
シンプルなモスク!?
モスクと聞くと、どのようなイメージをされますか?キラキラな装飾や目立つカラー。アルジェリア内でもこのようなモスクが多いです。
しかしムザブの谷のモスクは、それらと大きく異なり、とてもシンプルな造りなんです。だいたいのカラーは白か本来の土の色。
実は、ムザブの人たちにとってモスクは、お祈りのことだけを思う場所でなくてはなりません。そのため装飾などがあってはお祈りに集中できないため余計なものはつけない、といった考えからシンプルで、必要最低限の造りとなっています。
まとめ
昔から続く伝統や風習を保持しているムザブの谷。
観光する人もガイドが必須、住民の写真を撮らない、露出の高い服装は控えるなど他の観光地より厳しめの規制が設けられています。
これらの規制があるにも関わらず、人気の観光地として知られているのは、「見る」、そして「知る」価値のある風景、村のシステム、人々の生活があるからでしょう。
ぜひご自身でこの生命力あふれる谷を訪れてみてください。
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川面 朝美
- 神奈川県出身。旅行好きな両親のおかげで幼い頃から外国に行く機会があり、自然と海外に興味を示す。大学ではフランス文学科を専攻、アメリカとフランスでの語学留学を得て、異文化コミュニケーションの大切さを学ぶ。その後ファッション業界に就職したのち、日本で出会ったアルジェリア人と意気投合。2018年11月に結婚し、現在はアルジェリアの首都アルジェにて刺激的な毎日を送っている。趣味: ダンス、テニス、ジム、旅行