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オーストリアの国民的なパン「センメル」の食べ方と歴史
ドイツと並んでパンが美味しいオーストリアですが、ドイツとはまた異なるパン文化があります。種類も色々あり、黒パンや細長いパン、デニッシュ等、パン屋さんやスーパーのパンコーナーに行っても、目移りしてしまいます。また、パンの呼び名も全く異なり、オーストリアは独自のパン文化を形成していると言えるでしょう。
<パン屋のショーケースに並んだ、様々な種類のパン>
ハプスブルク帝国のグルメの土壌に育まれたオーストリアの食文化の中でも、ウィーンで最も定番のパンと言えば、「センメル」です。今回は、別名「カイザーセンメル」(皇帝のセンメル)とも呼ばれる、センメルの歴史と食べ方をご紹介します。
<オーストリアの農家ゲストハウスの定番の朝食>
目次
センメルとは?
ウィーンで「センメル」と呼ばれるパンは、丸い形に星の模様が付いた白パンを指します。ホテルやカフェの朝食では必ず出てくる、最も定番のパンです。
<ウィーンで最もよく見かけるタイプのセンメル>
特徴は、中がふわふわで、表面はパリっとしていること。特に星形の部分は、クルスト(Krust)というカリっとした食感が特徴です。多くのセンメルが機械で成形される中、職人の手によって成形されたものは「ハンドセンメル」と言って、独特の風合いがあります。
<ウィーンのこだわり手作りパン屋のハンドセンメル>
また、センメルはドイツでは「ゼンメル」や「カイザーブレートヒェン」などの別の呼び方がされる場合もあり、パン文化は地方色が色濃いのも大きな特徴です。
優しい味わいの白パンですので、ジャムにもハムやチーズにもよく合い、お好みで色々な食べ方ができます。オーストリアでの定番の朝食については、この記事の後半でご紹介しますね。
センメルの歴史
「センメル」(Semmel)という言葉は、ラテン語で「最上級小麦粉」を意味する「simila」が語源とされています。このsimilaという言葉自体、アッシリア語の「白い小麦粉」を意味するsamiduから来ているのですが、その名前からも、ライ麦や大麦などが原料の黒パンが主流だった中、真っ白な小麦粉で作られるふわふわカリカリのセンメルが、いかに特別であったことがわかります。
ハプスブルク家の女帝、マリア・テレジアの息子で、後の神聖ローマ皇帝となるヨーゼフ二世とパルマのイザベラ妃との結婚式を描いた1730年の絵画には、カイザーセンメルが披露宴の食卓に上がっているのが見られます。皇帝の食卓にふさわしいパンだったわけですね。
また、美貌で知られた皇后エリザベートは、ウィーンのプラーター公園に出かけた時にセンメルを食べて非常に気に入り、宮廷に一日二回運ばせていたというエピソードもあります。
<ハプスブルク家の皇帝たちが暮らしたウィーンの王宮、ホーフブルク>
現在のウィーンでは、「カイザーセンメル」を略して「センメル」と呼ぶことが多いですが、皇帝を意味する「カイザー」がなぜパンの名前についたのかは、諸説あります。
カイザーは皇帝(Kaiser)ではなく、カリっとした風味や味を向上させ、1730年にこのパンを改良したとされる、パン屋のカイザー(Kayser)さんにちなんでいるとする説もあります。
別の説では、生活必需品のために価格が抑えられていたパンが、小麦価格の高騰により利益が出なくなったため、パン屋が困窮にあえいでいた時代を起源とするものです。モーツァルトと同時代の皇帝ヨーゼフ2世は、パン屋組合の要請によりセンメルの価格の自由化を行い、その代わりにセンメルはカイザーセンメルと呼ばれるようになったというものです。
また他にも、19世紀後半以降、最高級の食べ物には「カイザー」とつける習慣があった、イタリア語のア・ラ・カーサ(=ホームメイドの)がなまったなど諸説あり、「なぜセンメルにカイザーが付いたのか?」という謎に決着はついていません。
センメルの食べ方
このようにウィーン人に昔から親しまれているセンメルは、色々な食べ方で楽しむことができますが、ウィーンの家庭で最もメジャーな食べ方は、オープンサンド形式です。
オーストリアのホテルでは、バイキング形式の朝食が多いですが、センメルとチーズやハムをお皿に取り、食卓で好みのオープンサンドを作ってみましょう。写真で作り方をご紹介します。
<農家ゲストハウスに泊まると、朝食テーブルはこんな感じにセッティングされています>
まずは、センメルを横半分に切ります。
そこにバターをたっぷりと塗ります。
次にチーズやハム、ベーコンをお好みでのせていただきます。
<ベーコンとスモークサーモンのオープンサンド。センメルにはケシの実がついているタイプ。観光都市・ザルツカンマーグートの湖を見下ろしながらの朝食>
<こちらはセンメルとは異なるパンですが、やはり同じように横に切って、オープンサンドにしていただきます>
もちろんお好みで、ジャムやはちみつを付けたり、パテなどを塗るのもいいですね。ハイキングの軽食としてサンドイッチにもできます。
<センメルサンドイッチ>
センメルは焼き立てが一番おいしいですが、固くなってしまった場合には、パン粉にしてシュニッツェル(肉料理)の衣や、添え物の団子(クネーデル)にリメイクすることも可能です。
まとめ
ウィーン定番のパン、センメルの歴史と食べ方についてご紹介いたしましたが、いかがだったでしょうか?ただの丸い白いパンかと思いきや、オーストリア人に愛され、様々な食べ方のできる、奥が深いパンです。
ウィーンにはほかにも独自のパン文化が根付いていますので、また別の機会にご紹介していきますね。
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ひょろ
- オーストリア、ウィーン在住。10年以上暮らしてもまだ新しい発見の連続のウィーンの魅力を、記事執筆、現地調査、ネットショップなどを通じてお届けしています。国際機関勤務を経て、バイリンガル育児の傍ら、ミュージカル観劇が趣味。